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久遠 13 ♯ルート:Sf



IFストーリーです。


シファルルートになります。


シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。


抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。


※聖女は、誰が為に在る? 8(24話目)の話に触れる内容になります(ひながイジメに遭う話)



~シファル視点~



朝から落ち着かない。喉が渇く。


シューヤが整えた部屋に寝泊まりした翌日っていうのも、落ち着かない原因の一つでもある。


元いた場所で暮らしていた部屋や住居そのものがデカすぎたせいか、ものすごく狭苦しくってたまらない。


狭い。窮屈。妙な圧迫感。


それを感じはするけれど、他の部分は意外と快適だ。


魔法がない世界に、代わりにあるのは化学力とかいうものとか、人の知恵によって作り出された数多くのアイテムや仕組み、食べ物。薬だって、ゴリゴリと容器の中ですりつぶしてどうしてこうしてってやり方じゃなく、もっと効率的に大きな場所で機械によって一気に作られてて。


具合が悪い箇所に合わせた医者がいるシステムに、それに見合った検査。その分野に特化した人材を育てているのは、元の世界じゃ戦闘系とか教会関係が多かったっけ。


こういった人の体を癒す人材に関しては、まとめて誰かが診ることが多かったから、幅広い知識でもなきゃ対応できないことも多々あったのを見てきた。


一つの分野に特化した知識に集中させれば、いろんな人材が育つ。いい仕組みだ。


「もう一回戻れれば、そういうのもアリだとかアイツらに伝えられたのにな」


ひなが俺たちに伝え広めたこの世界での知識の中には、そういったものまではなかった気がする。


便利だとかいいと思えるものは、どんどん取り入れて、国民が住みやすい場所へ変えていけばいい。


とっくに娘や孫の代になっていたけれど、シューヤに頼めばどうにかしてアイツらにそういった知識を伝えることは出来ないだろうか。


「便利は、いい」


そういいながら、真っ白のマグカップというものに茶色い茶葉が入った半透明のティーバッグという袋を入れて、沸かしたお湯を注ぐ。


お湯だって、電気ケトルとかいうものに水を入れて、スイッチというのを押せばそのうちお湯が沸くものだ。


自分の薬草茶が飲めないのは正直ストレスではあるが、それ以外にも楽しめる飲み物が多いらしいからな。


その手の飲み物を俺が好むのを知っているシューヤが、アレコレ買い込んでくれたのには感謝している。


時間を見て、ティーバッグとかいうのを取り出して。すこしの砂糖を入れる。


はちみつも美味しいよと置いていったけれど、それはそのうちだ。


「ふぅー………ん、美味い」


自分が緊張しているのを知っているからこそ、そういう時にこそ普段通りの行動を…。


紅茶を半分ほど飲んだ頃、ピンポーンと不思議な音が鳴る。


「え? え? どこから音が?」


慌てて立ち上がり、音の発生源を探す。…が、もう音は聴こえない。


「今のは一体?」


緊張感が一気に増す。何のための音だ、誰かの声とか生き物が出した声か? とか思いながら、警戒をし続ける俺。


「シファル! 開けなよ! 聞こえてる?」


その緊張感で満ちた部屋に、入口の方からドアを激しく叩く音とともに、シューヤの声がした。


急いでドアの方へ向かい思いきりよく開くと、不機嫌そうなシューヤが腕を組んで立っていた。


「そんな風に開けるなって説明したよね? そこにチェーンってものがある話もした。それに、覗き穴のことも。…もういっそのこと、インターホンでもつける? 誰が来たのかわかるようにさー」


相手を確認しないでドアを開けたことに怒っているらしい。


「いや、それは確かに聞いたけど、でも今…変な音がしていたから、その原因をシューヤなら知ってるだろうって聞きたくて」


言い訳なんだってわかってるけど、こっちの事情や都合も聞いてほしい。なんせ俺は、ここの世界で暮らし始めたばっかりなんだから。


「あー…これ? もしかして」


と、シューヤが言ったと同時に、さっきの音が鳴った。


「そうだ! これ!」


何の鳴き声? どこから聞こえたんだ?


キョロキョロしながら、その場所を見つけようとする俺を見て、ぷはっ! とシューヤがふきだす。


「呼び鈴ってやつだよ、これは。ノックと同じだよ。誰かの声でも鳴き声でもないよ」


「え? は? ……な、なんだよ、それ。そういうのも言っといてほしかった。ものすごく無知すぎるだろ、俺」


そう言ってからしゃがんで、うなだれた。


「恥ずかしい。こんなとこ、絶対にひなに見せたくない。ひながいなくて…よかった」


そして、もれた本音。


ひなの前ではカッコ悪い自分でいたくないと思った想いが、言葉になった。それを聞いて、シューヤがややしばらく大笑いをしていた。


「はー…っ、シファルは俺の腹筋をぶっ壊したいの? こんなに笑わせてさー」


とか言いながら、すこしバカにしつつも、いつまでも笑っていた。


昨日、ここに泊まる前にとノートとかいうのを置いていってくれたものの、その中に呼び鈴については書き忘れていたらしい。


「ここまで反応するとか思ってなかったしね」


というのが、シューヤの言い分。


「まあ、暮らしながら自分の身になったことをどんどん書きこんで、シファルがこのノートを完成させてよ」


なんてことまで言ってきて、悪気はなかったんだからとどこか楽しげに笑われた。


「…ちっ」


思わず舌打ちをすれば「こっちきてから、ガラ悪い時あるよね」と肩を揺らす。


「笑うなら、声を出して笑えよ。シューヤ」


ちょっとムカついて言い返すのも、シューヤ曰くいい流れなんだとか。


もっと自分を表現していくのが、俺がこっちに来てからの課題の一つだとかなんとか。


そんなもん、特に求めてきたつもりもなかったけど、悪いことじゃなさそうだから話に乗ることにする。


(でも、そうして過ごしていった先で、本当の意味でひなと再会をした時に、ひなが好きだと思っている俺じゃなくなってたら…その時はどうすればいいんだ?)


未来を想像しては、不安になって。


ぎゅっと眉間にシワを寄せて口を噤む。


シューヤのことだから、俺が何を考えているかなんて把握してんだろ?


ふふ…とか微笑みながら、人差し指で俺の眉間をグイグイ押してきて。


「痕が残っちゃうよ? イケメン、台無しぃー」


って、シワを伸ばそうとする。


「…るさいよ」


シューヤの手首をつかんで、ググッと押し返す。


「まだ起きてもいないことを悩んだって、しょうがないだろ? そういうとこは、惚れた子に似ちゃってんだから」


あえて、ひな…とは言わない。


「いいだろ? 別に」


言い返しながら、胸の中の重さを吐き出すように長く息を吐き出す。


吐き出すだけ吐き出して「…よし」と言いながら、息を吐き出しながら丸めていた背中を伸ばして、姿勢を戻した。


「時間、か? そろそろ」


こっちから、内心避けたかった話題を振る。


今日は、ひなを見る日。ただ、見るだけの日。


「んー…そう、だねぇ。ひなが出かけるのが、あと30分ちょっと後のはず。そのタイミングで玄関先ですれ違うようにするから、あと10分ほどで出るよ? 途中で他の友達と、ひなの兄貴のアイツとも合流することになってるから」


「…うん」


「んで、ね? 念押し。シファルは合流した時に上背がある奴らの中に紛れて、ひなから見えないようにするから。念のため、この帽子かぶっておいて」


「…ん」


「声なんかかけないようにね」


「…うん」


ひなから聞いていたその時の情景を、何度想像しただろう。出かけた時の話だって聞いた。出会った時よりも幼い、ひな。友達と出かけるといい、そこに行くのを楽しみにしていたはずのひな。


「もしも、声をかけようとしたら、悪いけど強硬手段に出るからね」


話を聞いてから時間をかけて、沈黙を貫くつもりで意思を固めた俺。


「わか…ってるよ」


ただ、自信はない。ひなを見たら、自分がどう動くかなんて、予想できない。


「その時は、止めてくれよ」


だから、従う気持ちがあるってことをシューヤに伝えた。


「オッケ。じゃあ、何かあっても慌てないでね」


何かあっても、か。


正直なことを言えば、シューヤはなんでもかんでも出来るし、下手すりゃ元いた場所もここもシューヤの何らかの能力を使っちまえば、シューヤが望む世界が創れるんじゃないかと。


それっくらいに、別の世界からでも他の世界に干渉できるほどの力を持っていることは、稀であって、恐ろしい力なんだと俺は思っている。


力があるからといっても、それをそういう形で使っていないから、そういう支配的な世界が出来上がっていないだけで、シューヤの気分や匙加減次第でどっちにでも転がってしまう。


その力の大きさや影響力をキチンを理解しているから、こんな風にバランスが取れているんだろう。


シューヤじゃない誰かが、これだけの力を好き勝手に自分のためだけに使っていたら? と何度も想像した。


そうして想像した先で、最後の最後に出る答えはいつも同じもの。


シューヤがシューヤだったから、よかった。ってこと。


だから、シューヤの母親だった側室も、シューヤを当時の王から逃したんだろうし。


自分の息子は悪用しないけど、父親たる国王は悪用するだろうと。


「なーに。そんなに熱い視線、投げないでよ。俺……男は恋愛対象じゃないんだよねー」


こんな風にふざけて、高まっていたはずの緊張感をいとも簡単に解いてしまうような人。


「俺さ。……シューヤのこと、嫌いじゃないよ」


ひなが出会ったのがシューヤだったから、俺も縁あってあの時、命を救われて、こうして二度目の人生を過ごすキッカケをもらえた。


「ありがとな、シューヤ」


ひながいつもシューヤに伝えていたように、真似て素直に言葉にする。


「えー…男は恋愛対象じゃないっていう返しに、そんな言葉を返す? ……ゴメンネー、愛してあげらんないや」


ニヤニヤ笑って、ちっとも謝られている気にならない謝罪をしてくる。


「いいよ。…片想いしとくから、俺」


俺もすこしふざけて、わざとらしく悲しげな顔つきをして。


「………」


「………」


互いに無言で見つめあってから「ぷはっ!」とふき出して、声をあげて笑った。


肩の力が抜けた。こんなに笑えるほどに。


「じゃ、行こうか。気づけば時間だよ、シファル」


「ん。行こうか、シューヤ」


教えてもらいながら、鍵をかけて、確かめて。渡されていた帽子をすこし深くかぶって、一歩踏み出した。


しばらく歩いていると、遠くから見覚えがある顔が近づいてくる。


「お! 今日はお前も一緒か」


そういいながら近づいてくるひなの兄貴の態度は、俺のことを昔から知ってるやつみたいに気さくに接してくる感じだ。


(あぁ…アレクに似てるな。いかにも兄貴って感じの空気だ)


ひながアレクをお兄ちゃんと呼びたいと言っていた時期があったななんてことを、久しぶりに思い出していた。


シューヤが言っていた通りで、俺の身長もそこまで低いわけじゃないのに、それ以上にデカいのばかりが集まっていた。


こっちでの年齢の調整の影響もあって、ひなと出会った時よりは若干低くなった俺。


170手前くらいか。


ひなの兄貴は、あの頃のアレクと大差ないな。それ以外に4人くらいいるけど、多分…こっちの高さで190から2メートル前後じゃないのか。


(これ、ひなから見えないようにとか考える間もなく、絶対に埋もれるだろ。俺)


それでもこそっとみんなの中に紛れるように、先頭を歩くひなの兄貴とシューヤの後についていく。


「…あ。お兄ちゃん!」


背中の壁の向こうから、明るい声が聞こえた。


(…ひな!?)


目の前にいるひなの兄貴の友達ってのにも、ひなは「こんにちはー」とか明るく挨拶をしている。俺は見つからないように、人の陰になるように動く。


「ひな。どっか行くのか?」


ひなの兄貴がそう聞けば「友達とお祭りに行くの!」と気持ちがそのまま言葉になったみたいな弾んだ声で返していた。


すごく…すごく楽しみにしていたって言ってたっけな。


数人の背中の隙間から見えたひなは、髪が長くて。高めの位置で一つに結んでいて、ふわっとした大きなゴムみたいなもので飾りつけていた。


その髪をシューヤが手に取って、うんうんとうなずいてから「かっわいくできたじゃん。楽しんでおいでね、ひな」と、その背中を押すような言葉で見送っている。


その二人のやりとりに、一瞬、体が揺れる。俺も触れたいと、思わなかったわけじゃない。ひなへその手が伸びることはなかったけど、指先は触れたくてもぞもぞ動いては彷徨っていた。


口を開けばその名を呼びそうで、口をぎゅっと真横に結ぶようにして押し黙る。


俺がそんな状態なのを、きっとシューヤはわかってる。けど、体に何かされた気配は感じられないから、このままでいいんだろう。


ひなの兄貴を含め、みんなが楽しげに去っていくひなを見送っている。


こんなにもバカでかい連中なのに、ひなの兄貴の友達ってだけで安心も信用もしてるのかな。ひなの表情は、俺が知らない顔ばっかりだ。


新しいひなの表情を知って、またひなへの気持ちが高まっていく。


遠く小さくなっていくひなを、一体いつまで見送るのかとひたすら待ちながら俺も見送る。


ひなの兄貴はいつまでも手を振ってて、ひなもそれに気づくと大きく手を振って。


かなり離れた場所まで進んでからもまた振り向いて「いってきまーす」とあいさつをしていた。


ひなの兄貴が先に家の中に入っていく。それに続いて他の連中も入っていくのに、なぜかシューヤだけが俺を待っていたかのように玄関ドアの手前で立っていた。


「…どうかしたの?」


首をかしげながら聞けば、「可愛かっただろ?」と小声で聞いてくる。


その言葉に素直に反応してしまう俺は、頭全部が一気に熱くなるほどに赤くなりながら返す。


「…めちゃくちゃ可愛くて、小動物みたいだった」


クスクスと笑う声が聞こえる。


「だろ?」


って言葉つきで。


「あのね、シファル」


でもすぐに声のトーンが変わって、顔を上げると顔つきも真面目な顔つきになっている。


「時間になったら、一緒にここを出るよ? ひながお祭りの会場を出て、俺と出くわすところをちゃんと見守ってもらうからね。…で、その後は俺とひなが移動するから、用事がすむまでどこにいてって念話で指示出すから」


コクンとうなずいて、ごちゃついている玄関で靴を脱ぎ家の中に入っていく。


「ちらっとだけ、ひなの部屋見せてあげるから、そんな顔しないでよ」


シューヤからの言葉に、また緊張しかかっていた俺に、意外な話を振ってきたシューヤ。


「え? んあ? へ?」


そりゃ変な声も出るってもんだ。


「あー…やっぱりね。……ほら、すこしだけドア開けっぱなしだ。これが、ひなの部屋ね」


急いで出かけたんだろう。服もいろいろ悩んだんだろう。って感じで、小さなテーブルの上とベッドの上が、服やいろんな髪飾りが置きっぱなしだ。


「…ひなっぽい部屋だな」


なんでかそう思った。


「だよね」


二人で通り過ぎるだけの感じで、ひなの部屋の前を通り過ぎていく。


ひなの兄貴の部屋に入る直前に、シューヤがもう一言と前置きしてからコソッと耳元で囁いた。


「さっき、ひなが着けていた髪飾り、シュシュっていうんだけど。あれに追跡魔法を付与したから、時間になったらその場所に転移するからね? オッケー?」


とかなんとか。


「…………」


俺はその内容に思わず絶句して、シューヤがある意味まともな人間でよかったと、改めて思った。




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