久遠 3 ♯ルート:Sf
IFストーリーです。
シファルルートになります。
シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。
抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。
~シファル視点~
俺がそう告げると同時に、手紙を読んだり考え込んでいたはずのみんなが一斉に立ち上がった。
「「「「!!!!!」」」」
言葉を失ったように、ひなへと視線を向けて固まったままで。
「選択権は、ひなに。その方法を手にしてきたのが、俺からひなへの一番の土産かな」
そういいながらも、心にもないことを…と自分を責める俺がいる。
ここに戻ってくるまでの間、何度も悩んで揺らいで…ここに戻ってきてひなの顔を見たら勝手に口から滑っていった言葉たち。
伝えるべきだと思っていたのも本心で、そっちの俺が勝ったんだろうな。
ひなの傍らにしゃがんでいる俺に泣きながら視線を向けて、ひなは何度も首をイヤイヤでもしているように振っている。
「もういいんだよ? ひな。浄化は終えて、聖女がいなくてもこの場所が困らないようにと進めてきたことに関しては、この後に俺がすべてをまとめて終わりになる。ひながこの場所に縛りつけられる理由がなくなる。…ひなは、自由になってもいい。たとえひなが帰りたいと言っても、それを責められる人間はどこにもいない。そんな権利はない。……ひなだけが、決められるんだ。ひなの未来を」
小さい子に言い聞かせるように、ゆっくりと……ひなにちゃんと伝わりますようにと願いながら伝えていく。
伝えながら、心の奥では行かないでと叫んでいるのにな。
(矛盾が心の中を満たしていきそうだ。そんなもの抱えたって、いいことなんかなにもないことをわかっているくせに)
こうしてひなに語りかけている俺は、弱くて、脆くて、でもひなを護れる唯一でもありたくて、だけど…弱くて。
自分の弱さを認めるところから出来ていなかった俺は、きっとかなり無駄な時間を過ごしていたはず。
それが出来なかったばかりに、弟のカルに寂しい思いもさせたし、ナーヴに愚痴ばっかり聞かせていたし。
なにより、自分の中にある力に気づけなかったのはそのせいだったわけだし。
認めるという簡単そうで難しいそれが出来た時、肩の力が抜けて呼吸がしやすくなった。
それもこれもキッカケは浄化の時に攻撃をされて、危うく人外になりかけた俺を地球という場所に転送というか召喚してくれたシューヤのおかげだ。
そう思えば、攻撃を受けてこっちの時間でいえば三年間もみんなから離れた場所に行くことになったけど、彼との出会いも話をしたことも教えられた力の使い方もなにもかも…無駄じゃない。
(シューヤいわく、必然ってやつだったんだろうか)
まるで運命づけられたその道の途中で、どうしても俺はあそこで命をかけなきゃいかなかった。…ってことだ。
とはいえ、感謝はしない。教会の連中の頭の悪さは、シューヤの代の時も大差なかったらしいし。代替わりをしていても、頭が悪い連中が集まるのは変わらないんだな。不思議なことに。
その頭の悪い連中の愚行のおかげで、俺は新しい力や知識を得てこの場所をこれからも人々がつながっていく場所にするために戻ってきたんだ。
使命にも似たものを手に、戻ってきた。ここからいなくなる前には、多分なかっただろうものだ。
「今すぐに答えを出さなくていい。ひなが決めたいタイミングでいい。今でも、明後日でも、10年後でも」
この場所を人々が生きるための国にするのと、ひなが自分らしく生きられる場所を選ぶ自由を伝えるために。
矛盾を抱えながら、膝に置かれたひなの手に自分の手を重ねる。
「ごめんね? 急に言われて、ビックリさせちゃったよね? ……でも、そういう選択肢がこれからのひなの生活の中に増えたことを憶えていてほしい。…きっとたくさん悩むだろうからさ、胸の奥に抱えっぱなしにしないで話してくれていい。俺でも……他のみんなにでも」
そういい、ひなに言葉をかけることが出来ずに立ったままのみんなを見上げる。
「聞けるよね? ひながいつか、答えを出せるまで……答えをひなに委ねたままで」
スッと立ち上がり、みんなの顔を見回してニッと笑いかける。
「ってことで、この後はみんな…部屋に戻ってもらってもいい? 順番にそれぞれに個別で話があるから、部屋にいくつもり。最初は……アレクんとこ行くから。いい? アレク」
俺がそう話しかけると、「あ、あぁ」と放心していたところから戻ってきて、かろうじてって感じで返事をよこす。
「ひなはとりあえず、お風呂でも入っておいで? …っと、これ……入れてさ」
肩掛けバッグの中をまさぐって、指先に触れた袋を手渡す。
「……は?」
ひながボロボロ泣いていたはずなのに、その涙が一瞬で止まる。
「入浴剤……? あたしの好きな…」
ひなに手渡したのは、彼から渡された地球製の商品とパッケージのそれだ。
入れると乳白色になって、甘い香りがして、細かい泡をたくさん出しながらお湯に溶けていくものだ。
「シファル…地球、行ったの?」
ひなのその声に笑みを浮かべて、バッグの中からもう一つの物を取り出してテーブルへ。
「お風呂上がりには、カルの水を飲んでから…これね」
ペットボトルという入れ物に入った、コーラという飲み物。
「シファル!!!」
答えは、今は言わない。
人差し指を立てて、唇の前にあてて、内緒を示してからアレクへと視線を送る。
「じゃ、ごゆっくり。カルはひなに水を用意してから、部屋を出てね」
部屋を出る前にカルに声をかけると、少し慌てた声で。
「あ……兄貴っ。後で来る? 俺の部屋にも」
と、早口で呟く。
「遅くなると思うけど、いいのか? お前早寝早起きなんじゃないのか? ここんとこ」
地球にいた時に得ていた情報の一つを聞けば、カルが驚きを顔で表現したように目を丸くした。
その顔を流し見ながら、俺はアレクの背を押して部屋を出る。
アレクと並んで廊下を歩いてく。
背中には後に残された他のみんなの視線が感じられた。
でも俺は振り向かない。俺から話をするまでは、そうすべきじゃない。
アレクは見た目通りの肉体派といわれがちだけど、実際は結構聡いところがある。だからだろうな。あの手紙を読んで、二人きりで廊下を歩いているとはいえ先走って話を切り出さないところはさすがだ。
廊下を右へ曲がりややしばらく歩けば、アレクの自室じゃなく執務室へとたどり着く。
(予想通り、自室は避けたか)
防音効果の高さで選んだと思う。アレクとこれから話す内容は、ジークにすら伝えずにきたことだったはずだ。ジークがスキルでその能力を見抜いていたかもしれなくても、それを明かすのをためらうような内容だから。
その力を使う方向性を決められていなければ、誰かに言葉巧みに誘導されて使うつもりもなくその力を利用された可能性だってあったはずだから。
シューヤの話では、その力に気づいたのはかなり幼い時だったよう。今まで誰にもそれを明かさずに24年間、過ごしてきたということだ。
肉体派だの脳筋だのと言われがちだが、それすらも自分が持っている力に気づかせないための鎧のよう。
だから思うんだ、アレクは聡い…と。
「鍵を閉めてくれ」
先に執務室へ入り、窓へと近づきカーテンを閉めるアレク。俺はうなずいて、鍵をカチャリと閉めた。
平静を装っているように見えるが、予想以上に動揺しているのがわかる。
いつもならしない行動が、所々に見えるからだ。
着ていたシャツのボタンを胸の下ほどまで外して、寛げて、ソファーにドカッと腰を下ろしたかと思えば、さっきひなの部屋で見た時と同じように天井を仰いで目を閉じるアレク。
その姿を横目で見ながら、俺は向かいのソファーに腰かけた。
『急かすことをせず、相手が話を切り出すのを待ってやってくれ』
シューヤに念押しされた言葉を思い出す。その言葉がなくても待つつもりだったけど、こうして対峙してみてそうすべきだと体感する。
内容が内容だけに、本人が自分の中で消化するまで時間がかかることはわかる。俺だって同じことを伝えられたら、そんなに容易く飲み込めないはずだ。
そう思っていた俺の予想をいい意味で裏切って、アレクが口を開く。
「さ。……話すか、シファル」
顔を向けると、見慣れた顔つきのアレクに戻っていた。
(さすがというべきか)
王位継承権第二位を持つ、この国の王族のアレク。持つべき資質は持っているということでもあるような気がした。
「そうだな」
返事をしてから、俺はバッグの中から二つの物を取り出す。
「早速だけど、ここに別の世界から持ち出した物がある。こういう物も“やれる”のか?」
何をどうとかあえて言わずに、品物をテーブルに置いてからアレクの方へと押し出す。
「ふぅ…む」
小さく唸ってから、二つの物をよく観察してテーブルに置いたかと思えば、アレクが口角を上げて笑む。
(やれるってことか。……シューヤから聞いた話が本当なら、そんなに簡単な話じゃないんだけど)
「それじゃ、まずは一つめ」
そういいながら、アレクが一つめに指定したものへと手をかざす。
指定したのは、ひなに咥えさせたあの飴だ。
『複製……解析………作製』
アレクの手のひらから半透明な感じの、色なき色の光が発せられ、そして飴がパッケージごと複製され、解析と告げた直後にパッケージのない状態で飴がテーブルに転がった。
「んん? 表にあるものだけは作製不可か? よく見ると、棒の素材も少し違うな。…久々だと上手くいかんな」
ブツブツと文句のように呟いたかと思えば、もう一度同じ流れで飴を作っていく。
三回目でパッケージまで同じものが出来上がり、解析によって得た飴の食材やパッケージに使われた素材などが傍らにあったメモに浮かび上がっていく。
(メモまでの流れが、一連の流れの扱いなのか)
「……ふぅ。魔力やスキルに使う力のコントロールは、表向き、訓練をするわけにはいかなかったからな。数回で疲労感がすごいな」
珍しくひたいに汗をにじませているアレク。よほどのことなんだろうということが伺える。
「で、シファル。この力の在りかを明かして、俺にさせたいことがあるんだろう? あの手紙の主からは、そういった打診があった。この飴だのなんだのを作れっていうだけの話じゃないんだろう?」
アレクからの問いに、俺はそれを話すか一瞬考えてからアレクをチラッと見た。
「ためらいがあるのなら、さっきの陽向のことについてじゃないが、迷いがあるのなら話を聞いてからでもいい。……お前ばかりが抱えていても辛くなるだけだ。さぁ…話してみろ」
俺ばかりが抱えていても、か。
(たしかに現段階で全員にいろんな話をしなきゃいけなくて、みんなが知らないかもしれない事を知っているのは俺だけだ。抱えていると言えばそうだけど……どこまで話していいか、悩むところだな)
シューヤと話をして、託されたことの一つがアレクへの作製の打診だ。
「ささやかなことかもしれないことを……頼まなきゃいけない。その力を生かす方向性としてそぐわないかもと思うけど、もしも……ひながこの場所に留まると決めた場合に作ってほしいものがあるんだ。ただし、俺とナーヴとである加工というか細工をしてからになるんだけど」
俺がそう話し始めると、アレクが首をかしげる。
「陽向が留まると決めた場合限定?」
正確にはそうじゃない。
「ひなが留まる場合は、ひながそれを決めてから。でも、ひながここを去ると決めたら……ひながいなくなってから」
すこし濁した話し方をした俺に、アレクが笑みを深めて手のひらを差し出す。
「とりあえずよこしてみろ」
そう言いながら。
(なんだかんだ言いながらも、俺にまかせろって感じで頼りになるんだよな。こういう時のアレクって)
そうして相手が背負っている荷物を、何の負担も感じさせずに軽くさせてしまう。
アレクには勝てないかもなと思いつつ、バッグの中からある袋を取り出して見せる。
「俺たちがこれにとある属性同士の複合魔法をかける。その後の状態で、これを袋ごと増やせるだけ増やしてほしいんだ」
アレクに手渡した袋には、ある花の鮮明な絵がついていて。
「これは……っ!」
手渡した瞬間、アレクは驚いたように目を大きくしてからやわらかい笑みを浮かべてその袋の絵を指先で撫でた。
「アレク……これを見たことが?」
不思議に思って問いかけると、視線を右上に上げてからプッとふき出す。
「あぁ、知ってるさ。陽向がここに来てから教えてくれた花だ」
何度もその花の絵を指先でなぞってから、懐かしげに告げた。
「太陽に向かうと書いて、陽向…というのが名前の由来だと。ひまわりというこの花は、太陽に向かって咲くらしい」
シューヤから聞くことがなかった、この種を選んだ理由。
(もしかして、名前の由来がその理由?)
なぜかアレクが知っていたひなの名前の由来の話に、俺はどこか面白くなく感じて、アレクの手からその袋を取り上げた。




