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手をのばせば、きっと… 4 ♯ルート:Sf




~シファル視点~



「あー…そ。りょうかぁーい。…うん。よかった……。その言葉を聞けただけでも、ひなをあっちの世界で守ってきた甲斐があったと思えるよ。……はー…、よかったぁ」


噛みしめるように、よかったと繰り返すシューヤという男。


「俺だってさ…わかってんだよ。ひなの人生は、ひなのものだし、ひなが決めるべきものだって」


机の上に乗っかっていた紙袋から、棒がついた何かを手にして、棒の先にあるカラフルな紙のようなものを外す。


茶色の丸い飴玉に見えるものが、棒の先にはあって。


「はい。これでも食べながら、ちょっと話をさせてよ」


と渡されたものを、不思議なくらいなにも疑わずに口に入れた俺。


不思議な味の菓子…なんだろうな。


「コーラ味の飴ね、それ。…っても、わかんないだろうけど。ひなも好きだよ、その味。後でその味の元になってる飲み物、飲ませてあげる」


そう言いながらもう一つを同じように紙のようなものを外して、パクリと口に収めた。


(棒がついてて、舐めやすい。かすかに甘くて、不思議な味だな)


舌先でコロコロ転がすように舐めて、彼の話の続きを待つ。


「あのさ。俺ね? こっちに転移して。でも、年齢はなぜか3歳スタートでさ。転生だったら、赤ちゃんからだっていいんだけど、死んでないのにどうしてか3歳で。多分だけど、これまで聖女の召喚と同じ方法じゃなく、特殊なやり方だったから副作用みたいなもんでも出たのかなって思いつつも、こっちで馴染めるように過ごしてきたんだよ。…でも、もしかしたら、召喚した時に命を対価にしたのかもしれないから、転生…でも合ってるのかもしれない。で、成長してみたらずっと見ていた自分の姿と同じでさ。3歳の時から記憶は残っていたけど、場所が違うからか幼かったからか…魔法も何も使えなくて。自分がしなきゃいけなかったかもしれないことから、本当に解放されたんだと思ってたんだ。……暴君な父親から、ちゃんと逃げられたんだって。そう思ったのにさ……思っちゃったんだよね」


昔を振り返り、長々と話し始めたかと思いきや、ため息を吐きつつ俺をジッと見つめて後頭部を掻いた。


「俺のような人間がいたら、ひなみたいに召喚される人がいなくても…どうにか出来たかもしれない。その結果を試すことも確かめることもなく、俺は母親と協力してこの世界に飛んできてしまった。召喚のタイミングで必ず俺のような能力を持つ人間がいるかはわからないけれど、試してみる必要性はあったんだろう。…でも俺は、たとえ側妃の息子なんだとしても、父親が暴君だったとしても、王族だったのは間違いなくって。……調べて、試して、後世に残せばよかったんじゃって悔やんでいたんだ。そしたら、ひなもだし、ひなの前に召喚された異世界の人も必要なかったかもしれない。ひながあっちの世界で思った通りで、そっちの世界で暮らす人たちだけで解決できた可能性もあったんじゃないかって。そう思うのと同時に、ひなのことで先見が出来た時にその選択肢を選ばなかったことで、ひなはそっちの世界で生きられるチャンスが出来たって思えた」


ん? どういうことだ? 自分がいたら召喚なしで、浄化が可能だったということか?


首をかしげながら、黙って彼の話を咀嚼する。…けど、なんだか理解にしくいところが所々ある。


「見た目が元いた世界の俺に近づいていくたび、体に懐かしい感覚が戻ってきて。ああ…なんだ。力を失くしたわけじゃないんだ…と思ったと同時に、どうして今なんだ? とも考えた。その時にはひなの兄貴ととっくに出会っていたから、ひなともしょっちゅう遊んでいたし、可愛い妹が出来た気になって大事にしてたんだよね。ある日、まるで普通に手紙が届いたみたいに便せんが俺の元に届いた。届いたっていうか、何もなかった宙から急に現れて、ヒラヒラしながら落ちてきたんだ」


話しながら、当時の様子を再現する。似た便せんを摘まみ、立ち上がって頭上でその紙から指を離した。


まるで、こんな風にとでも言いたげに。


ふわりふわりと羽根のようにゆっくりと舞いながら、便せんは床へと落ちていった。


「ベッドに寝転がっていただけだったから、夢でも見ているかと思ったんだよね。あの時」


さっきの言葉だけで単純に考えれば、彼は全属性の魔法を使える。しかも、召喚なしに浄化が自分だけで完結したかもしれないほどの能力があったことになる。


(9代前…の頃ったら、どれくらいの魔法が増えていた?)


ひながたどり着いた、召喚と浄化が始まった頃にはなかった魔法が、何度も浄化を繰り返していっただけの時間の中で増えていったこと。


よくある火・水・風・土・光・闇…に聖属性もあって、実はそれ以外にもそれぞれの属性から枝分かれした属性も存在していた。


相当数の属性があったはずだけど、目の前の彼がいた時にはどれくらいの属性が存在していただろうか。


すぐさま調べられる場所にいないことが、なんとも歯がゆい。


そして、それ以外でもスキルというものが別で存在もしていて。


(組み合わせによっては、国を潰すことも出来れば、新たに興すことだって可能なものがある)


魔法もスキルも、使う人間の使い方次第でどうにでもなってしまう。良くも悪くも人の良心次第な持ち物だろうな。


ナーヴみたいなのにかかれば、単純に光魔法一択だと言われたって、あれだけの魔法を創られたらバカにも出来ない。


かなり前に、アイツの創造特化の能力が怖くなったことがある。


瘴気に弱い体。あの国に、あの世界に生まれ育ったせいでこうなった。


それをひどく恨むようなことになれば、たとえ見目眩しくて人々を照らすだろう魔法と言われていたって、人を騙したり傷つけることがあったかもしれない。そして、ナーヴにはそれだけの力があったはずだ。


(――アイツが基本的に優しいやつでホントによかった)


口は悪いけど、人の痛みをわかれない人間じゃない。ひなが召喚されてすぐに愚痴のように出た言葉だって、本当は吐くつもりのなかった汚い感情だったと悔やんでいた。


ひなに言ったところで、すぐさま瘴気がどうにか出来る状況でもないのをわかっていたのに、心身的に負荷が限界を超えていたらしいナーヴはポロッともらしてしまったわけで。


そんなことを思い出しながら、あっちの世界のことを思い出す。


浄化は無事にすんだのか、とか、ひなはどうしているのか、とか、ナーヴは普通に過ごせるようになったのか、とか。


「…………って、ねぇ! 聞いてる? なにか考えごとしているみたいだけど」


自分の世界に入り込んでいたようで、シューヤという男の声で意識をそっちへと向ける。


「あ、あぁ。聞こうとはしてるが…気になることが多くて」


全部は晒せないが、思っていたことを呟いてみる。


「ま、そーだよね。いろいろ気になるよね、話をしながらだってさ」


小さくうなずき、ため息をひとつ。


「んー…と、さ。さっきの便せんの内容、覚えてる?」


そういいながら、彼はさっき見せてくれた便せんをヒラッと指先でつまんでから軽く振って見せ、どう? という風に首をかしげる。


「だいたいは記憶している。…どの部分を確認したい?」


彼にそう問いかけると、「最後」と即答してきた。


「最後っていっても、俺が人外のモノになることと、ひなが一生一人だったってあたりか」


俺がそう返せば、彼が深くうなずく。


「ジークムントって、わかるよね」


目の前の彼に似ているその名前が、彼の口から出てくる。何とも言えない気持ちになる。


「浄化の選抜にいる。そして、現在の王位継承権第一位なのが彼だ」


ジークに関する他の情報をどこまで明かしていいのかわからないだけに、安易にジークのスキルの話などは出来ない。


「俺の後に産まれた弟の子孫なんだよね、彼。…似てるでしょ? 顔だけは」


まるでここに来てからの俺の頭にあったことを見透かしたような、その発言。


「あぁ、本人かと思うほどに…似ている。似すぎなほどだ」


髪色までそっくりだ。


今更だが、かなり最初の段階でひなからひなとひなの兄貴と目の前の彼の三人で、一緒に写真というのにおさまってのを見たことがあるはずだ。


(でも、その時には彼の髪色は確か)


「髪色は、ひなのように変えたのか? 確か、黒だったんじゃないか?」


記憶違いか? とどこかで思いつつも、違和感があるのが気持ち悪く、聞かずにはいられなかった。


「色? ……あぁ、コレ? 変えてないよ。これは、認識阻害系だね。そっちだと…ナーヴが得意な魔法じゃないかな」


俺たちのことを見ていたような発言もあったから、現時点でのひなの関係者は把握済みということだな。


「認識阻害? ということは、今の髪色が本来の」


「うん、そうだね。ただ、こっちの世界の人たちには、黒髪や茶髪に見られていることになるよ」


髪色ですら、ジークと同じか。本当に直系の子孫なんだな、ジークは。


「さー…て、と。飴は舐め終わった?」


急に話題が、さっきもらった飴玉へと変えられてしまう。


「あ、あぁ」


棒だけ指先で弄んでいると、手のひらを突き出してきてよこしなよと言う。


手渡せば、その棒に対してなにかの魔法をかける。


「……は? なんだ、その棒に一体なにを…?」


舐め終えた飴玉の色と同じく、茶色い光が棒の先に集まりだす。ぶわりと一気に膨らむように。


俺の両手を左右に広げたくらいの大きさにまで膨らんだ光へ、またなにかを呟いてパチンと指を鳴らす。


その瞬間、茶色の光が手のひらに乗せられるほどの大きさへと収縮して、表面がまるでガラス玉へと変化した。


その次に彼が呟いた言葉は、かろうじて聞き取れた。


『鑑定』


そう呟き、ガラス玉になったなにかを凝視している。


視線だけ上下左右へと忙しなく動き、鑑定したなにかを読んでいるように見えた。


「はぁーーーーーー……っっ」


と、胸の中の酸素をすべて吐き出すほど、長く長く息を吐き切ってから。


「よし。問題なし、だな。…さっすが、俺♪」


口角を上げて、何度かうなずいてから俺の方へと視線を投げてきた。


「もう、樹木になるとか…ないよ。体内にあったものは、取り去れた。…上手くやれるか不安だったけど、上手くいけたみたいだ。あー…よかった」


そういいながら彼がガラス玉を親指と人差し指でつまんで、俺へと見せつける。


「さっきの飴玉。実は今回の攻撃の元になった、土属性の魔力を馴染ませたものだったんだよねぇ。最初に同属性同士で認識させて馴染ませてから、シファルの魔力から分離させて、その後…光と聖属性とで呪いみたいになってるそいつを…浄化。で、念のためで、こういう形状にして閉じ込めた。…あぁ、ナーヴがひなの中にあった闇属性のを取り去って魔力を他に使えるようにした時みたいな、形質変化とか、属性変化とかの流れの魔法かな? わかりやすくいうならば、ね」


彼がサラッと説明してきたそれは、飴玉一つ食べるだけの時間内で終わっていることで。


(たしか、3分か5分ほどじゃなかったか?)


たったそれだけの時間で、俺に何をしているのかも痛みも感じさせずに終わらせてしまった。


「さーて、と」


そう言い、彼が部屋を出ていく。


俺は俺で呆気に取られて、何も言えないままだ。


「おーまたせーー」


勢いよくドアを開けて、彼がニヤニヤしながら指先に透明な入れ物に入ったなにかをぶら下げてきた。


「はい。これがコーラだよ。命が助かったこと、お祝いしよーよ」


そういって、俺へコーラを手渡してくる。


光の中で宙に浮きつつ、見よう見まねで蓋を開けてコクンと飲んでみる。


口の中で何かが弾けて、刺激がぶわっと広がっていく。


「ど? 美味い?」


面白い感覚が味わえる飲み物の仕組みが知りたくて、何度も口をつける。


「夏になったら、よくひなと一緒に飲んでたよ。これ」


そこから始まる、ひなのこっちの世界での思い出話。


――いい話も悪い話も、満遍なく聞かせてくれたシューヤが話の最後に呟く。


「ひなに会いたいなぁ…」


それはどっちの意味なのか、俺はコーラをゴクンと飲み込みながら聞きかけて開いた口を噤む。


コッチでか、アッチでか。


そう考えたのと同時に、俺は思っていた。


(俺はまたひなに…会えるのか?)


と。





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