空を仰いで、アナタを想う 4 ♯ルート:Sf
小さく、点のようにしかみえないはずなのに、あの場所にいるのはあの人だとわかる。
瘴気を集めている魔方陣に触れていると、周りのいろんなところに点在する魔力の色がぼんやりだけど視認できる。
その関係なんだろうな。彼が持つ魔力はあの色だって、なんとなく思ったんだ。
隣でナーヴくんが長く息を吐き出してから、自分の耳に指先でトントンと触れる。
「あー…あー…聞こえるか? シファ」
いきなり始まった、まるで電話か無線の会話らしきもの。
「へ?」
驚き、真横からナーヴくんの顔をガン見する。
「おい。あんま、俺の顔を見るな。減る」
「減る? え?」
どれに対して一番驚いていいのかわからなくなっちゃう。
(でも! でも!)
「シファルと会話しようとしてるの? え? なんで!」
最初にコレでしょ?
「うるさい。お前にかまってる暇はない。黙ってそっちに集中しとけ」
そういって、また息を長く吐く。さっきからため息みたいに、何度も重そうに息を吐いているナーヴ。
この魔方陣や瘴気の影響かな、きっと辛いよね。
今、あたしたちの体には極薄の結界のようなものが張られている。
あの日、ナーヴくんがあたしに張ってくれたものと似ているけど、すこし構築されたものが違うとは言っていた。
なにがどうなのかまではよくわからなくて、そのへんはまるっきりナーヴくんにおまかせだ。
浄化に光の属性が関係しているとわかった時点から、いろんな対策を打とうと研究に研究を重ねてきたというナーヴくん。
正直いえば、この浄化の場に同伴できる状態に間に合わせられるとは思っていなかったらしい。
手詰まりな状態を打破したのが、禁書庫からの情報や城内の書庫で本を読みまくって、見落としていたか無関係と決めつけていただろう情報に目をつけたあたしからの情報と提案。
そこからナーヴくんとシファルが率先して、固定観念から抜け出ることから始めて、今まで避けていたことにも目を向けつつ新しい魔法や付与の方法も新しいやり方を考えて。
ナーヴくんの諦めない姿勢は、賞賛に値するって言葉がぴったりだと思う。
今、隣でやっている通信魔法みたいなものだって、魔方陣の紙を介さないでやる方法に出来たのは、このタイミングになるまで見たことがなかった。
いちいち紙を開かなくてもやれる方法を考えて、この余裕のない状況下で成功させたなんて…!!
召喚にかかわる人たちがどういう条件で選ばれたのか知らないけれど、この五人だったからあたしはここまでやってこれたんだろうし、こんな風にこの場所に立っていられたんじゃないかって思える。
(本当に、みんな…ありがとう)
心の中で感謝を呟き、ナーヴくんの声に従って瘴気を集めることに集中する。
魔方陣に近い手のひらがジン…と熱くなって、足場がない場所で踏ん張るようなものだから背筋がめちゃくちゃキツい。
「く…っっ」
思わず声がもれて、背中が猫背になりそうになる。
「…なーにやってんだよ、お前は」
手のひらで背中の真ん中を軽く叩かれて恨めしそうに見上げると、ナーヴくんは口角だけ上げて笑ってみせた。
隣から聞こえる会話は、この後の展開への確認みたいだ。
瘴気を魔方陣の方へ移行して、その魔方陣から真下の大樹を経由してから、あたしの瘴気を魔石化したような状態に持っていくという。
この大樹から枝を採り、挿し木した子ども世代・孫世代の大樹にも魔石化するための魔方陣が配置されていて、短時間勝負で大樹にある魔力も使い魔石化を進めていくという。
これまでそういった物の魔力を使うことは考えたことがなかったみたいで、長い年月をかけて溜めに溜められたものを使うことはいいことらしい。
樹が育てば容量は増えるけど、それでも容量以上のものが溜まろうとすれば歪みが出てしまう。
それは瘴気の一部になる可能性もあったみたいで、今までよく瘴気に変化せずにいたものだと驚いた。
そういった植物にある魔力は別名マナといい、その植物がある限り無限に使いまわせるものになりそう。
太陽光発電みたいだなぁなんて思ったけど、その発案もあたしの頭にあった瘴気っぽいものの魔石化がなかったら、キッカケはなかったのかもしれない。
いつの間にか大樹の方へシファルが来ていて、ナーヴくんからのカウント待ちで何かをやるみたいなんだけど……。
話半分でしか聞けない状況だから、結局何が行なわれるのかわからないままだ。
隣から「10分後でいい」という声が聞こえて、一旦話が終わったよう。
「…ね、ナーヴくん」
「なんだよ」
こっちに集中させてくれるのはいいけど、見えない情報があるのは不安へとつながってしまうから嫌だ。
「シファルは、浄化に関係あり? 浄化後?」
元々は浄化後の瘴気への対策に関しての主導は、シファルとナーヴくん。
…の、はず。
あえて確かめてみれば、また大きくため息を吐くように呼吸をしてからめんどくさそうに呟いてくる。
「…どっちも、に、変更だ」
いつの間に? と思ったものの、細かい説明なんか望めるわけがない。
「この後、シファに伝えた時間になったら、下で展開されている魔方陣に、シファの魔力を追加で認識させる」
シファルの魔力? でも、容量が少ないんだよね? シファルは。
「認識させるだけ、なんでしょ?」
そう問いかけたあたしに、ナーヴくんは首を振る。
「若干、な。魔方陣に、シファの魔力を認識後に付与させる」
どのくらいの魔力を付与するのかわからないけれど、生活魔法ですらわずかなものしか出来ないシファルだもん。
「魔力切れを起こしたら、シファルの命にかかわるでしょ! やめさせてよ!」
なんとか止めようと願うあたしの言葉に、「は?」と呆れたような顔つきであたしを見るナーヴくんの姿があった。
「だ、だって!」
焦って上手く言葉にならなくて、あう…とかえー…とかしか出てこなくなる。
嫌だ。嫌だよ。シファルがまた魔力を使いきったら、今度こそどうなるかわからないじゃない。
倒れてしまうかもしれないし、何より魔力が今度こそ無くなってしまって二度と使えなくなる可能性だってあるんでしょ?
また自信をなくしてしまうかもしれないじゃない。
「だ、だめ! シファル…だめに…なる」
カタコトな言葉しか出てくれない。そうじゃないのに、違うのに。もっと言いたいことは違うのに。
「シファル…だめ…」
動揺すれば、今やっていることに影響が出てしまうのをわかってるのに、心がカンタンに揺さぶられてしまう。
他の誰でもないシファルのことだから、なおさら。
涙を浮かべながらナーヴくんに訴えかけると、「バカにするなよ」と視線をそらされた。
「…え」
バカにしたつもりはないのに、どうしてこんなことを言われているの? あたし。
困惑するあたしへ、視線をそらされたままナーヴくんが呟く。
「何の準備も対策もしないで、安易なことをするわけがねぇだろ。この俺が! それに、シファの魔力の容量の方も対策済みだ。前にお前から抜き取った闇属性の瘴気っぽいアレ。魔石化したやつを属性変更できるようにして、シファみたいに元々容量があった人間の魔力の補充治療に使えるようにした。アイツは土と風属性で、特に風の方がレベルが高かったから、そっちの方に転換して補充の治療を施した。……しばらくシファがお前と会えない時期が合っただろ。ちょうどその時期にそれが可能になって、魔力を補充できるか確かめて、時間をかけてゆっくりと魔力を戻していった。ただ…それまで少ない状態でいたから、いきなり補充すると体にかかる負担がデカいと予想できたし、体に無理ないように様子を見ながら治療した。……これまでは5分の1だったけど、今は3分の2まで戻せている。だから、そこまで不安に思わなくてもいい。バカみたいな量を付与しろとは言っていないから、安心しろ。それにだいたい…」
と、そこまで淡々と話してから、一瞬口ごもる。
「なに? 言いかけてやめないでほしい…」
お願い…と最後につけて頼めば、どうやら最後の言葉が失言だったようで。
「これ、俺が話したってシファに言うなよ?」
なんて、どこかバツが悪そうにしながら。
「シファが…言ったんだ。ひなと一緒に、闘いたい。ひなと浄化を成功させたい。親友と好きな子だけで背負ってるもの、俺も一緒に背負いたいって。だから……シファの魔力も使う方向で構築した魔方陣を使うことにした」
ナーヴくんが口にしたシファルの想いを、頭の中で繰り返す。
嬉しい。
ただ、ただ…嬉しい。
護りたいと思っていた人が、一緒に闘いたいと言ってくれた。
じわっと涙が浮かんできて、涙が一筋流れてしまう。
「…泣いてる場合じゃねぇぞ」
「わか…ってる、よ」
これは、うれし涙だ。
「よし。…時間だ」
ナーヴくんがそう呟いた刹那、大樹の根元の方で淡くて…でも強い緑の光が輝きだすのが見える。
やわらかく、誰かを癒すようなその魔力は、遠く離れた場所にいるあたしの心も癒してくれた気がした。




