空を仰いで、アナタを想う 1 ♯ルート:Sf
明日が浄化になりそうな感じだ、と誰かの声がする。
過去の聖女の誰かなんだろうと思うけど、違うのかもしれない。
目がさめて、閉じたままのカーテンの隙間から外をのぞく。
「今日で、16…か」
いい天気すぎて、いつもなら気分がよくなるはずなんだけど。
「死ぬかもしれないもんね」
今日を含めて16才を二日間しか味わえないで、消えちゃうかもしれないあたし。
二度目の禁書庫、その後。
どうしてかわからないけど、ナーヴくんから浄化に関してのことは何も考えず、体調管理だけしておけと伝言を受け取った。
伝言してきたのが、カルナーク。
体力も気力も必要なんだって、夢の中の過去の聖女たちを見てて思っていたから。
「いいんだけどね、別に……」
そうボヤきながらも、なんだか仲間外れみたいでモヤっとする。
あたしは一応聖女として召喚されていて、ここまで浄化のためのいろんなことを学んで訓練もして、たくさん…考えて。
召喚のために集められたみんなとだって、そのためにかかわってきた。
「――のに、どうして最後になってこんな距離感に、寂しくさせられてるの?」
城内は静寂といっていいほどに静かで、一人ぼっちという言葉が頭に浮かんでしまうほどだ。
シファルとも会えていない。
これもカルナーク経由で、手紙っぽいものを受け取ったりしたけど、それはそれこれはこれで顔を見たいとは思う。
ベッドまで戻って、腰かけ、両手のひらの小指側をくっつけるようにしつつ広げてから魔力を手のひらの中心へと意識する。
『……顕現』
個人練として、操作がだいぶ出来るようになった魔力を練り上げるモノをやろうとした瞬間。
「お前っっ……!!!」
ものすごい勢いで、ナーヴくんがすっ飛んできた。勢いよくドアを開け、あっという間にベッドまで大股で歩いてきて。
『顕現拒絶』
あたしの手に集まりはじめていたはずの魔力に触れ、あの言語であっさり消してしまった。
ベッドに腰かけたまま、ポカンとナーヴくんを見上げるあたしに対して息を切らせたままで彼が怒鳴りつけてくる。
「体調管理に努めろって言っただろ! それには回復も含まれているんだぞ? 浄化の時まで、何もせずに大人しくしてろ!」
怒鳴りつけられ、彼の大声と、言われたことと、何とも言えない寂しさと。
「…だ、だって」
「だってじゃない!」
あたしがどんな気持ちで、この部屋で過ごしているのかなんてなにも知らないくせに…という悲しさと。
「い・い・か? お前は浄化まで今の状態をキープしているのが仕事だ。余計なことは何一つする必要性がない。い・い・か? な・に・も・す・る・な」
念押しというか釘を刺していったという感じか。
「言いたいことだけ言って、いなくなっちゃうし」
あっという間にやってきて、一瞬で消えた。転移魔法で。っていうか、詠唱もしなきゃ魔方陣も使ってなかったんじゃない? 今。
(転移魔法なんて、いつ出来るようになってたの? そんな話だって、なにも教えてもらえていないのに)
まるで連絡係のようにやってくるのはカルナークだけで、ジークとアレックスも来なくなった。
さっきナーヴくんが言ったことは理解できるけど、納得したくない。
「当事者なのに、何もしないで待ってろだなんて…」
今日という日が始まったばかりなのに、こんなにも憂鬱だ。
しかも今日は誕生日。
「お兄ちゃんたちと一緒だったら、またお祝いしてくれたのかな」
去年の誕生日を思い出して、目を閉じる。
中二の夏にあった出来事以降、人との関わりあい方に臆するようになったあたし。
それでもお兄ちゃんの友達は、お兄ちゃん同様で幼い時からの知り合いが多いこともあって、そこまでためらわずに話せる相手が多かったんだ。
柊也兄ちゃんは確か、いつか開ければいいとピアスをくれてたっけ。
そのピアスについていた石は、「諸説あるけど、一回だけ自分の身を護ってくれるとか、何かある時に色が変わって知らせるって聞いたことがあるよ。ひなを護ってくれるひとつになりますようにーーー」って不思議な石。
安物だからそこまでの効果があるかは知らないよ? なんて補足もつけてきたけど、その石を選んでくれた理由がたまらなく嬉しかった記憶がある。
「……あ!」
思い出す。すぐに穴を開けられないと思いながらも、お守りのようにしていたくって。
小さなケースに入れて、いつも持ち歩くようにしていたはずだ。
立ち上がり、リュックを取り出す。
いつも入れていたはずの、外側のポケットを開いてケースを探す。
「あった」
100均で買った、作りも見た目もそこまでって感じじゃない、いかにもお安いケース。
カコッという留め具が引っかかるような音をさせつつ、ケースを開く。
「あ……え?」
そのピアスを指先でつまみ、そのまますこしだけ持ち上げ宙に掲げてみる。
「似てる?」
紫に青が混ざっているような、その石。青というより、蒼のイメージだ。
「カルナークの目の色? いや…違う?」
ここにはいない彼の瞳の色に似ている気もするけど、彼の目はもっと濃いだろうか。
ピアスを開ける文化が、この世界にまるっきりないわけじゃないのは知ってる。
でも、あの5人の中に開けている人は一人もいない。
「開けること、出来ないかな」
ちょっとだけ読んだことがある小説の中で、好きな相手の髪や瞳の色を纏う文化があったはずだ。
もしもを考えて、手の中にあるピアスを見つめると顔がゆるんでしまう。
「シファルの色…」
ラピスラズリ。いわゆる瑠璃色の石だ。
元いた世界だとピアッサーで開けちゃったりしたけど、ここではどうなんだろう。
うー…ん、と首をひねり、ポツリと彼の名を呼ぶ。
「つながってる? カルナーク」
浄化が終わるまではカルナークの魔力はそのまま、あたしの体内に混ざられているはず。
なるべく見たり聞いたりしないでとお願いしてあっても、見聞きしているだろうタイミングで来ることが多いのは相変わらずだ。
なら、それを逆に使わせてもらえたらと彼へ呼びかけてみる。
(一か八かでもあるよね、こういうのって)
彼の名を呼んでみたものの、いつものように遠くから足音が聞こえてくる気配がない。
「そんな都合いいこと、あるわけないよね」
誰かに頼んでこのピアスを身に着けられたらと思ったんだけどな。
浄化のその瞬間に、自分の体の一部であってほしいと願いたくなった。
ひとりで、寂しくて、切なくて、寒くて、悲しくて。
ケースからピアスを取り出して、手のひらに乗せて指先でつつく。
柊也兄ちゃんが言っていたことが本当に叶えば、浄化の時にあたしを助けてくれないだろうか。
持っているだけでも効果はないのかな? こういうの、ナーヴは詳しくないかな。魔石には詳しいから、もしかしたら? と考えてから。
『…………顕現』
さっきと同じことを繰り返す。
やってることはバカなことだってわかってるけど、試したい。抗いたい。そして、そのついでに身に着けられるなら着けていたい。
程なくして、ものすごい勢いで走ってくる音がして。
「一回でわからないほどのバカなのか! お前は」
ナーヴくんがまた走ってきて怒鳴りつけられる。
「転移魔法使えるなら、走ってこなきゃいいのに」
反省の色を浮かべてもいないあたしをみて、眉間のしわを深くして口を何度かパクパクして。
「…人を呼びつけるなら、他の方法を取れ。こっちの気も知らねぇで…」
呆れたように、そう呟いた。
本当に勘がいいというか、なんというか、彼のことを口は悪いけどいい人だというシファルの目は間違いない。
「あのね、コレについて相談があるんだけどね」
いいながら、彼の方へとピアスを手のひらに乗せたまま見せる。
「コレ…は」
途端に不思議なものを見るような目になり、「取って見てもいいか」と聞かれてうなずくと、指先でつまんで凝視している。
しばらく観察し、またあたしの手のひらへとピアスを戻す。
「で? コイツをどうしたいんだ」
おもむろに聞かれ、耳に着けたいんだと話す。
どうしてとか聞かれると思っていたのに、意外と何も聞かれずに彼の魔法で耳に穴を開けてもらえることになる。
「ただし、今日の夕方までは俺に預けてくれ。ちょっと確かめたいことがあるから」
首をかしげつつ、「いいけど」とだけ返してケースに収めたピアスを渡す。
彼が確かめたいことがなんなのかわからないけど、なんとなく預けていいと思えた。
(こういうのも、信用しているってことなのかな)
なんて、ぼんやり思いながら彼が出ていくその背を見送る。
また一人になった部屋で、カーテンを開けて外を眺めて。
「ハッピーバースデー」
とだけ、自分へ呟く。
今までになく、寂しい誕生日。
そして、死ぬかもしれない明日。
諦めがついたとか毎日思うのに、目が覚めたら心がリセットされたかのように脳裏に浮かんで離れない恐怖。
「来年も、どこかで…17になりたいな」
ここなのか、ここじゃないドコカなのか、元の世界か。
笑って祝える日々であることを、青空へと手を祈るように組んで願う。
「どうか、来年の誕生日は、笑っていられますように」
上空を流れる雲の動きは速く、遠くに見える瘴気の色は濃く。
「浄化が上手くいきますように」
今度はその思いを祈りに変えて、目を閉じた。




