瞳に映りこむモノの存在 10 ♯ルート:Sf
~シファル視点~
「そんなことより、用事があったんじゃないの? まさか、飴玉だけ渡しにきたのか?」
ナーヴがさっきのことはなんてことないとでも言いたげに、話題を変えてくる。
こうなったら、今は話してもらえる気がしないので、ためらっていた話を様子見しつつしてみることにした。
「浄化まで、さ」
「ん?」
「もうすぐ、だよね?」
なんて切り出していいのかわかってるのに、なんとなく口にしにくい。
「そうだな。…それがどうかしたのか」
「なんか、あっという間だったなって」
「あー、まあ…うん」
間がもたない。間がもたない! ナーヴと話してて、間がもたないだなんて初めてすぎて混乱する。
「え、と……あの、さ」
なんて言葉ばかりが口をつき、本題が切り出せない。切り出せなくても、他の話題だって出しようがあるはずなのに。
「…………そっちから話がないなら、先にこっちの話をしてもいいか?」
俺の戸惑いを見透かしたかのように、ナーヴから先に話を切り出されてしまう。
「あ、あぁ」
話さなきゃ、相談しなきゃ…と思っているのに、相談していいのかためらう理由が引っかかっているのも言い出せない原因でもある。
(ナーヴがこっち以上になにかを悩んでいるのかも、と考えだしたら、こっちの相談に気を使って黙るかもしれないしな)
普段のナーヴを思えば、そんなことないと思いたいのに、どうしてか目の前にいる彼がこれまでの彼とつながらない。
それ自体も違和感だと思っているひとつだ。
「アレについて、頼んでおきたいことがある」
ここ最近のナーヴの言い方で、アレコレソレドレ、アイツコイツなどなど…名前すら呼ばない場合はひなをさしている。
「なにかあったの?」
どちらからともなく、ソファーの方へと動き出す。
向かい合わせて座れば、ナーヴが浅く腰かけて天井を仰ぐように背もたれに体を預ける。
「んー……。そうだな。なにかあった、じゃなく、これから起きる…かな」
俺を見ず、天井に向けて言葉を放つナーヴ。
「何か起きることがわかってるの? ナーヴは」
こっちがしようと思った話も、ナーヴとは方向性が違うかもしれずとも、ひなが危ないという話だ。
「いや……、わかってないけど、浄化するって危険を伴わないわけじゃないし、瘴気相手なわけだし、あの体調と体力だろ? そのへんも踏まえて、アイツの身に何かが起きるって思っててくれねぇか。俺は浄化の方でいっぱいいっぱいになるだろう? 俺だけじゃ、どうしようもないし…なにより」
そこまで呟いてから、ゆっくりと体を起こして俺をまっすぐ見つめて。
「シファ。お前が惚れた子、なんだろ? お前が率先して守れよ」
ハッキリとそう告げた。
「あ…う……ん」
改めて言葉にされると、照れくさい。
「向こうも浄化のことが終われば、好きなだけイチャイチャしてほしがってくるんじゃねぇの? 今は時期が悪いってことくらいわかっていそうだし」
「イチャイチャ…」
「変な気づかいだけはしてくるだろ、アイツ。お前からも付きあう付き合わないなんて伝えていなさそうだし、全部何もかもが片付いてからだろ」
言われるまでもなく、互いにハッキリと未来の話をしてきていない。それでも、気持ちはつながっているつもりで。
「でも、さ」
ひなが心のどこかで思ってるんじゃないかってことを、ナーヴに愚痴る。
「浄化が終わって…か、浄化でダメージ受けて…か。何らかの形で元いた世界に戻れるキッカケが与えられたら、戻るかもしれない…し」
もしも、の話。
“ここに残りますかor元の世界に帰りますか”
目の前にその選択肢を突き出されたら、ひなはどうする?
それについても聞けるはずもなく、聞きたいとも思えず。この場所に残りたいと思えるだけのナニカがあるとも感じられず。
思わず視線をそらした俺に、テーブル越しに腕を伸ばしてきて俺の両頬を両手ではさむように掴み。
「浄化の後の話、今後召喚が行なわれないようにってーのは、お前が主導なんだろ? それやるためには、アイツの協力も不可欠だろうが。…アイツ、そんな無責任なことやるのかよ」
ひながそんな子じゃないって思えるのに、違う理由でこの場所に残りたいと思ってほしいと願う俺がいる。
無理矢理ナーヴに合わせられた瞳に、俺が不安そうな顔をして映っているに違いない。
「俺はアイツのことをよく知らんから勝手なことを言うけどな? お前のこと、好きだろうよ。それこそ、唯一頼れる場所としても、男としても…さ」
強い口調で言いきって、俺を見てくしゃっと笑う。滅多に見られないナーヴの笑顔。
「なんなら、泣きつけば? 行かないでぇー! とかなんとかってよ」
俺の物まねか? と思ったが、俺はそんなセリフそんな声で言わない!
「死んでも言わない!」
ムッとした顔でそう返すと、ふっ…と薄く笑って俺の両頬から手を離す。
「あ、そ」
呆れたように言われたはずなのに、ナーヴの顔は笑ってて。
(さっきまでの違和感は、気のせいだったのか?)
気にするほどのことじゃなかったのかなと、ためらっていた胸の奥のモヤモヤを忘れることにする。
「で? そっちの話は、結局なんなんだよ」
改めて…といったタイミングで振られた話題に、俺はさっきカルナークとしていた話をする。
「――――了解。教会のバカから何かされても、俺の方でも対応可能なように打てる手は打っておく。ただ、一番近くで護ってやるのは、お前なんだか・ら・な?」
やけに念押ししてくる、おれの大事な幼なじみ。ナーヴ。
「魔力もなんもない俺に出来るのは、ひなの心の負担を軽くするためにそばにいるくらいだって」
すこしいじけた言葉を口にしたって、いつものようにナーヴはどこか偉そうに。
「だからなんだ。お前だから、だろ」
当たり前のことを言うなと、俺の背中を押して、支えてくれる。
「それよりも、薬草茶もついでに持ってきてくれりゃよかったのに」
そして、俺のいじけたことなんか気にもせずに、小さなわがままを口にする。
「じゃあ、今から俺んとこ来るか?」
そう誘えば、言葉よりも先に体を動かして。
「…行かねぇの?」
さっさとドアの方へと歩き出してしまう。
「足の長さが違うんだっての。…俺よりも小さいくせに、足の長さがおかしいだろ」
ブツブツ文句を言う俺の肩に腕を回し、そのまま肩を押す。
二人で歩き出す廊下。
窓から、オレンジ色の夕焼けが射しこんでいる。
「キレイだな」
「ん? あぁ」
ほんのちょっとだけ。
この時間を味わおう。
ナーヴもこれからが心身ともに疲弊していくことになる。
『選ばれてしまったから』
光属性に、聖女のサポートに、俺だって選ばれたかった。
(でも、きっと…ナーヴが選ばれたことに意味があるんだ)
羨ましい気持ちをほんのすこし抱きながら、久々に幼なじみと肩を組み、俺の部屋までくだらない話をしつつ歩いていった。




