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瞳に映りこむモノの存在 9 ♯ルート:Sf



~シファル視点~



なんともいえない感覚があって、呼ばれたみたいにナーヴの部屋へと向かう。


回復の飴玉を目いっぱい瓶に詰めて、どうしてか早足で。


部屋に入れば、ナーヴだけじゃなく壁から三人が出てきて驚く。


え? と思いつつ、もう一歩踏みだせば、本棚の裏にドアがあったのがすこしずつ霞んでやがて消えてしまった。


ジークとアレクに話があるというひなを優先し、俺とカルナークは部屋を出た。


まだひなの魔力に魔力を混ぜたままのカルナークに、念のためで釘を刺してから部屋に戻った俺。


過保護と言われようがなんだろうが、手を伸ばせる範囲内にひながいたら、俺じゃなくても誰かしらが救えると思っている。


というか、ひながいなくなったらと思うと…怖い。


その恐怖心をどうにかしたい気持ちもあってか、どうしても過保護ぎみだ。


ただ、自分の気持ちだけの話じゃなくて、警戒しなきゃいけない状況でもあるわけで。


カルナークが部屋への途中で、ふと足を止めた。


「…兄貴」


珍しくそう呼ばれて、俺も足を止める。


弟の顔を見ると、目を少し見張って何かに集中しているように見えて。


「お前…、ひなたちの話を…っっ」


聞いている最中なのかととっさに腕をつかんだ俺に、驚いた表情で俺を見つめて。


「違う。陽向じゃない」


と、意味深なことを言う。


「……じゃ、ない? って、お前…他にも仕込んでいる相手がいるのか?」


まさかと思い、問いかけるとうなずくカルナーク。


「は? お前、一体なにをやって…」


叱りつけようとした俺に「そうじゃないんだ、兄貴」と首を振るだけで聞こえているものに集中しはじめた。


誰の何を聞いて、こんな反応をしているというのか。


「…あ」


短く発したその声を合図に、カルナークの強張っていた体がゆるんだのがわかった。


ため息をつきながら、廊下の壁にもたれかかって頭を手のひらで乱暴に掻く。


「誰の、何を、聞いた?」


今度こそ答えを問えば、「教会のある奴と、他のやつらの、どこかでの会話。…陽向についての、話だった」と、自力で落ち着こうとしているのかと思えるような話し方で返事をよこす。


話を聞けば、ひなと同等じゃないけど聖属性の魔力持ちがいて、話を聞くついでにマーキングしておいたとかなんとか。


同時に三人まではマーキング可能って言ってたっけな、そういや。


「俺の部屋の方が近い。そこで話を聞いてもいいか?」


肩に手を置き、部屋へと誘う。即答で、壁から体を起こして俺の後を追おうとする。


「じゃあ、部屋へ」


部屋までは互いに無言で、部屋に入ってから薬草茶を淹れてやると、熱々なのに一気に呷ろうとするカルナーク。


「おいおい、火傷するぞ」


動揺しているのが見て取れる。


「あ、あつっ」


どこかぼんやりした弟の頭に手を置き、「ゆっくり飲めよ」と撫でてやる。


こんなやりとりも、これだけ成長してしまえばする機会もなきゃ互いになんとなく気恥ずかしくてやらなくなったっけ。


でも、今日はそれが必要な気がして、自然と体が動いていた。


「…で、どうした?」


薬草茶に、今日ははちみつをすこしだけ。なんだか甘さが欲しい。


スプーンでカップの中の薬草茶を混ぜていると、カルナークが喉を鳴らして一気に飲み干したのがわかった。


「陽向……浄化か浄化の後か、教会の連中に……攫われるかもしれない。拘束がどうこうとか言っていたのも聞こえた」


「…は」


浄化のために喚んどいて、か。


「でも、浄化自体の邪魔は、しない。……多分」


「多分?」


「…ん。多分。…………何人で話してたのかわからないんだけどさ、浄化を引き延ばさせるとか行方不明がどうとか仮病がどうしたとか、意見がいまいちまとまっていなくて。それでも、なにかのタイミングで教会の連中に動きがあるんだろうなって感じだった」


ジークたち王族からの釘刺しもあっただろうし、聖女本人からの叱咤もあったわけだし。


(今後は召喚をなくしたいとか言われてりゃ、恩恵を受けていた教会側は面白くないってのはわかる。…でも、全体で考えりゃいい方向に改善しようとしてその話になったのに、教会の話の聞き方はまるで教会主導あって然り…じゃなきゃ嫌だって駄々こねているみたいだな)


「浄化に関しては、今後は特にナーヴとの関わりが多くなってく。…ナーヴにも情報渡して、ひなのこと見守ってもらうか。なんていうか、八つ当たりみたいなもんか? 奴らがしようとしていることを要約すると」


俺がため息まじりにそう言えば、カルナークが「…だね」と呆れたような声で返してきた。


そんな話がカルナークとあった後で、訪れたナーヴの部屋。


飴玉が入った瓶を渡せば、ちょうど欲しかった様子で。


ふと気づけばひながナーヴを何とも形容しがたい表情で見ていて、ナーヴは気に留めてもいないみたいに飴玉が欲しいのかと渡そうとしていた。


ひなは顔を赤くして、飴玉を受け取って部屋を出ていく。


ただ、引っかかるのは、照れて赤くなっていた感じじゃなかった。


そのひなの背中を、慌てた様子でアレクが追っていなくなる。


残っていたジークは、ナーヴを眉間にしわを寄せて悲しげな表情で見ているだけ。一言も発しない。


「…ジーク?」


俺が声をかけると、そこで俺に気づいたのか? と思えるようなビックリした顔で俺を見て。


「あ……」


とだけ声をあげ、ナーヴへ視線を動かし、何か言いたげに口を開閉する。


(相談っていうか、頼みたいことあったけど、また後にするか)


「俺、部屋に戻っとくよ。あとで話したいことあるんだけど、時間とって? ナーヴ」


ジークの方が切羽詰まってみえたからそう言ったのに、ナーヴは首を振る。


「ジーク。……中途半端な同情はいらねぇぞ」


そう吐き捨て、ジークに背中を向けた。


同情? なにがあって、同情?


「シファと話があるから、出ていってくれないか。…とりあえず」


といい、机の引き出しから紙を取り出して、すごい速さで魔方陣を描いたかと思えば、最後に自分の魔力をその陣に混ぜ込んだ。


ほのかに紙が光って、ゆるやかに光がおさまっていく。


「これ、持ってって。魔方陣の真ん中にそっちの魔力乗せて、俺の名前を魔力で書いて。そしたらつながる」


紙をスッと差し出して、それ以上の会話を拒んだようにすら見える。


「連絡、待っていたらいいんだね? 今回は。こっちから連絡したい時は、さっきの方法で…いい?」


ジークがそう聞けば「ああ」とだけ返すナーヴ。


「…じゃあ、今はシファルにナーヴを譲ってあげる」


受け取った紙を人差し指と中指の間に挟み、ヒラヒラさせつつジークが出ていった。


「いいの? 今の」


何を話すか、互いにわかっていたっぽい。なのに、それをズラした。


ナーヴはその辺も比較的ハッキリしているから、即時対応みたいなイメージだったんだけど。


「いーんだよ。今、する話じゃ…ねぇから」


幼い時から、俺からはなかなかすべてを打ち明けることが出来ずとも、ナーヴは明け透けってくらいになんでも口にしてくれてたのに。


「なにか…あった?」


違和感をそのままに出来なくて、問いかける。


答えてほしいと願うように。


「なにか、ねぇ」


願った俺を静かに見下ろし、さっき三人が出てきただろう場所へ視線を動かし、また俺を見て。


「なぁんもねーよ」


叶わなかった願いに、俺は今からする話を口にしていいのかをためらっていた。



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