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瞳に映りこむモノの存在 7 ♯ルート:Sf





「……へへ」


「へへ…じゃねぇだろ」


わざと訪れたわけじゃないのに、申し訳なさを全開にして目尻を下げつつ部屋にお邪魔する。


先に歩き出した二人の後を追えば、やっぱり本棚があるコーナーへと進んでいた。


手招きされて二人の間に立つと、アレックスが時計を指さしながら教えてくれる…これからの流れ。


「で、な。ここから、同じように光が示す順に本を出し入れして、最後の本の時にまた震えるからその時だけ本棚の奥の方へ軽く押し込むといい」


笑顔を顔に貼りつけて、ナーヴくんの部屋にある本棚へ。


あの時の書庫とは違うラインナップの本棚。なのに、順に本が光でどの本を取り出すのかを教えてくれるんだ。


どういう順番での本なのか、いまいちわからないんだよね。


前回の本のタイトルは何となく記憶しているけど、順番に意味を持たせようと思ってもつながりが見えなくて。


「…あ」


そして、最後はまた建国史で時計が震える。


(この本が最後の本?)


一度取り出してから、戻してキッチリ本棚へと押し込む。


憶えていたことを真似るようにして、その本の背表紙に指先をあてる。


自分の指先からふわりと魔力があふれ、ほのかに光る。


まるでそれが合図だったかのように、本棚が光ってから横へスライドしていった。あの日みたいに。


本棚の向こうに現れたドアは、あのドアと一緒。


「ナーヴ」


ジークの声がして、ナーヴくんを呼ぶ。


「一緒に来た方がいいんじゃないのか?」


問いかけに返事はないけれど、足音が聞こえたのでそれが返事なんだろう。


ドアを開けた先にある禁書庫も、あの日と同じだ。


前回来た時には、浄化に関しての情報がここに来なきゃ得られなかった。


あの時期に来るべきだったから、行った。


禁書庫には二度と来ることにならないんだろうと思っていたのに、ナーヴくんの声に従って…来てみた。


「……すっげぇ」


背後でいつもとは違う、素直に感動している声がする。


シファルと一緒で研究とかの絡みで、とにかく本を読む機会が多い人。


ここに来るには、あたしが手にしている時計が必要みたい。


気分でひょっこり読書にいってきまーす! って行ける場所じゃないもんね。


それに、さ。


こうしてこの場所に来るためのアイテムを受け取ったけど、行く時はさすがに無許可で行くのはマズそう。


この二人に許可をもらってからじゃなきゃ、だよね。


チラッと王族な二人の背中を見ていると、不意に振り向かれて視線が合う。


「あ…はは」


ごまかすように笑ってみたけど、きっと怪しかっただろうな。


「で、ナーヴ。連れて来たけど、その後のことは聞いてないからな? 俺たちは」


ジークが話しかけると、ナーヴくんは「はいはい」と言いながら頭をかきつつあたしへ近づいてきた。


「手、貸せ」


握手のように手を出すと、ため息をつかれながら手のひらを上にと示される。


もうちょっと説明してくれたってと口を尖らせながら、言われるがままに手を差し出す。


その手のひらに、ナーヴくんが手を重ねてきた。


大きくて骨ばった手が、軽く手のひらの中心に触れた瞬間、あたしの手が温かくなっていく。


「動くなよ?」


「…うん」


手のひらの中心に指先をあて、一回、二回、三回…と触れ。


今度は親指から順に、第一関節付近を指先で一回ずつ触れていく。


その手の動きを見守るように目で追っていると、ナーヴくんの手が重なって恋人つなぎの形で握られた。


「ナ…ナーヴ…くっ…」


真っ赤になりながら手を引きそうになると「逃げんな」と低い声がして、逃がさねぇよと言わんばかりに手に力を込められた。


つながれた手を腕を伸ばした格好で、禁書庫の中心付近に向けさせられて。


「……え」


『共感・共鳴・共有。我の命は、(あるじ)と共に』


ナーヴくんが何かを元いた世界の英語っぽい言葉で発したなと思った瞬間、その手の先に数冊の本からの光がつながり吸収されて消えていく。


記憶違いじゃなきゃ、あの日あたしが読んだ本のタイトルだったと思うんだ。


手を離そうとすると「まだだ」とナーヴくんが呟き、さらに手をしっかり握られる。


ふぅー…と長く息を吐いたかと思えば、空いている側の手で魔方陣を空中に描き、その中心へつないだままの手を当てる。


硬さがないと思っていた魔方陣は、ふわりとしたものだけど感触があってあたたかかった。


「今から口にする言葉を、同時に言え」


「え? これ、何が起きているの? 何のためのもの?」


意味もわからずにやるのは嫌だ。


「……お前に損はねぇし、痛みもねぇから。…信用して、言葉を重ねろ」


ナーヴくんは元々一緒に禁書庫に来る予定になっていたのか偶然なのか、いまいちわからない。


…のに、あたしとこの儀式みたいなものをやるのが当然みたいに、手を引いてくれる。


「いいの? 信じても……」


あえてその言葉を口にしてきたナーヴくんに、疑問を感じた。


今までそんなこと、言ってきたこともなかったし、あたしにいろんな意味で近づこうとして来なかった人だから。なおさら。


髪の瘴気っぽいのの時以降、それまでよりは話す機会もあったとはいえ…ね。


ナーヴくんが言えば、俺を信じるなと言われている気にもなる。


シファルだったら、真意をすぐさま察せるのかもだよね。


ナーヴくんの目をまっすぐ見て、彼の言葉を待つ。


「信じた先に、きっと答えが見つかるはずだ」


「…答え」


そう言葉を繰り返したあたしを見つめているのに、彼の目はあたしを映していない気がする。


「答えは、浄化の時に…わかる」


金色の瞳がキラリと淡く潤んだかと思えば、その目から涙がひとつこぼれた。


「…え」


驚き、目を見張った刹那、彼の瞳の中に今まで見たことがない色を感じる。


金色の角膜の部分と中心の瞳孔の輪郭にあたる部分だと思うんだ、多分。


その二か所の輪郭に、見慣れた色が混ざっていた。


(淡い…ピンク?)


今までここまで近くで彼と向き合ったことがなかったから、気づかなかっただけ?


もう一度見ようと視線を合わそうとしたのに、今度は視線をそらされてしまう。


こぶしでさっきの涙をぬぐい、「信じるのか信じられないのか、どっちだ」と答えを急かされる。


この言葉の意味はわからないけど、あたしが知ってる彼や、シファルを通して知った彼という人は、無意味なことを決してしないし強制しない。


直接知っている部分が極端に少ないのが不安ではあるけど、それでもシファルから繰り返し聞いてきた目の前の彼の在り方はまっすぐな人のハズ。


「……信じて、いいんだよね?」


戸惑いを隠さず、あえて問う。


すると、珍しい彼の表情に出会う。


「…………あぁ。俺を信じて損したやつは、今まで一人もいない」


包みこむような、あたたかさのある笑顔。


キツイ印象が多い彼が、こんな顔を見せてくれるなんて…。


「じゃあ、信じる。まかせる。だから、教えて。その言葉を!」


わずかに視線をそらしたままの彼が、つないだ手の先にある何かを見つめ、ふぅ…と短く息を吐く。


彼の視線の先には何かが見えているんだろうか?


「お前の世界の言葉でLINKという言葉があるだろう。それを、同時に」


短いけど、ちゃんと元の世界の発音でのLINKという言葉に、ナーヴくんのすごさを感じ取る。


器用というかなんというか、いたって普通に発音されてちょっとへこみもする。


もしかしたら、ちゃんと勉強したらペラペラ話せるようになるんじゃない? と思えるほどに。


「それじゃ、カウントするから、それに合わせて言ってくれ」


「う、うん」


ジークとアレックスの二人は、あたしたちがすることを黙って見守ってくれている。


きっと光も何も見えていないだろうから、何をしているのかわからないのに。


それでも、黙って見守ってくれているのは、さっきのナーヴくんがいうように信用してくれているから…だよね?


だからこそ、あたしもナーヴくんを信用して言葉を重ねてみよう。


それで何が起きるのか、今はまだわからなくても。


「…いいか、5・4・3・2・1『『LINK』』」


二人がその言葉を発したと同時に、体がぶるりと震える。


カチリと、教会関係者と話した時のように、脳内に音が響いた。


秒針のような、アレだ。


体に一枚の膜が張られた感覚がある。


「コレ…なに?」


手を離し、ナーヴくんが禁書庫を出ていく。


「ナーヴくん!」


何があったの? この感覚は、なに? 触れられそうで触れられない感触も、よくわからない。


ただ、不快感はなくてむしろ心地いいあたたかさに包まれているように感じるほど。


「……! ジーク!」


とっさに思い出して、ジークに鑑定をと思い振り返った。


その時、あたしの目に映ったのは、去っていくナーヴくんを見送る今にも泣きだしそうなジークで。


「ジー…ク?」


浄化をするのはあたしなのに、どこか置いてけぼりにされたみたいで、胸の奥がぎゅっと切なく痛んだ。




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