聖女の色持ちではないんですがね 6
自分と彼の前髪を上げていた格好のままなので、手がまるで小さなバンザイみたい。
「あっ!」
慌てたように前髪パッツン君が声をあげたけど、真っ赤な顔色から今度は真っ青だ。
(いててて……)
顔色が悪くなった。
さっきよりも具合が悪くなったのかもしれない。
ぶつけた肩をさすりながら、体を起こす。
「大丈夫か?」
アレックスがすぐに動き出してくれた。
「あ、うん。平気」
服のほこりを払って、さっきの場所へと戻る。
「今度は顔色が悪いよ? 大丈夫? 真っ青だよ?」
心配になって声をかけたら、彼が泣き出しそうな顔になった。
「え、ちょっと、どうしたの? 泣きそうなほど具合悪いの? どうしよう、アレックス。どこかに寝かせた方がいいんじゃ。……あ! あたしが寝ていたベッ…」
ベッドに寝かせようと言いかけた瞬間。
「それは、ダメ!」
ジークムントって人が、大きな声でそれを止めてくる。
どうしてダメだなんていうんだろう。
そうしている間に、前髪パッツン君……あぁ、もう、めんどくさい!
「ね、名前。教えて」
脳内で長ったらしい呼び方にするのが、面倒くさくなった。
「え、あ、カルナーク」
あたしに圧されたように、ぽろっとこぼれるように名前を伝えてくれた。
「そう。カルナーク…くん? こっち」
言いつつ、その手首をつかんで引っ張る。
ベッドまですぐ近く。
掛布団をまくって、手のひらでパンパンとベッドを叩く。
「寝た方がいいよ、きっと。そんなに顔色悪いんだもん」
腕を思いきり引っ張って、カルナークくんがベッドに近づいた瞬間に背中を押した。
ヨロヨロと、ベッドになだれ込むような感じで倒れこんだカルナークくん。
「このブーツって、どうやって脱がすんだろう。こんなの履いたままじゃ、休めないよね」
紐をゆるめて、ブーツに手をかけようとした。
「だから! ダメだってば!」
あたしの背後から、ジークムントって人が肩のところに腕を回すようにして抱きついてくる。
すこし後ろに引っ張られたので、よろけてしまう。
「わ…、っと」
そんなあたしをしっかり支えるようにして、抱きしめたまま。
「君の残り香があるベッドになんて、誰かを寝かせちゃダメだよ」
低く響く声で、耳の裏から囁かれた。
「……お願いだから、そんなこと、しないで」
聞こえてくる声は、さっきまでの彼の口調とは違って聞こえて、ドキドキする。
その心音が彼に聞こえてしまうんじゃないかと思えるくらいに、激しく鳴り響いていた。