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いわゆる、他人事ってやつ 4 ♯ルート:Sf




教会関係者に目いっぱい与えられたストレスを抱えつつ、ドアを開けた先にはカルナーク。


そのカルナークの表情は、今まで見たことがないような幼さのあるもので。


「ごめん。いない時に邪魔してて」


カルナークが謝ってきたことに、首をゆるく振って大丈夫だと伝える。


「シファルからまだ、何の報告っていうか話もなくて、いつまで待てばいいんだろうとかどうしていたらいいんだろうって考えだしたら止まらなくなって。俺……」


入浴中に溺れかけたあたしをシファルが介抱している最中に、カルナークが特製の水を持ってやってきて。


あたしに話があるから部屋を出されたカルナークに、シファルは後で話をすると確かに言っていた。


とはいえ、だ。


あたしとの長い長い話の後に、一緒に寝落ち。そして、二人のところへ行って禁書庫へ向かい。


禁書庫のことが終わったら、教会関係者にあたしだけが連れていかれて…現在地はここですといったところだ。


「シファルとはさっきわかれて、あたしだけ教会の方に行ってたんだけど」


と説明をすると、知ってると返してくる。


「……もしかして、教会の人との話を聞いていたの?」


シファルが会話を聞くな見るなと告げたのは、この部屋の中でのあの時間内の話ではあった。


確かにそうなんだけど、どうしてそうなっちゃうのかなぁ。カルナークは。


「どうしてそういうことをするの? それって、カルナークの自己満足のためだけだよね」


言葉が少しキツいかもしれないと思っても、さっきの教会関係者との話のテンションでも残っているのか、普段は言わないことが口をつく。


「…陽向ぁ」


泣き出しそうな顔つきになって、ソファーに腰かけたあたしの方へとあわてて駆け寄ってきた。


そうして、隣に腰かけて左手をギュッと両手で包むこむように握ってくる。


「だってさ、陽向がどうしているのか何か困ってないか、最初の夜の時みたいに一人になった時になにか漏らしていないかって気になるし。陽向が自分の気持ちを伝えるのが苦手なのも知ってるし、甘えるのだって苦手なんだって知ってるし。だったら、俺がそれを埋められるモノを陽向に与えてるなら有効活用…」


そこまで言い訳めいた言葉を聞かされて、正直呆れと怒りが沸々と沸いてきてしまった。


この世界に来て、何度も助けてくれた人ではある。


そうだけど、今本人が言ったように、あたしが漏らした言葉によって動いてくれただけの話。


あたしと直接かかわって、気づき、考えたりあたしに問いかけたりして、それから動いてくれたわけじゃない。


「たしかにね? あたしが慣れない環境や元々の性格で甘えたりできないとか、いろんなものを抱えていても言葉に出来なかったりしたよ」


「…だろ? だから、俺がそれを」


カルナークが意気揚々という感じで、いわゆるドヤ顔で語りだしたところにかぶせるように。


「でも、あたしはそれを求めていない」


今までになく、ハッキリと意思を伝えた。


「時には、何度かカルナークに聞かれているのを前提として、独り言を呟いていたこともあった。それは事実。でも、本来はそんなことをして人が抱えていることを知ってしまうのは、本当に関わろうとしているからなんて思いたくない。ただの身勝手だ、それは」


自分がわざとカルナークに聞かせた言葉があった事実を認めつつも、それでも自分が本当はそれを望んでこなかったと伝えなきゃ、これからの付き合い方が変わらない。変えられない。


「だって、それなら言ってよ。もっと、俺を求めてよ。頼れるよね? 俺。魔力のことと魔法の扱い方なら特に陽向の力になれるよ。他の誰よりも、一番に!」


ずっと引っかかっていた言葉が、本人の口からまた飛び出してくる。


何かにつけ、彼の口から繰り返し出てきたワードだ。


それはきっと彼が抱えているコンプレックスなんだろう。それをつついていいのかわからないけど、今あたしが言えることは、彼の救いになるのかな。


「……それがなくても、カルナークはいい人だよ? 人を気づかうことが出来る人だよ」


「ひ…なた」


つないでいた手から、力がなくなり。あたしの手がカルナークの両手の隙間から、引力に従うようにポスッと抜け落ちた。


「俺、がんばってるよな?」


カルナークの顔には、焦りが浮かんでいるよう。


「うん。いつも頑張ってるじゃない」


「だったら、俺は誰よりも頼りになるはずで」


“一番”と“頼り”に特にカルナークのコンプレックスがあるのかもしれない。


でも、コンプレックスって結局は誰かと自分を比べた時の話だよね?


(カルナークが比べているのは、誰?)


瑠璃色の瞳が歪み、涙がひとつふたつとこぼれては、カルナークの頬を伝っていく。


「カルナークが頼りにならないだなんて、一言も言ってないよ? あたし」


なるべく穏やかな口調で、ゆっくりと呟く。


カルナークに思いが伝わるようにと願うように。


けれど、カルナークにその思いはうまく伝わらなかったようで、カルナークの涙が止まらないまま。


「いやだ…俺だって陽向の助けになりたいんだ。…グス…ッ……俺だって…誰かに一番だって…」


抱えたコンプレックスの重さや深さは、本人だけのものだ。


まわりがいくらそれっくらいで? とか気にするなとか言ったところで、その答えに自身で辿りつけなきゃ沼にハマるだけ。


あたしもそうだから、余計にわかってしまう。


「カルナーク。…ちょっとごめんね」


こんな彼にかけられる言葉は、きっと何もないんだ。


赤い髪の彼の肩を抱き寄せるように、グッと自分の方へと倒した格好に。


「…ひな、た?」


髪色のように、顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


膝枕をして、真っ赤な顔のままオロオロする彼の髪を指先で梳いて、時々頭を撫でて。


なにかパニックになってるなら、それ以上に驚かせてしまえと無理矢理カルナークを横にさせた。


「ごめんね? 急にこんなことされて、ビックリさせちゃったよね」


あうあうと目を見開いたまま、何も言えずに固まっているカルナーク。


「話をね、落ち着いて聞いてほしかったの」


やわらかい髪質の彼の髪を指先で弄びながら、すこし乱れた前髪を指先で直しつつ話しかける。


「カルナークは…誰かに勝ちたいの?」


多分、そこが根っこな気がする。


聞かない方がいい人もいるだろうけど、目の前の彼に関してはもしかしたらあたし以上に口下手かもしれない。


おしゃべりな方だけど、それは彼本人のことじゃない話題の方が多い。


彼自身もあたしに対していうように、自分について語ってきていないはず。


もしかしたら、彼がそういう話を出来る相手がいないのかもしれない。


正確な年齢は聞かされていないけど、カルナークはあの中では下の方なんじゃないだろうか。


弟ポジションだけど、その辺を話すには何か壁があって言葉に出来ないままここまで来たんじゃ?


「誰かを気にしてるの?」


しばらくそうしていると、彼の顔色もほんのり赤い程度まで落ち着き、仰向けになった状態で右腕で目元を隠すようにして黙ってしまう。


「はぁ……」


と、短く息を吐き、彼がひとつだけお願いをしてきた。


「陽向の方に体を向けて、腰に抱きついた格好になってもいい?」


断った方がいいんだろうなとどこかで思いつつも、それで彼が話をしてくれるならと了承する。


膝の上の重みが半身をねじって、腰に抱きつくように身を寄せてくる。


「思ってたよりもお腹の音が聞こえてくるのがおっかしい」


抱きついて早々に言われたことに、軽く彼の後頭部を手のひらで叩く。


「あはは。おっかしい。陽向のお腹から、いろんな音がする」


人のお腹の音で散々笑った彼は、さっきまでの空気が軽くなっていった気がした。


「…はー……、人のお腹って、こんなに笑えるもんか」


空気を軽くする引き換えが、あたしのお腹の音っていうのが納得できないけど。


「久々だな、こんなに腹の底から笑えたの」


そう呟く彼が、お腹から顔を離して視線を上げた。


彼を見下ろす格好のあたしと視線をしっかり合わせた瞬間、彼がふわりと微笑む。


「ね。俺の話、聞いてくれる? むかーしむかしの、お話を」


どこか照れくさそうに笑う彼に、うんとだけ返すと、彼は体を仰向けに戻して天井に向かってまっすぐ視線を向けた。


そうして彼が話し始めたのは、とある兄弟の話。


「むかしむかし、お兄ちゃんのことが大好きな弟がいました」


話し始めた時、さっきまで髪を撫でていたあたしの手を彼の右手がキュッと握ってきて。


すこし震えているその手を伝って、彼に話をする勇気を貸せたら…と思いつつ握り返した。


むかしむかし、小さな男の子がそんなつもりもなくお兄ちゃんを泣かせてしまった話。




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