それを毒というならば 7 ♯ルート:Sf
~シファル視点~
「二人とも、ちょっとそこに座れ」
ひなと二人でジークとアレクのところへと向かって早々、背の高い二人から見下ろされるように命じられたそれ。
「各々に言いたいことはあるけど、その前に…シファル。手を貸せ」
眉間に寄せたしわをそのままに、二人の男に両手をふさがれる状態の俺。
どういうことなのかわからずにいると、隣に座っているひなが「あー…」と何か察した声をあげた。
「え? ひな?」
俺がひなに質問をしかけた時、頭の中に声が響いた。
『シファル。ひなと一晩一緒にいたらしいな?』
アレクの声だ。
「え? は?」
驚き、思わず声が出た。
『アレク。ステータス上は、そういう関係になったとは出ていないから大丈夫。まだ、ね』
次に聞こえたのは、普段よりも低めのジークの声。
「え? なに? これ」
ジークの声らしいのが言ってる内容が、意味不明なんだけど。
『ジーク。スキルがレベルアップしたから、そっちの能力を解放してもかまわないか?』
というアレクの声に、隣にいるジークが無言でうなずいた。
ジークがうなずいた次の瞬間に、つながれた両手にパチッと鈍い痛みを感じて。
『……シファル。今からする質問に、頭の中で答えを返せ』
いきなり質問があるとか切り出される。
『え…っと、こういう…感じでいいの?』
脳内の声に試しに返事をすると、二人が深くうなずく。
『昨夜、ひなと何があった。ひなと何をした。ひなとどんな話をした』
アレクの言葉に、昨夜のひなとの時間を思い浮かべてしまう。
ひなの部屋を訪れて以降、バスルームで起きたことと、ひなと話をしたこと。それと、ひなが眠ってから起きた出来事に、ひなと話し合って二人に相談をしようと決めたことなんかも。
自分の頭の中で思い出してしまっている、いわゆる不可抗力状態だってのに。
『……ほう』
『へー……ぇ…』
と、まるでそれを覘いたかのような、圧のある声が響いて思わず手を離した俺。
「なぜ離す」
「それでおわり? シファル。ひなの部屋からバスローブ姿で出てきておいて?」
まさかと思った予想は合っていたようで、俺はひなが見せてくれたいろんな表情を思い出して顔を赤らめた。
「そんな顔になるようなこともしたっていうの? シファル。…もっかい、手を貸してよ」
二人から手を差し出されても、つなぎたいなんて思えるはずがない。頭に思い浮かべたことを、本当に見られてしまうのならば。
二人からリアルな圧をかけられ、逃げ場がないのをわかっているのにひなの方へとわずかにズレようとした。
「シファル?」
心配そうに俺を見て、目の前に二人へと睨みにもならない視線を送ってくれるひながたまらなく可愛い。
この場でこの気持ちを吐き出せたらいいのにと思うけど、ここに来たそもそもの理由はそんなものじゃないってことを忘れちゃいけない。
それっくらい、俺だってわかってる。
浮かれているつもりはないんだ。…今は、ね? ひなの部屋から出た時には、なぁんにも気づかうことなかったからこうなってる訳でさ。
「……まあ、大体のことは把握できたからいいや。ってか、シファルは紳士だったってことね」
「そういういことだな、ジーク」
目の前の二人の圧が消えそうで消えない。
なんだ、これ。まるで俗にいうアレみたいじゃないか。
(婚約や婚姻の申し込みに行った時の、親と相手が対峙しているやつ!)
ひなの世界でもそういうのがあるみたいだけど、どこの世界でも似たようなものだって話だった。
目の前の二人はひなの保護者でも何でもないのに、なんなんだ。この圧は……。
二人に直接会話をすることなく、ひなと俺が何に困っているかとか何が起きたとかを伝えられたのだけが良かったことだけど。
(それでも、俺が受けているダメージがでかすぎないか?)
ひなに手を出したわけじゃないっていうのに、立場や状況を弁えたっていうのに、それでも責められているような感覚だ。
「シファル、髪の毛だっけ? 見せてくれる?」
ジークがそう告げて、テーブルの上をトントンと指先で示す。
ハンカチに包んでいたそれをポケットから出して、テーブルの上に置く。
そして、ハンカチを広げてから、髪の毛のわずかな色の違い別に髪を分けて置いていく。
「本当によく見なきゃわからないんだけどね」
ひなも一緒になって自分から採取された、黒のようで黒じゃない髪を確かめる。
「で……、ひなのそこから採取したんだよね? 間違いない?」
ジークがひなの頭のまだ上の方へ視線を向けながら、確認をしてきた。
「あぁ、そうだ。それと、ひながうなされ始めた時に出てきたものに触れたら、指先がこうなった」
ついでに俺の指先も見せると、「ふぅ…ん」とジークが低く唸る。
俺の指先を見て、ひなの頭を見て、ひなの顔の横あたりへと視線を向けて、また唸ってから天井を見上げた。
「どうなんだ、ジーク」
アレクがジークへと問いかけると、「困ったね」とジークがこめかみを指先で掻いた。
「困った、とは?」
アレクが再三確かめるように聞けば、「瘴気だね」とだけ答えてまた天井を仰ぎ黙ってしまった。
瘴気? 瘴気ってあの穢れみたいなやつのことだよな? ナーヴが吸うと苦しくなるアレ。
「ひなの髪は、伸びたから黒くなったんじゃないの?」
確かにひなの頭からモヤのように出ていたものは、瘴気が発生している時のそれに似ていた。
でも、あれだけ至近距離に俺がいても息苦しかったりしなかった。
ナーヴほど瘴気に耐性がなくたって、至近距離に瘴気があったら普通は体への影響が出てもおかしくないはずなのに。
「そうじゃないみたい。瘴気…で確定していいのかわからないけど、ひなの頭のてっぺんに闇属性扱いのモノが存在しているんだよ。それも、見るたびに濃さが増しているさまが、まるで瘴気みたいだなと思えてね」
ひなの髪は合計で六本採取している。それを二つに分けて、ジークは半分を自分のハンカチに包んで、もう半分を俺に返してきた。
「これ、シファルの方でちょっと調べてほしいことあるから、保管してて」
言われるがままに、ハンカチに丁寧に包み込んでポケットにしまいなおす。
「それと、ひなは今からアレクと一緒に禁書庫に行ってもらおうかな。シファルも出来れば一緒に」
ジークから順に指示が出ていく。
「アレクは二人を禁書庫に案内。で、あそこの本ってメモとかも禁止だから、その場で……」
と言いかけてから、背後にある机でメモを書き、アレクに手渡した。
「これ、調べてきて。該当するものがあるかないかがわかればいいから、禁書庫の情報漏洩にはならないし」
アレクはメモを流し読んで「わかった」とだけ返して、立ち上がる。
「二人とも今すぐ行けるか?」
ひなと視線を交わし、うなずく。
「アレク、俺の方の鍵持ってって。あと、アレも持ってる?」
「常に持ち歩いているから大丈夫だ」
「…さすがだね、アレクは」
二人の会話を、ただ聞いていることしか出来ない俺たち二人。
「…ひな」
不意にジークがひなの方へ向き、手をギュッと握った。
「ひな。今から禁書庫ってところに行ってもらうけど、その場所に行ったらきっと何を手にすればいいのかわかるはずだ。不思議かもしれないけど、その言葉を忘れないでいてね」
ひなが不安げに俺を見上げて、困ったような表情になる。
「アレクもシファルもひなを助けてくれるはずだから、困った時には素直に甘える。頼る。それと、わからないことはわからないままにしない。違和感は結構大事な直感だから、なにか浮かんだら二人に共有してね」
ゆっくりと話されるそれは、まるで年上の誰かからのアドバイスのよう。
とか俺が思っていたら、ひなの口からもれた一言でジークが固まった。
「…お父さん」
ピシッという音が聞こえそうなほど、顔も体もカチンと固まったまま、ジークは悲しそうにひなを見ていた。
アレクはというと、そんなやりとりをドアノブを回しかけた状態で眺め見ていて、固まったジークに気づき肩で笑っていた。




