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それを毒というならば 6 ♯ルート:Sf






~シファル視点~




下半身がむず痒いようなアツいような、今までにない感覚がして目を覚ます。


目を覚ますといっても、思ったより眠いのか目が開かないや。


けれど、頭だけはしっかり起きていて、自分の腕の中で何が起きているのかを把握できてしまう。


というか、目を開けていいのか困ることが起きているわけで……。


どこか楽しげに俺のあごを指先でつつくひな。


ひながもぞりとわずかに体を動かしただけで、彼女と密着していることを意識してしまう。


こんな状況じゃなきゃ、とか、俺に度胸があったら、とか。


あれやこれやを思い浮かべるけど、結局大したこと出来るほどの男じゃないってこと。


せいぜいできたことといえば、いたずらをする手を捕まえておくことくらい。


多分こういうのって、普通の男なら美味しくいただくものなんだろうな。


ましてや、好きな女の子が相手だからね。


(……いや、待てよ。これくらいは許されるかな?)


ふと思い至って、指を絡めてつないだ手を唇に寄せてから。


「いたずらする手に、罰ね」


と、ジークっぽいことを呟いて、指先にわざとリップ音をたててキスをした。


ただ、問題なのはこの後。ひながみせた反応が、予想していたものじゃなかった。


てっきり「きゃっ」とか「くすぐったい」とか程度の反応くらいはするんだろうなって、からかう気持ちもあってした指先へのキス。


「……んっっ」


寝起きだからか、すこし低めの掠れた声がひなの口からもれた。


その声にドキッとしたのは俺の方で、目が覚める間に感じた下半身の違和感が増しそうになる。


やばい、ダメだ、今そういう空気にしちゃダメだし、そういう場合でもないんだし、そもそもでひなが俺のことをどう思っているのかはっきりしてないんだし。


「え…っと、ごめん」


何に対しての謝罪かわからない言葉を呟くと、ひなが自分から出た声に気づいたようで真っ赤になって俺を見ていた。


「あの……」


俺の腕の中で、もぞもぞと動き「あたしこそ、ごめんなさい」と返すひな。


その表情が可愛くて、思わず顔がゆるんでしまう。


「それは何に対して?」


わざと聞き返すと「ヒゲ」とだけ告げて、その場所をジーッと見てきた。


「そんなに珍しいものでもないでしょ」


ひなの肩に布団を掛けなおして、抱きしめた格好になっていた腕を外そうとした俺。


「あ…」と言ったと同時に、空いている手で俺の胸元をクイッと引っ張ってくる。


「ん?」とだけ声をあげたら「今のが、いい」と外しかけた腕の方へと視線を動かす。


「これ?」


そういいながら、もう一度抱きしめるようにしてみれば、幼い顔つきで嬉しそうに笑った。


ただ、抱きしめているだけ。腕の中にひながいるだけ。


それだけで、特別会話をしているんでもなきゃ、いちゃいちゃしてるんでもないのに。


(あぁ…やっぱりひながそばにいるだけでこんなにも心地いいと感じちゃうんだな)


他の誰にも感じないモノに改めて気づき、胸の奥があたたかくなった。


このまま寝直ししたい気持ちはあるものの、それでいいわけもなく。


(仕方がないか。ひなが寝てからの話をしなきゃだし、夢の内容を憶えているかも確認しなきゃだ)


「……ひな? 今、話って出来る?」


うつむきがちに腕の中にいたひなが顔を上げた瞬間、ちょっと強く抱きしめればキスが出来そうな距離まで近づく二人。


キスするでもなく、互いになにも出来ずに視線を交わすだけ……で何かをごまかすように笑うだけ。


(浄化がすんですんでしまえば、余計なことは考えなくていいはず)


その時が来るのを待つしかない。寝る前にした、目の前の本人には内緒の告白を改めて出来たなら……。


焦れったい気持ちを一旦引っ込めて、ひなと寝る前にもした話の続きのように会話を切り出す。


ひなは自分が眠ってから自分自身から出ているもののことは知らなかったといい、部分的にそれが頭痛に作用しているんじゃないかというのが二人の共通の意見になった。


髪の毛を余分に採取したことについても話をし、この後ふたりで相談することも決めた。


ひなが見た夢の内容については、全部を記憶しているかは微妙だけどと前置きしつつ、この国が崩壊しかかった時の聖女の夢を見たと教えてくれた。


詳しくは伝えられていないけれど、召喚に関わることが決まって以降、五人でした勉強の中でその話は聞いたことがある。


ひなが見た夢がどこまで正確なのかわからないけれど、かなり細かい内容だったので驚いた。


夢の中に出てきた結ばれなかった二人と聖女と国。


それぞれの心情もひなには痛いほど伝わってきたとかで、夢ゆえに干渉できなかったのが悔しかったよう。


「ただ、誰かを好きになっただけ…なんだろうけど、それは国を揺るがしていい理由にしちゃいけない気がした」


そういいながら、俺のバスローブの胸元をギュッと握ってきたひな。


「あの聖女が欲しかったのは、彼自身じゃなく、王子の彼でしかなかったのかな。それが一番悲しい」


ひなにしては低めの声で呟かれたそれは、俺にも理解できる。


そういうのがあったからこそ、その後の召喚にかかわる人間の立場は明かさなくなった。


夢の影響で、ひなのまわりにいる俺たちがどういう立場なのかとかを明かさない理由が伝えられたことになる。


ジークに対して何度か「王子様みたいなことするよね」って言ってたことがあったけど、こっちから正解を示したことはなかった。


「ね。シファル……」


ひなが俺の胸に手のひらをあてて、そのまま鼓動を聴くように頭をくっつけてきた。


「いつか、さ」


すこしためらいながら、ゆっくりと言葉を呟くひな。


「いつか、ね?」


それに対して、俺もまっすぐに返してあげたい。


「うん」


「みんなのこと……もっと、知れるよね?」


未来(いつか)の話。


「…ああ」


「いつか、聞かせてくれるよね? シファルも」


浄化の、その先の話だ。


「話そう、たくさん。今までしてこれなかった話も、本当は聞いてほしかったことも。ひなが、俺に自分の気持ちや不安なことを打ち明けてくれた時のように。それ以上に…話をしよう」


俺が抱えてきた弟へのコンプレックスや、小さい器しか持たない俺という男の話も。


「ひなに伝えたいことが、いっぱいある。だから……無事に浄化が出来るように、やれることは一緒に頑張っていこう。ひなだけに負担や責任を負わせるなんてことしない。聖女だけがいればいいわけじゃない。それと、ひなが望んでいる浄化の先の話も大事なことだしな」


聖女頼りにならない未来が、ひなの望みの一つで、俺たちが逃げちゃダメな未来のはずだ。


「シファル」


「ん?」


なにか思うところがあったのか、うっすら涙を浮かべているひなが俺の名を呼ぶ。


「……ぎゅー」


それだけ告げて、俺の腕の中におさまるひな。


「ぎゅー……、か」


そういうのが精いっぱいだったんだな。


(可愛いって言いたいけど、今はガマンだ)


何も言わず、そっと抱きしめる。


俺の胸元に猫のように頭をこすりつけるひなに、バレませんようにと頭にキスをする。


「…充電完了」


ひながなにかを呟いた気がしたけど、よくわからなかった。


「何か言ったか? ひな」


「ううん。なんでもない。元気出たって言っただけ」


としか言わないひなに、それ以上は聞かず。


実際、顔を見たら寝る前よりも表情は明るくて、顔色も唇も血色よく。


「それじゃ、気持ち新たに始めよう! シファル。手伝ってくれるもんね、これから」


気持ち新たにという言葉が、俺の背中も押してくれている気がして気分がいい。


「…ああ。もちろん。ひなが調べてくれたことも夢のことも無駄にしない。それと、ひなの頭痛のこともちゃんと調べて、浄化に向けて体調を整えなきゃな」


二人とも体を起こして、抱き合っていた体を離す。


ぬくもりが離れただけで、こんなにも寒く感じるなんてな。


んんーーっっと背筋を伸ばすように、両腕を天井へ向けて突き上げて。


ふう…と短く息を吐いたかと思ったら、ベッドから勢いよく飛び降りたひな。


「ね、シファル。着替えたらさ、シファルの薬草茶飲みたい」


体は離れてしまったけど、こうしてささやかな願いを乞われるだけで、胸の中はまたあたたかくなる。


(これが、恋をしている…ってことなんだろうな)


「じゃあ、30分くらいしたら来てくれるか? それまでに準備と着替えをしておくから」


ひなと同じようにベッドから降りて、昨夜濡れてしまった服を手に部屋を出る。


何の気なしにいつものように部屋から研究室へと向かっただけの俺は、多分浮かれていた。


自分がどんな格好で、どんな時間に、どこから出てきたのか。


多分ジークだったら気づけたんだろうそれに気づけず、ひなと例のことで二人に会いに行った先で、相談の時間が説教から始まるなんて思いもしなかった。


本題に入る前に、ひなと二人で真っ赤になりながら謝り続けるハメになる。


――それも、きっといい思い出になるんだろう。


とか思えるのは、自分がいい方向に変われたからなのかもしれないけど。




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