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それを毒というならば 1 ♯ルート:Sf






~シファル視点~



図らずして、ひなと同じバスローブ。


反応に困る表情で俺を待っているから、なるべく無表情でと呪文のように繰り返す。


揃いのバスローブごときで、俺が内心小躍りしそうだなんてわからせないように。


俺がそんな感情を…っていうのと、このタイミングでそんな感情は不謹慎なのは知ってるってば。


薬を飲ませ、ついでにアレが作ってきた特製の水もしっかり飲ませる。


正直、あのひなの姿は心臓に悪かった。ひなが何も身に着けていないとか、気にもならなかった。そんなの、二の次。命の方が大事に決まってるだろ。


ただ、生きていることを確かめ、バスルーム内のイスに腰かけさせたあたりから徐々に冷静になっていき、そのうち顔に出さないようにするのに必死。


一応年頃の男なんで、全く意識せずにいるのは厳しかったんだ。


力が抜けきったひなを水から引きあげて、その心臓が止まっていたらと想像した。


――自身が過去に何度か繰り返してしまった、自傷行為。その時の傷痕は、すっかり薄くなったけど実際まだ残ったまま。


カルナークが産まれてすぐはなんともなかったのにな、ホント。


カルナークは…弟としてただただ俺を慕って甘えてただけだったのに。


その関係を、俺自身がぶっ壊した。決定づけた。一気に花開いた弟の能力に、嫉妬して。


嫌味も通じない、素直すぎた弟。それが俺をもっと苦しめているなんて、アイツが気づけるはずがない。


幼なじみたちがみんな、俺よりも秀でているとしか感じられず、宰相候補への話も出始めていたのに…潰した。


アイツらと並ぶことを嫌がって、その場所に行くこと自体を回避しようと選んだのが薬学。


逃げ場にしただけのそれは、気づけば夢中になってて魔法よりも俺を形作ることになっていった。


アイツらからも、なにかと頼られることが増えた。


ひなに頭痛について頼られたのも、その延長線上みたいなもの…だっただろうに、すこし嬉しかった。


そういう役割分担だとかいうのをひな曰く、適材適所とかいうらしい。


みんなで同じことをやらなくても、それぞれで得意な分野で能力を活かしあって、いろんな方向から同じ道に進めば達成されることも多いんじゃないのかな? って言われた。


カルナークは、それがたまたま魔法とか魔力って話で、俺は薬学で。


ジークとアレクは、王族として学んできたことや経験してきたこと、人脈なんかも俺たちとは違った形で繋がっているから、やり方はきっと違うモノになるんだろう。ひなが言うソレに準えたならば。


ナーヴは、みんなとは違った視点からものを見、他が浮かばなかった案を持ってくることが出来るし、カルナークとは違った魔法の使い方をどんどん研究しては見つけていく。


カルナークと競うように開発しては、次の魔法師団の団長候補に何度も名前が挙がっていた。


瘴気が濃くなってきた時点で、その話も厳しくなっていったけれど、ナーヴにとって研究に終わりはないみたいだった。


自分がやりたいようにやってるだけと言いつつも、自分のためだけの魔法は考えない。ナーヴのすごさ。


俺は自分でその道(薬学)を選んでおきながら、忘れた頃にみんなを疎み、羨ましがって自爆する。


その回数分だけ、手首に残っている傷痕。


誰かの命を守るための学びを選んだのに、自分のことになると時々あっけなく捨て去ろうとしてきた。


自分自身はそんなことをしてきたのに、ひなが同じことをしようとしたんじゃないのか? と頭によぎった瞬間。


まるで自分の過去はどこかに置き忘れたみたいに、そんな終わらせ方を選ばないでほしいと願った。


自分勝手な人間だと思う。


きっと他の誰よりも、身勝手に生きている。


ひなは、そんな身勝手な人間の俺に、話を聞いてほしいという。


俺がいい、と。


俺自身が一番、俺でいいのか? と何度も自問自答を繰り返す。その動揺を見透かしたかのように、ひなは念を押した。


「シファルじゃなきゃ、ヤダ」


駄々をこねる子どものような、“ヤダ”。


そこまでひなが俺を求めてくれるなら、他の誰にも譲るわけにいかない。


普段だったらさりげなく誰かにどうぞと譲ってきたいろんなことを、今日だけは誰にもこの場所を譲れない。


そういえばと、話をする前にサシェを渡す。


クンイソウの名前を出したら、名前を覚えていたようで「あっちでのラベンダーだ」っていいながら匂いを確かめていた。


「いい匂いだね、これ」


話の前に、ひなの顔から緊張の色が薄くなった気がする。


サシェを手のひらにのせ、ぽつりぽつりと言葉をこぼしていくひな。


「あまり面白くない話もあるし、笑えない話もあるし、あたしがただいじけているだけかもしれない話もあると思うんだ。……でも、聞いてくれる? アッチでのこと、コッチでのこと。あたしが好きなこと嫌いなこと、いろんなことに対して何を思っているのか。浄化にまつわる話にも、きっとつながる内容もある。……本当はそういうのって、ジークやアレックスに話を持っていくべきなんだろうけど、そうした方がいいかを今のあたしには判断できない。だから、それも含めて助けてほしいの。助言っていうのかな? シファルなら、あたし寄りだけの意見にしないで考えてくれそうで」


ここまで信頼してもらえること、そのものが嬉しい。


器がこんなにも小さい俺に寄せられた信頼を、裏切りたくないし失望させたくもない。


こくんとうなずき、話す前の約束をひとつ交わす。


「もしも、途中で意見が欲しかったら言うこと。基本的に話の間に口を挟むつもりはないから。わからないことがあったら、後で聞けるように憶えておく。話しきった後、これで終わりと決めたらそう告げてくれる? あと、ひなの方で話すための約束事があったら聞いておきたい。……ちゃんと、聞いて、理解して、思ったことを伝えたいから」


ひなを知りたい。ひなが抱えていることを、すこしでも軽くしてやれたら。


言い方は上から目線かもしれなくても、ひなが求めていることがそれならば、叶えてあげたい。


「――ひなのこと、教えて?」


俺がそう告げたら、ひなが息を飲んだ気配がして。


「……シファルの条件でいい。聞いて……シファル」


どちらからともなく、重ねていた俺たちの手がさっきとは形を変え、手のひらで合わさり。


「最初にね、元いた世界でのあたしの話を聞いてくれる?」


指と指の間に互いの指を絡めて、まるでどこにも行かないでと言われているように握られた手に。


「話したことあるけど、人と話すのとか絡むのが苦手というか、考えていることを相手に伝えるのがぎこちなくなって。そのうち、一人で時間を過ごす方が上手くなっちゃった流れで、本を読むのが好きなんだけど…」


ここにいるよと伝わりますようにと願いながら、握り返した。


緊張しているのか、ひなの冷えてきた指先が温まればいいとも思いながら……。


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