閑話 シファルは、カルナークに自分の存在を忘れられている。思いのほか…。 ♯ルート:Sf
ここから、シファルルートです。
~シファル視点~
俺は何のためにここにいるんだろう。
そして、何を見せられているのかよくわからない上に、謎のムカつき。
俺にしては珍しく若干やさぐれそうになるのを、きっとジークもアレクもわかってくれる気がする。
誰だってこんなもの見せられてて、路傍の石になりたいと思うはずだ。
窓の外にある、国旗だっていい。
そのへんにあるテキトーなものになってしまいたい。
上二人に言いつけられて、カルナークと二人きりにならないようにと付き添っている訓練。
その初日だ。
初日なんだぞ? 今後も続くんだぞ? この空気が。
付きあってないんだよな、コイツら。
カルナークの方が想いが多いし、初っ端から重ためなのは見ていてわかる。
わかるんだけど、どうにかしてくれ。
――熱を出して倒れた彼女。
今だに、何て名前を呼べばいいのかわからないような関係の俺と彼女。
カルナークに頼まれたから調薬したり、薬草粥を作る協力しただけだ。
なのに、こんな俺にまだ赤みの残る顔で「ありがとう」だなんて。
慣れない。落ち着かない。なんて返せばいいのか浮かばない。
そわそわするし、体の奥がぞわぞわする。こんなこと今までなかったのに、俺…変な病気になったんじゃないよな? 二人のせいで。
彼女にカッコよく返事をしたいのに、喉の奥に小石が詰まっているみたい。上手く言葉が出てこない。
オレカッコワルイ。
「みんなに助けられてばっかりだ、あたし。ちゃんと役に立てるように」
って、すこし視線を上げてなにかを思うように遠い目をして。
小さく息を吐いて、握った二つのこぶしを胸の前でかまえてから。
「がんばる! ……うん。がんばる!」
まるで自分を励ましているように呟いた姿に、不覚にもドキッとしてしまった。
俺よりも幼く見える小さな女の子なのに、小さな手をぎゅっとにぎってさ。
そうやって自分で自分を励ましている姿に、味方がいないなんて思ってないかな? って心配になる。
俺たちの国が勝手に喚んだせいで“こんなこと”になってるのに、どうして頑張ろうっていうのさ! って、なんでか俺の方が腹が立ってきたり。
ふにゃりと笑うその顔に、そんなにがんばんなくていいよって言いたくなって、その言葉を飲み込む。
だって、それを口にすれば、たった今がんばると自分を励ましたそれをなかったことにしろってことになるだろ?
どっちに向かって背中を押してやれば正解なんだ? この子は。
――俺に、みんなのような魔力はない。
幼いころの小さな嫉妬心のせいで、まるで罰を与えられたかのようにどこかに消えてしまった。
元の魔力の5分の1くらいしかないから、生活魔法レベルを数回使えばおしまいだ。工夫次第で回数をこなせるかもって程度。
魔力を失った後は、それをどうこうしようとかは一切何もしてない。
俺ってやつは単に魔法のことより薬学だけに集中してきただけで、今回だってその成果を差し出しただけ。
調剤をして、薬草粥も作るサポートをして。流れのように知ってることを活かしただけ。
カルナークに頼まれなきゃ、遠巻きに見ていただけかもしれない。
基本は、そんな臆病者になってしまった。
魔力がどこかに行ってしまったキッカケの弟に頼まれたから。
戒めだ、戒め。
不出来な自分を認められなかった自分を忘れないために、カルナークの頼みを聞いた“だけ”の話。
(これも、戒めか何かなのか? ある意味、地獄の空間には間違いないけれど)
――俺には決して付き合えない訓練に、容易く付き合えるカルナーク。
魔力を誰かに巡らせて感知させるなんて芸当、カルナーク以外に出来るわけがない。
彼女はカルナークに言われるがまま、目を閉じ、カルナークが巡らせているんだろう魔力を追っている。
カルナークの魔力が流れてもぶっ倒れないあたり、あの子も相当量の魔力があると思われる。
俺相手にあんなことされた日にゃ、白目向いて泡吹いてひっくり返る。
というか、魔力枯渇騒動の時にカルナークに似たことをされて、数日間昏倒したっけ。
「ボクのまりょくあげるから! げんきになって!」
と、無邪気な見舞いをされて死にかけるって一体……。
よく生きていたなと今なら思える出来事だ。
じんわりと汗をかきはじめ、顔を紅潮させて、時々不思議と笑みなんか浮かべながらの訓練。
彼女の表情と言葉に、いちいち反応するカルナークがウザい。重い。あと…イラつくんだけど。
見ていたくもないのに、二人から目が離せなくなっていく。
いやいや……これ、俺への罰でも続いているの?
こうなることをわかってて、俺に付き添わせたわけ?
どうしろってこと?
はあ……とため息をつき、メモを取っていく。
書き物をしながら同席するとしか、カルナークには言ってない。
でもな、実はあの二人から訓練の状況と成果などなどの報告レポートを、俺から見た視点で書けと言われているんだよ。
(何を書けって? “楽しそうでしたマル”の一行で終わるっての)
消化しきれない感情を持て余し、二人を眺めみていた俺。
そろそろ終わりかと思える会話が耳に入った。
レポートを仕上げなきゃと走り書きしていたメモを集めようとして、妙な沈黙に嫌な予感がして二人に視線を戻す。
「目を開けて」と言ったカルナークに従って、目を開けた彼女が見たカルナークの表情が……。
(デレッデレで真っ赤になってんじゃねえかよ! あんなん、至近距離で見つめ続けられるか!)
案の定というか、なんというか、同情したくなった。彼女に。
あれだけ明け透けな感情を向けられて、無反応だった場合は彼女に“その”感情がないということ。
けれど、まるで感染したみたいに真っ赤になって、カルナークを見られなくなっている。
異性としてとかはさておき、好意的ではあるということなんだろうとしても……さ。
(だらしない顔をどうにかしろ、カルナーク)
真っ赤になってしまった顔を見せたくなくて顔を隠したのに、無理に覗きこもうとするから…。
「カルナークのエッチ!」
とか言われながら、覗こうとするその体をグイグイ押されているのにさ。
(魔力の扱いは抜群だけど、女の子の扱いはアホだ)
口にせず、その思いを念で飛ばし続けると、さすがにこっちを振り向くカルナーク。
気づくの、遅っっ。
「なにやってんだよ」
俺が呆れた顔をしてカルナークを見ると、今にも泣きだしそうな顔に変わっていく。
立ち上がり、彼女の体を支えながら立ち上がらせる。
もちろん「無理に顔を上げなくてもいいよ」と、耳元で囁いてから。
コクコクとうなずくので精いっぱいの彼女を連れて、部屋を出た。
カルナークはもしかしたら泣いているかもしれないな。…ま、知ったこっちゃないけど。
「……ごめんね。カルナークが、やらかしちゃったみたいで」
普段の口調よりも軽めの口調にして、肩を支えたまま歩いていく。
「居た堪れないよねぇ、あんなに感情むき出しで微笑まれちゃ」
話し方はジークを意識してみる。語尾を伸ばしたりして。
「……うん」
「でも、嫌いじゃ……ないん、だよね?」
カルナークのことだと匂わせつつ、聞きだしてみる。正直、聞きたくないけどね。
「う……ん」
ためらいながらの返事に、どうなのかわからなくなる。
可能性はゼロじゃないけど、100でもないって感じなんだろうか。
「あの、ね。シファルくん…さ」
不意に俺に向けられた声。びくんと肩先が揺れて、足が止まってしまう。
「無理、しなくっていい、よ」
俺を気づかうような言葉に、「ん?」と素で声が出た。
「会話、苦手、だよね」
そう言いながら、彼女の左肩を支えたままでいた俺の左手に、彼女の右手が重なる。
自然とその手を目で追って、気づく。
(なんか、まるで、肩を抱いて歩いていたカップルみたいなこと…俺…)
動揺が隠せなくなって、目が泳ぎまくり、言葉がたどたどしくなる。体中が心臓なんじゃないかってくらい、バクバクと全身が鳴ってるみたい。
「あー…いや、そこまで…じゃ……な、いん」
ちゃんと口を動かせよ、俺。震わせるな、声。ちったぁ、カッコつけろよ。
「無理はしないでね。あたしも会話…苦手で……その、がんばろうって途中なの」
同士だよって伝えてくれようとする言葉が、肩を抱く俺の手に力を込めさせた。
「へ、平気……。ひ、ひなは…平気」
初めて名前を呼んでみる。
俺にしては頑張っている。多分、今までで一番。
「…………そ、か。…ふ、ふふ……そっかぁ」
何に対しての納得なのかよくわからないけど、「そうだよ」とだけ返す。
その後は会話もなしに、肩を抱いたままで部屋まで送った。
ドアの向こうに消えていった彼女を思い出しながら、自室へと向かう。
そして俺は忘れていた。
一人にされたカルナークのことを。
夕食の時間になるまで一度も思い出すこともなく、二人への報告レポートを書き進めていた。
時々左手を開いては、残っているわけもない彼女のぬくもりを指先でなぞり、手の中に閉じ込めるようにまた握りこんだ。
笑ったあの顔がカンタンに思い出せるほどに、彼女のことが自分の中に存在したはじめたことに気づきもしないで。




