プロローグ
連載版を始めました!
必ず完結させますので、こちらもよろしくお願いします。
※短編から加筆して設定も少し変更しています。
「フェルド王子万歳!」
「戻ってくれてありがとうございます!」
「グッドナイト王国万歳!」
私たちの眼下で両手を突き上げて叫んでいる人々の多さに酔いそうになる。
王都に住む者、今日のために地方から出てきた者。彼らの大歓声は重なり合い、私たちが立っている城のバルコニーを揺るがせていた。
めでたい日だからこんなにも国民が熱くなるのも分かるが、着慣れない正装のせいもあって、気分が悪くなりそうだった。
春の過ごしやすい気候のはずなのに夏を先取りしたような気分だ。
今日は第二王子の帰還を祝う日になった。
王宮で催されたパーティーの途中から姿を消してすでに丸1年。
行方をくらませていた王子が婚約者を連れて帰って来たのだから、お祝いをしたくなる気持ちも分かるけど。
おっかしいなぁ。こんなイベントはゲームになかったよね。
王子は見慣れない正装姿で大観衆の声に、控えめに片手を上げて応えている。
かっこいいんだからもっと堂々とすればいいのに。
個人的にはそう思うが、下から見上げていれば王子様がどんな表情でいるのかなんて気にならないだろう。
実際はこんなにもガチガチで、膝が震えているなんて誰も思わないでしょうね。
そんなことを考えながら王子を見つめていると、大観衆からまたしても叫び声が上がった。
「リリアンヌ様!」
「聖女様、こちらにも視線を!」
「女神様、万歳!」
一瞬、誰のことを呼ばれているのか分からず、キョロキョロしていると隣から手が伸びてきて私の小さな手をぎゅっと握ってくれた。
「ほら、美鈴さんも手を振ってくださいよ」
そっか。リリアンヌはこの乙女ゲームの世界での私の名前だ。
普段は本名を名乗っているからとっさの時に反応できない癖を直さないと。
「私、聖女でも、女神でもないよ?」
「そうですね。美鈴さんは僕のお嫁さんですもんね」
ぼんっと頭が弾けそうになる。
こんな公の場でなんてことを言うんだ。
照れ隠しのつもりでブンブンと豪快に手を振ると、眼下の国民たちは更なる大歓声で応えてくれた。
辻くんよりもこういう場には慣れているつもりだけど、あんなに恥ずかしいことを言われた後では上手く笑顔を作れない。
どうしてもニヤけちゃう。
私はこの世界に転生した、ただの悪役令嬢だったはずなのに。
元同郷同士、一緒に異世界でスローライフを満喫したかっただけなのに。
どうしてこうなっちゃったの?
当作品を見つけていただき、ありがとうございます。
今、マッハで書いているのでブックマークしていただけると更に筆が走り回ります。
いつも通り10万文字で完結させる予定です!