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メイド☆イン☆勇者〜お嬢さまと世界は、このメイドが守りますっ!〜  作者: 紅茶ごくごく星人
第2章 メイドの勇者と旅に出る☆☆

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第四話 旅立ちそして休憩......地形崩壊ピクニック

「いやはや、まさかまたお嬢様の顔が見られるとは思いませんでした」

包帯で頭から爪先まで全身グルグル巻きで、じいやはそう言った。


「じいや、大丈夫なの?」


「ええ、それはもう元気で痛っ!?」


「やっぱりもう少し休んでいた方が」


するとじいやは嬉しそうに微笑んだ。


「いえ、これからは仕事が増えますので、こんな事は言っていられません。

1日につき、書類の山が1つ分。」


「?」


「それよりも、旦那様がお嬢さまをお呼びです。

何でも、大切なお話があるとか。」


私は「はあ」とため息をついた。


「......一つお話しできるとすれば、旦那様は貴女のことを大切に思っておられること。

それはこのじいやも同じですし、使用人みんながそう思っています。


どちらの道を選択しても、私たちはお嬢様を応援しますよ......」

じいやは涙をにじませた。


「えっ、な、何なの」


私は父のいる部屋へと向かった。


扉を開けると、なんとあのメイドの彼女もいた。


「お嬢さまっ!」


やっぱり、彼女にはメイド服姿が似合っていると深く感じた。


「それでお父様、話というのは?」


すると、焦げ茶色のシミができた書類を出した。

それが時間が経った鼻血の色だと察するのは難しくなかった。


「これはっ、その、私が悪いんです!私が転んで鼻血を——!」


「やっぱり、これを持ってきたのはお前じゃなかったんだな」

父は私に言った。


「気づいていたのですか」


「気配が違ったからな。それくらいわかるさ。


気配といえば。

普段は何もないところで転んで鼻血を出すようなメイドが、あのようになるとは。」


父が言い終えると、メイドは申し訳なさそうに震えて片手をあげた。

「あの、私、もしかして、つつつつ追放されてしまうのですか......?」


「ああ。」

父は即答した。


「屋敷から出ていってもらうという意味では、確かに追放とも言えるだろう。」


「うぐっ......今まで、お世話になりました......!

それでは—」


そう言ってメイドは涙目で部屋を走り出ようとした。


私は、つい声が漏れた。

「待っ—!」


「待て!」

父が同じことを言ったので私は驚いて、振り返った。


そして私ははっとした。


()()()()()()()......ということは、厳密には()()()()()()。そういうことですよね?」


すると父は珍しく笑んだ。

「ああ。館を出て、魔王討伐の旅に出てもらう。2人でな。」


「「ええっ、私もですか!?」」

私とメイドはその瞬間、言葉もトーンも言うことが何もかも被った。


そんなことはなかなかなかったので、顔を見合わせた。


「昨日のあれは間違いなく()()()()だった。

()()()()()()()()だ。きっと魔王を打ち倒すことができる。いや、勇者にしか魔王を打ち倒すことはできない。


......では、勇者である貴女が1人きりで魔王討伐に向かってくれ。」


「え、あ、へ...!?」

さっきと言っていることが違うので、メイドの彼女は混乱した。


「———と、そう言われて1人で魔王の居城に向かうのは辛いだろう。

だから、2人で行きなさい。」


「有名な一節ですよね。

突如として異世界よりこの世界へ転移された勇者はまずある国の城に召喚されたが、その強大な力を評価されるあまりパーティメンバーを斡旋してもらえず、頑丈な釣竿と10枚の銅貨のみを持たされてたった1人で旅に出された。」


父は頷くと、言った。

「剣の心得があり勇者の血も濃いお前の方が、いずれ力に目覚めたときのポテンシャルは高いはずだ。

勇者が2人いれば、魔王もさぞ苦戦するだろう。」


「......よろしいのですか?いつも整理している書類や稽古は?

これからは一体誰が...?」


「ああ、書類はじいやにやらせるから大丈夫だ。じいやは本当に何でもできるからな。」


「稽古は」そう言いかけると、父は突如コミカルに声を荒げた。


「稽古はいいだろう!?旅に出るならそれ自体が稽古みたいなものだろう!?

そもそも稽古をさせていたのは、こういう時のために—」


私は普段聴かないようなその声色に、目を丸くした。


父は「はあ」と息を吐いた。


「魔王が怖いというなら、別に行かなくたって構わない。お前自身が、どうしたいかを聞かせてくれ。」


私は迷わず答えた。

「行きます。彼女と、魔王を倒します。」


父はメイドにも訊いた。

「君はどうしたい」


「私は、お嬢さまのメイドです。

だからきっとお嬢さまをお守りするために、昨夜この力に目覚めたんだと思います。

だから......」


彼女は自分の手のひらを見た。

そして目を瞑り、確かな決意を持って握り拳を作ると、前を向いて言った。


「お嬢さまが勇者の力を目覚めさせるその時まで、メイドである私がお嬢さまを必ずお守りします!」


はっきりとした声色で、胸に手を当てて言うメイドに、父は頷いた。


「では行け勇者たちよ、魔王を倒すのだ!」

父はどこか寂しそうだったけど、間違いなく、嬉しそうでもあった。


それから次の日、私たちは屋敷を出た。


.........


ある程度歩いてカゼトーシ草原にやってきたところで、彼女(メイド)はお腹を鳴らした。


「それじゃあ、お昼にしましょうか。」

実はお腹が空いていた私は、彼女があたふたしている間にシートを広げ、魔法瓶とピクニックバスケットを置いて、座った。


空腹に耐え忍び終えた私はすぐに、エッグサンドウィッチを手に取り、頬張った。


「おいしい!真っ白でふんわりとしたパンで包まれた黄金色のエッグフィリングの芳醇な香り、味、ともに一億万点あげたいわね......」

私はつい彼女に笑いかけたが、メイドは黙って見ていた。


「一緒にいただきましょう?」

私は力のつきそうなBLT(ベロレッグティアー)サンドを彼女に差し出した。

こちらはパンに美味しそうな焼き目をつけていて、ザクザクとした食感でより食べ応えがあるはずだ。


するとメイドは告白した。


「あ、あの私......実はあれから力の加減ができなくて。

触れたものを全て壊してしまうんです......!!」


メイドは「ほら!」と言って、地面をガンッ!と激しい音を立てて優しく小突いた。


彼女の拳地点から地割れが発生。それは縦一文字を描くかのように遠くへと向かっていき、それこそどかーんと音を立てて地形がダイナミックに変化した。


なだらかだった草原に大きな山が生まれ、その頂上から水が流れ、大きな滝となった。


「このように......ですから食べ物を朝から食べていなくて......!」


私は涙目の彼女の口に、真っ赤なタコサンウインナーを問答無用で突っ込んだ。


「おいしい?」


もぐもぐと咀嚼する彼女の顔は、とても可愛かった。


ごくちと飲み込んでから「はい、おいしいです!」と彼女は言った。


それから私は水のせせらぎをBGMに、お弁当を彼女に食べさせ続けた。


「あの......こんなこと、いえ、こんなことじゃなくて!とても嬉しいのですが......もし治らなかったらと思うと、ずっとこのようなことをお嬢様にしていただくわけには......」


「だったら、ずっと続けるわ。


もしずっとこうだったら、ずっとこうやってあなたに食べさせ続ける。

あなたが料理を咀嚼する姿、見ていて退屈しないもの。」


返事をしようとした彼女は食べ物をつまらせて、苦しそうに胸を叩いた。


私はお茶を飲ませた。


それから。さっきにできた山を登った。


頂上にたどり着くと、まだまだ先だけれど、ここからでも魔王の城と化した王都が見えた。


「これからも、よろしくお願いします。」

私は彼女に手を差し出した。


「はい!よろしくお願いします!」

そう言って、メイドの彼女は手を握った。


「はっ!今の私に触れたらお嬢様が壊れちゃ......あれっ!?」


私の手は、粉砕されたりしなかった。

屋敷にいた頃と同じ、やわらかい手のひらを私は握っていた。


「力の加減、出来てるみたい。」


「はいっ!」

彼女は嬉しそうに返事した。


これからは食べさせる必要がないと思うと少し寂しいけれど、彼女が一歩成長したことが嬉しい。


「よし、それなら...!」

彼女は木の枝を拾った。


だけどそれはすぐに崩れだした。


「う......お嬢さまぁ〜!!」

私は涙目になる彼女を抱きしめた。


屋敷にいた頃と変わらない、いつも通りの感じだった。


彼女の、しゃっきりとした陽だまりの匂いがする頭を撫でていると、いつだって気分が落ち着く。


ドジで何もできなかった彼女が突如世界を救うとてつもなく強大な勇者の力に目覚めたって、私と彼女の関係性は突然......いや、これからもずっと変わったりしない。


「......お嬢様?どうかされましたか?」


「いいえ、何も変わりないわ。大丈夫。安心して。」


勇者になった彼女が私を置いて1人でどこかに行ってしまったら......そんなことがあったらきっと耐えられないけれど。


きっとそんなことは起こらない。起こるはずがないんだ。


「く、苦しいです」

メイドは私の胸に顔面をめり込ませながら言った。

BLTサンドについて


B→ベロ・・・真っ赤なナメクジのような軟体モンスター。清潔な環境で徹底管理し生産された食用ベロ。肉厚でコリコリしたかみごたえがあり子供にも人気。


L→レッグ・・・ティラノサウルスのような見た目で、脚部が発達した小さな恐竜型モンスター。引き締まった肉質で、照り焼きや燻製が好まれる。


T→ティアー・・・俗に『泣きコケコ』と呼ばれている鳥型モンスターの流す涙。程よい酸味と爽やかな香りをもち、具材の旨味を引き立てる上質なソースになる。


サンド→サンド・・・サンドウィッチ。とある国のおとぎ話に出てくる、砂漠の魔女の身に付けていた衣類が名前の由来らしい。

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