プロローグ3 「 第一異世界人 」
異世界転移をしてから一夜明けた朝。
腹の虫の音と共に目を覚ました俺は昨晩の出来事を思い出す。
「・・あのドラゴン、食べたらおいしいかな」
違う、それじゃない。
確かに腹が空きすぎて、昨日出会ったドラゴンが美味しそうに想像したが、思い返す場面はそこではない。
寝ぼけた頭を振り、昨晩起きた携帯からの着信を思い出す。
異世界から掛けられた通話は一言、『たすけて』とSOSのセリフだけを言って通話が切れた。
そもそも電波のない異世界でどうやって電話が繋がったのか。
そして通話してきた相手が何者で、何処から助けを求めてきたのか。
すべてが謎に膨れ上がって一日を終えてしまった。
「まぁ、とりあえず森を抜けて村か街を探す所からしようかな」
人間である俺がこの世界に居るという事は、恐らくこの異世界にも人間がいるのだろう。
そうでなくては人間が一人もいない世界に転移する事なんてない・・・と考えたい。
「今日中には第一異世界人を探しだしたい所。 そうじゃなきゃ俺の生存確率はヤバイ事になるでしょう!?」
ただでさえ昨日から飲まず食わずで一日を終えてしまったのだ。
何処かでエネルギー補給をしなくては飢え死にしてしまう。
「ん? この匂いは・・・」
すると、何処からか何かを煮込む美味しそうな匂いが漂っている事に気が付く。
こんな森の中に人が暮らしているのだろうか?
一晩お世話になった樹に沿って、匂いが漂う場所へと歩いていくと、俺が一晩過ごした樹の背後に、なんとも風格のある一軒家が建っていた。
家の近くには洗濯物らしき布が干されており、家の中から美味しそうな匂いが漂ってくる。
まさしく、人が暮らしている証拠のものだ。
「とりあえず、挨拶はどうしよう。 ハロー? コンニチワ?? グッドモーニング???」
いや、それよりも言わなくてはならないセリフがある。
それは―――
「すみません! ごはん恵んでくださぁぁあああああいッ!!」
まるで餌を見つけた猛獣のように餓えた目をしながら家に突撃する。
人間、まずは挨拶が大事だと記憶の無い誰かに言われてきた気がするが、そんな事いってる場合じゃねぇ!
兎に角、今にも餓えてしまいそうなこの空腹を満たせれば後はどうにでもなる!!
そう思い、猛突進で家に駆けこもうとしたのだが。
「ぶべらッ?!」
まるで目に見えない透明な壁にでもぶつかったように俺は吹き飛ばされた。
「う~いてててて・・ッ。 な、なんだ??」
状況に理解できずに尻もちをついたまま、ぶつけた鼻を擦っていると、ふわりっと上から花のような良い匂いが感じた。
ゆっくりと上を見ると、そこにはまさに、ファンタジーのような場面が目に映る。
「一体どこの誰よ。 私の結界をすり抜けただけでなく、家に不法侵入しようとした不埒者は」
頭よりも大きなとんがり帽子に真っ黒なロープに身を包んだ白銀の美少女が、箒に横乗りで宙に浮いていた。
「ふん。 どんな不届きものかと思えば、何の変哲もない只の人間。 どうやって結界をすり抜けたのかは知らないが、いまならまだ命は助けてあげるわ。 さっさと私の住み家から出て行きなさい」
「・・・・」
「――? ちょっと? 聞こえてる? 大丈夫?」
「・・ちょ」
「ちょ・・?」
俺はゆっくりと立ち上がり覚束ない脚を支えながら空を見上げてガッツポーズをした。
「超絶美少女魔法使いキタァァアアアアアアアアアアアッ!!?」
何がそんなに嬉しいのか。
何がそんなに感動しているのか、記憶の無い俺には分からない。
ただ、ただただ何故かあまりにも感極まってガッツポーズと雄叫びを上げたい衝動に駆られてしまった。
そう。
きっとこれは、異世界転移なら誰もが憧れる最高のシチュエーションなのだろう。
第一異世界人と最初に出会うのが、誰もが見惚れる美少女であるという事が。