プロローグ2 「 SOSの通話 」
「とりあえず、状況を整理しよう」
ド迫力ある架空生物、ドラゴンを目撃してから、俺は兎に角ドラゴンを追いかけた。
え?
なんで追いかけたのかって?
だってドラゴンですよドラゴン?
飛行機よりも大きい生物ですよ?
ドラゴンですよ?
じゃあ追いかけるでしょ。
追いかけて、追いかけて、追いかけて、気が付いたら、空は煌びやかな星空が輝き夜となり、俺は遭難していた。
「はぁーくしゅんッ!?」
いや~、森の中と言うのはどうにも冷えますな。
空が明るいおかげなのか森の中でも視界はそれほど暗くないのが不幸中の幸い。
近くに大きな一本の樹を偶然見つけて一晩過ごす事にした。
「これだけ大きな樹なら猛獣が来ても上へ逃げればなんとかなりそうだしな~」
寝転がりながらペチペチと目の前の樹の幹を叩きながら見上げる。
「それにしても、異世界か~」
正直、未だに自分が別の世界へ迷い込んだという認識が薄い。
そもそも自分がどんな世界で暮らしていたのかさえ思い出せないのだから、この世界が異世界だと認識しても、だから? と他人事の感情もあるのが事実。
「はぁ~、ドラゴンを見た時は凄く興奮したんだけどな~。 あれ以来、異世界的な魔獣とか冒険者とかにも会えなかったし。 そもそも俺が想い描いている異世界とは違うのかもな~」
なんとなく、ポケットの中にある携帯を取り出し時刻を確認する。
「20時半・・あ~あ、暇だ~。 動画も見れないしSNSも呟けないんじゃ暇つぶしもできな、い・・し?」
そこまで言葉が出て、俺は再び手に持つ携帯に目を向ける。
「・・・携帯? 携帯ッ!?」
何故今の今まで思い出さなかったのだろうか。
俺は今、近代の文明機を手に持っていた!
「いやまぁ記憶もなかったし自分の所持品を確認する暇もなかったから考えもしなかったけど!」
携帯という機械の記憶はちゃんとある。
操作方法も理解できる。
つまり、この携帯端末には俺の失った記憶のデータがあるという事だ。
「え~と待て待て。 とりあえずパスワードは・・お! あってる!」
指が覚えているかのように自然に画面のロックを解除した俺は、まずは自分の手掛かりになりそうなデータを漁ろうとした。
その時だ。
携帯の画面は着信画面へと変わり、何かのアニメソングらしき着信が森中に鳴り響く。
「着信先は・・・非通知?」
電波などない異世界からの着信。
俺は恐る恐ると応答ボタンを押す。
「もしもし?」
『・・・・』
しかし、携帯からは何の声も聞こえない。
「この携帯に着信してきたって事は、俺の事を知ってる人って事だよな?」
『・・・・』
「聞きたい事は色々あるけど、まず何か俺に用があって連絡してきたんでしょ? 何か言ったら?」
『・・・・』
電話の相手は俺が何を言っても反応する様子はない。
何か要求してくるわけでも、脅す訳でもない。
ただ何も言わずに通話を続けている。
「おーい。 頼むから何か言っておくれー」
正直何も情報の収穫がないのであればすぐさまに電話を切りたい所ではあるが、自分の記憶もここが何処なのかも分からない俺にとっては、情報を手に入れる最大のチャンス。
意地でも自分から通話を切る事はしたくなかった。
『―――』
「え? ごめんなんて?」
そしてようやく通話相手から反応が出た。
小さすぎて聞こえにくく、ボソボソと何かを話している。
耳を澄ませ、携帯から聞こえる声に集中すると、最後の言葉だけを何とか聞き取れて通話は突然切られた。
「・・・なんだよ、それ」
結局、俺が知りたかった情報も相手が何者かも分からずに終えた通話は、俺に対して更に大きな疑問だけを残した。
小さく聞こえにくい声量で、通話の向こうで聞き取れた声は、今にも泣きだしそうな声で最後に一言言い放った。
『 たすけて 』
これが最後に聞こえたセリフ。
言葉通り、誰かからのSOSの通話だった。