009
興味を持って頂きありがとうございます。
本日2回目のアップです。
俺は仮眠を取った後、鍛冶場に来ていた。
それというのも、エレンたちが乗ってきた馬車はあまりにもお尻が痛くなるからだ。
彼女たちの馬車は貴族が良く用いる2頭立ての4輪箱型ドア付きのもの。
贅沢な意匠を凝らした事で車重が重くなり体感では時速5キロほどと歩くのと然程変わらない低速での移動だった。
鉄製で出来ている馬車の枠組みは長旅の影響だろうか歪みが見て取る事ができ、何より室内が暗すぎるのだ。
いわゆる箱型の馬車は外からの光は僅か小さな窓から得られるだけという事もあり常に車内は暗い。
これでは歩いた方がマシのように思えてしまう。
しかも車軸は車体接続型なのでちょっとした石を車輪で踏むと車体が大きく傾いてしまい、下手をすると横転するのではないだろうか。
「取り敢えず、あの馬車は一度虚空庫に収納したので意匠関連はコピーできたな」
これは最初から作り直すしかないだろうという事で馬車の見た目を変えず、大幅な作り替えを行う。
フレームは鋼鉄より軽く強度は数段上のアダマンタイトを使う事にした。
車軸や車輪もまた同様の素材で作り、これにサスペンションを設置した。
車輪にはゴム製のタイヤをはめる事でより走行能がアップする。
木製の壁や屋根、扉はこれも軽さと強度が得られる神界樹を使い、そしてコピーした意匠関連をそのまま複製していき塗装していく。
「次は車内か……」
先ずは椅子だ。
木製の椅子は揺れがなくても座っているだけでお尻が痛くなってしまう。
そこでクッションを効かせたソファーに置き換える事にした。
3人掛けのソファーを2台とオットマン付きの1人掛けのソファー2台を置きたいと考えたのだが、それでは室内が狭すぎる事に気が付いたので空間魔法を用いて室内を25畳ほどの広さにした。
広くするならソファーだけでなくちょっとした棚やコーヒーテーブルなども置き、床は絨毯敷きに。
そして照明だ。
周囲の魔素を取り込みながら室内に適度な照度と温度、湿度に保つような魔道具を組み込む。
せっかく魔素を取り込む装置を付けるのなら馬車の軽量化や自動修復、高耐久、魔法防御や対物防御、自動洗浄、防汚、防音、何より馬に対して常時筋力アップと体力回復がなされるようエンチャントを付け加えていく。
「やっと完成か……」
車体を複写したので今までの車体を回収して新しく作り替えた馬車に入れ替えてもあまり気付かれないだろう。
出来た馬車はぱっと見は今までと変わらないが馬たちが感じる重さは計算値では今までの1/4程度。
しかもタイヤやサスペンションを取り入れた事で走行性は格段にアップしている筈だ。
「さてと、後は食いしん坊たちの朝食かな」
野菜類を一口大に切り、そこにベーコンなどを入れて塩胡椒で味を整えてスープを作る。
トマトやキュウリなどでサラダを作り、両親ズが入れてくれた焼きたてパンを並べた。
後はりんごの皮を剥いて適当に切り分ければ朝食の出来上がりだ。
マーナにはエレンたちと出会う前に狩ったグランボアの肉を焼いて食べやすいように切って皿に盛り付けた。
次いでにステーキ。
ニンニクを効かせて300グラムの大きさで50枚ほど焼いてストックしておく。
肉を焼く匂いは暴力的に人の食欲を刺激するようで、朝食の匂いに誘われて1人、また1人と食卓に集まってきた。
「リュウタおはよぅ……」
「眠そうだね、エレン」
「だってぇ、あのベッド反則ですよ?」
「そうでございます、リュウタ様。あの生地は一体……」
「ん?秘密ですよー。セバスティオヌさんおはようございます」
「あ……失礼致しました。おはようございます」
「リュウタ殿!おはよう!」
「アンドゴラスさん、それに騎士の皆さん、御者の皆さんおはようございます」
侍女たちは普段はエレンより遅く起きてくるようなことはないのだそうだが、寝具の魔力(?)に負けて起きられなかったようだ。
「お、昨日までの朝食とは別次元だよ……」
「いや、これはバクトラでもそうそう目にしないと思うよ」
騎士たちの言葉はなんだか昨晩も聞いたような気がするのだが、気にしないで食事をする事にした。
しかし椅子に腰掛けたアンドゴラスを始め騎士たちの目がある一点に向かっており口元から何やら涎が垂れているのに気がついた。
目線の先はマーナのお皿に盛っているグランボアの肉だ。
「よろしければ食べてみますか?グランボアの肉ですが」
「え、良いのかい?是非ともお願いできないか、できれば塊で!」
アンドゴラスの言葉に騎士たちは頭を上下にブンブン振っている。
俺は虚空庫から先程焼いたステーキを食べたい分だけ食べられるようにテーブルの中央に山積みにした。
次の瞬間、騎士たちだけでなく侍女も、いや、エレンも手を伸ばしあっと言う間に肉がなくなるのだった……
争奪戦のような朝食を終え、ペルセリスへ向かって出発する事になった。
エレンが馬車に乗り込もうとしたら彼女はそのまま固まって動かなくなった。
「殿下、いかが……」
続いて乗り込んだセバスティオヌも同様に固まり完全に入り口を塞いでしまう。
侍女のマヨルカは主人たちが動かなくなってしまったのを見て、行動を急かす事もできず「あの……」とオロオロするだけだ。
「セバスティオヌさん、つかえてますよ」
「……リュ、リュウタ様、これは……」
「あ、室内ですか?ちょっと窮屈だったので創り替えをしたのですが拙かったですか?」
俺の言葉を聞いたセバスティオヌは馬車から降りて俺の両手を取ると顔がこれでもかと思える程近づけて、
「リュウタ様!素晴らしいです!これ程の馬車、今まで見たことも聞いたこともありませんっ!」
うわっ
すごい量の飛沫が飛んでくるよ……
思わず顔を袖で拭いたくなるほどだったがそれを我慢して、
「そ、そうですか?他の国はどうか良く分からないので〜〜」
「これ程明るい箱型なんて……それに空間拡張を施した馬車なんてどう見積もっても白金貨100枚〜〜キュウ……」
エレンは余りにも驚いたからか気を失ってしまった。
彼女が倒れる前に身体を支える事ができたのでそこは自分を褒めておこうかな。
ちなみに、貨幣制度は鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨となっており、鉄貨100枚で銅貨、同じく100枚で銀貨、銀貨100枚で金貨、金貨100枚で白金貨となっている。
銅貨と銀貨はそれぞれ10枚で大銅貨と大銀貨という物もある。
日本の貨幣制度に照らし合わせると、鉄貨1枚が1円、銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1万円、金貨1枚が100万円、そして白金貨1枚で1億円に相当する。
年間国家予算としてはセレコース帝国ですら3兆円、即ち白金貨3万枚程度。
バクトゥリア王国に至っては白金貨2000枚にもならない。
それにも関わらず馬車1台で白金貨100枚以上、それが3台なのだからエレンが気を失うのも分からないでもなかった。
俺はエレンを抱きかかえて馬車に乗り込みソファーに寝かせた。
他の馬車からも悲鳴に近い絶叫が聞こえたが、セバスティオヌに言って馬車を進ませる事にした。
俺は膝の上にマーナを乗せて頭を優しく撫でていると目を細めながら丸まっている。
そんな俺にセバスティオヌは妙に謙って質問をしてきた。
「えー、リュウタ様?随分と速度が上がったのですが……しかも揺れも随分と少ないようですが」
「実は馬車そのものを造り変えているんですよ〜」
「それって一晩で?……いえ、乗り心地良いですね」
「そうでしょ?やはりフレームの剛性を高めた上にサスペンションを設置しましたから〜」
セバスティオヌさんは何か言いたそうだったが何かを諦めたようで馬車旅を楽しむ事にしたようだ。
「マヨルカさん、そこにはお茶菓子や茶葉なども入れてありますので」
「えっ?馬車内でティタイム、ですか?」
「長い旅程なんですから、寛ぎの時間は必要ですよ」
「ですが、馬は定期的に休みを取らないと……」
「馬には常時体力回復がかかっていますし、馬車の重量は昨日までの1/4になったからお昼まで休みなしで行けますよ」
「そ、そうなんですね……」
マヨルカさんも何だか疲れ切った顔をしていたが、大きなため息を吐いてお茶の準備を始めるのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




