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ダンジョン実習3日目の突入時に時を戻す。
ヒデキたちは6階層に進んでいたが、2日目には少しずつ怪我をする生徒が出始めていた。
4階層は普通のゴブリンしか出てはこないが、1階層に比べて力も素早さもアップしているからだ。
しかも同時4体で襲い掛かってくるのだから人数的に優位にあってもゴブリンからの攻撃を受けてしまう。
早いチームは5階層に進んでおり、唯一ラミル皇女のチームだけが未だに3階層で燻っていた。
既に3チームほどリタイアしており、戦力的にこの3チームと然程変わらないラミルチームが残っているのは
ティモンが一身にゴブリンからの攻撃を受けていたからだ。
ラミル皇女も悪くはなかったが残りの4人が完全にお荷物状態になっており、3階層にも関わらず怪我を追うことが少なくなかった。
彼らは怪我を重ねるに従い動きが悪くなっており、ラミルはティモンと共に4人を守りながらダンジョン攻略を続けていたのだ。
「ティモン!早く4階層に行くわよっ!」
今しがた3体のゴブリンを退けたばかりのラミル皇女が声を荒げながら告げた。
目の前には4階層へと向かう階段が見えていた。
ようやくキュジケノスに会える、という乙女心が次の階層へと向かわせるのだが、今、彼女のパーティーは2人が怪我をして治療を受けている状態だった。
「殿下。2人の怪我は正直軽くありません。4階層に行くというよりはむしろリタイアした方が良いですよ」
ラオディアが治癒魔法を怪我した生徒に掛けながら、皇女を諭すように告げる。
高位治癒魔法を使える2人だが、簡単に治してしまうと無謀な戦闘行為に走ってしまう恐れがあるためレベル3〜4程度の魔法を使うことにしていた。
そう言った裏事情もあり、ラオディアはゴブリンの棍棒を受けた生徒の肋骨骨折は現在治療中で、もう1人の右腕上腕骨骨折はニカラウスが治療をしていた。
2人の生徒は完全に心を折られており、目は完全に虚な状態で視点が合わないほどだ。
ラミル皇女もティモンと一緒に先頭に立ってゴブリンと対峙していたのだから無傷ではなかった。
ゴブリンの棍棒を上手く受け流せなく、手首を痛めており強い斬撃を繰り出すことは無理な状態。
ティモンは1人で多くの戦闘を受け持たなければならないので、側から見ても分かるほど疲労困憊で肩で息をしている。
「ラミル様……正直、4階層に進んだらラミル様以外の方々をカバーする事はできなくなります」
「何を弱音を吐いて……「きっとどなたかは亡くなると思います」」
「亡くなる……?」
「そうですね。私もそう思います」
ラミル皇女の呟きにラオディアが応える。
ニカラウスは2人の会話を聞きながら、この場にいる講師の1人として、
「4人の事を考えるなら2階層に戻るか、リタイアが良いでしょう」
ニカラウスの言葉に、今回は怪我をしていない2人の生徒が高速で同意の首肯を繰り返していた。
そして、ラオディアが諭すように、
「1人の女性として恋心を優先したいのは分かります。ですが、殿下は殿下としての責任を果たさなければいけません。ニカラウス先生の仰る通り、後退か、それとも撤退か。どちらかをご判断ください」
ラミルと同い年のラオディアの言葉は、まるで師の言葉の如くラミルの心に突き刺さる。
そして、大きくため息を吐き、
「分かりました。ニカラウス先生。私たちラミルチームはここでリタイアします」
「そうですか。チームリーダーとしてよくぞ決断されました。それではラミルチームは今を以てリタイアとします。それではラオディアさん。治療が終わり次第6人を入り口まで護送して下さい」
「分かりました。それでは入り口まで戻りましたら4階層へと向かいますね」
ニカラウスはラオディアの言葉に頷いて、4チーム目となるラミルチームの成績を付ける為に魔石を預かった。
彼女たちは地道に3階層で多くのゴブリンを斃してきただけあって多くの魔獣石を持っており、その個数は実に176個にも及んだ。
3日目リタイアではあるが、最終的にこの個数は上位に食い込み、
ー 弱いチームメイトを慮っての早期リタイアがなければトップだったかも! ー
と言った感じに皇女の面目躍如に繋がってしまい、それが彼女を余計に勘違いさせてしまう事になるのだった。
一方、リュウタたちはと言うと、ラミルがリタイアした事にホッと胸を撫で下ろしていた。
何せあまりにも危なかしい戦い方をしているラミルのチームは軽くない怪我を頻発しており、ニカラウスたちはラミル専用の医療班と化していたからだ。
現状として1人はゴブリンの棍棒を脇腹に受けて吹き飛ばされ肋骨の多重骨折。
もう1人はそれを腕に受けて右上腕骨を骨折し、2人は戦線を離脱せざるを得ない状況だった。
そにも関わらず無理に治療して4階層に進もうとしていたのだ。
3階層でここまでの怪我を負うと言うのに、更に強く、しかも4体同時にやってくるするのだから下手すると死者が出てしまう事になる。
そうなるとラミルの階層を任されていたニカラウスが引責辞任させられてしまう可能性が濃厚。
そう考えていたところ、ラミルのリタイアと言う宣言があったのだ。
「ふーっ……これで彼女らのチームは無事に実習を終えられる」
画面を食い入るように見つめていたパパデウスが安堵の声を上げた。
ニカラウスをラミルのいる階層に任命した手前、引責辞任とはならなくても何かしらの責任が問われるからだ。
「教授、まだダンジョン入り口には着いていないので安心はできませんよ」
「ラオディアが護衛に入るんだ。問題ないだろう」
「まぁ、確かにそうではありますが」
「もう、リュウタは心配性なんだから。それよりヒデキはどうなっているの?」
「ヒデキ?あぁ、彼らは8階層に到着しているよ」
ヒデキたちが画面に映し出された。
彼らが身に付けている装備は学園指定の物とは全く違う物で、明らかにラミル皇女が使用しているものよりも上等な物だ。
「あの装備……違反じゃ」
「エレン、確かにあれは実習規則違反だな」
エレンの指摘にパパデウスが応えた。
ダンジョン実習は学院指定の物を身に付けて参加しなければならなのだ。
付与魔法などで性能をアップさせるのは問題ないのだがヒデキたちのように全く別の物を使っているのであればそれは違反行為となり失格となる。
「まだ私たちが直接目にした訳ではありませんから……」
「確かにそうだな。10階層に到着したら確認次第失格だな」
「教授のご判断にお任せ致します」
3人はヒデキたちの動向を観察していると彼らは8体のゴブリンたちと遭遇した。
ゴブリンメイジ、ゴブリンソルジャーが2体、そして通常のゴブリンが5体の計8体だ。
通常のゴブリンではあるのだが、当然、1階層のゴブリンとはパワーも疾さも数段上のレベルのもので、学院1年生では楽に勝てるようなレベルではない。
そこにヒデキの指示が飛んだ。
〈魔獣の詠唱は早いぞ!アイリ、サナエは後方で詠唱!俺とリョウジ、シンヤは剣で応戦だ!〉
「ほう、なかなかのリーダーシップじゃないか」
「そうですね。それも自ら先頭に立つというのも悪くない」
〈魔獣の魔法は威力が高めだから気をつけろ!〉
ヒデキは適切な注意を与えながらゴブリンを屠っていく。
やはりリョウジとシンヤよりも数段上の戦闘力を有しているようだ。
「ヒデキという男、ソルジャーを1撃だぞ……凄いな」
パパデウスは両腕を組んで彼の一挙一動を備に観察し、その淀みない動きに感嘆の声を上げた。
パパデウスは数理学科の教授ではあるがダンジョン実習の責任者を務められる程度、魔法や剣術を嗜んでいた。
それ故に、ヒデキの動きは学生の範疇に収まらない事を一目で理解したのだ。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




