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興味を持って頂きありがとうございます。
ダンジョン実習2日目。
3階層で野営していた生徒たちは各々朝食を摂りダンジョン実習の準備をしていた。
この階層で学生の監視をしていたニカラウス、キュジケノス、ラオディアそしてデメテアの4人は学生の健康状態など問題がないことを確認し、自分達の準備を始める。
キュジケノスたちは学院指定の装備に着替える。
ニカラウスもまた講師専用の装備に着替えているのだが、彼らの装備はリュウタが特別に付与を行なっているので様々な能力のバフが掛かっている。
「騎士団の標準装備に比べたらおもちゃみたいな感じだけど、これでも世間一般からしたら伝説級なんだよな」
キュジケノスがそう呟くと、ラオディアとデメテアも首肯する。
「そうよね。クラスメートに対してなんだか申し訳なく感じるわ」
「本当に。これだけでも上級ダンジョンを踏破できそうよね」
「実習規則では学院指定の装備使用としか定められていませんから付与は問題ありません」
ニカラウスの言葉に3人は顔を見合わせて笑い出した。
3人がいう「クラスメートに悪い」は建前での話なのだが、それに対して真面目に回答してきた事に思わず笑いが出てしまったのだ。
「何か可笑しな事を言いましたか?」
「スミマセン。先生は可笑しな事を言っていないです」
「ただ、話の論点が私たちと少し違った事に思わず……」
「気分を害してしまったら申し訳ありません」
「いえ。それなら問題ありません」
ホムンクルスとしてこの世に生み出されてまだそれ程長く生活していない事もあり、思考がまだ柔軟ではないのだな、とニカラウスは今回の件を頭の片隅に閉まっておく事にした。
3階層にもなると少しずつチームの差が出始めてきた。
何せ6人で37チーム。
貴族学部は30人中9人が抜け21人がダンジョン実技に参加し、魔術学部が50人と騎士学部が150人。
21チームは貴族学部の生徒が1人いるが残りは貴族学部の生徒がいない事になる。
しかも、魔術学部50人のうち34人と騎士学部150人のうち70人が貴族学部に堕ちたいわゆる落ちこぼれ貴族。
貴族は同じチームに一般市民を入れたがらない事もあって、自ずと貴族学部の学生がいるチームは貴族出身者が集まる事になる。
魔術学部と騎士学部は落ちこぼれ貴族を受け入れた後の残り少ない枠を勝ち取った者たちなので、多くの貴族出身者では勝負にすらならないほど実力がある。
そうなるとダンジョン実習を行う際には貴族学部の生徒がいないチームの方が全体としての力は上がると言うのが一般的なのだ。
2日目の昼過ぎに3階層に残っているのは全て貴族学部の生徒がリーダーとなっているチームだけとなった。
そこでニカラウスとラオディアが3階層に残り、キュジケノスとデメテアは4階層へと進みサポートをする事になった。
「ニカラウス……先生!どうしてキュジケノスさんが居ないのですか!」
ニカラウスに食ってかかってきたのはラミル。
自分が指定した御学友が同じ階にいないのを知っての言葉だ。
「ラミル殿下。それはラミル殿下がこの階に留まっておられるからで、その場合の適任は当然私となり性を偏らせない為にももう1人は女性を配置するのが一般的でしょう」
「ぐっ……」
皇女らしからぬ苦虫を噛み締めたようなくぐもった声を漏らす。
「ティ、ティモン!すぐさま4階に進むわよ!」
「そ、それは……」
「無理だと言うの?」
「はぃ……」
ラミルが率いるチームは魔術学部と騎士学部に所属する貴族の子女たちで構成されており、最高戦力がティモンで次点がラミルというチーム全体の総合的に見れば弱い部類に入る。
4階層には行けるだろうが無理に進めば怪我を負う可能性は大きいだろう。
「ラミル殿下。正直なところラミル殿下のチームは然程強くありませんのでゆっくり進まれませんと思わぬ怪我をしますよ」
「くぁwせdrftgyふじこ!?……ふーっ。なら、あなた達がサポートしなさい!」
「私たちは戦力的サポートはできませんので」
ニカラウスの取り付く島もない態度に怒り心頭に達したラミルだが、ティモンの制止もあり自力で先に進む事を選ぶ事にした。
「ニカラウス先生、もう少し柔らかく言ったほうが良いかもです」
「そうですか?いわゆるものは言いようって事ですか……ふむ。検討しましょう」
ラオディアはニカラウスの言動について少し心配になったのだが、それは彼らを監視しているリュウタも同様だった。
アンティオコスもその気があるのだが、人型ホムンクルスのニカラウスは第1号だからだろうか少し融通の効かないようで、それについて修正すべきではないかと思うリュウタだった。
ヒデキは6階層を難なくクリアして7階層へと進んでいた。
ゴブリンの上位種であるゴブリンリーダーが出てきてはいるが、5人にとっては全く脅威にすらならないような存在だ。
7階層からはゴブリンリーダーだけでなくゴブリンソルジャーも加わり最大7体もの集団で襲ってくる。
ソルジャーは比較的強度の高い剣を持っているのでそれなりに脅威ではあるのだが、ヒデキたちのレベルならゴブリンからわざとに攻撃を受けてもかすり傷すら負わないだろう。
「初級ダンジョンだからドロップするのは質の低い魔獣石ばかりだなぁ」
「まぁ、ここは質より量だと思えば悪くないだろ」
「そうよね。実質ここには私たちしかいないから好きなだけ魔獣石が得られるわ」
「途中で数えるのをやめちゃったけど1000個はあるよね」
ゴブリンの魔獣石は非常に安いとはいえ、数があればそれ相当の収入になる。
今回の実技では個数も重要だが個数も評価され、1人あたり200個は確実に総合1位を取れる個数だ。
もう何度目になろうか、ゴブリンの集団が襲ってきた。
リョウジ、シンヤ、アイリ、サナエが火魔法を放つとゴブリンの集団は一気に燃え上がり魔獣石だけが地面に転がっている。
「次は魔法ではなく剣を交えないと腕が鈍っちまうな」
「贅沢な悩みだよな」
「火魔法ってこんなに便利だったのね」
「なんだか剣術も強くなったような気がするし」
「そりゃあそうだろ。これだけ魔獣を斃していればレベルも上がるってもんだ」
ヒデキは自分自身だけは鑑定できる事から自身の上がり方を見て4人のレベルアップも推測できているのだ。
「このまま8階層に向かってそこで野営な!」
「「おうっ!」」
「「分かったわっ!」」
4人は破竹の勢いでダンジョンを進んでいく。
7体が4セットで来てもヒデキらは焦らずに対処しており、3日目には8階層に到着していた。
8階層からはゴブリンメイジ……魔法を使うゴブリンも登場してこれまでより一段と危険度が増し踏破を困難にさせる階層だ。
早速、ゴブリンメイジ、ソルジャーが2体含む8体ものゴブリンと遭遇した。
「魔獣の詠唱は早いぞ!アイリ、サナエは後方で詠唱!俺とリョウジ、シンヤは剣で応戦だ!」
リョウジたち4人は気合いのこもった短い応答と共に男3人は一気にゴブリンに向かった。
そこにゴブリンメイジが火球を放つ。
「魔獣の魔法は威力が高めだから気をつけろ!」
ヒデキの声に反応しリョウジとシンヤは火球から回避行動を取りながらゴブリンに接近する。
同じゴブリンでも階層が進めばレベルも上がっており、1階層のゴブリンと比べると8階層のゴブリンは数段強くなっている。
振ってくる棍棒の速さも強度も上がっている。
それをリョウジとシンヤは難なく避けてゴブリンの胴体を上下に分つ。
ブシャ
青黒い精霊種特有の血を2人の後方で撒き散らしていく。
2人は次の2体も1撃で屠り、次に進む。
その間にヒデキは神速を使ってメイジに近づき持ち替えた魔剣で斬りつけると、魔剣はメイジの魔力を奪っていく。
魔剣は魔力を与える事で成長していく剣だ。
ヒデキは自身の魔力を少しずつ与えてはいたが、やはり人間と言う種族は魔獣に比して魔力が少ない。
そこで上位の魔獣や精霊種を魔剣で斃す事でその個体の持つ魔力を奪い成長させていく。
ヒデキはそのままソルジャーと対峙し、剣を合わせる事なく首を刎ねる。
(やはりソルジャー程度では然程成長しないか……)
ヒデキはそう思いながらメンバーの戦況を確認するとリュウジもまたゴブリンを斃し、残り1体のソルジャーとシンヤが向かい合っている所だった。
「へっ、リュウジ、悪いな。こいつは俺の経験値だ!」
そう言うとシンヤはミスリル合金のブロードソードに火魔法を纏わせた。
これにより剣による斬撃は通常より数倍の攻撃力を持つ事になる。
「Gywaaaaaaaa!」
ゴブリンソルジャーが咆哮を上げながらシンヤに襲い掛かる。
ビッグゴブリンよりは小さいがそれでも人族と同じくらいの身長がある。
元々、通常のゴブリンでさえ人族より遥かに強い膂力を保持しており、ゴブリンソルジャーはそれ以上の膂力を誇るのだろう。
右手に持つ剣は人族が用いるグレードソードよりも更に太く、幅も広い斬馬刀のような剣だ。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
シンヤはそんな巨大刀に怯む様子もなく、ゴブリンソルジャーに向かった。
ゴブリンソルジャーが斬馬刀を振り下ろすよりも早く彼は懐に入り込みそのまま胴体を上下に分つ。
ニヤァ
と一瞬、ゴブリンソルジャーが笑ったかと思うとそのまま剣を横に薙ぎ払うかのように大きく振るうと内臓を、そして血液を循環油にでもしたのか、胴体切断面を軸に回転してシンヤに再度斬り掛かった。
シンヤはそれを難なく避けると今度は確実に斬殺するために首を刎ね、そのまま斬馬刀を持つ腕を肩から斬り落とす。
ガン、と剣が落ちる音を立てると共にゴブリンソルジャーはダンジョンに吸収され、魔獣石をそこに残した。
「シンヤ、ナイスっ!」
ヒデキのエールに軽く首肯し魔獣石を拾い上げ呟いた。
「俺がゴブリンソルジャーに圧勝、か……」
そんなシンヤの言葉にヒデキが応えた。
「ああ。シンヤだけじゃない。リュウジ、アイリそしてサナエもだ」
「そうだな。ヒデキは別格だけどな」
「そうだな」「「そうね」」
ヒデキたちは互いの成長を噛み締めながら背中を軽く叩き合う。
その後も彼らは難なくダンジョンを進んでいき、その日のうちに10階に到着するのだった。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




