005
興味を持って頂きありがとうございます。
神界から異世界……人間界へと転移してきた俺は先ずは今の自分の状態を確認した。
左の腰には刀を下げ、背中には最小限の荷物を背負っていた。
刀は鋼鉄製のもので良1等と人の世界ではそれなりに良いものが下がっている。
そして何処かへと通じる街道と思しき場所に立っているが周囲には人の影は見当たらなかった。
「変な森の中とかでなくて良かったよ……」
そう呟くと、今度はこの世界の事について思い出していた。
ブリギッド母様はこの世界の常識などは自然と習得できると話していたので俺はゆっくりと目を瞑り、1つ浅めに息を吸い込みながら自分の記憶を辿ってみた。
……
目を開けると様々な知識が頭の中にある事が分かった。
自分の“記憶”を思い起こしてみると、この世界で15年間生きてきた記憶がある事に驚く。
生まれてきた時から今日までの記憶だ。
そして、今、俺はセレーコス帝国と言う国のここから西にあるカルマニア領の領都ペルセリスに向かっているところだ。
最終的には更に西に向かって進んだ場所にある帝都エクバタナへと向かい、この世界での父親であるリュウイチに会って帝立セレーコス学院に入学する、事になっているらしい。
俺の一族であるカジ一族が住んでいるのは帝国の中でも東端、辺境とされるサカスターナ地方の村落でその名もカジ村。
俺はそこから成人となる15歳を迎えた事で人との繋がりや村では知り得ない知見を得るために学院に入学して常識を学ぶ、という事になっていた。
そのカジ村から西へと向かい、最初の大都市がペルセリスになる。
「旅をするために必要な個人証明が、このカード……お金もある……食料も……あるな」
持ち物を一通り確認して再び歩き始めた。
何せ、この世界の地図は俺の頭の中にある。
自分がいる位置も把握できており、カジ村を出てから6時間ほど歩いた位置にいる事も分かった。
ペルセリスでは冒険者ギルドに加入するというのも目的の一つ。
この世界ではギルドに加入した方が様々な便宜を図ってもらえるからだ。
俺は既に鍛治師ギルドに加入している様だけど魔獣の討伐をするなら冒険者ギルドの方がメリットが大きい。
討伐部位の買い取りなどはそのギルドに加入していないと売る時に少し安くなってしまうからだ。
取り敢えず俺が置かれている立場などを理解して目的を確認しつつ歩き始めたのだが、見渡す限りまっすぐの道が続いていた。
「この近くに宿なんかないよなぁ」
目的のペルセリスまでおよそ550キロ。
のんびりと6時間歩いたのならせいぜい25キロ程度しか進んでいないだろうからまだ3週間以上かかる距離だ。
そんな中途半端な場所に都合の良いように宿があるような村落があるはずもない。
「もう少しで夕方になるからここら辺で野宿でもするか」
街道の脇の草っ原を魔法で刈ってしまい空き地にする。
神術の下位互換として魔法がある。
神術は使用すると神気が発生するのでそれを察知する職業の神官、特にカーリス教の神官に見つかると旅の自由が奪われてしまう、という知識があり魔法を使う事にしたのだ。
土地を均して空き地の四隅に魔紋を描き結界を発動させる。
これで獣や魔獣、そして虫なども近寄れなくなる。
「獣も怖いけどやっぱり虫が来ないのは良いよな」
一人呟きながら虚空庫から薪を取り出してそれを焚べる。
簡単な料理ができるように土魔法で竈門を作り、そこに俺が神界で創った中華鍋を置く。
鍋を熱して油を馴染ませ、そこに虚空庫の中で下拵えをした野菜と肉を入れる。
俺の持つ虚空庫はかなり使い勝手が良く、今ある材料から下拵えから調理だけに及ばず建造、それに複製なんかもできるのだ。
ただ料理はやっぱり自分で作りたいので下拵えのみに。
野菜は昔よく食べていたもやしとピーマンそしてにんじん。
肉は豚のスライスだ。
ジュ……
高温だと分かる音を立てて肉と野菜を一気に炒め塩と胡椒でシンプルに味付けをする。
出来上がった野菜炒めは皿に盛って虚空庫の中に入れる。
こうすればいつでも出来立ての状態で取り出せるからだ。
「米を飯盒に入れて……」
竈門に飯盒をかけてご飯を炊く。
「そういやあ、米って5万年ぶりに食べるんだよな」
そう考えるだけで涎が出てくる。
飯盒の中で水が沸騰しているのが音で分かる。
このままで14〜15分ほど火にかけ、それから5分ほど蒸らしたらご飯が炊き上がるだろう。
土魔法でテーブルと椅子を作りその上に飯盒を置く。
茶碗と箸を用意してこれからご飯を食べようとしたところ子犬がクゥンクゥンと喉を鳴らして結界の中に入ろうともがいていた。
「ん?子犬?周囲に親犬の姿は見えないが……」
俺は結界の所まで行くとそこには全身真っ白の毛がふわっと膨らんでいる体長40センチほどの子犬がうずくまり俺の事を潤んだ瞳で見上げていた。
「随分可愛い子犬だなぁ……?」
子犬を抱き上げると首輪がしてありそこには手紙が括り付けられていた。
しかもその手紙は俺宛になっていた。
『リュウタ。旅は道連れ、1匹の神獣を遣わす。この子は形は小さいが狼型神獣の中でも最強とされるホワイトフェンリルだ。きっとお前の助けになるだろう。両親ズより』
「ははは。随分と過保護な親たちだ。まぁ確かに一人旅は寂しいからな。お前もお腹空いただろう?一緒に食うか?」
「アン!」
ホワイトフェンリルは可愛く吠えると尻尾を大きく左右に振っている。
「そうだ、名前を付けよう。真っ白でお月様のようだから月の狼という意味でマーナガルム。それがお前の名前だ」
「アン!」
〈ごしゅじんさま。きょうからよろしくおねがいしますー!〉
「ん?これって……」
〈ねんわですー。かんがえるだけでかいわができるんですー。なづけによってごしゅじんさまのけんぞくになったのでねんわがつかえるようになりましたー〉
これで話し相手には困らなくなったかな?
「ご飯食べるか!」
「アン」
俺は竈門の方に戻りマーナガルム、略してマーナの分も肉を焼く事にした。
じっくり焼いてから食べやすいように切り分けてコイツ専用の皿を用意してテーブルに置く。
椅子を用意して椅子の上に乗せてあげるとテーブルで食事ができそうだからだ。
やっぱり神様ズが贈ってくれた子の食事を地面に置いて食べさせるのは気が引けたからで、肉の他にも野菜炒めとご飯を並べる。
味噌汁も欲しかったが今は少しでも早く食事をしたかったのでこれで良しとしよう。
「さあ食うか。いただきます!」
〈いただきますー!〉
久しぶりの米というか、神界では食事をしていなかったので米どころかこうやって食べる行為自体が5万年以上ぶりだった事に気が付いた。
「うっっま!やっぱ食事をするって大事だよなぁ〜」
「あぅ〜ん!」
マーナも俺の言葉に同意して吠える。
神獣だからなのか、お皿からハグハグ食べていても溢す事なく綺麗に食べている。
飯盒で2合の米を炊いた筈なのだがいつの間にか綺麗になくなっており沢山作った筈の野菜炒めも見事に胃袋に収まってしまった。
「ふーっ、食った食った!」
「あぅ〜」
俺とマーナは上半身をテーブルに預けてまったりとしていると、ふと、風呂に入りたくなった。
そう言えばいつもは神術で身体を綺麗にしてはいたがお湯に浸かるというのはやはり正義だと思うんだよな。
そこで2メートル四方、深さ70センチほどの穴を土魔法で掘り周囲を硬化させる。
そして水魔法で水を満たして火魔法で温めるのだが……
温度調節が上手くいかん!
一度は間違って全ての水を蒸発させてしまうし、加減しすぎると水は全く温まらない。
少々難儀したが水魔法と火魔法を融合させてお湯を出す魔法がいつの間にか派生していて、どうにか湯を張る事に成功し湯船に浸かれるようになった。
もちろん湯に浸かる前に俺とマーナに清浄魔法をかける。
それからゆっくりと身体を湯に沈めると……
「はぁ〜〜最高っ!」
〈さいこーですー〉
空を見上げると、この世界の月が俺たちを温かく照らしてくれているのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
宜しければ感想・ブクマ・評価を頂けると嬉しく思います。
これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




