049
興味を持って頂きありがとうございます。
少し長めですがお付き合いください。
入学式が終わり各授業のガイダンス期間が終わると本格的に授業が始まる。
それに先立って皇女ラミルからはキュジケノスに対していわゆる”御学友“として指名が回って来ていた。
皇帝からシデトリオ家を通して。
学院長を通して。
何より、ラミルの護衛騎士ティモンからは直接「皇女殿下の御学友として常にお側に控える様に」との達しがあった。
皇女の御学友と言うのは表向きは文字通り友人という意味合いなのだが、特に異性の御学友というのは将来の婚約者候補なのだ。
ラミルは第2皇女と言う事もあり伯爵家、しかもシデトリオ家は伯爵家の中でも上位に位置するのだからその長子と結婚する事には何ら支障はない。
「リュウタ様……どうしたら良いでしょうか?」
教室ではラミルも同じ貴族学部という事もあってキュジケノスの寮の自室で相談を受ける事にした。
俺の自室だとエレンたち婚約者もおり、彼女らはラミルを嫌っているので相談内容を聞かれるのは良くないと思ったからだ。
「キュジケノスには婚約者はいないのかい?」
「婚約者は……正式な婚約ではないですが私的婚約は、しています」
私的婚約というのは俺とエレンが最初に結んだ個人間の婚約の事だ。
キュジケノスは今年貴族学部に一緒に入学した幼馴染のデメテアという女性と将来を誓い合っており、お互いの親もまたそれを黙認していた。
正式な婚約をしていないのは、ただ単にキュジケノスが転生者で成年前に婚約する事に対して抵抗があったに過ぎない。
そこで、両家ではキュジケノスの学院卒業に合わせて正式に婚約するとの契約をしていた。
「婚約契約かぁ。先に殿下から婚約を申し立てられたら少し弱いよな。これから急いでデメテアさんと正式婚約するとそれもまた問題になりそうだし」
タミレから婚約を申し立てられた時の事を思い出しながらアドバイスを送る。
キュジケノスは眉間に手を当てながら考え込んでしまうが、こればかりは今ここで考え込んでも結論が出ないものだ。
「いろいろ聞いてみたけど、ヒデキと子爵の息子が争った時に君が止めに入ったのを見て見初めたみたいだよな」
実際は偵察用のホムンクルスが集めた情報であり、彼女の自室では完全に舞い上がっている事が分かっている。
彼女は今すぐにでも婚約したい様だがキュジケノスに私的婚約者がいる事も調査済みであり、それを無視して婚約を申し込むのは帝国民からすると略奪愛にしか見えず、2人の結婚は国民から祝福されないだろう。
それならば3年間御学友として過ごし、卒業式に合わせて正式な婚約を、と考えているようなのだ。
ただ、この情報は非合法で収集したものなのでここでは黙っている事にした。
「やはりあの時でしたか……何となく視線は感じていたんですよね……」
「取り敢えず殿下の御学友を受けはするものの、受ける授業のクラスをなるべく同じにならない様にしたらどうだろう。彼女は正直なところあまり成績は良い方じゃないからね」
「そうか!その手がありました!授業が終わった後は真っ直ぐ寮に戻れば良いですし」
「君なら各学科全てでAクラス入りできそうだけど……」
俺の歯切れが悪いのには理由がある。
貴族学部は30人ではあるが習熟度別のクラス編成が行われ、上位から順にAからCクラスに分けられる。
魔術であれば、魔術Aを筆頭に魔術Cとなる。
必ずしも10人ずつと言う分け方ではなく、実力差を考慮したもので、例えばAクラスを8人と言う事もあるのだ。
成績で言うなら、俺、エレン、ノルン、マヨルカ、タミレ、ホムンクルスのアンティオコス・エピファノス
、転生者仲間のラオディア・パルミュールそしてキュジケノスは確実にAクラスだろう。
しかし、デメテアはそこまでの実力はなくこのままではCクラスが確定。
キュジケノスの別のクラスになったらラミルに目を付けられて将来を壊される可能性もある。
「やはり、デメテアさんもパワーレベリングが必要かな」
「リュウタ様、パワーレベリングと言うのは?」
そこで俺はエレン、マヨルカ、タミレに行ったレベルアップを説明した。
それによりキュジケノスは合点がいったようで、
「なるほど……だから神様からの加護がないのに婚約者様方の実力はこの世界から言うと規格外なんですね!」
「規格外って……まぁ、そうなるかな。そうなればデメテアさんもAクラス入り確実になるよ」
「それでは自分も……できればラオディアさんやファサドさんも一緒に……」
「良いけどその代わりにエレン騎士団に入団してもらうよ?」
「それは願ったり叶ったりですよ!」
こういった流れでアンティオコスを含めた俺たちは早速パワーレベリングに向かった。
向かった先は港湾都市グリエフ。
エリュタゥラー海には海龍などの大型魔獣がそれなりにいる事が分かっているから、そこでパワーレベリングを行う事にしたのだ。
結果、キュジケノス、ラオディア、デメテア、そしてファサドは4人とも所持しているスキルレベルはそれぞれ9となった。
何より、4人だけでなくタミレとアンティオコスもまた龍討伐者の称号を得る事に。
ファサドは表向きは冒険者ギルドでの活動はせず準構成員という事にした。
結果として、エレン騎士団の団員11人全員が龍討伐者、そして冒険者ギルドのSランクとなったのだった。
ガイダンス期間が終わり、本格的に授業が始まった。
そしてその最初の授業はクラス分けのための考査が行われ、それが原則1年間継続する事になる。
貴族学部の場合は魔法、剣術、そして入学試験にはなかった帝国法の試験の総合得点によりクラスの決定が行われる。
魔法と剣術の試験はPvP、すなわち対人対戦試験、それも帝国に在籍しているSランク冒険者を高額報酬で依頼して行われる。
これは将来の帝国を背負って立つ貴族たる者、学生の時分から世界最高戦力と接する機会があった方が良いという考えだからだ。
場所は入学試験時に使用した実技場。
円形のコロッセオの様な形状で石造りの堅牢そうな建築物だ。
入学試験時と同じく強力な結界が張られており、相当な斬撃が加わっても実技場が破壊される事はないだろう。
前回と異なるのはより怪我しにくいように万が一即死レベルの攻撃が加わった場合、即時に治癒魔法が掛けられる様になっている。
ただし、四肢が切断された場合はそれが回復する程の治癒魔法ではなく、あくまで死なない程度のものに過ぎないので気を抜いて試験に臨むと危険を伴う事もある。
「あー、貴族学部の諸君!私は3人しかいなかった初期の冒険者ギルドSランクの1人であるゲランだ。これから魔法実技試験を行う。順序は入試の際の順位の下からだ!」
今、Sランク冒険者は総勢14名。そのうち11人がエレン騎士団だ。
ゲランは誇らしげにそういうと、デメテアを指名した。
彼女は入学時の魔法試験では貴族学部で最下位だったからであり、デメテアは小さく「はい」と応えおずおずと実技場の中央に進み出た。
「確か、付与魔法が得意だったか。微妙な魔法だな。まぁ魔法実技だから武器の使用は認められないが、大丈夫か?」
「はい……大丈夫です……」
「そうか!それでは試験開始だ!」
そういうとゲランは火槍を発動しそれをデメテアに向かって放った。
火球よりは上位の魔法ではあるが威力を抑えているのが良く分かる。
そんな火槍が真っ直ぐデメテアに向かうが、その火の槍を彼女は軽く手で払い除けた。
「ん?何が起こった?火槍っ!」
ゲランは再度デメテアに向かって火槍を放つが前回同様手で払い除ける。
洋服に付いた埃を払い除けるように手首の動きだけで、だ。
「ぬなぁ?火矢雨!!」
火矢を一度に数十と放つと言う中型魔獣でさえ一撃の元屠る事ができる高火力魔法を放つ。
しかしデメテアは慌てる事なく、制服のリボンを解いてそれに魔法付与を行う。
「絶対障壁展開!魔法反射!」
デメテアは攻撃魔法を放つ事はできないが、物であれば何にでも魔法を付与できる。
その物を通して攻撃魔法を放つ事もできるのだが、今回はゲランの放った魔法をうまく利用する事を選んだ。
その方が魔力消費が少なくて済むからだ。
ゲランの放った火矢はデメテアを害すると言う目的を持って向かったのだが、デメテアに触れる事なくその全てがゲランに反射された。
「ぬぉっ!なかなかやりおる!」
ゲランはその火矢を全て再度放った火矢で相殺した。
魔法の攻防を見ていたクラスメートからは「あんな高度な事はできないよ……」といった弱音を含んだ言葉が聞こえてきた。
「デメテア!素晴らしい!!次っ!」
デメテアはペコンと小動物のように小さくお辞儀をしてキュジケノスの所にトテトテ歩いていった。
そんな彼女にラミルの冷たい視線が向く。
次の生徒はあっさりと火矢の餌食となり早々にリタイア。
それが19人ほど続く。
「んーデメテア以外は全くなってないな。次、ティモン!」
ティモンはラミルの護衛騎士兼侍従。
ラミルから1歩うしろに下がった場所が彼の定位置なのだが、そこで軽く右手を挙げて実技場の中央へと向かった。
「護衛騎士か。それなら少し厳しめでも良いか……それでは試験開始っ!」
ゲランがそう宣言するや否や、ティモンが火矢雨を放つ。
ティモンもまたゲラン同様火魔法が得意のようだ。
「ほう。事前に魔法を放つ準備をしていたか。悪くない、がっ!」
ゲランはティモンの放った火矢雨よりも多い火矢雨を放ち、魔法を相殺しつつ攻撃に転じた。
しかもティモンの火矢よりも高火力なのは見るからに明らかだ。
「S級と言えど魔力には限度があるでしょう!いつまでそんな攻撃が放てますかっ?」
「ふっ、小童にそんな事で見縊られるとはな」
そうゲランは言うと、雷雨を放った。
以前、ペルセリス高原でマヨルカが放った雷雨に匹敵するものでその一撃を受けるだけでその身体は蒸発するレベルだ。
流石にティモンは焦り、回避へと全力を尽くすのだが実技場一面に降り注ぐ雷雨にはなす術もなく降参した。
「次は首席のラミル殿下か……」
「はいっ!」
あの皇帝の娘とは思えない新入生らしい返事が実技場に響く。
そんな返事を聞いてゲランは「うむ」と軽く返事をし試験の開始を伝えた。
ラミルもゲランと同じく詠唱を始めていたようだが、入試の時でようやくレベル2の火魔法の使い手。
今放とうとしている火魔法もまた火球だった。
だが、
「おぉっ!火力は低いがこれはっ!!」
ゲランは足元から発せられた火球をサイドステップでどうにか避けた。
魔法というのは基本、術者から発せられるものであり、魔法の発出場所を術者から離れた場所にできる使い手はほぼ存在しないのだ。
「火球っ!」
ラミルの詠唱が完了すると今度はゲランの視界の外から火球が襲うが、流石に2度目は驚きもせず難なくその火球を叩き落とした。
「なかなかだが単調すぎる。もっと実力を上げるか策を講じるんだ」
そういうとラミルの周囲に火球が幾つも浮かび上がる。
ゲランはラミルの放った魔法を真似て、彼女以上の威力と技術に昇華させて再現して見せたのだ。
「……降参です」
「悪くなかったぞ。次、ラオディア!」
ラオディアは創薬などのスキル持ちであり、魔法としては水魔法の使い手だ。
彼女はゲイルの呼びかけに応じて右手を真っ直ぐ上に上げて大きく返事をして実技場の中央に立った。
「それでは参りますっ!」
ラオディアがそう言うと彼女が増えた。
「なっ!?」
ゲランは驚きの表情を示したが、その瞬間ラオディアたちに囲まれまいと一気に離れる。
だが、ラオディアたちはゲランを囲みながら水槍雨を一斉に放つ。
「舐めるなっ!」
ゲランはそう咆えると火槍雨を放ちラオディアの水槍雨を迎え撃った。
火槍雨はティモンに対して放った火矢雨よりもより輝きを増した高温のものだ。
ラオディアの水槍はゲランの火槍がぶつかる度にジュッと蒸発していく。
しかし圧倒的な水槍の数に火力で勝る火槍であっても敵わず、ゲランは追い詰められていく。
「ふっ。掛かったな」
ゲランはそう言うと右手で指を鳴らすとラオディアたちがいる地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「無傷で帰せなくて悪いが……灼熱の焔っ!」
そう言うと魔法陣から巨大な焔柱が発生してラオディアたちを包んだ。
その焔柱を見つめ勝利を確信したゲランは視線をそこから外して俺たちの方を見て、
「お前たち、エレン騎士団のメンバーか……。厄介だな……」
言葉を言い終わるや超圧縮水流と言う声が焔柱の中から聞こえてゲランを襲った。
「なっ?あの焔の中で生きているだと?」
ゲランは超圧縮水流を躱すが、その水流はラオディアたちから同時に放たれているので幾条にも及んでいた。
躱しても躱しても迫り来る超圧縮水流にゲランはとうとう白旗を挙げた。
「くっ……降参だ……」
「リュウタ様、作戦勝ちでしたっ!」
ゲランの降参宣言を受け、ラオディアは焔柱から出てくると、ゲランに一礼をしてすぐさま俺の所に来て勝利宣言をしにやってきた。
今回、彼女は複数の水魔法を同時行使と言う超高難度な事を行っていた。
水魔法による分体の複数作製、障壁展開、超圧縮水流の多発動、そして魔法転送による多方向からの同時攻撃。
水魔法レベル9を遺憾なく発揮した波状攻撃にゲランは堪らず降参したのだ。
「エレン騎士団は全員Aクラスだ。流石に他のメンバーもこれだと俺も命が惜しいんでな!クラス分けは後ほど発表する!!」
ゲランはそう言うと実技場を後にするのだった。
〈実技場の外でのゲラン視点〉
数か月前まで冒険者ギルドのSランク保持者は3人だけだった。
最近ではSランクの粗製濫造なのかエレン騎士団のメンバー全員がSランクなんてふざけた状態になっている。
それなのでSランク昇進基準が見直されたばかりだと言うのに今月更に5人のSランク昇進者が追加され、しかも全員がエレン騎士団だと言う。
そんな奴らの実力を試すちょうど良い機会だと思ったのだが……
一番弱そうだったデメテアでさえ余裕で俺の攻撃をいなしていく。
俺の魔法は大陸でも最強と言われて久しいというのに、その攻撃を物ともせずいなしていくのだ。
恐らく次に戦ったラオディアと同じくらいの実力を持っているのだろう。
そのラオディアは驚愕する事に俺の最大火力の魔法を直撃しても無傷……やってらんないわ!
取り敢えず、エレン騎士団をAクラス、皇女と護衛騎士は……Bクラスだよな。
実力が違いすぎて同じクラスだとかえって危険だ。
はぁ……苦情がくるんだろうな……特にグレイオスから……
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




