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興味を持って頂きありがとうございます。
エレンに従ってきた騎士たちの家族も同行していた事もあり、レマイオス王国では短時間の滞在となり日を改めてゆっくり滞在する事を約束して帝都エクバタナへと戻る事になった。
時間はなかったが、タミレのミグロホリクムにもホムンクルス100体ほどと通信機器を置いて行き王国内に流通・通信網を作らせる事にした。
「これでレマイオス王国からバクトゥーリア王国を縦断する流通・通信網が完成するかな」
「リュウタ、それってエクバタナにいながらバクトラ名物を手軽に食べられるってこと?」
「ははは。エレンは色気より食い気か。その通りだよ。バクトラだけでなくテーベの名物も手軽に食べられるさ」
この話を聞いてタミレはブツブツと独り言が始まった。
各国の、そして地方の特産品や資源などを手軽にやり取りできる流通網の存在は商会としては万軍を手にしたのと同意だからだ。
それをどうやって機能させるか考えている様だった。
「そういえばセレーコス学院の入学式があと1週間ほどじゃな」
「そうでした。入寮手続きなどで忙しくなりそうですね」
「もう部屋の改装は終わり家具などの搬入は終わった頃だと思うよ」
学院の入学までには入寮している様に言われており、そのあたりの手続きはリュウイチが嬉々として進めていた。
そしてアンティオコス・エピファノスに渡してあった虚空庫(中)を通して創ってあった家具や食器、カーテンやリネン類などをその部屋に配置してもらっていた。
制服は一応、街の指定店で作ってはいたがそれらも神鱗布などで創り直し様々な付与を加えており、必要な物は一通り準備ができており後は部屋に入室さえすれば良いと言う状況なのだ。
エクバタナに戻った俺たちは入学までの僅かな期間を自宅ではなくカジ家別邸で過ごす事にしていたが、それだと身体が鈍ってしまうので空いた時間を冒険者ギルドの依頼を受ける事にした。
それというのも、Dランクまでの冒険者は多いのだが、Cランク以上の高難度依頼が溜まっている様で少しでも良いので受けて欲しいと頼まれたからだ。
そう言えば冒険者ギルドの受付のエカテリニはいつの間にか俺たちの専属になっていてた。
冒険者ギルドエクバタナ本部のギルドマスターであるパトレシオは重度と言える人族優位主義者であり、いわゆる亜人を中心としたエレン騎士団に対してマイナスの感情を抱いていたからだ。
だが、セレーコス帝国の最大戦力と言えるエレン騎士団の本拠地を他に移されると大きな損失となる事からエカテリニが専属受付嬢となりパトレシオが関与しない様にしたのだ。
そんな彼女から提示された依頼の内容はゴブリン殲滅依頼が3件とオーガ殲滅依頼1件。
これら殲滅系の依頼は人数が必要になる上に1体当たりの報奨金が然程高くなく設定されているので、集落の規模にもよるがあまり美味しい依頼ではなく危険度も高く厄介と言える依頼なのでどうしても塩漬けになりがちだ。
ただ俺たちの場合は使い魔がいるのでそれらにさせてしまえば一晩で依頼完了。
使い魔たちなら討伐部位の回収や溜め込んだ武器類や貨幣などの回収、ゴブリンやオーガの遺体の処理、何より集落の建物などの処分もしてくれるので後始末が楽なのだ。
そんな非公開戦力をタミレが登録した際に知ったのだろう、俺たちにこの手の依頼を回してきたのだ。
依頼を受けた翌日にはギルドに行き、
「エカテリニさん、殲滅依頼が、完了しましたよ」
とエレンが伝えると一瞬驚いた表情を見せつつも、
「流石エレン騎士団です!早速、確認してきますね。報奨金は皆様の口座に均等に振り込んでおきます」
「ええ。そうしてください。それと明日からは学院が始まりますので、緊急のものでなければ長期休暇までは受けない様にしたいと思います」
殲滅系の依頼を4件も達成すると当然ながらギルド内での評価はうなぎ登りに高くなっていく。
そして、エレンもまた騎士団のリーダーらしく振る舞える様になってきており、まだ成人したばかりの15歳、それも学院入学前には到底見えない様な貫禄が出てくるのだ。
こんな感じに学院入学前を有意義に過ごし、入学2日前に入寮した。
寮の部屋は上級貴族用個室を10室ほど繋げ、部屋は魔法で少し広げて柱や壁、ドア、そして窓に至るまで大幅に改装しており大型の浴室や5人同時に使用できる洗面所、この世界では珍しい個室の水洗トイレを5室用意し、5人いるメイドたちの部屋などもこの中に設置した。
一応、俺たち5人の寝室は別個に設けているが俺の部屋のベッドは5人寝ても狭く感じない大きさのものになっている。
この部屋でゆったりと寛いだり、同じ転生者で新入学生となるキュジケノス・シデトリオとラオディア・パルミュールと会合を持ったりもした。
2人とも貴族学部に合格しておりクラスメートになる。
そしていよいよ、学院入学式当日。
俺たちは真新しい制服に身を包み、入学式に参加する事になった。
入学式は大講堂で行われる。
天井が非常に高く20メートルはあろうか。
壇上には“首席合格者”である第2皇女ラミルの席もある。
学生は中央に貴族学部、その右に騎士学部、左には魔術学部、後ろには商学部と農学部の座席があり、副首席となる俺、エレン、ノルン、マヨルカそしてタミレ、それにアンティオコス・エピファノスは中央最前列に座席があった。
また、学生の家族である皇帝や上位貴族などは少し高い所にあるボックス席から学生を見下ろす所におり、下位〜中位貴族は後方にある2階席から入学式に参加している。
新入学生が次々と大講堂に入り指定された座席に座っていく。
皆、皇帝が謁見していると言う事もあり緊張した面持ちで背筋もピシッと伸ばして着席している。
〈あのラミル皇女は壇上に座るのね……多くの人が彼女の成績を知っていると言うのに、公開処刑されているみたい〉
タミレが相変わらずの辛口で念話によるグループ通話を始めた。
殲滅系依頼をこなした事で種族レベルも上がり特定個人との念話だけでなく、グループ通話も可能になったのだ。
〈確かマッドゴーレムの腕を斬り落とす事も出来なかったよね〉
〈彼奴が妾たちの上位に座するとは片腹痛いわ〉
〈でも、リュウタさんが選んだ事ですから……〉
〈そうね。でもそれを気にしないであそこに座れるのは流石あの皇帝の娘よね〉
うーん。
なんだか辛辣な意見が飛び交っている……
まぁ、彼女が首席となってくれた方が俺たちが目立たなくなるのは良いことだとは思うんだけどね。
そんな事を考えていたら学院長の挨拶や各学部長の挨拶、そして皇帝や上位貴族たちからのメッセージが次々と読まれ入学式は滞りなく終了した。
だが、その後、騎士学部の新入学生の中で問題が起きたのだ。
子爵家の第2子で貴族学部受験に失敗して騎士学部に入学した男と、騎士爵を授爵している男が言い争っているのだ。
爵位当主や親の爵位が判るのは制服の襟にあるバッジで判明できるようになっているからで、これは人族優位と同じくらい身分制を重視する皇帝による発案からだ。
ちなみに俺の襟には侯爵家当主、公爵家公太子、鍛治師ギルド及び冒険者ギルドのSランクである事が判るようになっているが、装着義務のある入学式以降は全て外す予定だ。
「お前、騎士爵の癖に生意気なんだよ!」
「はん。弱い犬ほどよく吠えるな」
「い、犬とはなんだ!」
子爵の息子が腰に下げている剣を抜こうと右手が動いたその刹那、騎士爵の男の剣先が子爵の息子の喉元に向けられていた。
「遅いなぁ〜。そんな腕前でよく騎士学部に入学できたな。親のコネで入れてもらったのか?」
騎士爵の男が完全に上から目線で子爵の息子を見下している。
「ヒデキ、そんな奴ほっといてさっさとギルドに行くぞ」
「そうだぞ。時間勿体無いだろ」
「そんな奴虐めても経験になんないんだからぁ」
「そうよ早く行こっ!」
彼の取り巻きからの言葉に子爵の息子は顔を真っ赤にして怒りを表すが流石に喉元に剣先を突き付けられ怒るに怒れない。
ただ、騎士爵の男は確かに早いとは思うが、それは新入学生の中では、であり精々中級とされるレベル3程度だろう。
「いい加減に止めたらどうだ?」
キュジケノスが2人の喧嘩の仲介役を買って出たようで、2人の間に割って入り子爵の息子に向けられた剣先を払った。
彼はシデトリオ伯爵家の長子。
2人よりも家格が上という事もあり場を収めるには適任といえる。だがー
「伯爵家のお坊ちゃま。カッコつけようと他人の喧嘩に手を出すのは怪我の元なんだがっ!」
そう言いながら騎士爵の男はキュジケノスに向かって剣を向けようとした。
騎士爵が男爵以上の貴族に不敬を働けば死罪。
だが、伯爵家当主ではないのだからとヒデキと呼ばれる男は剣を抜いたのだ。
「ヒデキ?」
5万年ぶりにその名を耳にした。
俺を執拗に虐めてくれた男の名を忘れる筈もなく瞬時に鼓動が早まった。
その男の剣先はキュジケノスの喉元を捉えていたのだが彼はその剣の刃を左手の親指と人差し指で摘んでしまい男の動きを封じてしまった。
「そうそう剣を人に向けてはいかんぞ。それに君もまだ剣技は中級程度のようだし」
「はぁ?何で俺が振るった剣を指で摘めるんだ?」
「それは俺と貴殿の剣術レベルに大きな開きがあるからだね」
キュジケノスに剣術レベルはレベル5を超えて上級レベルに達していたのだ。
他にも体術レベルも高く、中級程度なら剣を使わなくても拳だけで騎士爵の男を圧倒できる。
「くっ……分かったよ。おら、帰るぞ!」
キュジケノスに睨まれた騎士爵の男は仲間に声をかけて大講堂を出て行った。
子爵家の息子はキュジケノスに礼をして彼もまたそそくさと大講堂を後にしたのだが、この騒動をラミルが見ており、キュジケノスに向ける彼女の目は恋する乙女の様に瞳孔がハートマークが見えるかの様だった。
これにより、ラミルは半ばストーカーの様になってしまうのはこれからの話だ。
「リュウタ様、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「いや、君が向かわなかったら俺が行っていたし。それにしても、あの騎士爵の男……」
「はい。例の5人のうちの1人ですね」
俺の鑑定でも、転生者である事は間違いなく……しかも転生前の俺を執拗に虐めてきた5人組のリーダーだった山田秀紀が転生した人物だった。
「アレとは関わり合いを持たない様にしようか。ちょっと性格にも問題がありそうだからね」
「分かりました。確かに一筋縄ではいかない人物の様に私も思います」
俺はキュジケノスとラオディアを婚約者たちに簡単に紹介して大講堂を後にするのだった。
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