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エレンの両親に対する挨拶を終え婚約の挨拶を終えると、当然、マヨルカの両親にも挨拶をし婚約を認めてもらった。
「マヨルカが結婚できるなんて……」
と彼女の母親が涙を流しながら感激していた。
父親はと言うと少し呑気なもので、以前は人生の全てを賭けてエレン一筋で彼女の侍女として働いていた事を認識していなかったようだ。
そんなマヨルカが結婚すると言うのだから最初は冗談だと思っていたくらいだ。
マヨルカの両親に挨拶を終え、騎士たちの家族や婚約者たちを迎えて引っ越しの準備を行い飛空船に乗せてエクバタナへ……向かわずレマイオス王国の王都テーベへと直行した。
エレンとマヨルカの両親から婚約の許可を得ているのにタミレを後に回す事は出来なかったからだ。
本当であれば3か月ほど必要な旅程は8時間ほどなのと、飛空船内部は広いので多少時間が長くなっても苦痛にならない。
しかも移動の合間には俺の料理が提供されるのだから、気が付いた時にはテーベにある王城の中庭に到着していた。
タミレはエレン程の種族間通信は使えないようだが、王城からは各国王城へと連絡する手段があるらしく、バクトゥーリアの王城から飛空船にてレマイオス王城の中庭に向かう旨説明していた。
到着に合わせて俺たちは一国の王に謁見する事もあり礼服に着替えた。
レマイオス王国王城はミラノ大聖堂にも似たレリーフが壁面に所狭しと施されており、その壁面から多種族共存を推し進めている事が窺い知れる。
王城は「ロ」の形に建てられており、中庭は200メートル四方ありエクバタナの帝城とは違いガラス窓が多用されていた。
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
飛空船から下船すると衛士に護られたレマイオス王国の王であるダライアスが王妃のエピルと共に出迎えてくれていた。
タミレ曰く、王には王子が3人もいるのだが王女はタミレだけと言う事もあって彼らは彼女を目に入れても痛くないほど溺愛しているのだそうだ。
「タミレ……よくぞ無事に戻って来てくれた!謀反があったと連絡があった時は水も飲めないほど心配したんだぞ!」
「そうよ。もう王国から離れるなんて言わないでね」
そんな2人を見てタミレは俺と目を合わせてからため息を一つ吐いた。
「お父様、お母様……連絡があったかと思うのですが私は婚約をしたのですよ?それに学院にも合格致しましたし……」
「……そうだった。それもよりによって人族優位主義者と。セレーコス学院も実質首席合格……非常に厄介だ」
「本当に……あなたは私たちの唯一の娘なのよ。そんな大事な娘がこんなに早く結婚するとは思ってもみなかったわ」
「こんなか弱い娘に剣を向けたなんて……タミレは王城でしっかりと護ってやるからな!」
ダライアスとエピルはそう言うとタミレの背中に手を置いて王城へと向かおうとした。
だが、タミレはその手を払い、
「お父様、お母様。私、個人で冒険者ギルドのSランクの実力があるんですよ?多分、この城の衛士長よりも強いと思うわ」
「いや、Sランクと言っても百戦錬磨の衛士長に勝てるとは思えないぞ?」
「あの……、そろそろ自己紹介もさせて頂きたいのですが……」
俺が家族の会話の中に入り込むと2人は露骨に嫌な顔を俺に向け、
「ああ。自己紹介しなくても知っているがしたいなら好きに始めてくれ」
「それでは初めまして。セレーコス帝国筆頭公爵家であるカジ家公太子リュウタです。そして、順にバクトゥーリア王国第2王女であるエレン、神獣人のノルン、そしてマヨルカです。全員がSランクですから帝国の1個師団相手なら私たちだけでも勝てますよ」
「ほう!そこまで言うならちょっと勝負して貰おうじゃないか!」
「そうね。リュウタさんは息子のセルビオスと剣を交えてもらおうかしら」
セルビオスと言うのはタミレの兄でこの国の第3王子だ。
彼は勇者の家系だからというだけでなく兄弟の中でも特に膂力、剣技などに秀でておりこの国の第3師団長を任じられている。
ちなみにレマイオス王国には師団が3つあり、第1師団は王国内の治安維持を主任務とし王太子のクレイオスが師団長を、第2師団は大型の魔獣退治を主任務として第2王子のマライアスが師団長を。
そしてセルビオス率いる第3師団は主に対外的な戦争を主任務とし、3つの師団の中で一番戦闘力を有しており、仮想敵国は帝国となっていた。
俺はその仮想敵国の筆頭公爵家の人間と言う事で敵意を向けられている。
「剣を交えるのは構いませんが……」
「そうか!それなら早速鍛練場へと向かおう!」
ダライアスは早速指示を出してセルビオスを鍛練場に呼んで闘う事となった。
「リュウタ、なんか、ごめんなさいね。父は兄の皇帝グレイオスに対して敵意というか対抗心が凄まじいから……」
「まぁ、人族優位主義者と他族共栄論者は仲が悪いみたいだから仕方がないよ」
実際は仲が悪いどころではなく、タミレが暗殺されそうになる程その関係は冷え切っていた。
人族優位主義者の行動原理は結局のところカーリス教へと帰結し、それはカーリス教を国教とするセレーコス帝国に繋がる。
それ故に他族共栄を掲げるグレイオスは帝国筆頭公爵家のリュウタに敵意を向けているのだ。
「多分、リュウタがエルダードワーフだって分かってないんじゃないかな?」
と、エレン。
「妾たちはドワーフだけじゃなくハイエルフにエルフ、それに神獣人じゃというのにな」
「人族って言うならタミレのお父様こそ人族なのに」
ノルンとマヨルカがそれに続いた。
元は兄グレイオスとの兄弟喧嘩が発端なのだろうが、それに主義主張、それに宗教が絡む事で修復不可能なほどまでの関係となったのだろう。
王太子の名を“クレイオス”と名付けたほど元は良好な関係だっただろうに、そう思いながら俺は鍛練場へと向かった。
鍛練場には既にセルビオスが臨戦態勢で待機しており、鑑定をしてみるとミスリル製のフルプレートアーマーにミスリルのバスターソードを手にしていた。
人族の男性の平均身長は160センチほどだが、セルビオスは170センチほどありアーマーの上からでも鍛え抜かれた身体である事が見てとれた。
俺も虚空庫のオートワードロープ機能で冒険着に着替えて涙紋刀を腰に下げ鍛練場の中央で待つセルビオスの前立った。
「ほう。瞬時に着替える技術が帝国にはあるのか。そこはさすが帝国と言うべきか」
「いえ、これは俺たちエレン騎士団だけの装備ですよ」
「お前たちだけ!?それは凄いな……お前のところは余程腕の良い職人を抱えていると見える」
俺たちはセルビオスの言葉に思わず失笑を漏らした。
それというのも、これを作った本人を目の前に賛辞を送ったからだ。
「まあ、装備で闘う訳じゃないがな!行くぞっっ!」
セルビオスが一気に間合いを詰めた。
鑑定で分かった事だが、彼はまだ24歳。
それだと言うのに剣術スキルが6、達人とされる手前まで剣を極めていたのだ。
チートでなければ剣術スキルを5まで上げるのでさえ相当の時間を有するのだから、そこは流石勇者の子孫なのだろう。
完全に俺を下に見ている剣筋。
大きく振りかぶって俺を一刀両断にしようと殺意だけはしっかり込めた一撃を放った。
その一撃を涙紋刀で軽く受け流すと、セルビオスは少し驚いた表情を浮かべ剣を大きく水平に薙ぎ払う。
そのまま上方へと剣を払うとセルビオスは両腕を上げる形になり脇腹に大きな隙が生じた。
俺はその脇腹に軽く涙紋刀で峰打ちを打ち込むと、彼は大きくよろけて片膝を突いた。
「な……!?お前は今、何をしたんだ!」
膂力に頼った一撃ではあるが、バスターソードによるそれを軽く受け流すというのは余程スキルに大きな開きがなければできるものではない。
しかも剣術スキル99の俺が彼の剣を受け流した場合、セルビオスにとっては剣筋が自然と逸らされていくようにしか感じないのだ。
「ただ剣を受け流しただけですよ」
「そんな筈があるか!」
セルビオスは丸で剣で大木を伐採するかのように横一閃に薙ぎ払った。
それを俺は受け流す。
剣と剣がぶつかり合うような音は一切せず、彼のバスターソードは俺の涙紋刀の刃の上を滑るように上方に向かって受け流されていき、再び彼は腕を上げる形となった。
「……参った。いや、降参だ。俺の負けだ」
「なっ!?セルビオス!まだ始まったばかりだろ!」
セルビオスの宣言を聞くや否やダライアスが声を荒げた。
側から見ると、攻めているのはセルビオスであり俺はそれを受けるだけで手一杯に見えているだろう。
しかもたった3合目。
これで勝敗が決するとは受け入れられないのも理解できる。
だが、当のセルビオスは早々に剣を鞘に収め闘う意志がないことを示し、
「父上。見てください。リュウタ様は俺の剣撃を受けても一歩たりとも動かずにいる。こんな事ができる者は俺の知る限り1人としていない」
「……っ」
「俺はリュウタ様をタミレの夫として、そして我が家族として受け入れる事に同意するよ。何より、彼の一族は帝国唯一の亜人貴族だしね」
「亜人貴族……?カジ家……エルダードワーフかっ!」
ようやくダライアスは気が付いたようだ。
「そうです。私はエルダードワーフであり、婚約者はハイエルフに神獣人、エルフ、と4人のうち3人は人族ではありません」
「……申し訳ない。帝国貴族との婚約だと伝えられて完全に視野が狭窄状態だったようだ。先程までの無礼を赦してくれないか」
「頭を上げてください。気にしていませんから」
そう言うと俺は再び礼服に着替える。
そして、この後、謁見の間に移りタミレとの婚約は正式に成立し、また王都内の貴族街にある一等地を貰う事になったのだった。
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