044 ヒデキ2
興味を持って頂きありがとうございます。
少し時間を遡り、セレーコス学院受験日の3日前。
今回、シリタリア領では受験隊というものを組織してエクバタナにやってきていた。
受験隊というのはシリタリア領からセレーコス学院を受験する者は貴族の子弟、騎士科を受ける主に領軍に帰属する者たちや裕福な商人の子弟、そして大農園の子弟たちを集めて、それに旅の安全を考えて領軍護衛の下で集団受験をしに上都する隊だ。
俺たちは領主からは最低限の旅費と新しい鋼鉄製のグレートソード、そして中隊長用のハーフプレートアーマーを貰っていたのでそれを身に付けてだ。
少し荷物はあるが膂力というスキルがあるので問題なくエクバタナまで来ることができた。
膂力と言えば最近では大人数人分はあるであろうビッグボアを担いで移動できるくらい力は強くなっている。
それもあり、以前使っていた銅製のブロードソードでは数回打ち合うだけで曲がってしまうので、最近は鋼鉄製のグレートソードを使うようになっていた。
その分、大型魔獣も斃せるようになり収入は増えたのだが、魔獣を数頭斃すと鋼鉄製の剣は使い物にならなくなり、剣の修理費や買い替え費用が増えたので結局生活はあまり豊かになっていなかった。
「ふう、やっとエクバタナか……」
人数も多かった事もあってだろう、シリタリア領の領都ニシビスを出て4週間ほどかかったが目の前にある帝都の城壁が見えた事もあり隊からは歓声が起こった。
正門でのチェックを受けて帝国民にとって憧れの帝都に着いたのだ。
俺もちょっとした感動に包まれていた。
「ここがエクバタナか……思っていた以上に都会だな」
俺は都会に出てきた田舎の人の如く、都会の熱気に当てられ建物を見上げていた。
いや、俺だけではない。
リュウジ、シンヤ、アイリそしてサナエたちも同様に口を半開きにしながら「凄いな……」と呟いている。
「取り敢えず、領主の方で宿を取ってくれているからそこに向かおう」
「そ、そうだな」
「シリタリアの領都ニシビスも大きいとは思ったが……帝都と言われるだけあるな」
「そうよね。何より臭くないし」
「ドワーフの技術の粋を集めて造られたって聞いたわ」
俺の言葉に4人は同意し、指定された宿へと向かった。
俺たちは今、騎士爵を陞爵している事もあり領軍の小隊長という職位にある。
名目上は10人ほどの部下を持つ地位になるのだが、学院を卒業して領軍に戻ると俺は50人ほどの中隊長になる予定で入学後はみなし中隊長となる。
だが、実際は軍に属してはいるが名ばかりの小隊長なので領からはわずかばかりの給金しか支給されない。
だから指定された宿は、やっぱり安宿だ。
合格発表まではここに宿泊し、合格後は学院寮に入れるのでそこに移動する事になる。
学院の授業料は領側が負担してくれるが、それ以外は全て現地で稼がなければいけない。
それなので当然、宿は安宿になるのだ。
「高いな……」
「帝都は物価が高いって聞いていたけど……」
「こんな宿でも1泊大銅貨8枚だもんな」
「食事を付けたら銀貨1枚よ!」
「その食事も大したものは出そうにないし」
シリタリアの安宿なら2人部屋でも大銅貨5枚程度。
大したものは出ないが食事付きの値段だ。
それがここエクバタナでは5人大部屋だというのに1人1泊食事なしで大銅貨8枚なのだ。
試験は3日後で合格発表はそこから1週間後。
5人だと銀貨50枚は必要で、しかも学院寮は安宿よりも費用が掛かり1か月で1人金貨1枚。
それが3年間、毎月必要になる……授業以外はずっとギルドの依頼をこなしていかないと寮に居られなくなるという金額。
だが、受験対策のため試験までは依頼を受ける事もできない。
「持ち金は1人あたり銀貨30枚、か」
「たくさんあるように見えてたった1か月分の生活費だもんな」
「領勇者候補なんだからもう少し手厚い支援が欲しいよな」
「……ないものをねだっちゃダメよ。かえって惨めになるわ」
「このままずっとこんな生活は嫌だな……」
帝都の城壁が見えた時のときめきは部屋に着く頃には完全になくなっていた。
だからと言って受験を放棄すれば、今よりもっと惨めな生活が待っていることは間違いなく学院合格は生活レベルを維持するためには絶対条件。
鍵を受け取り部屋へ向かうと、薄暗い北向きの部屋に小さな2段ベッドが2台。
小柄なアイリとサナエは2人で1つのベッドで寝る事になる。
しかも薄い枯れ草の敷布団に布切れ1枚。
5人は更に深い溜息を吐く。
「……取り敢えず、試験に受からないとな」
「ああ。そうだな」
「試験科目は……人族語、帝国歴史、カーリス教学、戦術理論、そして剣術の5科目だったか」
「座学は4科目……はっきり言って歴史とか教学なんて不要だろ!」
「座学は平均で200点で剣術が60点で合格だったっけ」
「「「「「めんどくさい……」」」」」
5人は荷物から教科書を取り出し、誰の目から見ても分かる程、嫌々ながら教科書を開き始めるのだった。
試験当日。
転生前から勉強は苦手ではあったがそれなりに苦しんで勉強した甲斐があり、ある程度の手応えを感じて実技試験会場となる実技場へと向かった。
試験会場にはマッドゴーレムが既に15体搬入されており、対人試験ではなく対マッドゴーレムである事は明白だ。
大きさは2メートル強。
ゴーレムは基本、体内にある魔導核から全身に伸びる魔導管により魔力が供給される事で様々な動きが制御されているものだ。
マッドゴーレムはその名の通り泥を躯体としたもので、コアさえあれば躯体はどこでも、どれだけでも用意できるので汎用性が非常に高い。
土というものは非常に脆いとか弱いと言ったイメージを持たれるが、土の種類や含水率、密度などの条件により大きく変わるが土に土属性の魔力を纏わせる事でその強度は鋼鉄を遥かに超える。
だが、そんな事を知っているのはごく一部の魔術師くらいなのだが……
「さあ、剣技試験だ!ゴーレムの核は胸中央にあるのは知っているな。各自用意してある剣を使い、核以外を攻撃してゴーレムを無力化せよ!制限時間は3分。試験が終わり次第退室してよし!」
冒険者ギルドの現役A級冒険者であるヨルゴス・カサヴェテスが今回の試験官だ。
Dランク冒険者の俺たちからすれば雲上人と言っても過言ではない
試験は15人を1グループで、俺たちは8グループ121番目だ。
前半は貴族科を落ちた奴らで後半は爵位順となっていて俺たちは騎士爵を授爵しているので平民よりは先に受けられる。
「ダッセーな。見ろよあのへっぴり腰」
「ははは、貴族の坊ちゃんなんだから仕方がないだろ」
「一応俺たちはマッドゴーレムの上位のロックゴーレムを斃した経験があるから余裕じゃね?」
「斃したって言っても5人がかりでやっとだったけどね」
「まぁ、経験ないよりはマシでしょ」
そんな軽口を叩いているのは俺たちくらいなので悪目立ちしているが、そんなの気にしていたら領軍でなんか働いていられない。
それ以上に、今の立場はお上品な事をしていられる程恵まれていないのだから俺たちらしい態度だろう。
「121番から135番、前に出ろ!」
ヨルゴスの呼び出しに俺は思わず勢い良く立ち上がった。
実技試験は3分だが、入れ替わりの時間やゴーレムについた傷などの評価もあるので1組あたり20分は掛かっていた。
それなので俺たちは2時間以上椅子に座って待機していたのだから、身体を動かしたくてウズウズしていたのだ。
「よっし!ようやく出番だぜ!」
「あー身体が冷えちまったよ」
「さて、ゴーレムちゃんお待たせだぜ〜」
「折角新しい剣が……」
「支給品だからそんな良いものじゃないし、試験にはちょうど良いんじゃない?」
俺たちは軽口を叩きながらマッドゴーレムの前に立った。
マッドゴーレムと言うよりは、ガチガチに固められて石になった泥岩のようだ。
「よし!準備はいいか?それでは始めっ!」
ヨルゴスの号令に合わせて受験生が一気にマッドゴーレムに向かっていった。
「剣は少し痛むが……焔よ!我が剣に宿り敵を穿て!」
俺の意図を読み取り、リュウジとシンヤも同様に火魔法を唱えた。
アイリとサナエは自分の持つ豊穣スキルと相性の良い食物魔法を唱える。
「「焔よ!我が剣に宿り敵を穿てっ!」
俺たち3人は魔法剣(焔)と化した鋼鉄製のグレートソードを振りかぶりマッドゴーレムの関節部に剣を叩き込んだ。
火魔法で剣は真っ赤に光り輝き、それがマッドゴーレムにめり込む。
「「豊穣の力よ!大地を耕し豊かな実りを与えたまえ!」」
アイリとサナエの剣は緑色の蔦に覆われた魔法剣(蔦)となっており、マッドゴーレムに叩き付けた所から蔦がゴーレムの中に入り込む。
魔法剣(焔)はマッドゴーレムを焔で包み、マッドゴーレムの水分がどんどん蒸発していく。
魔法剣(蔦)により、マッドゴーレム全身に蔦が纏わり付きその根が張ってゴーレムの動きを抑制していく。
「「「「「これで最後(だ!)(よ!)」」」」」
俺たち男たちのマッドゴーレムは乾燥により動きを停止し、女たちのマッドゴーレムは全身に根が周りその動きを止めた。
「ほう、そこの5人は魔法剣の使い手か!合格!満点だっ!」
試験官の通る声で俺たちを褒め称えた事により、受験生たちから俺たちに対する憧れや嫉妬といった様々な思いが込められた視線が向けられる。
そんな視線の中、気分良く退室していった。
1週間後、俺たちは問題なく騎士科に合格。
入学までの間、少しでも金を稼ぐために魔獣討伐を行い寮費を稼ぐのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




