043
興味を持って頂きありがとうございます。
飛空船は王城の中庭にある大型魔獣に対する防御陣の中央に着陸した。
これだけ巨大なモノに対して警戒しての防御陣だったのだが、これが魔獣でない事を知るや否や防御陣を破棄した。
それを確認したのと同時に俺はタラップを下ろし、エレンを先頭にして下船させるとがバクトゥーリア王国の国王、ディオドトス・バクトゥリアと王妃フィラが出迎えてくれた。
俺はオルトロス商会の人たちも飛空船から下ろし、幌馬車も出していく。
彼らは目の前に祖国の王城がある事に驚き、何より貴族でもない身分の者が王城の敷地にいる事に畏多さを感じ縮こまった様でひたすら臣下の礼を取っていた。
エレンはディオドトスとフィラの前まで進み臣下の礼を取った。
王女であっても今は公式の場として行動しているのだろう。
俺たちもまたエレンに倣い同様に礼を取る。
「父上、母上。エクバタナまで向かいただいま戻って参りました」
「……皇帝グレイオスの件は難儀でしたが良くぞ無事に……」
フィラが涙ぐみながらエレンの手を取った。
ディオドトスはエレンに対して無言で首肯し俺に向かい、
「リュウタ・カジ。我が娘との婚約はバクトゥーリア王国国王であるディオドトスが確かに了承している。改めてリュウタ・カジとエレン・バクトゥリアとの婚約は正式に成立していると宣言する!」
「おめでとう、エレン。そしてリュウタさん。これからエレンの事をよろしくお願いしますね」
「はい。エレンを大切にして参りたいと思います」
「それとマヨルカ。エレンを永く支えてくれてありがとう。タミレさんもこんな遠くの国までありがとう。貴方とエレンを通して縁を結べた事を嬉しく思います」
ディオドトスはそこまで言うと、軽く深呼吸をしてから緊張した面持ちでノルンに身体を向けた。
バクトゥーリア王国は精霊や神獣に対する信仰が強く根付いており、エレンを通してノルンがこの国を守護している帝王種の飛龍と同格以上である事は事前に聞いていたからだ。
「ノルン様……一つ、お願いがございます」
「ん?なんじゃ、申してみよ」
「はい。このバクトゥーリア王国は貴方様と同じ帝王種の飛龍様……私どもの守護神様により庇護されている国でございます」
「そのようじゃな。それがどうしたのじゃ」
「はい……今、ノルン様はその守護神様の縄張り入り込んで来た状態でして……」
「で、どうすれば良いのじゃ?」
「到着早々大変申し訳ないのですが……飛龍様同士の挨拶があると思うのですがそれをお願いしたく」
「それは構わんが、主人様を連れて行くが問題ないな?」
「はい、申し訳ありません……」
一見すると国王に見えないほど可哀想なくらいな低姿勢でノルンに依願している。
そして、ノルンとの関係性を知っているのだろう、ディオドトスは俺に顔を向けて、
「リュウタ様、遠路お越し下さったばかりで申し訳ありませんがよろしくお願い申し上げます……」
ノルンとの会話が影響してか、俺に対しても「様」付けしている。
俺は黙って首肯し承諾の意を表した。
「それじゃあ、早速向かうとするか。主人様は妾に乗ってもらえるかの」
「ああ。今着ているドレスは龍化した際は自動収納されるからそのまま変化して構わないぞ」
「龍化か……久しぶりじゃ」
そう言うとノルンは帝王種の飛龍へと変化する。
体長は100メートルになろうとする大きさ、全身に金色に輝く鱗、ヘラジカの様な大きな角に特徴的な口元にある1対の長い髭と1対の短い髭。
何よりノルンの時と同じエメラルドグリーンの瞳に上半身を覆う金糸が目の前の飛龍がノルンである事を物語る。
〈どこら辺に乗れば良いんだ?〉
ノルンに念和を送ると彼女から頭に乗るよう言われた。
彼女俺が乗りやすいように頭を地面近くまで下げるとディオドトスは驚きの声を上げた。
「飛龍が頭に乗せるのは……絶対服従を意味している筈だ」
「絶対服従じゃなく婚約者ですよ」
「父上、そこはリュウタだから……」
「そ、そうなんだ?それでは挨拶に向かって下さいますようお願いします」
「はい。それでは早速行ってきます!」
俺はエレン、マヨルカ、タミレを残し、この大陸を支配している3柱のうちの1柱である帝王種の飛龍の下へと向かう事にした。
探知を行うと場所はバクトラから北へ20キロ程の然程離れていない山の頂に営巣しているようだ。
ノルンは一気に上空へと飛び立つと視界は一気にコバルトブルーの青空が広がる。
飛空船程ではないがそれでも地上から見た者にとっては瞬きほどの刹那でノルンが消えた様に感じただろう。
羽根もない龍種は魔力を……ノルンは神獣なので神力を全身に纏う事で全ての物体に雁字搦めに纏わりつく重力にすら解放されて翔ぶ。
俺はノルンの神力に包まれている事で、結界を展開する事なく高速で移動する際に生じる風圧を受けずにノルンと同じ風景を見る事ができていた。
〈飛龍というのは意外と人里の近くにいるんだな〉
〈神獣と言うのは、本来、神々と人種との間を取り持つ存在故、隠遁する様な場所には住まないのじゃ〉
そう言えばノルンもペルセリスから程近いペルシウス高原に棲んでいたんだよなあ、と思い出していた。
天空に翔び立ったノルンは数分もしないうちにもう1柱の飛龍の所にやってきていた。
〈ここに棲む飛龍は幻影と呼ばれる奴じゃ。奴とは少しばかり因縁があってじゃな……〉
〈因縁?〉
〈そうじゃ。因縁というのは……主人様、幻影のテリトリーに入った様じゃ〉
先程まで見渡す限りコバルトブルーの空だったのが、今は丸で雲の中に突っ込んだ様に靄に包まれている。
そしてその靄は意志を持ち、俺を攻撃してきた。
〈ノルン、もしかして幻影って|雄〈オス〉か?〉
〈そうじゃ。妾に幾度も求婚してくるうざい存在じゃ。まぁ、その度に退けてやるのじゃがな!〉
顔は見えなくともノルン得意満面の面持ちをしているのが容易に感じ取れる。
そんなノルンの頭の上に人族の男に見える俺がいるのだから幻影は面白くないのだろう。
幻影は霞を俺に纏わりつかせて五感を惑わせ死へと向かわせようとしているのだ。
呼吸ができない様に思わせる。
四肢が吹き飛ばされ血飛沫が舞っている様に見せる。
心臓を鷲掴みされ吐血している様に見せる。
巨大な杭により身体が串刺しになっている様に感じさせる……
一つ一つが致死性の幻惑だ。
精神力が弱ければ、例えこれらが幻であっても現実に起こったかの様に身体は感じ取り息絶えてしまう。
そんな幻惑を次々と俺に向けていた。
〈あー、煩いな。ちょっとだけ反撃しても良いか?〉
〈それは構わん。先にちょっかい出してきたのは幻惑の方じゃからな〉
〈ありがとう。それならっ!〉
俺は纏わりつく靄を反射した。
それもただ反射するのではなく少しばかり神力を加えてだ。
すると5分もしないうちに、山の頂きでのたうち回る飛龍がいるのが見えてきた。
その大きさはノルンと同じくらいだろうか。
全身に銀色に輝く鱗に覆われ、頭にある角はノルンより一回り小さく枝分かれしていない。
恐らくノルンよりも歳若い龍種なのだろう。
銀毛を振り乱し漆黒の眼を見開きながら苦悶に悶える幻影を見て可哀想になった俺は反射した幻惑を解除した。
完全に大人しくなった幻影の横にノルンは降り立つと幻影は龍種が完全なる降伏を意味する腹側を上に向け身体を真っ直ぐに伸ばす。
自分の弱点を相手に晒す事で敵意はないと言う意味があるのだ。
それを見てノルンは人化して幻影の近くに降り立ち、俺はノルンの横に立った。
幻影はゆっくりと仰向けに戻り頭を起こしてコチラを窺いながら話し掛けてきた。
〈久しいな、幻影〉
〈水瀑……俺の嫁になる筈だったのに……〉
〈何を馬鹿な事を。お主みたいなお子様と番になる筈がなかろう〉
〈だからと言って人族を選ぶなんて〜〉
〈お主、何を勘違いしているのじゃ?妾が主人様を選んだのではなく主人様が妾を受け入れてくれたのじゃ〉
〈受け入れる……?〉
〈そうじゃ。武力で負けた妾を婚約者として受け入れてくれたのじゃ〉
〈水瀑が負けた……嘘だろ?この世界に君臨する我ら龍種を負かすなんてあり得ない……〉
〈雷鳴と共に闘っても主人様には勝てぬぞ?〉
〈……確かに先ほどの幻惑返しに含まれている神力は水瀑のものではなかったが〉
〈そうじゃ。主人様は超絶たる神力をも操れるのじゃ!〉
〈あれ程の神力を扱える……そこの彼は人族に見えて本当は顕現した神であったか〉
龍種のみが分かる言葉でノルンは念話を始めた。
恐らくは幻影と諍いなくこの場を収めようとしての事だろう。
だが、当然ながら俺はその言葉を理解できているのだが幻影の言葉にノルン、いや水瀑は言葉を止め、少し考え込み始めた。
あっ!そう言えば俺の存在について知っているのは両親のリュウイチとマイコだけだった!
〈水瀑……どうしたんだ?〉
〈主人様が顕現した神……?〉
〈そうだろ?多少の神力なら我ら神獣や神に仕える神官たちも使えるが、神獣を負かす程の神力を扱える存在は神以外いないだろ〉
幻影は水瀑の疑問に対して即答し、それを受けて俺も補足した。
〈ノルン、俺はテンモク神の息子だから神力を使えて当たり前だよ〉
〈主人様っ!?龍の言葉が分かるのかえ?〉
〈何を今更。初めて出会った時も龍語で話しただろ〉
〈……あまりにも自然に話していたから気づかなかったのじゃ〉
俺は茫然自失状態になっているノルンの頭を撫で、肩を抱き寄せて軽く唇を重ねる。
彼女は大きく目を見開き、そしてようやく自分を取り戻すと俺の首に両手を回してより深い口づけとなった。
〈あの……あまり当てつけられると目のやり場に困ると言うか……〉
〈ああ、悪かった。で、幻影は引き続きバクトラの守護を行うのか?〉
〈いや、先ほどの戦いで俺は貴方様に負けてしまった。何より神であるなら神獣である俺は貴方様の眷属として働かなければならない〉
〈そうじゃな。妾も主人様……リュウタ様の眷属……いや婚約者として受け入れてもらったのじゃからな〉
〈俺は男色の毛はないぞ?〉
〈リュウタ様と言うのか……で、眷属というのはそう言ったものではなく……〉
〈ははは、分かっているよ。それでは幻影……お前は今日からアレクサと呼ぼう。そしてバクトラに逗留して今まで同様、彼らの守護者となれ〉
〈畏まりました。俺は今日からリュウタ様の眷属、アレクサとなる!〉
アレクサはそう叫ぶと人化していく。
銀髪で漆黒眼、身長は170センチを超える程度で程よく筋肉が発達している美青年となった。
片膝を突き、臣下の礼を取ってはいるが当然、全裸なのでそれを見たノルンは笑い出す。
「ぷっ、アレクサなんて大層な名を授かりカッコつけているが……全裸じゃ」
「何言ってんだ。ノルン、お前も人化した時は全裸だったじゃないか」
俺はノルンを嗜めてノルンにも渡した指輪の意匠を少し変えた物を渡した。
ワードローブ機能付きの虚空庫が付与されている物だ。
彼にも様々な服装や武器、そして帝国のではあるがある程度金貨も入れてある。
そしてアレクサは執事服に着替え再び従者の礼を取る。
「アレクサはバクトラに俺たちと一緒に戻りそのまま冒険者ギルドに入ってくれ。そして俺たちのエレン騎士団に入り、バクトラを中心に活動して欲しい」
「リュウタ様の仰せの通りに致します」
「そうか。アレクサも妾たちの仲間になるのじゃな」
「水瀑……いや、ノルン。これから先輩として宜しく頼む」
「そうじゃな。そして騎士団の中での序列は……1番下じゃぞ?」
ノルンは嬉しそうにアレクサを揶揄う。
俺はノルンとアレクサに龍化してもらい、再びノルンの頭に乗りバクトラへと戻るのだった。
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