004
興味を持って頂きありがとうございます。
天目師匠が吹差吹子で風を送ると火床の炎が更に燃え上がる。
師匠の腕の動きに合わせて独特の風送音がコォー、コォーと鍛冶場に響く。
そこに神鋼の銑鉄を入れ含まれる炭素量を調節する卸し鉄と同様の手順を行なっていく。
出来上がった玉鋼を低温で加熱して薄く打ち延ばす事で炭素量の多い余計な部分が砕け落ちていく。
そして不純物が含まれた粘り気の多い部分を芯鉄、不純物の数ない部分を皮鉄として使用する。
これらを積み重ね叩いて鋼を固めまとめていくのだが、通常、これは2〜3人で行うのを天目師匠は絶妙の速度とタイミングで1人で行なっているのだ。
(これは相当の膂力がないと不可能だ……)
俺は鍛治に関する知識を多くの書物を通して知ってはいたが、それを天目師匠の鍛治を通して自分がどう動くべきか擦り合わせていく。
積み重ねが終わり鍛錬へと進む。
折り返し鍛錬という過程を経る事により、粘りと強度を持たせる事になりより強い刀剣が出来上がる。
この鍛錬をし過ぎると炭素量が減り過ぎて柔らかくなってしまう、いわゆる鍛え殺し状態になってしまうのだ。
その炭素量を見極めながら槌を打っていく。
「天目師匠、相槌は必要でしょうか?」
「黙って見ておれ」
通常ならもう1人が相槌を打つ事でこの鍛錬は効率よく進むのだが天目師匠は黙々と1人でこれを熟していく。
俺も余計な事を言って天目師匠の集中力をひと時でもそらさせてしまった事を後悔した。
そして天目師匠は芯鉄を皮鉄で包み造り込んで刀剣として仕上げる。
火造りをし切先を整えそして焼き入れを行なう。
最後に研ぎを行い、茎に鑢をかけて仕立てていく。
一連の過程で半日が過ぎようとしていた。
本来なら数日〜1週間は掛けて行う過程だが、人並み以上の膂力と技術によりそれを成し遂げたのだ。
出来上がった刀は魂が吸い込まれそうな程に妖しい光を放ち、俺はその刀から目を離せなくなっていた。
「どうじゃ?」
「……俺には、どう形容したら良いか言葉が浮かばないほど素晴らしいです」
「これは神鋼を使った神刀じゃ。鑑定してみろ」
俺は天目師匠から神刀を受け取り鑑定を行ってみると、
物質名 神刀
等 級 S1
詳 細 最高ランクの神刀。物理攻撃だけでなく神術や呪怨すら斬り解除する事ができる。
神武具のランクは下から順にC、B、A、Sであり更に3〜1に分かれる。
天目師匠は最も上のS1の神刀を造り上げた事になる。
「これはお主にやろう。取り敢えず今は鉄鋼の銑鉄から造る人間界用の武具を造るんじゃ。それを1000振り終えたら次の過程じゃ」
「1000振り……分かりました。早速取り掛かります!」
「ただし、等級は特1等が1000振りじゃ。鉄鋼でできる最高の物を目指せ。そして、これがお前が使う槌じゃ」
「これは……」
天目師匠が差し出してきた槌は装飾など何一つなく無骨ではあるが手にしっくりと馴染む。
まるで長いこと使い続けた相棒のようなそんな感じだ。
「お主のためにわしがこさえた物じゃ。それをお主にやろう」
「ありがとうございますっ!」
俺は天目師匠から受け取った槌を傍に置いて炉の前に座り目を瞑る。
天目師匠のやってきた手順をしっかりと網膜に焼き付けてあるので、それを知識と擦り合わせていく。
「よし!」
両手で頬を叩き気合いを入れ師匠から受け取った槌を手にする。
ずっしりと重さを感じるが、今の俺なら1日振り続けても問題ないだろう。
吹子の送り込む量やタイミング、炉内の温度……全てを自分の感覚だけで調節していく。
そして卸し鉄を行い、槌で銑鉄を叩いていく。
ガッガンガン……
クソ、天目師匠のように澄んだ叩打音がしない!
力任せにしない!
リズムを整えて、鉄の息吹を感じるんだ!
一心不乱に打ち続ける。
俺の意識は常に自分を俯瞰で見るかのように澄んでいるのだが身体がそれに付いてこれず思うように槌が振れないもどかしさが続く。
それでもどうにか刀として1振りを完成させた。
「ふーっ、どうにか1振りできたが……」
鑑定すると、
物質名 刀
等 級 並2等
詳 細 銑鉄から造られた普通の刀。
人間界での武具の等級は下から可、並、良、優、秀、特の6段階であり、更にそれぞれ3等〜1等に分けられる。
並2等は世間に出回る一般的な等級と言えるだろう。
初めて打った刀が並2等と言うのは普通に考えればかなり良い方なのだろうが天目師匠の弟子としては、当然不合格だ。
俺は研ぎを終えると大きく深呼吸をし、再び槌を持った。
ガンガンガン……
この日から鍛治場から槌の打つ音が絶え間なく続く事になった。
俺の横には造られていく刀がどんどん積まれていく。
100本、1000本……
10年、100年……
その間天目師匠は何も言わず俺の後ろからじっと見ているだけだ。
俺の皮膚は長い年月をかけて炉の熱に焼かれていく。
白かった肌も今では浅黒く焼けている。
そして300年も経とうという頃に、漸く1振りの特1等の刀が出来上がったのだ。
「うむ。漸くできたのぉ、リュウタ」
「えっ?」
初めて天目師匠に名前を言ってもらえた事に驚きを隠せず、思わず振り返ってしまった。
「なかなか良い出来じゃぞ、リュウタ」
「は、はいっ!ありがとうございます!」
俺は天目師匠に初めて認められたような思いがして涙が込み上げてきた。
そして嬉しさのあまり涙を落とし、それができたばかりの刀に落ち刃紋として残った。
「うむ、悪くない紋が加わった。わしがそれに名を付けてやろう。涙紋刀じゃ。この感動を忘れず、更に精進するんじゃ!あと999振り一気にいけっ!」
「……はいっ!」
俺は1年もせずに1000振りを完成させ、次に神刀へと進んだ。
神鋼は銑鉄とは違いただ打っても鍛えられるものではない。
今までの修練により獲得した神力を込めて打たないと槌が弾き返されてしまう。
何より炉の温度が全く違うのだ。
銑鉄の場合、炉内は1600度程度だったが神鋼を用いる場合は4000度を超える。
このままでは炉の前にいる事すら敵わなくなってしまうので、俺は神術で障壁を絶えず展開して温度対策をしながら槌を振り続ける事になるのだ。
ガンッ
くうっ……神鋼の反発がハンパじゃない。
しっかりと神力を槌に込めて鑑定で打つべきところを探りながら打っていく。
1つ1つの手順がまるで初めてのように戸惑い、そしてタイミングなどもズレていく。
そして漸く出来上がった神刀のランクは当然の如くC3だった。
「ほれ、素材はたっぷりと琵古師匠から貰っただろう」
「はいっ!ありますっ!」
神鋼だけでなくありとあらゆる素材が俺の虚空庫の中にはあった。
その素材も鉱物に関しては1つに付き数百トンという単位。
刀を造るのであれば万単位で造る事ができる。
しかも、俺が使用する虚空庫は、収納された素材を使用してもある翌日には再び元の量に戻ってくれるという優れもの。
「よし、それなら自分の満足いくまで打ち続けろっ!」
俺は天目師匠の言葉に黙って首肯し、再び刀を打ち始めた。
「クソ、またC3か……」
「アチーッ!もっと障壁を厚く展開しないと」
「肩が上がらなくなってきた……」
そんな事を時折呟きながら、何より等級がなかなか上がらない事に気落ちしながらも休みなく打ち続ける。
最初は鈍くて重い叩打音だったが、それも100年も経つ頃には重い音も澄んだ音へと変わっていき、その頃には等級もS1を造り上げる事に成功していた。
「うむ。これも悪くないぞリュウタ。刀だけでなく、脇差、槍、鏃、それに生活に使う包丁や鍋と言ったものは一通り練習に励め」
「はい!そうします!」
俺は鋼鉄や神鋼などで様々なモノを特1やS1で造っていった。
そして更に500年後……
「リュウタ。お前にはもう鍛治師として何も教えることはない。これで人間界に行けるが……お前はもう人間ではない。それでも人間界に行くのか?」
「人間でないって……えっ!?」
俺は自分自身の鑑定を行うと、自分の種族が神族になっている事を知る。
「お前は多くの神々から愛息として寵愛を受けた。しかもスキルレベルが99を8000以上も所持しているのじゃ。それにより人としての器ではそれらを受け止める事ができずに神族へと進化したようだ」
「……と言うと、俺の寿命は……」
「不老不死、だな。既に神界で5万年以上生きておるんじゃから気づけ!まぁ、中には神殺しというものもなくはないが、人間界で死ぬことはないだろう」
「今度向かう世界には長命種はいないのでしょうか?」
「いるぞ。ハイエルフやエルダードワーフがそうじゃ。彼らは数千年は生きるだろう」
「ドワーフって鍛治師の、でしょうか?」
「そうじゃな。今のリュウタならエルダードワーフに見えるから……ほれ、お前の種族をエルダードワーフに隠蔽しておこうか。他も適当に変えておいたぞ」
渡された身分証には次のように書かれており、【 】内は人間界では非表示になるようだ。
氏名 リュウタ カジ【天目 龍太】
種族 エルダードワーフ【神族】
【種族レベル 99】
年齢 15歳【54371歳】
職業 鍛治師
所属国 カジーノ公国(セレーコス帝国)
所属ギルド 鍛治師ギルド S級
称号 カジ公爵家公太子
「リュウタは神界に於いては神々の、特にわしの愛息だから本名も梶井から天目になっとる。当然ながら人間界でもわしの息子という対応をされるじゃろう。それとこのエルダードワーフはわしの眷属と言えるカジ一族じゃ。リュウタはその一族の者として生まれるよう因果を変えておるので人間界ではその名前を使ってくれ」
俺は幾度か「リュウタ カジ」と口の中で幾度か呟いてみる。
元々が梶井なのだから「カジ」であっても違和感がない。
「ありがとうございます、ししょ……親父!」
「親父か……こそばゆいのぉ。だが悪くない響きじゃ」
「一人前の鍛治師になれたのは親父のお陰だよ!」
「照れるな……最後に父親としてリュウタにはワシからこの身分証の他に当座の生活費、そして据え置き型と簡易型の炉をそれぞれ虚空庫に入れておこう。服装も適当に入れておいたからそれを使え」
「ありがとう、親父!だけど俺は人間界に飽きたらここに戻って来れるのか?」
「もちろんじゃ。人間界でやる事を終えたらワシの下に帰りたいと願え。それとわしからの寵愛じゃ。受け取れ!」
俺の身体は仄かに、いや、今までで1番強く光り、天目師匠……親父からの寵愛を確かに受け取った。
そして神々が鍛治場まで集まってくれて俺を見送ってくれたのだ。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




