039
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剣術の実技試験を終え、帰路に着こうとしていたら筆記試験の時にいた副試験官の1人に呼び止められた。
「リュウタ・カジさんですね。あっ、ちょうど皆様も揃っているようで。申し訳ありませんがお時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「えっ……構いませんが何かありましたか?」
「いえ。今回、筆記試験でいろいろありまして……後任の筆記採点を行うディスマス・パパデウス教授と面談をして頂きたく……」
「それは構いませんが……それってエレンたちもでしょうか?」
「はい。皆様全員でお越し頂きたく存じます」
俺たちは顔を見合わせるが、仕方がないかと肩をすくめて副試験官の後をついていく事にした。
数分歩くと、普段は教室として使われていると思われる場所にやってきた。
副試験官がノックし部屋の中に入ると、ニカラウスともう1人の副試験官、そして机に肘をついて手を組み少し大きな目を見開きこちらをじっと見ていた。
「パパデウス教授、お連れしました」
「ご苦労。君がリュウタ・カジくんだね」
「はい。そうですが……何かありましたか?」
「いや、ちょっと聞いてみたい事があってね。カーリス教経典、箴言の書の第5巻13節について何だが」
「箴言の書の第5巻13節?『我は我が師の声に聞き従わず、先達が見出した世の理りに耳を傾けなかった』ですね。一般的な解釈は、人は愚かであり殊更結婚となると盲目になりがちだとされています」
「……暗記しているのか?」
箴言の書は31巻あり第5巻は〈妻を娶る為には〉という内容が書かれているものだ。
この第5巻は他種族の女を娶ってはならないという人族優位主義を色濃く説いている箇所として知られており、彼は先日、俺が帝城に婚約者たちを引き連れて登城した事を知っているのだろう。
何より、俺の横にハイエルフであるエレンが立っている事をこの教授は揶揄したのであれば要注意だ。
ただパパデウス教授が驚いたのは、恐らくこの箇所は結婚という内容なだけに一般試験問題としてあまり取り上げない巻であり、受験生の多くもまたこの巻を読み飛ばす事が多い。
彼が驚いたのはそんな巻の一節を俺が澱みなく誦じたからであろう。
「ええ。私の婚約者たちも全巻覚えていますよ」
「全巻!なるほど……一般的な解釈と言っていたが一般的ではない解釈というのも知っているのか?」
「はい。これは神学的な解釈になりますが、神の導きがなければ例え目の前に真の伴侶が在ってもそれを知ることはないという解釈ですね」
「他国の女は娶るなとも解されるな」
「神学的には思想が異なる女性の事を指すとも解されています」
「ははは。下手な司祭よりも詳しいな」
「そんな事はありませんが、公太子としては知っておかなければならない事ですから」
俺はそういうと婚約者たちを俺の横に立たせた。
それを見てパパデウス教授は立ち上がり俺の前にやってきて、
「素晴らしい。家名で分かるかも知れんがこれでもカーリス教司祭の家系の出だが、私自身の主神はグラディウス様と言う実在する神を崇めているし、何より人族優位は間違ってると思う。君の受け答えもそうだが今回の筆記試験は満点だった。あまりにも素晴らしい解答だったので話しをしたかったのだが想像以上の実力だ。主席として頑張りたまえ!」
「ありがとうございます。それでは入学式で再会するのを楽しみにしています」
家名にパパが付くのは神職を司る家系であり、その中でもパパデウス家は高位神職に就く事が多い名家だ。
パパデウス教授と固く両手を握り、そして教室を出た。
グラディウス……俺の親父の1人だよなぁと思いながら廊下を歩く。
既に太陽は傾きかけており、他の受験生は帰宅したのだろう誰一人として見当たらず学院内は閑散としていた。
俺たちは学院の衛兵に会釈をし、門の外で待機していたカジ家の馬車に乗り込んだ。
「筆記試験は600点取れたようだな。魔法も剣術も両方とも400点だったから、1000点満点の試験を1400点取ったという事になるか」
「そうなると、あの皇女が首席になる事は難しそうですね」
「皇家はプライドが高いから入学してから何かちょっかい出してきたら面倒だよな」
元々、セレーコス学院に入学するつもりだったタミレは、学院の暗黙の了解に付いて知っていたようだ。
それは、皇族の子女は学院の首席となる、というもの。
ところが、実技に関しては魔法、剣術共に大した実力を持ち合わせていない事が露呈してしまったのだから首席を取らせる事は難しいだろう。
「まあ、私たちが成績上位を占めるんだから問題ないんじゃない?」
「そうじゃ。ちょっかい出してきたらブレス1発で灰にすれば良いんじゃしな」
「ノルンさん、それはちょっと……」
「それだけの力を私たちが持っているのは確かよね!」
「そうだな。その時は皆の力を貸してくれないか?」
「当たり前です!」
「そうじゃ。任せてくれ」
「そうです。お任せください!」
「ふふふ。リュウタに頼られるのって嬉しいですね」
俺たちは合格発表までのんびりと過ごす事にし、その間に俺はカジ邸の大規模改修を行ったり馬車の改造やタミレのレベルアップに付き合うなどを行っていた。
3日後、貴族学部の合格発表が行われ俺たちは全員無事に合格。
セレーコス学院の中庭に合格者が張り出されており、多くの受験生が膝を突いて落涙していた。
160人いた受験生のうち130人が落ちるのだからそれも仕方がない事だろう。
落ちてしまった受験生は魔術学部や騎士学部に割り振られる事になっており、名前の後ろに魔術もしくは騎士と書かれているので割り振り先が分かる様になっている。
アンティオコスはもちろん、同じ転生者のラオディアとキュジケノスも貴族学部に合格しているようだ。
そして、首席合格者はどうなっているかと言うと……
何故だかラミル皇女が首席となっており、俺やエレン、ノルン、マヨルカ、タミレは副首席となっていた。
ちなみに次席は、アンティオコス。
今回は点数は発表されていないので誰がどれだけ点を取ったかは不明だ。
筆記試験で不正をしようとしたジャクリオ“元”教授の息子である9番は不合格だった様だ。
「ラミル皇女って魔術や剣術の時……マッドゴーレムを少し凹ましたくらいでしたよね?」
「そうじゃ。妾たちの足元にも及ばないですレベルだった筈じゃが」
「これって前に言っていた皇家のプライドが関係するのでしょうか?」
「それにしてもあからさまね」
女性陣はラミル皇女が首席という事に不満の感情を隠さずにぶつけてきた。
「いや、これはニカラウスに言ってそうさせたんだよ」
「えっ、それ、どう言うこと?」
採点の結果、ラミル皇女は平均点を上回ってはいるが、上位陣に入る程ではなかった。
そこでニカラウスからディスマス教授に「仮にも皇女が首席でなければ学院に対する補助金が下がりかねないから名目上首席にした方が良い」と進言させたのだ。
その進言を受け、教授会で審議され学院長の承認を受けた上でラミル皇女を首席とした。
ただ、実質首席である俺たちに首席待遇が受けられるように配慮した結果、副主席という従来は存在しなかったポジションが用意されたのだ。
「まぁ、そこは政治というものかな」
「政治ねぇ……」
「で、首席待遇とはどんなものじゃ?」
「それは私も気になります!」
「従来の首席待遇なら分かるわよ」
タミレの兄である第3王子のセルビオスもまたこの学院を首席で卒業しており、その関係で首席待遇を知っていたのだ。
「先ずは部屋が特別室と言う通常の個室より広い部屋が充てがわれるの。そして侍従は3人まで入れる事ができて学費や寮費が免除になるの。何より最初の2年間は試験免除!」
「試験2年間免除って何気に嬉しいんだけど」
「そうじゃな。人族に試されるのは妾のプライドが……な」
「学費が免除……♡」
俺は事前に知らされているのだが、特別室はラミル皇女が使う事になっており、俺たちは上級貴族用個室を10室ほど繋げて改装し5人で入室できる様にしてもらう事になっていた。
その費用は俺のポケットマネーから出したので、学院側は両手を挙げて賛同してくれている。
「今回は俺たち5人で入室できる特別室が充てがわれる事になっているよ。侍女は最大15人だからエレンやタミレが連れてきてくれた侍女たちに来てもらいたいんだ」
エレンがバクトゥーリア王国からエクバタナへ向かう際に同行していた侍女は全員で9人。
その内の1人がマヨルカなので8人にタミレに付き従っていた侍女のエマを含めて9人の中から5人を寮での世話をお願いしたいと考えていて、残り4人はエレン騎士団の拠点で働いてもらおうと考えている。
侍女たちは王女付きとして来ている事もあり、彼女らの人件費は掛かり続ける事になる。
それならばカジ家で雇用すればそのあたりの問題が解決するのだが、カジ邸で働くとなると侍女が9人加わるのは正直不要。
という事で寮でのお世話などを彼女らにしてもらおうと考えたのだ。
「ついでに帝都内でエレン騎士団の拠点も得たいから後で不動産巡りしような」
ちなみにアンドゴラスたちは衛士として、セバスティオヌは執事、そして御者たちは庭師などとしてそのまま雇用したいと考えている。
両親のいる邸宅も良いのだが、さすがに侯爵位を授爵しているのにこれだけの大所帯で居候させて貰うのは気が引ける。
「良いですね。拠点を用意している冒険者パーティーも少なくないですから」
4人の中で帝都情報に詳しいタミレが俺の意見に同意する。
「お風呂が広い家が良いなぁ」
「妾は寝室じゃな」
「私はキッチンが広いと嬉しいです」
「俺はやっぱり鍛治室かな。まあ、なくても改築すれば良いんだけどね」
「そうよね。リュウタなら改築し放題だから多少古い邸宅でも良いかもね」
という事で俺たちは拠点選びをする事になった。
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