038
興味を持って頂きありがとうございます。
魔法実技試験が終わったら、標的を片づけ、マッドゴーレムが15体搬入されてきた。
魔法の場合、一定距離を飛ばす必要があったので設置できる標的の数はどうしても少なくなったのだが、剣術の場合は魔法ほど面積を取らない事もあり同時に行える人数が多くなるのだ。
そして今回使用する2メートルを越すマッドゴーレムは、マッドという名称ではあるが身体は泥というより固められた地面の様にそう簡単に剣が通るようなものではない。
しかもコアさえ破壊されなければ自然に修復される事もあり実技試験だけでなく、魔獣狩や土木工事など多岐に渡り活用されていた。
「さあ、剣技試験だ!ゴーレムの核は胸中央にあるのは知っているな。各自用意してある剣を使い、核以外を攻撃してゴーレムを無力化せよ!制限時間は3分だ!」
ヨルゴス・カサヴェテス。
剣術の主任試験官は冒険者ギルドのAクラスという現役の冒険者だ。
身長は165センチとこの世界の人族としては少し高めだが体躯はがっしりとしておりその二の腕はエレンのウエストくらいの太さがあった。
そんなヨルゴスのよく通る声は広い実技場であっても拡声魔法がいらないくらい良く通る。
その声に併せて俺を含む1番から15番受験生がそれぞれのゴーレムの前に立つと、一斉にマッドゴーレムが起動される。
ゴーレム表面が固くなり、まるで金属のような光沢を放ち始める。
「やあっ!」
起動と同時に真っ先に切りかかったのはラミル皇女。
彼女が持っている剣は多くの女性が使用するレイピアではなかった。
レイピアは突きを主体とする攻撃であり、マッドゴーレムには向かないからだ。
湾曲した刀身、シミターにも似ているがブロードソードに負けない長さを持った片刃刀を両手に持ち、上段に構えてマッドゴーレムに向かった。
ガキン
ラミルはマッドゴーレムの右腕を斬り落とそうとしたのだろうが、彼女の剣は腕に食い込むどころか弾かれてしまった。
「固い……でもっ!」
ラミルはそう呟くと剣技、斬撃を放った。
ガッ
だが、ラミルの剣はマッドゴーレムの腕を軽く凹ませる程度で即座に修復される。
「何この硬さ〜少しは空気を読んで切り落とされなさいっ!」
2番、9番以降の生徒も皆似たようなものだ。
いや、凹ませるだけラミルとその従者は優秀なのかも知れない。
何度も剣を振り下ろすが一向に無力化どころか動きを抑える事もできず、1人また1人と脱落していく。
そんな彼らを見つめているのは試験官だけでなく、俺たちも手持ち無沙汰に彼らを眺めていた。
俺たち5人、そして8番のアンティオコスの6人は既にゴーレムの手足を斬り落とし無力化を終えていたからだ。
「時間だ!剣を収めろ!無力化に成功したのは3番、4番、5番、6番、7番そして8番……文句なしで200点、いや400点だな。他の受験生はどれだけ攻撃がゴーレムに入ったかにより点数化する。次は16番から30番!」
俺たちは最高200点の筈が魔法実技に続いて400点を取得してしまった。
少し時間を遡る。
「……制限時間は3分だ!」
ヨルゴスの掛け声と共に受験生たちがマッドゴーレムに向かった。
俺は涙紋刀を手に、エレン、ノルン、マヨルカ、タミレたちはエレン騎士団の標準装備である神剣ではなく特1等……聖剣の中でもより強力な光魔法と各種属性魔法が付与されている剣を手にしている。
エレン、マヨルカ、タミレの剣術スキルは9。
ノルンは人化後に剣術レベルを取得したのだが既に21になっている。
俺は99。
それなので俺とノルンはエレンたちのレベルに合わせてゴーレムに向かった。
アンティオコスはレベル6、いわゆる上級と達人の間くらいの実力に落としてゴーレムと対峙。
「んー涙紋刀使うんだから居合をしてみるのも良いかも」
居合は基本、刃を上に向けた状態で帯刀する。
今回、俺は刃を外下に向けて左手は鞘、右手は柄を軽く握り、肩幅から一歩右足を前に出した状態で立った。
肩の力を抜き、腰を立ててマッドゴーレムを迎え撃つ。
ドンドンドン
2トンを越す重さのマッドゴーレムが重そうな体躯を最大限に加速し、床を踏み鳴らしながら迫って来た。
運足を用いてマッドゴーレムの左側へと向かいつつ、抜刀。
そのままマッドゴーレムの胴体はウエストの部分で2つに分離され上半身が崩れ落ちた。
「なっ!?ゴーレムの胴体を切断!?さ、3番、合格!」
俺の横ではエレンが特1等の聖剣に負けない剣技でマッドゴーレムの両手足を斬り落とし、短くなった手足をバタつかせるゴーレムの胴体があった。
「〜〜!?4番合格っ!」
「うむ。エレンもなかなかやるのじゃ。妾も負けてられぬの」
ノルンは瞬時にマッドゴーレムとの間合いを詰めた。
ゴーレムの判断速度はそこまで高くはないようでノルンが自身の懐に入り込んだ事に反応できず彼女を見失っていた。
次の瞬間、マッドゴーレムは手足どころか頭も付け根から斬り落とされ、胴体がそのまま地面に落下しオブジェと化した。
「ご…5番合格……」
「私も負けられません!」
「そうですね。それに、ゴーレム如きに負ける気がしません!」
マヨルカとタミレはそれぞれ自分のゴーレムに向かっていき、そしてエレン同様に手足を斬り飛ばして無力化させた。
「6、7番合格!どうなっているんだ今年は……流石カジ家と言えば良いのか……」
「試験官、私も終わっていますが」
「8番?剣がマッドゴーレムに突き刺さっている〜〜!?」
「はい。コアから伸びる魔導菅を断ち切ったので剣を抜くまで動けないでしょう」
「○※△〆……確かに無力化できている、8番合格!」
アンティオコスは試験官に一礼して他の受験生が終えるのを待っていた。
9番もアンティオコスを真似て胴体に剣を突き刺そうとしたが弾かれてしまい傷一つつけられないでいる。
「何で!何で?何で〜〜!ミスリルの剣なのにマッドゴーレムの腕一本斬り落とせないなんて〜〜〜」
ラミルは叫びながらマッドゴーレムに剣を叩き付けている。
ガッガッガッガッ……
(あーあ、例えミスリルの剣だろうがあんな使い方したら剣は使い物にならなくなるぞ……って、あの剣、剣先だけミスリルコーティングしているだけのなんちゃってミスリル剣じゃないか……)
俺は皇女なのだから余程良い剣を持たされたのかな、と鑑定してみるとラミルが手にしている剣は良1等。
一般的に流通している剣より幾分かマシなレベルでしかない。
剣技を上げればマッドゴーレムの腕を斬り落とす事はできるが、ああもデタラメに打ち付けたら剣が曲がってしまう。
案の定、彼女の剣は少し離れた俺の位置から見ても大きく歪んでいるのが見て取れた。
「時間だ!剣を収めろ!無力化に成功したのは3番、4番、5番、6番、7番そして8番……文句なしで200点、いや400点だな。他の受験生はどれだけ攻撃がゴーレムに入ったかにより点数化する。次は16番から30番!」
主任試験官の声に合わせて受験生たちは剣を鞘に納めたが、当然ラミルの剣は鞘に収まる筈もなく、彼女は剣を地面に投げ捨てた。
「皇女の私が!マッドゴーレム如き……!」
「ラミル様、次の受験生が待っていますので……」
「うるさい!分かっているわよ!」
ラミルの剣を従者が拾い上げている間も、彼女はドンドン出口の方へと歩いていく。
従者は主任試験官に頭を下げて彼女を追いかけるのだった。
「ふー。あれでも合格するんだよな。お前たち、合格したら苦労するぞ、たくっ!
ヨルゴスは俺たちに言って聞かせるでもなく、独言るかのように呟き、1つ大きくため息を吐いた。
その間に副試験官たちが斬り落とされた手足などをゴーレムにくっつけて再起動すると、何事もなくゴーレムは動き出した。
そして、
「16番から30番、ゴーレムの前へ!」
ヨルゴスは気を取り直して試験を続行する。
俺たちは彼に一礼して実技場を後にした。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




