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興味を持って頂きありがとうございます。
「凄いな……セレーコス帝国内とは思えない。どうやってここまでの内装を……」
店内の照明は高い透明度と深い輝きを放つ、いわゆるクリスタルガラスをふんだんに使ったものだったのだ。
天井は10メートル程の高さがあり、その天井の中央にはメダリオンが描かれ豪華なシャンデリアが吊り下げられていた。
壁には蝋燭を模した照明が配置され多面体のガラスが優雅な空間を醸し出していた。
この世界のガラスは未だ透明度に難がありしかも脆い。
窓ガラスはそれこそ、帝国本来の技術力を良く現しているものだったが、どう考えても店内の照明は異質だ。
家具も精緻な象嵌が施された、この世界の物とはとても考えられないようなものばかりだ。
「綺麗……」
「確かに、綺麗じゃ」
「……ここは、天国?」
「まさか、シャンデリアが見られるとは思っていなかったわ」
俺も早速この照明を取り入れようと詳細鑑定を行うと、材質や製作者などが分かった。
材料は、硅砂、炭酸カリウムに酸化鉛……。
完全にクリスタルガラスの成分と一致している。
そして製作者は、ファサド・ヘント。
家名はあるが貴族ではなさそうだ。
ただ、物品の鑑定からは製作者の詳細は分からないのでできれば一度会ってみたいと思う。
そう考えていたら、そこに店員がやってきて、
「いらっしゃいませ。今回は店内をご利用でしょうか、それともお持ち帰りになさいますか?」
帝国内では見ないフリルの多い白を基調としたメイド服を着ている女性が話しかけてきた。
メイド服は膝下までの長さに黒のローファーを履いていた。
この靴もこの世界では見られない製法だった。
そして、この服と靴の製作者もまたファサド。
俺と同じで錬金術だけでなく複数のスキルを高レベルで所持していると思って間違い無いだろう。
「スイーツを食べて行きたいのですが……」
マヨルカは店内の雰囲気に気圧されて少し萎縮した感じでその女性に応えた。
「ありがとうございます。それでは席にご案内致しますので、こちらへどうぞ」
俺たちは女性の案内で個室へと向かった。
店内のテーブルにはまだ席も十分に空いているにも関わらず、また個室の要望も出していないのにだ。
俺は少し警戒をしながらだが、エレンたちは少しはやる気持ちが強いのだろうか少し緊張した面持ちで女性の後ろについていった。
「こちらの部屋をご利用ください。メニューがこちらになりますのでお決まりの頃に伺いに参ります」
そう言って女性は部屋を出て行った。
この部屋の中の家具は先程までのものより更に手の込んだ芸術品と言えるものが置かれていた。
そして、家具などの製作者もやはりファサドだった。
「凄いな……この世界にもここまでの技術者がいたんだ」
「この部屋だけでどれだけの一流職人が携わったのかしら」
「主人様にも驚かされるが……このお店にも驚かされる」
「……こんな部屋に住んでみたい」
「カーテンバランスに猫脚の家具……18世紀ヨーロッパの貴族邸宅の様だわ」
少し俺とは祖語はある。
俺は1人の技術者として話していたが、エレンは複数の技術者として見ている様だ。
それは仕方がないだろう。
何せ複数のスキルを持っている人は少数派なのだ。
エレンとノルンは俺に合わせて部屋に感動し、マヨルカは完全に夢の中、そしてタミレは部屋の分析?に没頭中だ。
そんな中、先ほどの女性が男性を伴ってやって来た。
「エレン騎士団の皆様、この度は私どものお店にご来店くださり誠にありがとうございます。私は店主のファサド・ヘントと申します」
「ファサド……?クリスタルガラスの……?」
俺は彼の名を聞いて思わず呟いてしまったのだが、それを聞いたファサドは俺を驚きの目で見つめるのだった。
〈ファサド・ヘント回顧〉
俺はこの世界では商人の子として生を受けたがのだが、実は前世の記憶を持って生まれてきていた。
前世の名は、寺島輝。
フランスでパティシエとして修行をしており、10年もの修行を終えて日本に戻ってきたばかりの時に駅ホームから線路内に転倒したお婆さんを助けた際に、自分が代わりに電車に撥ねられたのだ。
そして気が付いたら何もかも真っ白な空間に俺がいた。
「ここは……」
周囲を見渡しても何もないただ真っ白な空間。
恐怖を感じ混乱し始めた頃、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「アキラ・テラシマ」
「……俺の名を呼んだか?」
「そうです。あなたです」
声のする方に目をやるとそこには白い布を纏った女が立っていた。
美人ではあるが……ボディビルでもやっているかのような体格だ。
「私の名はブリジッド。あなたのいた世界と他の世界を橋渡しする任を受けている神です」
「他の世界?」
「汝は他者を助けるために命を賭し、その結果命を落としました」
全くこちらの質問には答えようとしないで淡々と話しを進めていく。
「そりゃあ、電車に撥ねられれば死ぬよなぁ」
「ただ、汝の寿命はまだ多く残っており、そのまま生命の輪廻に戻すには魂が強すぎます。それであなたが住んでいた地球とは別の世界に転生させる事にしました」
「転生?何か特別な能力も貰えるのか?」
「能力?またですか……それならここでそれを覚えてから向かえば良いでしょう」
「自動的に貰えたりは……」
「何を甘い事を。加護は場合によっては差し上げますがスキルは自分の努力で覚えるものです。それで何を覚えたいのですか?」
「いくつかあるが、パティシエとしての能力、アイテムボックスそして錬金術を覚えたい!」
「随分と欲張りですね」
そう言いながらブリギッドは少し考え、
「それなら製菓、虚空庫、錬金術の其々の神から直接習ってください」
そう言うとブリギッドは瞬時にその存在が消え、3人の神を連れてきた。
3柱とも男神で、自己紹介をした際に名を教えられた。
それぞれ、田道間守命、月読命そして3人目は外国の神のようでヘルメス・トリスメギストスと名乗っていた。
結局、田道間守命に10年、月読命に40年そしてヘルメス・トリスメギストスに50年の計100年ほど付いてそれぞれを習得し、スイーツ、虚空庫そして錬金術もレベル10を習得できた。
「ほう、修行期間が短い割には加護も授けたのですね」
「はい。何でも愛息と同じ世界へ向かうのだから、と3人とも言っていましたが……」
「愛息ですか……そうですね。彼は私の愛息でもあります。出会ったらきちんと挨拶するのですよ。力になってくれると思いますから」
ブリギッドはそう言うと俺に加護を与えてくれた。
「愛息の名はリュウタ。リュウタ・カジ。然りと脳裏に刻み込むのです」
「リュウタ・カジ……しっかりと覚えておきます」
「それでは愛息のいる世界へ」
彼女の声と共に俺はセレーコス帝国帝都エクバタナの有力商家、ヘント家の次男、ファサドとして生を受けたのだ。
そして、俺は受けたスキルと加護をフル動員して今ではファサド独自の商品であるクリスタルガラスを帝家にのみ独占で卸し、またシェ・ジェノワーズを開店して多くの高位貴族からご愛顧いただくまでとなった。
他にもセレーコス学院の錬金術講師などをしている。
ただ、先日、帝家との専属契約を締結した事もあってクリスタルガラスについては一切口外していないというのに、目の前の男はそれを知っている……もしかして!
〈リュウタ視点に戻る〉
「た、大変恐れ入りますが、もしや、あなた様のお名前はリュウタ・カジ様では……」
「はい。確かに、俺はリュウタ・カジですが……」
ファンザは俺の名を確認するといきなり片膝を突き臣下の礼をとった。
「私はリュウタ様のお陰で加護を頂きました。特にブリギッド様からはリュウタ様に対して……」
「あっ、あーっ、ファンザさん、それは後で話しましょう。後で時間を作りますので!」
「……?そ、そうですね!後ほどよろしくお願い申し上げます!それではごゆっくりお寛ぎください!」
そう言うとファンザは再び礼をして部屋を出ていくのだった。
その後、部屋には沈黙が流れたがそれを破ったのはタミレだ。
「リュウタ……ブリギッド様って……あの?」
「あのって……何の事か良く分からないなぁ。さて、何を頂こうか……」
タミレは俺の事をジーッと見つめているがエレンたちにもメニューを回して何を注文するか決める様に促した。
俺が彼女の質問を流そうとしているのを見て、ふーっとため息を1つ吐いて今を楽しむ事にした様だった。
結局、彼女らが注文したのは、特選アフタヌーンティーセット。
スコーンにフィンガーサンドイッチ、4種類のプティフール、アンティパスト、スープとローストビーフそしてサラダがセットになったものだ。
スコーンにはサワークリームといちごジャム、サンドイッチはスモークサーモンとチーズ、キューカンバサンドと言った感じで俺も今まで作った事のないものばかりだ。
「「「「凄い……♡」」」」
4人は食器の素晴らしさや料理の華やかさに目を奪われており、そこはちょっと悔しさを感じつつも俺にはなかった魅せる食事の良さを吸収していこうと考えた。
特にプティフールは大きなケーキを切り分けたのではなく、1つ1つ丁寧に作られた芸術品。
見た目だけでなく完成された至福の時間を与えてくれるのだ。
成人を迎えた俺らはお酒を飲めるので食後にスパークリングワインを頂いているのだが、彼女らが飲んでいる合間に俺はファンザと話しをする事にし、手洗いに行くと言って個室を出て部屋の外で待機していたメイドに案内されてファンザの執務室へと向かう。
その部屋は客用個室とは異なり、完全に実用性重視の内装だが置かれている家具は全て一流と思われるものばかりだ。
「リュウタ様!弟弟子と言うには拙い技術レベルではありますが、田道間守命様、月読命様、ヘルメス・トリスメギストス様、そしてブリギッド様に加護を頂きましたファサド・ヘント、前世は寺島輝と申します」
「この世界では私の方が年下ですし様付けは不要ですよ。俺はリュウタ・カジ、前世も似たような名前で梶井龍太と言います。ただ、彼女らの前では前世持ちと言う事は隠していて……」
「あっ、それはすみません!以後は気を付けます!」
こんな感じでファサドとの話しが始まったのだ。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




