033
興味を持って頂きありがとうございます。
皇帝グレイオスの謁見を終え、俺は帝城とセレーコス学院に鼠型使い魔と昆虫型使い魔をそれぞれ100体ずつ、帝都全体にそれ相当の使い魔を放った。
やはりグレイオスの含みある表情に引っかかるものがあったからだ。
ホムンクルス2体のうち1体は帝国侯爵家の中でも歴史も財政もしっかりしているエピファノス家の養子として迎え入れられ、アンティオコス・エピファノスと名乗りセレーコス学院を受験する事になった。
そしてもう1体はニカラウス・ラーンジュという基礎魔法実技教師として送り込む事になった。
ニカラウスは定期的な教師求人に応募するという形でカジ家との関係を探られないようにした。
「おはよう、リュウタ」
「おはようなのじゃ」
「おはようございます、リュウタ様」
「おはよう。リュウタ」
エクバタナのカジ家別邸では俺たちは1つの部屋で過ごす事になった。
何せ、学生になったら寮生活となり男女分かれての学院生活になってしまうかも知れない。
それなので、入学までの間、俺たちは一線を超えないが1つのベッドに寝る事になったのだ。
「おはよう、エレン、ノルン、マヨルカ、タミレ」
1人ずつ軽めのモーニング・キスを交わし全身洗浄を行って室内着に着替えた。
ワードローブ機能に全身洗浄や髪型セット機能などを追加したので朝の準備が格段に楽になった。
エレンたちも同様に全身洗浄を行い室内着に着替え、従魔のマーナにも洗浄を掛けて一緒に食堂へと向かう。
マヨルカの使い魔であるセリスは食事を必要としないのでそのまま寝室で待機。
ちなみにエレンたちにも使い魔を渡しており、エレンには黒豹型、ノルンにはハヤブサ型、マヨルカにはシマナガエ型、マーナには茶色と黒の子犬型にし、名前はそれぞれエスリーア(愛称、リーア)、グリゴラ(愛称、グリちゃん)、そしてヒオニ(愛称、ひーちゃん)と名づけ、マーナは単純にチャとクロと呼んでいた。
「父上、母上、おはようございます」
「おはようございます」
「おはようなのじゃ」
「おはようございます……」
「御父様、御母様、おはようございます!」
「あんっ!」
流石年の功、タミレはどうすれば相手の両親に気に入られるか分かっている、という挨拶だ。
「ああ、おはよう。良く眠れたかい?」
「ご実家だと思って寛げると良いのだけど……今朝はサカスターナの伝統的な朝食よ」
帝国の東端にあるサカスターナ領、俺がカジ村と呼んでいる地域で食べられている朝食だ。
帝国に限らず、多くの国は膨らみの足りない全粒粉の硬いパンが食べられているが、カジ村は基本、米食。
しかも多くの場合は精米されている白飯だ。
それに川魚の干物やほうれん草の煮浸しや根野菜の煮物、漬物、そして味噌汁といった和式の朝食だ。
今日はこれに納豆と焼き海苔が付いており、これこそ和食!といったメニューとなっている。
マーナにはオークの炭火焼きだ。
「あ、和食……」
「ん?タミレさんはこの食事をご存知なのかな?これはカジ村の初代村長が苦労して作ったとされる伝統食なんだよ」
「はい。以前、頂いた事があります!特に味噌汁が好きです!」
「そうなのね。食事は箸を使うけど使いにくかったらフォークやスプーンも用意しますからね」
「母上、実はここに来るまで皆と箸を使っておりまして」
「あら、それでしたら余計なお世話でしたわね。もしかして食事の挨拶も?」
「はい、御母様。リュウタさんから教えて頂きました」
タミレは俺の事を普段は呼び捨てなのに、両親の前では「さん」付けだよ……
やはり人生経験が豊富なだけある。
「うむ。それでは料理が冷める前に頂くとしようか。それでは、いただきます」
『いただきます』
「あんっ!」
作り手が違うから俺が作る和食と少し違うので新鮮な味わいだ。
エレンたちも美味しいと言いながら箸が進み、マイコは彼女たちの箸の使い方に感心しながら食事を終えた。
そして番茶が出されて一服している時にリュウイチが話しかけてきた。
「リュウタは今日は何をしているんだ?」
「はい。折角帝都に来ているので彼女たちと買い物にでも行こうかと」
「ホント!?嬉しい!」
「買い物は心が躍るのじゃ!」
「いろんな物を見るのって楽しいですよね!」
「私も帝都は久しぶりなので買い物は楽しみです!」
「リュウタ……女性の買い物は……いや、何でもない。そうか、襲撃には気をつけるんだぞ」
リュウイチはマイコからの視線に気が付き話題を変えた。
やはりリュウイチはマイコの尻に敷かれているのだろう……俺も気を付けなければ!
そんな事を思いながら、今日は帝都で人気のデザイナーの洋装店や若い女性に人気の飲食店に向かう事にした。
女性たちは動きやすいドレス、俺は貴族の子弟が着るようなパンツルックにスリープのあるシャツ、そして上着と言った装いに着替える。
それと最近、あまり構ってあげられていなかったマーナも連れて行く。
連れて行くと言っても俺の傍を歩いて行くのではなく肩に乗せての移動になるのだが。
エレンたちも使い魔を肩に乗せて散策する事に。
流石に小さくなっていても飛竜を肩に乗せて散策したら目立ち過ぎるから今回も留守番になる。
近いうちに大空を散歩させないと。
カジ家別邸のある貴族街から商店が立ち並ぶ場所までは少しあるので近くまで馬車で向かう事にした。
「帝都って言うだけあって綺麗な街並みね」
エレンが車窓から見える街並みを見て感嘆する。
今まで、ペルセリス、グリエフ、スサとこの世界の都市を訪れてきたがエクバタナは都市の規模からして違った。
馬車の車道と歩道は明確に分けられており、街路には街灯まで備わっていた。
建物は非常に整った石造りで高度な測量と建築技術があるのがそこから垣間見られる。
何より大きな辻には衛士が2人組で立ち、治安が保たれていた。
「ああ。思った以上だな」
「そうなのか?妾にはどこも同じように見えるのじゃがな」
「いえ、私たちの王都バクトラはペルセリスよりも小さいですし、それに……臭いです」
「臭いといえばテーベも同じだわ。エクバタナは下水が発達しているのよね」
マヨルカとタミレは自国の王都と比較していたようだ。
この世界の知識によるとこのエクバタナはドワーフの協力の下、都市開発がなされているので上下水道が完備され治安もこの世界ではトップクラスなんだそうだ。
そう言った事もありエルダードワーフのリュウイチは帝都防衛だけでなく、帝都インフラ全般も握っている。
それもあって皇家はカジ家に頭が上がらないのだ。
そんな話をしているうちに到着したようで、そこに馬車を停めて商店街まで歩く事にした。
歩道も石畳みが敷かれその石が浮いてぐらつくような場所はない。
「おっ、焼きたてのパンの匂いだ」
お昼時が近いからだろう、どこからかパンの匂いが微かに漂う。
朝食から数時間しか過ぎていない事もあり、彼女らはまだ空腹感を覚えていないようだ。
「先に買い物をして時間をずらしてお昼に入りたいわ」
「そうじゃな。見るとどこの食堂も人で溢れかえっておる」
「私も買い物からの方が良いと思う」
「私は……スイーツが食べたいわ!」
「「「スイーツ!?」」」
「多分、そう言ったお店は空いているんじゃないかしら」
「スイーツなら入るわ」
エレンはタミレの言葉にお腹をさすりながら答える。
俺はそれを見て微笑ましく思いながら、
「どうだい、ノルンとマヨルカも良ければスイーツを食べに行かないか?」
タミレの案に俺が乗っかった形になったのだから2人とも賛同してくれる事になり、スイーツ探しになった。
俺は帝都に放ってある使い魔から情報を得ていたので、帝都で1番人気と言えるスイーツのお店へと向かう事にした。
この世界ではお菓子は修道院が作るもので、膨らんでいないパンのようなクッキーが主だったもので甘味を楽しむと言う文化が然程発展していなかった。
ところが、そのお店は生クリームやフルーツたっぷりのクレープ、バターたっぷりのフィナンシェ、何よりスポンジケーキが焼かれており、特に貴族子女の心を鷲掴みにしているらしいのだ。
十数分歩くと、ショートケーキが描かれた特徴的な看板が目に入ってきた。
「シェ・ジェノワーズ」
これがお店の名前だ。
「ショートケーキの家?この世界の言葉ではないな……」
「フランス語、ですよねこれ」
「フランス語?」
タミレの言葉にマヨルカが反応する。
この世界にはフランスという人種や国、そして言語は存在していないからだ。
「えっと……古代語の一つだったような……」
「まあ、趣向の変わったお店の名前って事だよ」
「そ、そうよね!」
「「ふーん……」」
俺がタミレに助け舟を送った形になった事もありエレンとマヨルカはそれ以上追求をやめ、お店の外観を観察し始めた。
ノルンはもう食べる事しか頭にないようで、口元に何やら光るものが見え隠れしている。
お店の前に来ると看板だけでなく外観もまた特徴的で、基本は石造りの建物は他と変わらないが、一体お店にいくら掛けたのだろうかガラス窓があった。
もちろん、透明な物ではなかったが採光の役割は十分に果たすし、何より窓際に並べられた商品が透けて見えるので街ゆく人の興味を引く。
入口のドアはウォールナット製の両開きドアで、あまりにも店の入り口に対して無頓着と言える帝国人が多い中異彩を放っている。
「これまた、趣きがあるな」
「ここだけ別な国のお店のようだわ」
俺とタミレが驚きを隠さずにお店を見ていると、我慢の限界がきていたのかノルンが俺とタミレの間に入り腕を絡ませて、
「もう、感想は良いのじゃ。早くスイーツを食べるのじゃ!」
「本当にここは期待できそうですよね。早く入りましょう?」
「私もワクワクしてきました!」
ノルンの行動に触発されエレンとマヨルカがお店のドアを開けるとお店の中もまた非常に煌びやかでエレンとマヨルカの心を鷲掴みした。
それに加えて、甘い香りが漂ってきて、これがノルンを無口にさせた。
「凄いな……セレーコス帝国内とは思えない。ここは夢の中の国なのではって思わせるな」
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




