029
興味を持って頂きありがとうございます。
お風呂で婚約者たちとまったりと過ごした後、再び鍛治室へと向かった。
彼女たちは食事をしてから来ると言うのでそれまでに終わらせておきたい事があったのだ。
「さて……10万時間での問題はなさそうだな……」
各実験は3つとも問題はなかったようでホッと胸を撫で下ろす。
次に飛空船に魔導ジェットエンジンと反重力魔法装置を組み込み、それによる実験だ。
飛空船に魔導ジェットエンジンを取り付け起動した場合にどう言った応力が掛かり破損していくか、また飛空船内に使い魔を入れて艇内の環境変化などのデータ採取だ。
この世界における上空20000メートルや雷雲に突っ込んで雷の直撃を受けた場合、エアポケットに入り込み急降下してしまった場合、離陸・着陸の繰り返しなど想定しうる様々なケースを考えて虚空庫内で実験を行う。
「一応、ノルンクラスの飛龍も他にもいる様だからドラゴンブレスを受けた場合なども実験しようか」
そんな事を呟きながらテスト内容を増やしていく。
飛空船内はいつもの様に空間快適化を行うのと同時に高度な安全性を得る為に二重構造となっている。
艇内は別次元に存在しているので、飛空船が墜落して大破しても艇内は全くの無傷で小さな揺れすら感じさせない様な設計になっている。
この様な特殊構造という事もあり使い魔を入れての実験なのだ。
「内装はスサの別邸を参考にしようか……」
別邸で使われている家具は華美ではないがこの世界の1流品。
若干見られる歪みや脆弱なクッション性は修正してより使い勝手の良い家具を虚空庫内で創っていく。
「そういえば最近槌を振るってないなぁ……そうだ、楽器でも創るか!」
俺はそう呟きながら楽器創りを始める。
最初の楽器は俺が好きなテナーサクソフォンをチョイス。
本来なら銅と亜鉛の合金製なのだが、虚空庫内には超レアな素材がたっぷりあるのだから神鋼で創る事にした。
「サックスかぁ。懐かしいなぁ……」
俺の家は貧しかった事もあり他の部員みたくマイ楽器なんて物は買える筈もなく、学校のサビが酷くキーも押し難くなっている様な楽器を大切に使っていた。
顧問の先生がくれたサビ取り剤などを使い、部員が使わないリードを貰ってそれに手を加えながら吹いていた。
そんな事を思い出しながら神鋼を叩いていく。
剣と同様、楽器にも鍛造品がある。
鋳造品はどうしても少し重く部品も大きくなる傾向があり細かな部品は鍛造して削り出していく。
手間は掛かるがその分、音は良くなりまた操作性も格段に上がる。
「これは剣よりも時間かかりそうだ……」
神界で楽器の神様としては三穂津姫命、弁財天、アテーナといったお袋たちからそれぞれ技術を学んでいた。
楽器創りだけでなく演奏、歌唱なども叩き込まれている。
それなので彼女らの息子、いや弟子としてその名に恥じない楽器創りをしなければ!と思いながら一つ一つの部品を創る。
「ふう……今日はここまでにしておこうか……」
「終わったの?」
エレンの声に俺は少し驚き振り返ると、エレンだけでなくノルン、マヨルカそしてタミレも椅子に座ってこちらを見ていた。
「いや、まだ完成はしていないけどキリがいいからね」
「何を創っているの?」
「そうじゃ。金属製の管やいろんな部品がたくさんあって何を創っているのか検討もつかん」
「本当に。何を創っているのでしょう?」
「もしかして……サクソフォン?いえ、まさか……この世界に……」
タミレは元日本人なだけあり、サクソフォンを知っていたのだろう。
「いや、サクソフォンであってるよ。正しくはテナーサクソフォンだね」
「えっ、サクソフォン?うそ、もしかして、リュウタ、あなたは……」
「この楽器かい?この楽器はね、カジ家に代々伝わるもので初代が転生者だったらしいんだよね」
「そ、そうなのね……」
まぁ、実際に初代が転生者なのは一部では知られている話しだし、俺も転生者と敢えて言う必要もないしね。
「本当は別のモノを創っている最中なんだけど、実験中で時間があったから楽器創りをしていたんだよ」
この世界の楽器は単純な縦笛や古典的な太鼓の様な打楽器位しかない上に非常に高価なものだ。
折角なのでサクソフォンを創り終わったら皆にも楽器を創ってみようかと思っていた。
「俺の独断で良ければ皆の楽器も作るよ?」
「えっ、いいの?」
「もちろんさ。エレンはハイエルフだから竪琴が似合いそうだね」
「妾には何を創ってくれるのじゃ?」
「ノルンはフルートという横笛かな」
「わ、私には……」
「マヨルカにも当然創るよ……そうだな。少し難しい楽器だけどヴァイオリンが良いかな」
「……フルートにヴァイオリン……リュウタ、私には何が似合いそう?」
「マヨルカと同じでも良いんだけど、タミレにはピアノかな?」
「ピアノまで創れるの!?」
「あぁ。少し時間は掛かるけど問題はないさ」
「嬉しい……」
エレン、ノルン、マヨルカは俺のイメージで楽器を割り振った。
ただ、タミレは以前彼女の詳細鑑定を行った時に知った情報で、前世でピアノを弾くのを趣味にしていた。
今世でもピアノを弾かせてあげたいと思っての選択だった。
明日になれば飛空船の実験も終わるし、楽器も虚空庫内で同時作製していけばどうにかなりそうだった。
将来的には皆で演奏できる防音室なんかを創りそこにピアノを設置しておくと喜んで貰えるかな。
「明日には用意したいから、皆はもう休んでいて。そろそろスサも出立してエクバタナへ向かうから夜ふかししていると大変だよ」
「本当はもう少し見ていたかったけど……そうね、先に休ませてもらうわ」
「そうじゃの。妾もそうするとしようかの」
「私もお言葉に甘えさせていただきます」
「……ピアノは見ていたい……けど、私も休ませていただきますね」
4人とハグをし、そして彼女たちは寝室へと戻っていく。
その後ろ姿を眺めながら俺は彼女たちの楽器創りのための設計図を描きそれを基に虚空庫内で創り始める。
ピアノはフルコンサートグランドピアノを創る事にし、併せてエレンには竪琴だけでなくペダルハープのフルコンサートタイプも創っておくことにした。
フルートとヴァイオリンもそれに見合うだけのものを用意して……皆に喜んで貰えたら嬉しいな。
飛空船の実験の結果も良好であり、それと同時に内装も準備が終わった。
後は楽器を設置して完了だ……
この頃にはもう起床時間となっており、俺は軽めにシャワーを浴びて出立に備えるのだった。
〈暗殺部隊レフカチェリア 部隊長クラテロス〉
私、クラテロスはスサへと向かう道中、ある場所に立ち止まった。
「ここなら、待ち伏せにちょうど良いな」
この地点はスサからエクバタナへ向かって130キロほど離れている場所だ。
周囲に宿泊できる様な村落はなく、また、馬車が3台を停めて野営するにはもってこいの広さがあった。
「スサからエクバタナへ向かう際にここなら確実に立ち寄るだろう」
「そうですね。距離的にも広さ的にもここが1番立ち寄りそうですね」
「馬車を停車させそうな所に深めの泥濘みを作り、そこで馬車が立ち往生したら一斉に魔法攻撃だ」
「完璧な計画です!」
「そうだろそうだろ?まぁ計画通りに行ったらの話だがな……」
隻眼のアンティゴノスと計画の詳細を詰めていく。
言葉では成功を確信しているかの様な台詞が両者から出てくるのだが、実際は困難なものになるだろうと覚悟を決めてのものだ。
私たちはこの広場に泥濘みを作り、広場の外れに身を隠す事にした。
それと同時に部下を2人ほどスサへと向かわせリュウタ様にの同行を探らせる。
彼らが戻って来てから数日間は身を潜める事になるだろうか。
「リュウタ様の護衛がどれほどの数がいるか……それに全てを賭けよう」
「そうですね。今回は部下の数も絞っていますから……ですが、これが1番確実でしょうし」
私は、1つため息を吐き、
「仕事が選べないとはいえ……こんな仕事はしたくないな」
「そうですね。成人を迎えたばかりなのに婚約者を迎えただけで標的にされるのは……」
「もし、生き残れたなら……」
「部隊を解散して傭兵団でも創りますか?」
「それも面白そうだが、反対に私たちが狙われるな」
「なら、亡命ですかね」
「そうだな。生き残ったら本気で考えようか」
私たちはその後、リュウタ様暗殺に向けて準備を進めるのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




