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翌朝、グリエフ港湾管理事務所に赴いて30人ほどの正体不明者たちから襲撃を受けた旨報告をし、このままタミレをエクバタナまで護衛する旨の依頼を受けた事を報告した。
本来なら冒険者ギルドにすべき依頼受諾報告なのだが、港湾事務所が冒険者ギルドのグリエフ支部を兼務している事もあってここで報告をしたのだ。
面倒な事に襲撃された経緯などをいろいろ聞かれ、先に攻撃を行ったのはどちらか、負傷者は何人いるのかなど事細かく報告する事になり、少々うんざりした。
「……という事は、この襲撃者が先に水球や矢による攻撃を行ない、反撃の手段として火球を1発のみ、その後追撃など一切せずにいたという事ですか……。完全に専守防衛で相手方に非がありますね」
事務所長の部屋で録画した映像を見ながらの報告だ。
所長は両肘をテーブルに突き頭を抱える。
そのままの姿勢で、
「実は、その襲撃者はレマイオス王国の海軍兵士なんですよ……それなので今回の行為は交戦行為であり、最悪、帝国に対しての宣戦布告と見做されます」
事務所長は深い溜息を吐き、
「嫌になるね。向こうはリュウタ様から先に攻撃してきて、タミレ殿下を引き渡せば不問にすると、ね。なんか多くの負傷者を出したから引くに引けないとか」
「たった1発の火球で多くの負傷者!?」
「そうらしい……だがこの動画を見る限り……真実はリュウタ様にある。しかもこの動画“真実の目”を使ってのモノだから偽造でない事はそれで証明できるしね……」
「賠償金として光金貨10枚で不問にすると伝えてください」
「光金貨10枚……妥当な金額ですね……はぁ、嫌になるねぇ」
真実の目と言うのは本来は裁判を行う際にその証言の真贋を判定するための魔道具だ。
今回は録画と言うこの世界にはない魔道具ではあるがこの真実の目を組み込んだ事で高い信憑性を得られたのだ。。
事務所長はもう一度深い溜息を吐き、書類を作成していく。
「取り敢えず、タミレ殿下の護衛に関しては金貨100枚での受注で受理しておきます。これは依頼達成時に支払うという事でエクバタナにあるレマイオス王国大使館からの承諾を得ていますので。ただ……タミレ殿下を引き渡すかは……エクバタナに到着してから、ですね」
「もう、面倒になってきました……」
「取り敢えず、皇帝の弟君の御息女ですのでくれぐれも宜しくお願いします」
「はぁ……取り敢えず、スサ経由でエクバタナに向かいます……」
俺は港湾管理事務所を後にし、野営地へと戻る。
そこで鍛錬をしていたアンドゴラスにも声を掛け、テンモクハウスのリビングに来てもらい、俺、エレン、ノルン、マヨルカ、セバスティオヌ、アンドゴラスにタミレそして侍女のテアが集まった。
そして事の経緯を説明する事にした。
「……と言う流れになり、タミレ殿下の護衛依頼は無事に受理されたのでエクバタナのレマイオス王国大使館まで護衛をさせて頂きます」
「宜しくお願いします」
「この間、ここで知り得た情報は一切外部に漏らさないようお願いいたしますね」
「情報?何か特別なものがここにはあるのですか?」
「一緒に移動していたら嫌でも分かりますよ」
「そうですか。漏らさないのは構いません。契約でもしますか?」
「良いんですか?それなら契約魔法で……」
俺が契約魔法を行おうとした時、エレンが手を伸ばして魔法を掛けさせないように間に入った。
「リュウタ、それはダメ!」
「エレン、急にどうしたんだい?」
「下手に王族に契約魔法を掛けたら結婚しなければいけなくなる事があるのよ」
契約魔法の期間にもよるのだが、知り得た情報をいつまで漏らさないか。
これが一生とかになれば、その人の人生を縛り続ける事になる。
男女間なら婚期を逃すような期間なら尚更で、下手に縛るよりも結婚した方が効率的という考えだ。
実際にタミレはそれを念頭に入れていたのだろう「チッ」と小さく舌打ちをしていた。
「リュウタ、そんな契約をしなくてもタミレ殿下は命を狙われているんですから護衛契約が切れればどうなるか理解できていますよ」
「そうですリュウタ様。この国で一番安全な場所がここなのですから」
「そうじゃ。レマイオスとかいう国と戦争になっても妾は負ける気がせんしな」
「そうか。それなら文書での契約にし、違約金としてレマイオス王国に対しての賠償金額と同じ光金貨10枚に設定しようか」
「光金貨10枚……」
「それだけの価値があるからですよ。契約されないならタミレ殿下側の不備で護衛依頼は無しにできますしね」
「……分かりました。それでは契約します」
そう言うと俺は契約書を作成し、そこにエレン騎士団団長エレンとタミレ間での契約とした。
それを見てタミレは2度目の舌打ちをしたのを俺は聞き逃してはいない。
「セバスティオヌ、1時間後に移動すると皆に伝えてくれ」
「畏まりました」
「さぁ、俺たちも出立の準備をしないとな」
そう言うと俺、エレン、ノルンそしてマヨルカはワードローブ機能を使い着替えを行った。
一応、役人と会っていたのだから俺は軽鎧になっていたので馬車の中で寛げる、ただし貴族として外に出ても問題のないズボンとシャツに着替えた。
3人は室内着だった事もあり、エレンは王族として、マヨルカはその侍女、ノルンは俺に準じた女性用の貴族服に着替えたのだ。
「なっ!どうやって着替えたの?」
「ん?機密事項だよ」
「機密……事項……?」
タミレは俺たちの着替えを黙って見つめていた。
そして、テンモクハウスを出ると俺はそのまま虚空庫に収納。
騎士や侍女たちの建物も収納していき、石壁内には馬車が3台残っているだけだった。
「た、建物が……」
「機密事項よ」
エレンはそう言うとタミレに向かって人差し指を立てて自分の唇に前に当る。
俺はそれを横目で見ながら石壁を全て元の土壌に戻す。
10メートルもの高さがあった石壁が瞬時に消え失せたのを見て、タミレはそれに向かって指を差しながら口をパクパク開く。
「機密事項じゃ」
ノルンが無愛想にそう言い放つ。
そのまま俺たちは茫然自失状態のタミレと共に馬車に向かう。
空は非常に良く晴れた青空が広がっているがタミレの顔色はあまり良くなかった。
そして置かれていた箱型の馬車の中に、エレン、ノルン、マヨルカ、セバスティオヌが入っていく。
「どうぞ」
「は、はい……っ!?」
俺に促されて馬車に乗り込んだタミレは馬車の中を見て固まった。
そして、馬車の中からマヨルカの声が聞こえてきた。
「機密事項ですよ」
タミレは「あはは」と小さく笑いながら俺に向かって振り向き、
「あなたは何者?こんな馬車見た事も聞いたこともないわ!」
「だから、機密事項だよ」
「機密事項、機密事項、機密事項!!なんなの、もう!!!」
タミレはそう叫びながら馬車に乗り込むが、そこで再び驚きの声を上げて、
「何この車内の明るさ!……どうせ機密事項でしょ!!」
「……そうだね。そろそろ静かにできるかい?」
「殿下……わたしも頭の中が混乱しています」
「テア、私、頭がおかしくなったと……」
「この人たちが普通じゃないだけですから」
酷い言われようだが、自覚が無い訳じゃないので聞き流す事にした。
馬車はスサに向かって走って行く。
車窓からはそれこそ一般的な馬車とは思えない速さで進んでいる事が分かるほど景色が流れて行く。
「何、この速さ……しかも揺れがほとんどない……って、機密事項ね」
「良くお分かりだね」
「お茶をどうぞ」
「マヨルカありがとう。ん〜良い香りだ」
「馬車の中で、お茶?」
「寛げるしね」
「どうやってお湯を……はぁ……美味しいわ」
「ありがとうございます」
お茶を飲み目を瞑るタミレはいろいろ思考を巡らせていたようだが目を見開き、
「そう言えば、このエレン騎士団って、バクトゥーリア王国のエレン王女のこと?これも機密事項?」
「そんな事ないわよ。仰る通り、私はバクトゥーリア王国第2王女よ」
「だからこの騎士団はエルフが多いのね。で、リュウタさんとノルンさんは……人族ではないわよね?」
「俺は一応、帝国の貴族だよ……あっ、エレン、ノルン、マヨルカも今はそうだったな」
冒険者ギルドのSランクはその登録国の侯爵位としての待遇が得られる。
エレン、ノルン、マヨルカは帝国の冒険者ギルド支部で登録しているので帝国の侯爵として遇される。
「と言う事は……人族?エレン殿下も帝国国民?人族がエルフと一緒に行動できるようになったのね」
「んー、ほぼ外れだけどおいおい分かるわ」
「おいおい分かるじゃろうな」
「そうですね。おいおい分かると思います」
「……機密事項の次はおいおいですか……」
そう言うとソファーの背もたれに寄り掛かり目を瞑る。
そんなタミレを心配そうに見つめるテア。
セバスティオヌは敢えて壁を作る3人の女性を見て改めて女性の怖さを肌に感じ、リュウタはいつものようにマーナを膝に乗せてその頭を優しく撫でているのだった。
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