023 襲撃者を撃退
興味を持って頂きありがとうございます。
〈レマイオス王国人族優位主義者、戦艦ヘリオス号艦長アンティウス〉
ふはははは。
今回はこのヘリオス号の兵士たちの中から選りすぐりの30人で襲撃をする事にした。
これだけの戦力はそうはないだろうと思える程だ。
場所は……グリエフ港から2キロほど離れた海岸沿いか。
あそこは砂浜が広がる場所で防衛拠点としてはあまり意味をなさない所だな。
「さぁ、カーリスの戦士たちよ!多種族共栄の象徴でもあるタミレ殿下は目と鼻の先にいる!生意気にも護衛を置いているが我らの敵ではない!一気に奪取するぞ!!」
『はっ!』
私の激に部下たちは力強く応える。
練度も高く、魔法も使える頼もしい奴らだ。
一応、グリエフの港湾管理者にタミレ殿下を迎えに行く旨を伝えに行く事にしようか。
私は部下を1人伴って停泊している岩壁から程近い場所に港湾管理事務所があり、そこに挨拶に向かう。
このグリエフは帝国における交易拠点という事もあり人員も多く配置しており、しかも防衛拠点ということもあり衛士がしっかりと配員されている。
そこは流石帝国というべきか。
「……という訳で、これからタミレ殿下を迎えに行こうかと思う」
「あ、そうですか。ただ、そのタミレ殿下は我が国のS級冒険者に護衛を頼んでいますからねぇ」
「はん、S級と言えど個人では大した脅威ではない」
「いや、あそこのパーティーは個人としてもS級保持者が4人もいる上に、しかも4人とも龍討伐者の称号持ちだからねぇ」
管理事務所の職員はやる気のなさそうな間延びした受け答えで、私を少しイラつかせる。
だが、それよりも彼の言葉の中に気になる単語があった。
龍討伐者。
龍は魔獣ランクでSSランクであり、討伐記録のある地龍でさえ1個師団を派兵してどうにか斃す事が出来た程で、軍としての被害もそれ相当だったと聞いている。
それでも生き残った者には〈龍討伐者〉の称号は付かなかった筈だ。
そうなると、その者たちは少人数で龍を討伐したのか……
「それは凄いが、個人は集団に敵わぬのは摂理というものだ」
「まぁ、揉め事さえ起こさなければ良いですよ」
「理解してくれて感謝する」
私たちは事務所を出てそのまま彼らが居留している場所へと向かった。
武装した兵士が繁華街を歩いているのだから、真夜中とは言えその物々しさに喧騒が一気に静寂に変わる。
そう。
それだけ私の兵は素人から見ても練度の高いのが分かるのだ。
この静寂を称賛と捉えタミレ殿下が保護されているとされている場所へと向かったのだが、その場所にちょっとした異変があった。
「なんだ、あの要塞は……」
私が言葉を無くしたのには当然それ相当の理由があった。
真夜中だと言うのに昼間と見紛えるほど明るく照らされた先には地域防衛をするには十分な石壁で覆われている、小規模要塞と言っても差し支えのないものがあったのだ。
「野営地、って言っていなかったか?」
「はい、そのように伺っております」
「あそこにタミレ殿下がいるのか?」
「はい、そのように伺っております」
「……なんと言う事だ!これでは奇襲など無理ではないか!」
しかも、海岸沿いで砂浜が広がっている筈なのに何故だか砂浜が泥濘み足を取られてしまう。
「クソッ!なんだこの砂浜は!」
「はい、砂浜だと伺っております!」
「……砂浜、か」
私たちはこの泥濘みのせいで隊列が崩れていき、進軍しているとは到底思えないような有様になっている。
「S級?こんな姑息な手段を講じやがって!」
「はい……そのように伺っております……」
より強い殺気が奥底から湧き上がって来ているのが良く分かる。
この泥濘みは思った以上に体力を奪い兵士たちも息が上がってきており、進軍が更に遅くなる。
そんな中、堪え切れなかったのだろうか兵士のうち何人かが水球や矢を要塞に向けて放った。
だが、距離もある事から水球は要塞を濡らす程度で矢はカンと乾いた音を立てて地面に落ちていった。
「バカモノ!それだと相手にこちらの存在を知らせてしまうだろ!」
私が兵士たちに叱責するや、今度はその要塞から反撃だろうか火球が1発こちらに向けて放たれた。
ただの火球ではない。
火色が白金という、最上位魔法が放たれたのだ。
温度としては1万度を超える。
あんなのを受けたら一瞬で灰すら燃え尽きてしまう!
「水球、水球を放てっ!」
『大地を湿らす恵みをその潤いにより相手を包め!水球!!』
何とも締まりのない詠唱だろうか。
兵士たちの詠唱に見合った水球が形成され火球に向かって放たれていく。
普段なら頼もしいのだが、目の前にある火球と比較すると貧弱過ぎて顔が引き攣っているのが分かる。
ゆっくりな詠唱に合わせてくれているのか火球はゆっくりとこちらに向かって来ている。
その火球に水球が向かっていくのだが、火球に触れるどころか近づくだけで蒸発してしまっている。
「クソッ!退避、退避だ〜!」
だが、泥濘みに足が取られ思うように退避ができない。
そして慌てれば慌てるほどかえって足が沈み進めなくなっていく。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
俺は思わず絶叫とも言える叫び声を上げた。
火球は俺の後方で地面に到達し、その周辺の水は一瞬で気化して爆発を起こした。
水蒸気爆発だ。
それにより俺たちは吹き飛ばされ、そして高温の水蒸気に曝された。
全体の3割は水壁を張りどうにか水蒸気爆発の直撃を避けられたが、避け切れなかった者たちが吹き飛ばされて呻き声を上げる。
「負傷者の救護だ!誰一人欠けることなく船に戻るぞ!」
俺たちは水球を放ちながら這う這うの体で撤退する事になった。
〈リュウタ〉
俺たちは襲撃に備えて地形を少し変える事にした。
土魔法を使い高さ10メートル幅5メートルの石壁を作り照明魔法で周囲を真昼くらいの明るさに照らし、周囲には結界を張り遠隔の攻撃があっても良い様にした。
石壁の上には俺とマーナ、そしてノルンが待機し、アンドゴラスたちは1個所だけ造ってある門で待機してもらった。
「主人様、やってきたのじゃ」
「ああ、夜闇に紛れる事が出来ないとはいえ、随分とお粗末な登場だな」
石壁の上から30人ほどの集団がこちらに向かって歩いているのが見える。
ここを包囲すると言った動きは見せず全員が真っ直ぐこの野営地に向かってきているのだ。
タミレを迎えに来たという雰囲気ではなく、交戦を前提とした装備で敵意も隠そうとせずにいる事から襲撃しに来たのは確実。
確実なのだが、不意打ちを打つ訳でもなく戦力が丸裸にされている時点で襲撃は失敗に終わると理解できないのは致命的だ。
あらかじめ土魔法を使い、この野営地の周辺は足元は少し深めの泥濘みにしてあった。
それに苛立ったのか何人かが水魔法をこちらに向けて放ったようなのだが、威力もなく石壁が少し濡れる程度。
矢も放たれていた様だけど、石壁に軽く当たって地面に落ちた。
「これって戦線布告だよな?」
「そうじゃのぉ。これで宣戦布告というのもあれじゃが」
取り敢えず、この様子は釣り船を作った際に一緒に創った魔道具で録画してあるので、先に攻撃を仕掛けたのは向こうである事が証明できる。
矢も証拠として保全したので向こうも言い逃れできないだろう。
「試しに火球でも放ってみようかの」
「しっかりと魔力を抑えてやるんだぞ」
「それは承知しとる」
ノルンが無詠唱で小さな火球を集団に向けて放った。
確かに魔力が抑えられており牽制するには悪くない強さだ。
それに対して集団からは多数の水球が放たれ、ノルンの火球を迎え撃っていた。
だが、ノルンの火球は消える事なく真っ直ぐ集団へと向かっていく。
その集団からは何やら悲鳴にも似た叫びが聞こえてきて蜘蛛の子を散らすかのように集団は逃げ惑う。
そして、火球がその集団の近くに着弾。
ドウン!
火柱が上がりその温度は少し離れた石壁の上にいる俺たちの所まで波及した。
その爆風に煽られ、多くの者が吹き飛ばされたようだ。
「うぉ!結構な威力があったんだな」
「そうじゃな……もうちっと弱くてもよかったかの?」
「まぁ良いんじゃないか?おっ、立ち上がって……撤退していく?」
上から見ていると負傷者が少なくないらしく、小さな呻き声が複数聴こえてくる。
もしこれがマヨルカだったら、全員消滅していたかと思うとノルンに任せて良かったかなと思う事にした。
十数発もの水球がこちらに放たれているが、石壁を僅かに濡らす程度。
結局、彼らにとって何ら成果を得られる事のなかった襲撃は呆気なく終わりを告げた。
「えっ、これでお終いなのかな……?」
「そのようじゃの……」
マーナは俺の足元で丸くなって大きな口を開けてあくびをするのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
宜しければ感想・ブクマ・評価を頂けると嬉しく思います。
これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




