022
興味を持って頂きありがとうございます。
帝立セレーコス学院の受験……という事は、エクバタナまで連れて行く事になるか。
そう考えながら話しを聞いていた。
「レマイオス王国のテーベから船でグリエフに向かっていたのですが、途中海賊船に襲撃されて……荷物などは奪われ男は殺され女子供は捕まり乗っていた船は沈められ……私はこの侍女の他に10人以上いたのですが……」
そこまで話すとタミレは涙ぐみ嗚咽が漏れ話しが続かなくなった。
「……私を逃してくれた侍女は目の前で斬られ……」
「そうだったんですね……」
エレンはタミレに共感し目から涙を浮かべていた。
だが、1つ疑問に思う事があった。
それというのもテーベからグリエフに向かう航路の途中のポイントで俺たちは釣りを行なっていた。
その際にレーダーに反応があったのは帆船が一隻だけだった筈だ。
恐らくタミレが乗っていた船というのがその船になるのだろうが、この世界の帆船の航行能力を考えた場合、他の船がその後にやってきて襲撃するのは不可能に近いのではないか……
それなので考えられる事は、
「もしかして、裏切られた、のですか?」
俺が小さく呟く。
「そんな事はありません!殿下はっ!裏切られる様な人じゃ……」
「殿下?」
エレンの指摘に対して侍女のテアは口を押さえて俯いた。
タミレもまた俯き少し震えている。
「別に尋問しているんじゃないですが……恐らく、海賊ではなく一緒に同行していた者たちが航行途中で裏切り、小船か何かに乗せられた上で魔法攻撃を受けて漂流していたのではないですか?」
俺の言葉にタミレは観念して、口を開いた。
「……そうです。私は護衛の騎士たちに裏切られ海の真ん中で船から下ろされ攻撃を受けたのです。死体が残るのは好ましくないそうですから」
「殿下……タミレ殿下はレマイオス王国の王女です……人族優位主義者の標的にされて暗殺されかかったのです」
タミレとテアがようやく真実を話し始めた。
レマイオス王国の現王は多種共栄を信条とする。
そこでタミレ暗殺により人族優位に傾かせようとしたのだろうが、偶然にも俺たちに助けられたのだ。
「リュウタ様……グリエフの港湾管理事務所に海難者保護の連絡をしてしまいました」
「いや、それはこんなケースでなければ当たり前の対応だから問題ないよ。ただ……」
グリエフ港湾管理事務所は冒険者ギルドグリエフ支部としても機能している事から、こう言った海難事故の連絡や保護に関してはここ1か所に連絡すれば済むようになっている。
だが人族優位主義者たちは、同じ人族優位主義のセレーコス帝国の人間と多少なりとも繋がっている可能性もある。
事務所に海難者保護を伝えたのなら、恐らく暗殺に失敗したと考えここを襲撃してくるだろう。
「エレン……」
「ふふふ。リュウタの考えている事は私の考えでもあるわ」
「ありがとう。エレン騎士団はタミレ殿下の護衛に就く。アンドゴラスたちは周囲の警戒を。ただし結界の外には出ないように」
「妾は周囲の索敵でもしようかの」
「リュウタ様、私も……」
「いや、エレンとマヨルカは同性だから彼女たちと一緒にいて護衛して貰えるか?あと侍女たちは部屋から出ないように」
「分かったわ」
「その様に致します」
「そしてセバスティオヌは今一度港湾管理事務所に赴き、保護をしたのはレマイオス王国の王女タミレ殿下だと伝え、エレン騎士団が護衛依頼を受けたと伝えてくれ」
「承知致しました」
こうして、長い夜が始まるのだった。
〈レマイオス王国人族優位主義者、戦艦ヘリオス号艦長アンティウス〉
〜タミレが裏切られた頃に戻る〜
「ふふふ、タミレ殿下。貴女にはレマイオス王国が正しい国になるための礎になってもらおう」
私はそういうと、タミレ殿下を乗せた避難用ボートに向けて水球を放った。
タミレ殿下の護衛として選ばれた時、私、アンティウスはいよいよ長年温めてきたタミレ殿下暗殺を実行に移す時が来たと心が逸った。
我が国は国王ダライアスの下、多種族共栄と言うあり得ない政策を継続させている。
人族は他種族より遥かに優れていると言うのに、何故、他種族と手を取り合っていかなければいけないのか!
国王ダライアスに目を醒まして貰うためには多少の痛みは必要だろう。
そう、国王の唯一の愛娘、タミレ殿下が他種族により殺されれば、きっと目が醒めるのではないだろうか。
我らの主神カーリスの教えの下、人族が亜人どもを隷属しこの世界を導く事こそがこの世界を救う事に繋がるのだ!!
ちょうどタミレ殿下は成人を迎える年齢となり帝国にあるセレーコス学院に進学する事になっている。
テーベからエクバタナまでの道中、他者からの襲撃から殿下を護る事を考えれば、テーベから帝国の港湾都市グリエフまでは海路で向かい、そこから陸路でエクバタナに向かうのが1番安全だ。
実際に我が国で最近開発に成功した30メートル級ガレオン型戦艦は他国の追随を許さず、安定性、居住性、何より武力に於いて圧倒的性能差を誇っている。
そんな船でタミレ殿下を帝国まで連れて行くのであれば誰も反対しないだろう。
何より、乗組員400人全員が私の思想に同調するカーリス教教徒。
その内150人は屈強な海兵隊だ。
それなので航行中はタミレ殿下は私の手の中にあるのと同じなのだ……
「艦長、間もなくエリュタゥラー海で最も深度のある海域です!」
「そうか。それでは計画を実行しよう。幹部たちを集めてくれ」
航海士からの報告を受け作戦を実行する事にした。
作戦の内容は、タミレ殿下を避難用のボートに乗せ、そのボートごと魔法で沈めてしまうという至極単純なものだ。
タミレ殿下は好奇心旺盛……言い換えると我儘なのだから避難用ボートに乗りたがるのは自然の成り行きと見做されるだろう。
そこを海の亜人種である海魚人が襲ってきて……なかなか良くできたシナリオだ。
今回、タミレ殿下は侍女を10人ほど連れてきてはいるが1人以外は皆我らの同志。
その1人の侍女と共に海の藻屑となって頂く事にしたのだ。
「アンティウス!何をするのですか!」
侍女の1人、テアが抵抗を試みるも侍女でしかない彼女が海の男の力に抗える筈もなく、タミレ殿下と共に後ろ手に縛り上げるよう指示を出す。
そしてそのまま避難用ボートに乗せ、
「あなたのしている事は謀叛ですよ?」
「私が謀叛ですか?あり得ませんな。私はレマイオス王国に忠誠を誓っております」
「なら何故、この様な事を!」
タミレは何も言わず私のことを睨んでいるだけで、テアだけが非難の言葉を私に向ける。
「まぁ、多種族共栄主義者には何を言っても分からないだろう」
「アンティウス、もしかしてあなたはカーリス教徒……」
「そうですよ。レマイオス王国では排除の憂き目に遭っていますが、人族の多くは今でもカーリス教の教えを信じておりますね」
レマイオス王国も以前は人族優位主義を取っておりカーリス教を国教としていた。
だが、セレーコス帝国帝王グレイオスの弟であるダライアスがこの国の女王の王配となり、多種族共栄に転換してからはカーリス教は廃止され、教会もまた破壊された。
それにも関わらず、彼が王配に就いてから50年は経つというのに根強く人族優位復権を待ち望む者が多いのは、それだけカーリス教は人族にとって都合が良い宗教なのだ。
「さて、2人には死んで貰いましょう」
私はそういうと2人を乗せた避難用ボートを海面へと下ろさせた。
「ふふふ、タミレ殿下。貴女はレマイオス王国が正しい国になるための礎になってもらおう」
私が放った水球はボートを破壊し、2人を海中へと沈める。
これでカーリスの教えを実践できたのだとその達成感に酔いしれ、
「さぁ、取り敢えずグリエフに向かい「タミレ殿下が海魚人に襲われて死んだ」旨の報告を行おうか」
幹部たちと前祝いとして酒盛りをし、グリエフ港にその日の夜に到着した。
そして衛士たちに、航行の途中タミレ殿下が魔獣に襲われた旨伝え、船内でゆっくり過ごす事にした。
船室でワインを傾けながらグリエフ港の夜景を眺めていた所、ドアをけたたましく叩く音が響く。
俺が入室を許可すると伝令係の者が血相を変えて入ってきた。
「艦長!至急のお知らせが!」
「なんだ!こんな時間に何があったんだ!」
「はい。タミレ殿下が……保護されているとの情報が!」
「何?保護?それならば引き渡しの要請をしろ!」
「ですが……タミレ殿下が冒険者に護衛依頼を出しそれが受理されている様で……」
「冒険者風情など圧力を掛けろ!」
「そうしたいのは山々なのですが……その冒険者というのがS級冒険者で……」
「S級だと?」
S級だと侯爵位と同等の扱いとなる。
それだと私の要請など蹴られてしまうだろう。
「それでそいつらの居場所は分かっているのか?」
「はい。海岸沿いに野営しているそうです」
「それなら……襲撃するしかないか。海兵隊の中から30人を選抜し強襲をかけるんだ」
「畏まりました!」
そういうと伝令は首肯して急いで部屋を出て行くのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




