020
興味を持って頂きありがとうございます。
数日後、俺たちはグリエフに到着した。
道中は特に魔獣の襲撃もなく、道に迷う事もなく到着できていた。
この辺りは俺の持つスキルによるものなのだがそこは御者たちに花を持たせている。
「海だーーー!」
グリエフの港から見たエリュタゥラー海はエメラルドグリーンに輝き、温かな日差しが解放感を与えてくれる。
改良型馬車とは言ってもやはり馬車旅は閉塞感があるのだから視界一杯に広がる海に、俺は思わず声を上げたくなったのだ。
「これが海なんですね……」
「はぁ……素敵です……」
「そうですな……海はこんなにも雄大とは……」
「わぅ〜!〈うみ〜!〉」
エレン、マヨルカそしてセバスティオヌが嘆息混じりに呟き、マーナは俺の周りを走り回っている。
飛竜たちも元の大きさに戻り天空を駆けている。
「そうじゃ。これが海じゃ。魚も獲れるのじゃ〜!」
それに対してノルンはこれでもかという位に胸を張って魚自慢(?)している。
俺はそんなノルンの頭に手を置いてグリグリ撫でて、
「ノルン、本当に立ち寄って良かったよ。ありがとうな」
「ぐふふ、もっと褒めても良いんだぞ?」
「それは魚が釣れたら料理で応えるさ」
「料理……主人様の料理は絶品じゃからの。それは楽しみじゃ!」
このエリュタゥラー海は非常に豊かな漁場が多く、アジやイサキ、カツオ、ブダイといったものからロブスター、ウニ、貝類、エビ類などが豊富に獲れるようだ。
そこで人目につかない場所に移動して、拠点を設営し虚空庫内で完成していた水陸両用船をそこに出した。
初披露の乗り物という事もあってあちこちから驚きの声が上がる。
俺とエレン、ノエル、マヨルカ、セバスティオヌそしてアンドゴラスの6人が船に乗り込み沖釣りを行う事にし、他の騎士や侍女、御者たちには釣具の使い方を説明してライフジャケットを着せ、岩場でも足が滑りにくい靴を渡し釣ってもらう事にした。
「えー、騎士の皆さんには今晩のおかずをお願いしたいと思います!」
「「「「「えーっ!?」」」」」
一斉にブーイングだ。
騎士たちだけでなく侍女たちからも同様にブーイング。
まぁ、そこは釣りを始めたら収まるだろうから、俺たちは早速水陸両用船に乗り込んだ。
「これは……本当に漁船ですか?」
アンドゴラスは水陸両用車に乗り込むと大きく目を見開いて驚いていた。
何せ、この世界の漁船は数人乗りのボートが主流であり、最近ようやく帆船のガレオン船がこの世界に登場したばかりで大きさもこの船より3回りは小さい。
「漁船ですよ?甲板には釣り具を固定する器具も付いていますし、魚をまとめて保管する事がができる様にもなっていますし」
20メートル級の魚も時間停止で保存できる虚空庫が甲板に設置している。
記念撮影ができる様に甲板にはクレーンも設置してある。
そう考えると漁船だが、これは元いた世界でもあり得ない形状のなので「漁船ですか?」と聞かれると俺も断言しきれないところではある。
「さぁ、席についてください」
船の操舵は操舵室で行うのが基本だが、リビングでも簡単な操舵ができる様になっている。
「すご……ソファーの座り心地が……最高だわ!」
「本当じゃのう。人間の船とやらとは随分違うのぅ」
「王城の応接室よりも素敵です」
「素晴らしい、としか言いようがない……」
「こんな船に乗ったらもう他の船に乗れないんじゃないか?な、リュウタ?」
俺は皆の賞賛を背に受けながら操縦席に着座して魔導エンジンを始動した。
これはエレン騎士団の4人しか起動できない様にしてあるが今は基本俺だけだ。
一瞬、船全体が微振動を起こすが音もなくただメーターがエンジンの回転数を告げる。
流石地龍の魔獣石を20個も使用するだけあり安定して起動している。
「それでは、出発!」
そう言うと10もの車輪が動き始め船は海に向かって進み始めた。
船は備え付けのレーダーにより岩礁を避けてゆっくり海を進み、ある程度の深度まで進んだらスクリューが回転を始める。
「すご……揺れが殆どないわ」
「今日は天候も良くて波がないからね」
エレンの驚きに応えながら、俺は自動操舵に切り替えて魚群探知機の反応する場所に向かう。
その間にライフジャケットを配り、釣具の準備を始めた。
「えー、リュウタ様。餌は何を使えば良いのでしょうか?」
彼らにエサを渡していない事から釣り愛好家であるセバスティオヌから質問を受けた。
「実は、この釣り針には魔法を付与していて、餌がなくても魚が食い付く様になっているんですよ。それなので餌がいつの間にかなくなっているという事はないんですね」
「……はい。分かりました……」
セバスティオヌは納得しかねている様だが無理矢理それを受け入れている様だ。
周囲の海域を探査すると少し離れたところを帆船が1隻航行中なのと別な海域では海龍や巨大蛸魔獣といった巨大魔獣がそれなりに活動していたのでそれらを避けて少し離れた場所で釣りをする事にした。
船が停まり、釣りのポイントに到着する。
俺たちは甲板に出て、釣具の固定を行った。
「右のボタンを押せば自動的に針が海底に沈んでいくよ。魚が針に食い付いたら、リールを巻き上げてな!」
ここのポイントは基本カツオとキハダ。
そして、海底にはロブスターなどが生息している。
俺はそのロブスター狙いで他の5人はカツオとキハダを釣って貰う事にした。
「ロブスター、それも1キロクラス以上限定で食い付く様に付与し直して……」
付与し直すと針が仄かに光り、付与の成功を確認しボタンを押すと針が一気に海底へと向かった。
そうしている間に、俺の後ろでセバスティオヌが大声を上げた。
「さ、魚が食い付いた!」
「セバスティオヌさん、リールを巻き上げて!」
「は、はい!」
釣具には釣り上げサポート機能を付けてあるが彼には魚の食い付き以外のサポートは最低レベルの1にしてある。
それなので魚とセバスティオヌの巻き上げのバトルはほぼ彼の腕力に掛かっている。
「ぐっ、ぐふふ……これが海魚の食い付きか!」
彼の釣り竿の先は大きくしなり大物が掛かっている事を教えてくれる。
「ふんぬ!こ、これは大物だぞっ!」
「セバスティオヌ凄いっ!」
「頑張るんじゃ!セバスティオヌ!」
「セバスティオヌさん、頑張って!」
「セバスティオヌに負けられないぞ!」
ほぼ同時に他の4人の針にも魚が食い付いた。
釣具にはサポート機能が付いており、釣り上げる際の筋力など自動的に補正が掛かる様になっている。
アンドゴラスのサポートはセバスティオヌと同じ最低レベルの1、ノルンは2でエレンとマヨルカは3にしてある。
本当は最高レベルの10でも良いのだが、釣りの楽しさを知って貰うならサポートは少ない方が良いだろう。
「きゃあっ!私も魚がっ!」
「エレン、ゆっくりと巻き上げて!」
「妾のも食い付いたようじゃ!」
「わ、私もです!」
「こ、これが釣りか!格闘と言っても過言じゃないぞ!」
エレンたちが可愛く魚と格闘している中、セバスティオヌは半ば笑いながらリールを巻き上げていた。
「ぐふふ、そろそろだ!そろそろ好敵手の姿が見えてくるぞ!」
「セバスティオヌさん、目一杯巻き上げたら左のボタンを押すとそのままクレーンに魚が釣り上げられますよ!」
「リュウタ様……左、ですな!」
セバスティオヌの釣り竿が左右に大きく振れ出した。
かなり浅いところまで釣り上げられてきたのだろう、黒っぽい魚の背中が少し視認できる様になっている。
「大きい!3メートル近いですよ!」
3メートルあると言う事はキハダか。
俺は今日の晩御飯はキハダ丼にしようか、それとも生食に慣れていない彼らのためにバター醤油で炒めるのも良いかな、などと考えていたら自分の釣り竿も反応した。
「おっ!俺も反応したぞ!
俺もリールを巻き上げていく。
他の5人とは違い海底まで針を沈めているので巻き上げに時間が掛かる。
魚とは違うので暴れる事はあまりないのだが、思っている以上に竿先が沈んでいる。
そう思っているところ、セバスティオヌの歓喜の声が上がった。
「釣れましたぞ!リュウタ様!釣れましたぞ!!」
俺が振り返るとキハダがクレーンから吊り下げられていた。
自動計測の結果が表示されており、体長3メートル40センチの294キロと言う大型。
元の世界のキハダよりこの世界の方が2回りほど大きい様だ。
俺は自動巻き上げに変更してクレーンのところに向かった。
「おめでとうございます!ちょっと記念撮影しましょうか!」
「記念撮影?」
「はい。この状況を特殊な紙に残すために魔道具を用意したんですよ。はい、いきます!」
船を創る際に、写真や動画を撮れる魔道具も創っておいたのだ。
この世界には写真と言う概念がないのでセバスティオヌが驚くのも無理はないが、折角の釣りだ。
記念に撮っておくのも良いだろう。
釣り上げる際には動画も撮っておいたので後から撮影会をするのも良いかもね。
「写真は後で渡しますね〜……おっ、今度はエレンだ」
エレンは1メートル級のカツオ。
続いてマヨルカも同じ位のカツオを釣り上げる。
そしてアンドゴラスはまだ格闘しているので彼も恐らくキハダなのだろう。
セバスティオヌは再び針を海中へと沈め2匹目を狙う。
エレンとマヨルカも記念撮影をし、終わったころ俺のロブスターも釣り上がった。
「な、なんだこりゃ!」
なんと釣り上げられたロブスターは1メートル、重さ10キロはある巨大ロブスターだったのだ。
俺も記念撮影をし、2投目。
その頃にアンドゴラスも釣り上げたらやはりキハダだった。
「ふう……釣りってこんなに大変だったとは……」
そうは言っても目の前に釣り上げられたキハダは3メートル65センチ。
セバスティオヌよりも大きいので、彼の顔は疲労感よりも喜びが勝った表情をしている。
「くっ……アンドゴラスには負けん!」
「セバスっ!逃げ切ってみせる!!」
俺はひたすらロブスター狙いで、8キロ前後が5匹、そして、20キロ級のズワイガニが2匹と言う釣果だった。
そして、結局最大の釣果は……マヨルカ。
「嬉しいです〜!セバスティオヌさん1位になってしまってすみませ〜ん!」
「い、いや……良いんですよ……こればかりは運もありますから……」
1位はマヨルカ、2位はノルン、3位エレン、4位がアンドゴラスでセバスティオヌは5位だった事もあり、彼は項垂れていた。
それでもキハダが9匹にカツオが20匹その他といった感じで十分過ぎる釣果だ。
俺たちはそのまま馬車のところに戻ったのだが、晩御飯の前に少し潜って平貝、岩場でウニやアワビ、カキや海岸近くでハマグリなども収穫した。
そして騎士や侍女たちの釣果は……
「凄かったんだよ!全員でアジが150匹を超え、サバやイワシも100匹超えてますよ!」
「晩御飯はこれで安心です〜」
「釣りって楽しいです!」
など釣りを楽しめた様だ。
彼らが釣った魚はクーラーボックスタイプの虚空庫に入っているので鮮度は申し分ない。
俺はそれらを自分の虚空庫に移し、干物や柵にしたり中骨を取ってフライの下拵えをする。
「今日は、この浜で野営しようか!」
「海辺での野営って楽しみ!」
「そうじゃな。妾も初めてかも知れぬ」
「バクトゥーリアには海がないから楽しみです!」
当然、反対する者はおらず少し内陸寄りに移動してそこに「テンモクハウス」などを設置して晩御飯の準備を行う事にした。
夕食のメニューはアジフライ、サバの味噌煮、アワビの酒蒸しにハマグリの味噌汁、そしてカツオのタタキ、ロブスターの鬼ガラ焼きといった魚介尽くしメニューだ。
もちろん、キンキンに冷えたビールを添えて。
『いただきます〜!』
食事前の挨拶も定着した様でエレンが手を合わせると息がぴったりと合う。
そして皆の箸が一斉におかずに向かうのだが、
「リュウタ、これって半生じゃない?」
とカツオのタタキを指差す。
基本、この世界では刺身を食べないからタタキにしたのだがそれでも誰も手を付けていない。
「新鮮なカツオなら生でも大丈夫なんだよ」
「だって、魚は生で食べるとダメって聞いたわ」
「あぁ、それは川魚のことだね。寄生虫がいるから川魚は生食に向かないんだけど、海魚は気を付ければ問題ないんだよ」
実際に虚空庫の中で寄生虫やその卵などは全て取り除いているから問題ない。
俺は一切れ箸に取りしょうが醤油に付けて食べて見せた。
その食べっぷりに安心してか、最初に箸を伸ばしたのはアンドゴラスだ。
「うぉっ!これはなかなか……ビールにも合いますな!」
アンドゴラスが食べれば騎士たちも食べ始める。
そして皿の上から半分くらいのカツオが騎士たちの胃袋に収まる頃には侍女たちも箸を付けて始める。
アジフライにタルタルソースにも驚き、味噌煮と言う調理法に舌鼓を打ち、酒蒸しを食べて酒が進み、鬼ガラ焼きでご飯が胃袋に収まっていく。
こうして海の幸を堪能した俺たちはそれぞれの夜を過ごすのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。




