012
興味を持って頂きありがとうございます。
馬車に乗った俺たちは再びペルセリスへと向かった。
正直なところ揉めると分かっていてその元凶たる皇帝グレイオスのお膝元と言えるエクバタナに行きたくはなかったが、丁度今世における俺の親父が公務で帝都に来ているので会っておきたかったし何よりこの世界で無難に生きるためにはセレーコス学院に入学しなければいけないらしい。
学院卒業は帝国貴族の義務でもあり、カジ家が帝国から独立でもしない限り避けられないものなのだ。
そんな事を考えながら馬車の中のソファーに腰掛けていたらエレンの密着度が凄まじい。
俺の左側に座り左腕に彼女の両腕を絡めて完全に俺に身体を預ける形になっている。
その上、左肩に頭を乗せて満面の笑顔を浮かべていた。
「お嬢様……そういった事は人目のない所で……」
マヨルカはエレンを諌めようとするもののエレンは一向に耳をかさずに俺にべったりだ。
ハイエルフのエレンはスレンダーな体型で170センチほどの身長でバストは然程大きくないBカップといった感じ。
俺は177センチあるので、肩に頭が置きやすいのだろう。
「だって、国では身近な男性と言ったらゴナタス兄様位で、年齢だって170歳超えているのよ?警護の騎士たちは皆妻子持ちで100歳超えているし……」
「エレン、俺もエレンとくっついていたいけど目上の人の意見は耳を傾けてみてもいいかも」
「う〜……リュウタがそう言うなら……」
そう言うとエレンは腕を絡めるのをやめた。
そこで俺が左腕を伸ばして彼女の手に恋人握りをしてみると彼女はビクッとして顔を真っ赤にした。
「ヒャぁ……恥ずかしい……」
「さっきよりも接触は少ないよ?」
「でも、リュウタから繋いできたから……嬉しい……」
俺の目の前に座っているセバスティオヌとマヨルカは顔を見合わせて「ごちそうさま」と小さく呟く。
膝の上に寝ているマーナは疎おしそうにエレンを見上げるが俺の婚約者となった今では邪険に扱う事はなく、頭を軽く撫でると気持ち良さそうに目を瞑り丸まっている。
俺たちはマヨルカの淹れてくれた紅茶を啜りながらエクバタナに着いてからの話しを始めた。
「帝都には今、公務の関係で両親が来ているからそこで挨拶してもらっても良いかな。それと帝都に着いたらこの秋から学院に入学予定だから試験と入学手続き。エレンも一緒にどうだい?」
俺は得ていたこの世界の知識から、のんびり学生をするのも悪くないと考えていたからだ。
学費は安いと言う金額ではないが俺の手持ちのお金だけで2人どころか20人程度なら余裕だった。
「学院って帝立セレーコス学院のこと?でも、そこは学費が……」
確かこの学院は帝国民には安く外国人は5倍近く高くなるんだった。
学費だけでなく全寮制だから寮費も5倍。
帝国民に安いとは言っても実際は高額で学院に通えるのは富裕層の子女かギルドの依頼をこなしながら騎士を目指す者たち。
そうなるとバクトゥリア王国から通わせるとなると予算を立てる必要が出てくるか。
「いや、エレンは俺の婚約者と言う事で帝国民扱いになるし、公爵家は何かと融通が効くんだよ」
「それならリュウタと一緒に通いたいな」
「よし、それで決まり!」
帝立セレーコス学院は幾つかのコースがあり、貴族学部、魔術学部、騎士学部、商業学部、農業学部と分かれており、貴族学部は貴族のみが在籍でき、魔術学部、騎士学部は貴族と一般人が、商業学部と農業学部は原則一般人が在籍する。
当然、貴族学部は高額な学費が必要で、次いで魔術学部と騎士学部、そして商業学部と農業学部の順に学費は低くなる。
貴族子女の多くは貴族学部を目指し、そこを不合格だった者が魔術学部と騎士学部に行くので魔術学部と騎士学部に“落ちた”貴族の子息たちは歪んだプライドから問題を起こす事が少なくなかった。
「俺は、自動的に貴族学部になるからエレンもそうなるかな。貴族たるもの魔術と剣術は嗜むべし、とか言うからその両方の実技も受ける事になるかなぁ」
「魔術……魔法の事ね。私は治癒魔法しか使えないけど……あと、剣術のスキルを持っているわ」
「治癒魔法が使えるって凄い事だよ。それに……」
エレンの治癒魔法はレベル2だったが指輪の効果もあり今ではレベルは“70”まで爆上がっていた。
これは人外、神の領域に突入している事を示している。
そしてエルフといえば風魔法や水魔法と言う感じなのだが、鑑定をしてみるとやはりエレンはこの両方に適性を持っているようだった。
「きっと風魔法や水魔法にも適性があると思うよ」
「本当?」
「ああ。ちょっと試してみようか?」
そう言うと繋いでいる手から小さく神力を流した。
これにより彼女の魔力循環が悪くなっている箇所の再構成を行なっていくのだ。
循環路は身体の正中線の前後と左右対称に走る24経路の併せて26経路がある。
これは外傷によっても経路が絶たれる事もあるので魔法使いは極力怪我をしないようにする必要がある。
しかし、循環路の流れが悪くなるのは怪我だけが原因ではない。
「えっ、これ……あっ♡」
思わず溢れ出た声に彼女は左手で口を押さえる。
顔は真っ赤だ。
彼女の身体の中を巡る循環路を再構成するたびに彼女は内股に力が入り、声を押し殺す。
「ん……ん……」
「あと1か所だよ」
人は生まれ落ちる際に身体を強く捻りながら子宮から押し出されて生まれてくる。
その際に魔力が流れる経路が押し潰されてしまう事が珍しくなく、エレンは正にそれが原因で魔力循環に問題が起きていたのだ。
最後はおへその下、いわゆる臍下丹田と呼ばれている場所の再構築を行なっていく。
エレンの下腹部が温かくなり魔法を使うための準備ができたようだ。
「エレンに魔法を授けるよ」
「ふぇ……」
エレンは俺の声もあまり聞き取れない程に敏感になった身体によって朦朧となっていた。
俺はそのままエレンに魔法核を植え付ける。
魔法の質や強さは魔力を流す循環路と、その魔法を発動するための魔法核の質により決定する。
エレンの魔法核は非常に小さく、魔法核の大きさがそのまま魔力量に直結するので循環路ができても弱い魔法しか発動できなかった。
そこで今の彼女の種族に見合った魔法核を創造して形成しそれを移植したのだ。
「あぁぁっ……!」
エレンはソファーの上で上半身を退け反らせそのまま気を失った。
「お嬢様っ!」
「マヨルカさん大丈夫ですよ。ちょっと彼女の魔法核が大きくなったから気を失っただけです」
「魔法核?それは……」
魔法核については、この世界の知識の中には確かにあるのだけど一般的な知識ではなかったようで、マヨルカだけでなくセバスティオヌも知らない様だった。
それなので俺は簡単に説明した。
それからエレンを鑑定してみると、彼女が所持しているスキルは治癒魔法、剣術、風魔法そして水魔法となっており、風魔法と水魔法のレベルはそれぞれ7と8になっていた。
「風魔法がレベル7と水魔法がレベル8程度の大きさですね」
「リュウタ様、そのレベル7とか8というのはどういった意味でしょうか?」
「えっ?レベルを知らない?」
レベルは教会で鑑定して貰えば分かる筈なのだが、余程の高額なお布施が必要なのか、もしくはこの世界では極一部の人のみが使う概念だったようで2人はキョトンとした表情をしていた。
「えっと……レベル7とか8だと帝国の魔法師団の師団長クラス以上と言えば良いかな?」
基本この世界の人たちはレベル10が最高レベルとなっており、レベル9とか10に達するような人はほぼいない。
そうなるとレベル7や8というのは実質最強クラスと言っても良いレベルと言える。
「師団長、ですか?」
「うん。師団長。だけど実践を積めばもっと上達して大陸最強を狙えると思うよ」
「大陸最強……」
セバスティオヌはそう呟くとブツブツ何か考え事していた。
俺はエレンの頭を自分の太ももの上に乗せて彼女の頭を撫でながら車窓から見える風景を眺めるのだった。
お読み下さり誠にありがとうございます。
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これからも少しでも楽しんで貰えるよう頑張っていきたいと思います。