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001

よくある異世界転生モノ、とはちょっと違う!


と言ってもらえるように頑張りたいです。

どうぞ宜しくお願いします。


「それじゃあ親父、異世界に行ってくるわ!」

「ああ、今のリュウタならどんな困難が降って来ようが乗り越えられるじゃろうて」

「これから旅立つのにそんな不吉な事言わんでくださいよ〜」

「がはは。年寄りは口うるさいものじゃ」


単眼で藍染の作務衣を着た恰幅の良い初老の神……天目一箇神……は豪快に笑い俺を見送ってくれた。

他にも多くの神が彼の後ろで見送ってくれている。

皆、俺の師匠でありそして親父でありお袋でもある。


「俺たちの愛息でもある事を忘れるなよ!」

「今度会うときには土産話でも聞かせてくれ!」

「……!」


俺はそんな彼らに大きく手を振って応えながらこれから向かう異世界へのナビゲーターであるブリギッドの下へと向かった。

160センチほどの身長の女神だが、彼女も天目一箇神同様、鍛治を司っている事もあり美人ではあるががっしりとした体躯をしている。


「ブリギッド様。お待たせしました」

「本当に。どれだけ待たされたかしら……ですが最後に私が与えられる加護を最も生かせる鍛治を選んだのはやはり天命なのかしらね」

「そうかもしれません」

「それでは最後に私から加護……いえ、寵愛を。これであなたは私の愛息にもなったわ。簡単に説明をしておくけど向こうの世界では15歳、成人したばかりの年齢に。そして当面の生活に困らない現地のお金や食料などは……あなたの虚空庫の中に入っているわね。もちろん、現地の言葉や常識、歴史などの知識は向こうに着いたら自然と習得できるようになっているわ」

「ありがとうございます。それでは自分らしく人生を楽しんできます」

「いってらっしゃい。他にも転生者がいますからお互い助け合ってください。私たち神々からの寵愛があなたを導き護ってくれるわ」


ブリギッドの言葉と共に俺はゆっくりと存在が希薄になり、それと同時に目の前が暗くなっていった。

ただ、俺が転送された時にブリギッドが「アイツらの事は※△……」と呟いたのは前半しか聞こえておらず、それを尋ねる間もなく俺の意識はそこで途切れた。



俺の名前は、梶井龍太。

高校を卒業後、上京して特殊鋼を扱う製鉄所に就職した。

進学も考えたのだが、母子家庭で家が貧しいのと弟たちには大学に行って欲しいと考えたので就職を選んだのだ。

住んでいた田舎はちょっと閉鎖的で、ちょっと周りと違うだけで、ちょっとではないイジメがあった。

何せ母子家庭で貧ければそれだけでイジメの標的だ。

しかも田舎という事もあって同じメンバーで小学校から高校まで進む事が多く、特に中学で一緒になった5人には貧乏と言う理由で高校卒業するまで執拗にイジメられ続けていた。

村議会議員の息子である山田秀紀がリーダー格であり、亮治、信也、愛梨そして沙那恵たちが地元の有力者の子供であると言う背景を利用して気に食わない人間をイジメていたのだが、いつしか俺を狙い撃ちにしてイジメ始めたのだ。

彼らは表向きは優等生で裏では……と言ったタイプではなく誰に目から見ても問題児。

それなので俺がイジメられているというのは誰の目から見ても明らかなのだが誰も救いの手を差し出してくれなかった。

イジメの内容は物が隠されたり暴力を振るわれる、他の人にも脅しをかけて常に孤立するように仕向けらるといったかわいいイジメから、時には彼らにより盗みの犯人に仕立て上げられるといった笑えないイジメまで様々だ。

学校の先生や教育委員会などに訴えても、いつも何かしらの忖度があるのか「イジメは存在しない」と言う調査結果となりイジメが悪化するだけだった。

イジメに無抵抗なら更にイジメられ、抵抗すればイジメが酷くなり、不登校になれば家族が標的にされる。

そんな地獄の中俺は6年間耐え抜き高校を卒業。

金銭的に進学は無理なので就職する事になったのだが、彼ら、いや地元の人間に誰一人として知られたくなかったので高校にも秘密で上京しての就職を選んだのだ。


俺が働いていたのは大手の鉄鋼メーカーではなく、いわゆる中小の特殊鋼メーカー。

上京してからの就職なので就労条件は決して良いものではなかったのだが興味のあった仕事でもあったので今の会社で働くことにしたのだ。

働き始めて20年、がむしゃらに働き資格マニアと言われるくらい各種上級資格を取得して今では高卒ではあるが部下を数人従え、鉄鋼にニッケルやクロムなどといった特殊な元素を添加するなどした特殊鋼を作る技師として働いていた。

やり甲斐はあるが仕事に打ち込んでいた事も結婚どころか彼女がいた事もなく、ただ会社と自宅アパートを往復するだけの生活。

そんな変化の乏しい日々が続いていたある日、自宅へ帰る途中に足が覚束なさそうな老婆が横断歩道を歩いていた。

普段なら疲れていて伏し目がちに歩いているのだが、たまたま空を見上げて満月に目をやったら老女の姿が目に入ったのだ。

そこに1台の乗用車が走ってきたのだが、運転手はスマートフォンか何かを弄りながら運転しているようでその老女に気が付いていないようだった。

彼女が車に轢かれそうなのを見て思わず助けに入ったら案自分が車に撥ねられてしまい気が付いたら見渡す限り真っ白な空間に立っていた。


「ここは……死後の世界か……?下手打っちまったからなぁ……あの婆さんは見当たらないから無事助かったのか……?」


俺はそう呟くと背後から女性が俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「リュータ・カジイ」

「はい。俺ですが……あなたは?」

「私の名はブリギッド。この世界と他の世界を橋渡しする任を受けている神です」


白いギリシャ神話にでも出てくるような衣服を纏った美女が立っていた。

美女ではあるが衣服の上からも分かるほど筋肉が発達している。

そんなブリギッドと名乗る女性の言葉の中にあった他の世界?

と言う事は俺はその世界に飛ばされてしまうのか?

そんな事で思考が混乱していたのだがその神は俺の事など構わずに説明を始めた。


「汝は他者を助けるために命を賭し、その結果命を落としました」

「そうだとは思っていましたがやはり死んでいたのですね」

「ただ、汝の本来の寿命はまだ多く残っており、何より今までの人生に於いて罪らしい罪を犯してきませんでした。そのまま生命の輪廻に戻すには魂が強すぎます。それであなたが住んでいた地球とは別の世界に転生させる事にしました」

「転生?また赤ちゃんから始めるのか?」

「ご希望があれば好きな年齢から始める事もできます」


話しは一応会話の体を為してはいたが、ほぼ一方的に話しが進められていた。

俺の家は正直貧しく子供の頃はそれが理由でイジメにもあっていた。

それもあって高校を卒業と同時に就職したのだが、次の世界も赤ちゃんからやり直すのは同様の事が起こるのではないかと避けたかったのだ。


「それであれば、その世界で成人した年齢から始めたいです。その前に俺はどんな世界に行くのですか?」

「それではそうしましょう。他に何か要望はありますか?」


完全にスルーされてしまったようだ。

それなので要望をハッキリと伝える事にした。


「できれば何か技能が欲しいのですが……」

「技能?ああ、スキルの事ですね。それならここでそれを覚えてから向かえば良いでしょう」

「自動的に貰えたりは……」

「何を甘い事を。加護は場合によっては差し上げますがスキルは自分の努力で覚えるものです。それで何を覚えたいのですか?」

「俺は製鉄しか知らないからその世界の製鉄に関するスキルを手にしたい」


ブリギッドは少し考え、


「それなら鍛治はどうでしょうか?あなたが向かう世界の世界観は中世のヨーロッパに魔法が加わったような世界なので、製鉄というより鍛治の方ががしっくりくるでしょう」


ここで漸くどんな世界なのか知る事ができた。

神との会話ってなかなかもって難しい。


「魔法?それなら多少の魔法と鍛治を……」

「そうですか……それですと少し修練に時間が掛かりますが良いでしょう。それではあなたと共に訓練をしてくれる神を連れてくるので少し待っていてください」


そう言うとブリギッドは瞬時にその存在が消え、再びこの白い空間に俺だけとなった。


「魔法かぁ。中世のヨーロッパというのも惹かれるが魔法っていうのがやっぱり男心をくすぐるよな」

「そんな生易しいものじゃないぞ?」


ボソッと呟いた言葉に対していきなりのダメ出しに驚くやいきなり目の前に単眼の男性が、その後ろにはブリギッドが立っていた。


「は、初めまして!俺は梶井龍太。よろしくお願いします!」

「ふむ。声だけは元気だな。わしは天目一箇神あめのまひとつのみことという。で、お前は鍛治を極めたいと?」

「極めるとまでは……いや、折角なので極めたいです!」

「ほう。そうか。ブリギッド、それでは此奴を預かろう。少し時間は掛かりそうじゃが」

「天目一箇神、それでは貴方に任せます。終わりましたら声を掛けてください。それでは私はこれで」


ブリギッドはそう言うと再び消えた。


「ふう。彼奴も相変わらずせっかちじゃ。お主、それではこれからワシらの世界に向かう。しっかりと学ぶんじゃぞ!」

「はい!よろしくお願いします!」


こうして俺は天目一箇神に付いて鍛治を学ぶ事になったのだ。

お読み下さり誠にありがとうございます。

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