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サクラ色のウサギさん  作者: 立菓
5/10

帰り道での再会

 私とヒデちゃんは、川辺の大きなサクラの木のところに来た。

 ヒデちゃんは平気そうな顔をしていたけど、私は少し走っただけなのに、息が切れて疲れていた。


「ほら。やっぱり、サクラの花びらと同じ色のウサギなんて、居ないやんっ。百パーセント、ツルの勘違いだろ?」


 私はハアハアと息をしながら、下を向いていたから、ヒデちゃんの顔は見られなかった。

 しかし、彼の言葉で、私は余計に悔しくなった。


「ウサギさぁ〜ん。サクラ色の、ウサギさーん……?」


 私は呼吸をするのが辛かったけど、できる限りの大きな声で叫んだ。


「ここに居るんでしょ? ねえ、ウサギさーんー?」


 私は心の中で、九十九パーセント、またサクラ色のウサギに会えることを諦めていた。

 でも、一パーセントは、またあのウサギに会える、という奇跡を信じていた。

 どうか、どうか……。どうか、今日再び、ここであのウサギと会えますように……。

 そう、私はひたすら心の中で祈り続けるしかなかった。

 その時、私の後ろで、()()()動いたような気がした。私はもしやと思って、後ろを振り返ってみた。


 そして、ゆっくりと下を見ると、なんとそこには、あのサクラ色のウサギが居たのだ!


「あっ!」


 私は思わず声を出して、そのウサギを手で捕まえようとした。

 ヒデちゃんも私の声を聞いて、振り向いて下を見た。

 しかし、そのウサギは私の声に驚いて、逃げてしまった。 そして、サクラの木に登った。


「ヒデちゃんっ。あそこを見て!」


 と、私はサクラの木の大きな枝を指した。

 サクラ色のウサギは、その枝の上から私たちをじっと見つめていた。


「ねっ! 私の言ってたことは、本当だったでしょ?」


 私は、自慢気にヒデちゃんの方を見た。

 ヒデちゃんはコクリとうなずいて、呆然ぼうぜんとウサギの方を見ていた。


 そして今、やっとサクラ色のウサギの容貌ようぼうが、ちゃんと分かった。

 普通のウサギよりは小さくて、全長は約二十センチメートル。普通のウサギより足も短かった。

 葉のような深緑色ふかみどりいろ。サクラの花びらのような周りの毛より長い、五つに分かれた首の毛。

 それに、全長と同じくらいの長さの、サクラの花のおしべのような先が丸い耳だった。


「よーしっ。俺が捕まえてやるっ!」


 ヒデちゃんはサクラの木に近付いて、ウサギを捕まえようとした。

 その瞬間、私はハッとして、そのウサギを見た。


「ダメッ、ヒデちゃん! やめてっ!」


 ヒデちゃんはビクッとして、伸ばそうとした手を引っ込めた。


「いきなり、何だよ! さっき、お前だって捕まえようとしてたくせにっ!」


「ウサギさんをよーく見てよっ! 震えているじゃないっ!」


 ヒデちゃんはウサギをサッと見て、数歩後ろに下がった。

 ウサギは、小刻みにブルブルと激しく震えていた。明らかに私たちを怖がって、警戒けいかいしていたようだった。

 私はウサギに向かって、優しく声をかけた。


「ウサギさん。アナタを怖がらせて、ゴメンナサイね。悪気は無かったの」


 私がそう言っても、サクラ色のウサギは震えっぱなしだった。


「本当にゴメンナサイ……。だから、安心して。もう絶対にしないからっ」


 すると、しばらくしてウサギは、恐る恐るサクラの木から下りてきた。そして、ウサギは私たちの足元に来たのだ。


 私とヒデちゃんは驚いた。

 私はその場に座って、ウサギの背をでてみた。

 ウサギは震えることなく、芝生しばふの上でじっとしていた。

 ウサギの毛は、小学校で飼っているウサギと同じように、フワフワしていた。


「俺も撫でて大丈夫かな?」


「たぶん……。でも、優しくね」


 ヒデちゃんもウサギを撫でている時、私はいつも身に付けている懐中時計を見た。もう三時五十五分になっていた。

 私はウサギを撫でるのを止め、立ち上がった。


「もうそろそろ帰ろう、ヒデちゃん。それじゃあ、ウサギさん……、バイバイ」


  そうしてウサギに別れの挨拶あいさつをして、私たちはそれぞれの家に帰っていった。

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