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水神様の祠

「きれいな水だな……底まで透けそうなくらいだ」


 ヨルが湖のほとりにしゃがみこみ、水を手のひらですくう。


「おぉ~……おいしそう。のんでいい?」

「やめておきなさい……お腹を壊したら困るでしょう?」


 その隣からネリュが顔を出し水に口をつけようとしたのを、メリュエルが優しくたしなめる。 


 ラグが僕達を案内したこの場所は――さほど大きさもなく、これと言ってなんの変哲もない、一つの湖だ。


兄様(あにさま)、一応周囲に怪しいものがいないかどうか、探っていただけますか?」

「うん、いいよ……《リファレンスエリア》」


 彼の言葉にしたがい、魔法による探索をかけてみたものの、魔人はおろか魔物の気配すら辺りには感じられない。そこはかとなく、神聖な雰囲気のある場所である。


「……大丈夫だと思う」

「では、開きます……」


 開く……?


 僕達は不思議に思いながらラグが何をするのか見守る。


 彼は湖のある場所に目印でもあったのか、地面を掘り返すと、先程族長から渡されていた鍵を金属の箱のようなものに差し込んで回した。すると……。


 ――ガコンッ!! ……ザァァァァッ……。


「きゃっ!」

「……(ほこら)の位置を悟られないための仕掛けでして……驚かれたでしょう」

「すごいね……」


 いきなり湖の底が開いて水が一気に下の空洞へと落ちてゆき、アサが小さな悲鳴をあげた。そして下に現れたのは地下へ続く階段だ。


 ネリュは階段の奥を覗き込んだ後、ラグをキラキラした瞳で見上げる。


「わぉ~……ラグ、もっかいみたい。もっかい」

「あのなぁ、無茶言うなよ……おもちゃじゃないんだから、駄目に決まってるだろう?」

「……ざんねん」

「ほら、ネリュちゃんいらっしゃい」


 ラグのお叱りにネリュはしょぼんとして、そのままアサに抱え上げられる。

 

 ネリュではないが僕も冒険心をくすぐられ、泉のへりから首を伸ばす。

 耳にさらさらと小川のような音が聞こえて来た。


「私も中に入ったことはありませんので、何があるか分かりません。一応各自、警戒をしておいて下さい」

「隊列を組みましょう。主様、後ろは(われ)が守ります」

「うん、お願い。みんな、床が()れてるから転ばないように気を付けて」


 メリュエルに《ライトエリア》のスキルで周りを照らしてもらい、ラグと僕は階段を下りはじめる。


 (ほこら)の中は、ところどころで天井から床に水がしたたり落ちているけれど、()まりがない所を見るとどこか別の場所へ流れていっているんだろう……中は少しひんやりとしていて、魔物の反応はない。


 そして、進んでゆくと青白く光る広間にたどりつく。


「多分、ここが一番奥みたいだ。特に何も無かったね……いや」

「あれは……」


 その部屋の中央にあったのは、球の形をした水膜でおおわれた小さな青い竜の姿だ。巨大化したラグのものとはまた違い、小さな尾びれや水かきが付いている。


 僕らは刺激しないようゆっくりとそれに近づく……どうやら、眠っているらしい。


「かわいい……! さわりたい」

「こらこら、見るだけにしておきましょうね」


 ネリュが目を輝かせて手を伸ばすが、もちろん正体不明のものに近寄らせるわけにもいかないので、アサがしっかりと抱き寄せてガード。


「もしかして、これが水神様……?」


 ラグのその呟きに反応したのか、小さな竜は薄っすらと目を開けた。


「……《継承者》ですか。あなたがここに来たと言うことは、思ったより早く魔人王は復活してしまったのですね……」

「は、はい……あ、あなたはやはり水神様でいらっしゃるのですか?」


 ラグはそのばでひざまずき、かしこまった口調で問いかけたが、その存在はそれを否定する。


「竜人族からはそう呼ばれていますが、神と呼ばれるのはいささか大げさですね。水精王(すいせいおう)とでもお呼びなさい」

「は、はぁ……」


 いささか戸惑い気味のラグから、小竜の視線が僕にうつる。


「そして、あなたは風の《継承者》……ふむ、こちらもまだ未覚醒(みかくせい)のようですね」


 覚醒(かくせい)とは? ……そんな疑問を聞く前に水精王様は答えを言ってくれた。


「《継承者》がその力を発揮する為には、力を受け継ぐ四つの種族のそれぞれが守る(ほこら)にて試練を受け、我らと同化する必要がある……」


 っていうことは……僕も魔人とかと戦う為に、早いうちにどこかの国にある同じような(ほこら)を探して、《継承者》としての試練を受けなきゃならないってことか……。


 できれば、場所を確認しておきたい。


「あの、水精王様……どこに行けばその試練が受けられるのか……」

「心配することはない。それは後ろの女性がご存じでしょう。ネルアスの聖女よ」


 水精王様が言ったのは、後ろで静かに状況を(なが)めているメリュエルのことだ。


「……私は聖女ではありませんが」

「いずれそうなると言っているのです。心構えはしておきなさい……」


 水精王様はそれだけ伝えると、ラグに視線を向けなおす。


「そしてお主、良く見ればまだ変化しておらぬではないですか。そのままでは試練は受けられませんよ、出直しなさい」

「――ッ!?」


 ギクリとした様子で固まるラグに全員が疑問を浮かべる。


「あの、変化っていうのは?」

「待って下さい兄様! それは……」


 ラグが肌を紅くして水精王様との間をさえぎるが、もちろんそれで声の伝達が防げるはずもない。


「知らぬのですか? 竜人は成人してつがいに足る人間を見つけるまで体が中性のままなのです……。そして心に決めた人があらわれ、絆を結ぶと体が自然と性別を変化させるという……まことに浪漫(ろまん)あふれる生態を持つ特殊な種族で……」

「わーっわーっわーっ!!!!!!」


 ラグがいきなり真っ赤になって騒ぎ出すが、水精王様は止まらない。


「何を生娘のように赤くなっているのですか。さてはこの中に心に想う人間がいるのですね? では今すぐ口づけでもなんでもしなさい。世界の危機なのですよ……躊躇(ちゅうちょ)しているひまなどないではありませんか」

「うう、ひどいです水精王様……ボクにも色々心の準備とかそういうものが……」


 竜人にそんな特徴があったなんて……。

 僕からしたら衝撃の事実だったんだけど……他の皆は?


「なるほどな……そういうことだったか。主様にもしもの事があってはと少し警戒していたのだが……」

「うんうん。秘密があることはなんとなく察してはいたんですけれど……」

「まあ、彼にとってはいつものことです」

「う~?」


 妙に納得している彼女達……良く分かってないネリュを除き、驚いているのは僕だけみたいだ。そして、彼(彼女?)は顔を覆うとへなへなとしゃがみこんでしまった。


 僕はそんなラグの上から声をかける。


「こ、困ったな……どうしよう。あ、あのさ……誰が好きなのか言ってくれれば僕達、外に出ておくんだけど」


 ラグとそれぞれのカップリングを考えてみる僕。

 手合わせする内に仲良くなって、ヨルの凛々(りり)しい姿に()れたとか? 

 いや、アサの料理と優しさに胃袋をつかまれたのか……?

 それとも知的なメリュエルに悩みを相談する内に、とかも絵になりそうではあるし。


 ……だがネリュだけは駄目だぞ、許さないぞ。


「……兄様、なんか変なことを考えていないでしょうね」


 妄想をふくらましている僕を指の隙間(すきま)から恨めしそうに見た後、ラグは再度水精王様に抗議する。


「こ、この状態でもなんとかならないんですか!? お願いです……こんな所で告白など、恥ずかしすぎて死んじゃいますよ!!」

「大げさな……あなたも一族の出なら、これがどれだけ重要なことか分かっているでしょう! お主達の家族の命がかかっているのだと思えば、選択の余地は無いはずです……腹をくくりなさい!」


 水精王様がキシャーと牙を()いたので、ネリュが「おうさまこわぃ、おこるとかわいくない……」と泣きそうな顔でアサに抱きつく。


 そして言い争いが続く中、後ろに控えていたヨルがきっぱりと言う。


「まあ、そういうことなら……アサ、メリュエル。出るぞ、二人にしてやれ。話が進まん」

「え、なんで? 君達が出て行ったら意味がないじゃない……」


 ヨルがおかしなことを言うから止めようとしたのに……僕に向かって女性陣の方から冷たい眼差しが降り注ぐ。


「……こういうことだ。ラグよ、おそらくお前が直接伝えねば、死ぬまで勘違いし続けるぞこの方は」

「それは~……私もちょっと否定できませんね……」

「フィルシュですからね……大いにあり得ることです」

「おとさんはいつも、おんなのこをこまらせるんだから」


 なんなの僕だからって……僕だけ仲間外れにしないで欲しいんだけど!?

 そしてネリュよ、今困ってるのは僕なんだけど……泣いていいかな。


「では我達は先に出ています、主様……いや、やっぱり我も残ろうかな……」

「はいはい出ましょうね~」

「……ラグ、がんばる」


 アサはヨルとネリュを引きずって行き、メリュエルもチラと視線だけを残してそれに付いていく。ひんやりする洞窟の内部に残されたのは二人だけになった。


 必然的に僕らは見つめ合い、ラグは恥ずかしそうに目を()らす。


 いやいやいや、いや~……そんなはずない、何かの勘違い……でしょ?

 僕は、彼を良く出来た弟だと思って……お風呂入ったり、一緒に寝たりしたじゃないか。


 そりゃさ、男の子なのに綺麗だとか可愛いとか思ったけど、それはあくまで彼の個性で。

 僕は……さぁ!


「ラ、ラグ……勘違いだよね? 僕、ちょっと皆を呼び戻して来る!」

「……待って!」


 そう言って僕の腕をつかんだラグが真っ赤な顔で出した小さな声……それは鈍感な僕の頭にまっすぐに突き刺さった。


「逃げないで……。勘違いなどではありません……ボクが好きになってしまったのは、兄様、あなたです――」

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


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