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拡がりだした魔の手

 建物内から出た僕らを待ち受けていたのは、三体の魔人だ……男が二人と、女一人。全員ネリュの左目と同じ黒白の目に青い肌をしている……。


「ゲヒャヒャヒャヒャ……ムシケラ共がうじゃうじゃと……」

「フフフ、なんか綺麗どころが増えてるみたいじゃないの」

「……」


 三人に相対するようにディーグル族長が一人前に出て言い放つ。


「貴様ら……言っただろうが! 《精霊の祝福(スピリット・ブレス)》の持ち主は今ここにはいない! 分かったらとっととこの地を去れ!」

「んなら、とっとと探してこいって言っただろうが! 俺らは上にそいつを消して来いって言われてんだからさぁ」

「そうそう……前回は見逃してあげたけど、今回は数人見せしめにしてやろうかしら。あの女の子達が良さそうねぇ……私、キレイな物をぐちゃぐちゃにするのが好きなの」


 舌なめずりをした女の魔人がゾッとする視線をこちらに向ける。

 族長はそれに反発し、手を振り払った。


「いい加減にしろ! 前回は人の命で無かったから見逃してやったものの……これだけ好き放題されて黙っていると思うな! ……皆、戦うぞ!」

「「「オゥッ!」」」


 数人の竜人の戦士が前に出て、族長も背中から引き抜いた槍を構える。


「族長、ボクも……」

「お前は下がっていろ……客人も。ここは我々だけで何とかする」


 《精霊の祝福(スピリット・ブレス)》を持っているのを知られるのを配慮したのか、族長は僕達を視線で押し止め、魔族に立ち向かってゆく。


「ハハハッ、まぁいい。その偉そうなおっさんにでも人質になってもらえば必死で探す気になんだろ! お前ら、行くぜ!」

「うふふ、全部殺してしまわないように気を付けないとね!」

「……」


 たちまちに激しい戦闘が始まった。


 族長はリーダー格の真ん中の男へ、他の戦士たちは後ろの二人に一斉に仕掛けるが、すぐに劣勢に(おちい)りだす。


 魔人の魔力は膨大(ぼうだい)だ。女と無言の巨体の男はまだしも、リーダーらしい中背の男はダルマンタと同じくらいの魔力を持っている。


「ぐううっ……なんと強大な……、だが負けるわけには……《水龍(すいりゅう)波槍(はそう)》!」

「ヒヒッ、効かねえ! 《闇撃(あんげき)》!」

「ぐぉっ!」


 水の渦を槍にまとわせ突撃した族長が相手の反撃――黒紫の衝撃波に大きく吹き飛ばされ、他も次々と、二人の魔人の攻撃を受けきれず倒されていく。


 助けに入った方がいい……そう判断するのに時間はかからなかった。


「――皆、やるよ! 僕はあのリーダーの男を倒す! ラグは大男、アサとヨル、メリュエルは女を頼む! ネリュはメリュエルから離れるなよ!」


 地面に倒された族長に向け腕を振りかぶる男へと、僕は風の剣を手に走る。


「大口叩いた割に弱ぇなぁ……終わりだ!」

「……ぐぅっ、これまでか」

「やめろっ!」


 とどめの一撃を(はば)み、突風で吹き飛ばすと……男は意外そうな目でこちらを(にら)み、口元を曲げた。


「ああ? なんだこの魔力……人間風情が! いいだろう、遊んでやる! 《闇散球(あんさんきゅう)》」


 叫びと同時に黒紫色の球体がいくつも放たれ、僕はそれを《ウィンドバレット》で相殺した後、男に切り込む。もちろん支援魔法は展開済みだ。


「速えじゃねえか、ムシケラァ! 《大闇掌(だいあんしょう)》!」


 ガガガガガ……!


 魔力をまとった男の(てのひら)が、広範囲の土をえぐりながら僕へと近づく。


「あっれ……?」


 楽しむように笑いながら接近するその途中で、男はやっと気づいた。

 肩口で切り裂かれた腕が置き去りになっていることに……そして。


「おっ……まえっ? なん……で、見下ろして……?」


 すでに肉薄(にくはく)していた僕は、男の首を()った。


「気づくのが遅かったね……これで終わりだ」

「え……エァァァァァァァ!! 中級魔人の俺をォォォォォ……?」


 トンッ……。


 地面に着いたそばから男の頭がざぁっと崩れてゆき、次いで体がゆっくりと後ろに倒れて灰の塊になる。


 火山迷宮の魔人よりも断然弱かったな……。


「……な、なんと……あんな化け物を一瞬で……」 


 驚いたディーグル族長が体を起こそうとしてうめき、僕は背中をささえる。


「すみません……もっと早くに出ていれば」

「いや、感謝する。さすが《精霊の祝福(スピリット・ブレス)》の継承者だ……(あなど)っていたことを、許してくれ……」


 族長に肩を貸しながら、僕は周りの戦況を確認しようとしたが……そちらでも丁度決着がついたところだった。


「ヨル、行きますよ!」「ああ……複合技、《散雪朱花(さんせつしゅか)》!」

「――ァァァァァァァッ!」


 魔人の女の断末魔。

 アサとヨルが互いの動きがわかっているような見事な連携で女の体に血の花を咲かせ……。


「《静け(アイシー)き氷葬(・フューネラル)》」

「……ゴ、ゥッ」

 

 水剣を掲げたラグが、氷へ閉じ込めた大男を切りきざみ(ちり)へと変えた――。


 周りを見渡してみるが、増援がやってくるような気配もない。

 危機は去り……村人達が抱き合って喜ぶ中、僕は魔人について分かったことを頭の中でまとめる。 

 

 魔人にもどうやら、上中下のようなランクがあるらしく、僕らと同じように様々なスキルのようなものを使うようだ。そしておそらく重要器官が備わっているのか弱点は頭部……そこを切り離すか、破壊すれば倒せるような気がする。


 見た目の魔力に圧倒されやすいけど、下級魔人であれば、B~Aランクの冒険者数人掛かりであればどうにか対抗できる位だと思う。


 僕が考えにふける間、皆を治療してくれていたメリュエルに礼を言い族長が立ち上がる。そして彼は僕達に頭を下げた。


「フゥ……村の危機を救ってくれた礼を言わせてくれ。ラグも強くなっているし、あの娘達も驚くほどの腕前だった……。あれもあなたの魔法が関係しているのだろう……?」

「いいえ……ちゃんとした彼女達の実力です」

「……そういうことにしておこう。だがこれで、当面の危機は去った。……皆の者! この勇者たちに感謝を(ささ)げよ! こんな状態だが、多少のもてなしくらいは出来る。ゆっくり休んで行ってくれ」


 族長の号令と共に興奮する住人たちが周りを取り囲み、僕らをしきりに歓迎した。


「皆さま、ありがとうございます! 我らだけではきっと村を守りきれませんでした……」

「ラグも良くやってくれた! 私達も鼻が高いぞ!」

「我らも戦いには自信があったのですが、やはり世界は広いですな! よし、皆、彼らを(たた)えて胴上げだ! わっせ、わっせ!」

「ぜひ、竜人の村に伝わる秘酒……《竜の滝》を飲んでいって下さい!」

(秘酒……!?)


 かつがれながら移動させられていく間、僕は聞き捨てならない言葉を耳にし、戦慄(せんりつ)する。


 いやいやいや、そりゃダメな奴だ。

 今回は絶対飲まないぞ……ネリュもいるんだから、子供の目の前でそんな失態をおかすわけにはいかないと、親代わりとして僕はかたく(ちか)う。


 頼むから皆、僕に飲ませようとしないで――!!

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。


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