空翔(か)ける旅路
私事なので申し訳なく思いつつも、レキドから戻ってすぐのクラウゼンさんにギルドのことはお願いし、僕はラグと共に竜人の村へと向かうことになった。
ヨル、アサのダークエルフの姉妹と、メリュエル、それに今回はネリュがついてくる。
「――おとさんとりょこう、ネリュもいきたい! ラグばっかりずるい! うぇぇぇぇぇん……!!」
大泣きする女児ほど恐ろしいものは無く……僕は結局彼女をなだめ切ることが出来なかったのだ。たぶん戦闘するつもりもないし、大丈夫だとは思うんだけど、少し心配ではある。そして――。
『――なんでアタシを放ってくのよ! 離れないって言ったでしょうが!』
『――シュミレさんっ! フィルにっ、迷惑を、かけてはダメですっ……大事な用事なんですから!』
こっちはこっちで大変だった。リゼがなんとかシュミレを引きとめてくれ、ポポやレポと一緒に留守番役を引き受ける。
正直彼女達が残ってくれれば戦力的に安心だ。これで守りは万全だし、屋敷を切り盛りしているアサの不在もまあ、意外と料理上手なドワーフ娘達もいることだし、皆で協力すればなんとかなる……はず。
「では皆様、行きますよ! 《竜化》!」
叫びと共にラグが巨大化し……眼前に現れたのは、野生のワイバーンとかと比べて獰猛さはかけらもなく、高貴な雰囲気すらただよう青い竜。
……いつ見ても大迫力だ。
「では皆様、背中にしっかりおつかまり下さい!」
彼の号令にしたがい、僕らは彼が地面につけてくれた尻尾の方から順番によじのぼってゆく。
ネリュはアサに抱えてもらい、その後ろに僕、ヨルの順で座る。
背中にはちょっとした小さなこぶのようなものがあり、つかまるのに丁度よさそうだ。
「主様、背中をお預けしてもよろしいですか?」
「ん、ああ……ネリュを抱えているから少し不安定だもんね。いいよ、もたれて」
「はい♪」
彼女の暖かい背中が僕の前に収まった。
いつもながら、リラックスする香りが漂ってくる。
「な、ならば、主様のお背中は我が支えます!」
「え……いや別に、大丈夫だよ? 疲れるだろうし……」
「そんなぁ……」
僕は遠慮して言った言葉ヨルは泣きそうな顔をしたので、仕方なく彼女を手招きする。
パッと表情を輝かせて、ピタリと体を寄せて来たヨル。前のアサと合わせてダークエルフ二人に挟まれる形だ。
「主様の心音が伝わって来ます……うふふ」
「……はは、お互いにね。あれ……メリュエルは?」
てっきり彼女がなにか言うかと思ったのに……彼女は竜の尻尾のところでぼーっと佇んだまま中々上がってこない。
「メリュエル?」
「ひゃい!? す、すみません! 何でも、ないのです……」
そう言うと彼女は恐る恐る尻尾を上がって来るが、その膝はぷるぷる震えている。
もしかして……。
「メリュエル……もしかして、高い所が怖いの?」
「……隠し事をしても仕方あり、ませんね。そうなのです……私は、高所が、苦手なので、すっ」
衝撃の事実だった……彼女に弱点があったなんて。
しかもおびえ方が尋常ではない……表情も真っ青だ。
これは……無理して連れてこないほうが良いのでは……?
「あの……僕らだけで行って話を聞いてこようか?」
「いえ……これはっ、私の上役である聖女様方から、託されている、使命に関係する事柄でもありますのでっ、どうにか……うひぃっ!」
あれはダメだな……しょうがない。
足をすべらせ、尻尾にびたっと張りついたままのメリュエルを見て僕はため息をつく。
「ごめん、ヨル、アサをしっかり支えてあげてくれないかな。このままだと出発できそうにないから」
「えぇっ!? そ、そうですか……くっ、我は非常に残念ですが、主様のお言葉なら仕方がない……アサ、寄るぞ」
「はい……こんな風にすると、姉妹で良く馬に乗っていた頃を思いだしますね」
「そうだな……」
二人とも満更ではない様子なので良かった。
僕は背中から降りると、メリュエルの手をつかむ。
「さ、ゆっくり上がろう。僕が支えるから」
「す、すみません……ひっ」
これはレアだな。あのメリュエルがこんな子供みたいに怖がる所なんて《黒の大鷲》の誰も見たことが無いんじゃないだろうか。
今までダンジョン内で、エアロックで足場を作って上がったりもしてたはずなんだけど……高さ的なものかな? 空に上がることを想像してしまって足が竦んでしまっているのかも知れない。
何とか彼女を引っ張り上げ、僕は竜の背にまたがって彼女に前に座る様に指示したのだが……。
「え、逆じゃない!?」
彼女は僕と向かい合うように座ってしまい、ガバッと抱き着いてカチカチ歯を鳴らす。
「むむむ、無理、無理です! 絶対無理! 前を向いたら空が、足元が視界に入るではありませんか……! 意識を保っている自信がありません!」
「ええ……それじゃあもうそれでいいよ……。しっかりつかまってて」
「はいぃ……絶対離さないで下さい」
メリュエルは僕の胸に顔をうずめたままコクコクうなずく……なんかいつも冷静な彼女とギャップがあってちょっと微笑ましいな。
「それじゃラグ! 出発お願い!」
「わかりました、では浮上します!」
僕も全員に《ウィンドウォール》をかけ、風の対策をして、ラグの体が浮き上がる。
「ふ、ふぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ……これは試練なのです。ネルアス様ネルアス様、なにとぞ私めに御加護を……っ」
浮遊感を感じたメリュエルが口から神への祈りを吐き出し始めたが、ラグがゆっくりと加速したことでそれは声にならなくなった。
「っ――、きゃぁ、ぁ――――――っ!! ぁ――っ、ぁ――っ、ぁぁぁぁぁ――!!」
高い空から見渡せる壮大な景色を見る余裕もなく、甲高い悲鳴を連呼し、ネルアス神教の頂点に近い女司教様は僕の胸の中でわめきちらす。
とにかくうるさかったけど……でも僕はメリュエルの意外な一面を見れて、ちょっと得した気分だった。
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