伐採と整地
クロウィの街に隣接する様に西部に広がる森林地帯を、僕らは今モーリス町長に案内されているところだ。
隣にいるのはリデルさんである。石材の確保はあれから順調に進み、一旦作業員たちは休みを取ることになった。その間短期的に、クラウゼンさんは彼女と入れ替わる形で向こうのギルドを回してくれるそうだ。
彼はレキドのギルドに在籍したこともあるので、あちらのこともよく知っている。街に知り合いも多いようで、リデルさんも安心して引継ぎを行えたようだった。
町長が、広い面積を指さし、額の汗を拭う。
「この辺りを大きく切り開き、街の拡張を行っている最中です……既に五分の一程は伐採作業が終了しております」
「なるほどね……それじゃあフィルシュ君。私は《アースコントロール》を使って、不要な切株や岩とかと除去していくから」
「了解しました……作業員の方達は他にもいるんですよね?」
「ええ、やといの作業員たちが待機してくれていますが……」
モーリス町長の視線の先では、十人位の男達がリデルさんの魔法を物珍しげに見つめていた。
元々手作業でやるつもりだったのか、手押し車や木こり斧、石割用のハンマーなど、色々な道具が固めて置いてある。
なら、彼らには伐採の方を担当してもらうのがいいだろう。
「それじゃ、彼らにも働いてもらいましょうか。《急加速》、《黄風の狩衣》、《エンチャントウィンド》」
「な、何だ、急に体が軽くなったぞ」
「やべえ……今なら俺、風になれる気がする!!」
僕は男達にスキルの効果を説明する。移動、行動速度の上昇と、風属性防御、攻撃力の上昇。彼らの一人に木こり斧を振ってもらうと、見事に一撃で大木を切りおとした。
「ひゅう♪ こいつぁ、とんでもねぇ爽快感だぜ!」
男は快哉をあげ、作業員たちがわれもわれもと手斧をにぎりだす。
「では、皆さん、くれぐれも事故にだけは気を付けて作業の方よろしくお願いします!! ご安全に!」
「「「わかりやした!!」」」
男達は嬉々として作業に向かってゆき、どんどん木々が切り倒されてゆく。
「これが噂の《風の俊英》の支援魔法って奴か……一撃でスカッと切れて気持ちいいぜ!」
「倒す方向だけには気を付けろよ! にしても、森ごと丸裸にしちまえそうだぜ……ほどほどにしとかねえとな」
瞬く間に平野が広がってゆき、丸太がわきに積まれてゆく。
まとめておいてもらって、後でクラウゼンさんに軽くしてもらおう。
モーリス町長が目をまん丸に開けて興奮する。
「ふぉぉぉぉぉ……!! こうして間近でみると効力に圧倒されますな。あそこまで開くのに二週間はかかったのですが……下手をすると今日一日で終わってしまうかも知れませんぞ!」
「あはは……お給料はちゃんと保証してあげて下さいね」
急ぎの時以外はあんまりやりすぎるのも良くないな。僕はこれが本業じゃないんだし、他の人の仕事をうばってしまわないようにせいぜい気を付けないと。にしても、《風の俊英》ってなんだろう……僕が知らない間に二つ名みたいなものが広まってたりするのかな?
すごく嫌なんだけど……。
◆
――早朝訓練の面子が一人増えた。
リゼ達に感化されたのか、最近ラグが付き合ってくれるようになったんだ。
今は少し休憩中で、雑談をしているところ。
「そういえば、ラグの竜化ってすごいよね。どれくらいできるの?」
「竜化ですか? あれは緊急の強化手段なので、そんなに長い間はできないのです。長くとも三十分位が限度かと」
ラグは頭をかいて謙遜する。
そう、彼は竜人の為、ドラゴンへと変身できるのだ。
リガム山からクロウィまで石材を輸送したのもほとんど彼の手によってだ。
もちろんクラウゼンさんに重さは軽くしてもらったけどね。
支援魔法をかけるととんでもないスピードが出た。
人の足だと二日はかかるところを、ものの十分程度で移動できる……空は地理が関係ないから。
でも最初見た時は、皆仰天して親方さんなんかはまたも失神するハメになった。
段々耐性がついて来たのか、起きてすぐに働いていたみたいで、安心したけど。
「そっか……もし自由に竜化できるのなら、色々な所に物資を配達したりできるかなってちょっと思ったんだ」
「実は、人前で竜となるのは禁じられているんです。彼らにも口止めしましたが、我らの身の安全と、人を惑わせないように……」
「そうだったの!? ごめん、無理をさせたね」
「いえいえ……今回のことは兄様に少しでも御恩を返したいと思ってのことですから……ボクもお役に立ててうれしいです」
そうやってはにかむ彼は僕の目から見ても可愛らしい。
男の子にこういう表現はいささかどうかとも思うけれど……彼は中性的な容姿で、男らしさよりもどうもそういう部分が目立ってしまっている。気にしそうだからあまり言わないけど。
「さて、もう一戦やる?」
「ええ、ぜひ」
僕はラグと向かいあう。
今しているのは、近接戦闘の訓練……広範囲に及ぶスキルは無しの手合わせだ。
ラグは《水魔法》の使い手なので、互いに魔法刃系のスキルを生み出し、斬り合う。魔法防御はしっかりしているから、ある程度は大丈夫。
「それじゃ、行くよ!」
「はい、いつでも!」
ババババババチチチチィ……!
金属とはまた違う衝撃音が辺りに響く。
スピードは僕の方が上……だが、ラグは剣の使い方が上手い。
いなし、そらす……体の使い方。体のばねや筋肉なんかが僕ら人間種族よりは強いのかも。
「さすがですね……!」
「君もね……!」
剣技に長けていえるとは言えない僕は、もっぱら《黒の大鷲》だったころの記憶頼りだ。シュミレ叩き込まれた戦い方……記憶にある体の使い方をなぞってゆく。
ビュッ……!
「……参りました」
「ふう……お疲れ様」
フェイントをかけ、合わせ損ねた隙をついて風刃を喉元に突きつけ、訓練は終了……。
「これでも村一番の使い手だった自負はあるのですが……十戦して一度しか勝てないとは。兄様は、今までどうやって鍛えて来られたんです?」
「それは……」
「ア・タ・シのおかげよね~?」
どこから現れたのか、シュミレが抱きついてくる。
彼女もリゼやヨルとの訓練を終えて、汗まみれだ。
「ちょ、ダメだって……今は」
「いいじゃな~い別に、後でどうせ洗うんだから」
その様子を見てラグがちょっとムッとした様子で立ちあがった。
「……姉様、人前でそのようにベタベタするのはどうかと」
「ん~? なにラグ、あんた口答えすんの?」
ムッとした表情で、シュミレがラグの鼻先に指を突きつけるが、ラグもそれにかみつく勢いで反論した。
「ううっ……あ、兄様はボクと訓練していたんですから、割り込んでこないで下さいよ!」
「い~い度胸じゃない。それじゃ剣で決めよっか?」
シュミレはニタリと笑う……ラグは一瞬引くが、すくむ気持ちを奮い立たせて自分も水の剣を出す。
「ならば、兄様とお話しする権利をかけて、いざ尋常に勝負!」
「望むところッ!」
「あ……ラグ」
そんなもん賭けなくてもいくらでも話すのにさぁ!
そしてラグ、剣でシュミレに逆らっちゃダメなんだ……!
――そして数分後。
「じゃ、行こっか♪」
「……うぅ、兄様ぁ……」
案の定、そこにあったのは元気に僕を引っ張ってゆくシュミレの満足げな顔と、はいつくばり必死に腕を伸ばすラグの泣き顔なのであった。
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