リガム山
僕はクラウゼンさん、ポポ、レポと共に、翌日からクロウィの北方にあるリガム山を訪れていた。
少しの間、ギルド運営のかたわら、こうやって各地を見回ることになりそうだ。
リゼ達も大分ギルドの仕事に慣れて来たようだし、僕達がいなくても十分こなしてくれるだろう。
ちなみにネリュとラグも同行している。ピクニック代わりというわけでは無いけど、視察程度だし、普段あまり外に出ない二人の気分転換には丁度いいんじゃないかな。
例によって《急加速》ですっ飛ばし、ニ、三時間程で山までたどり着く。
「兄様のスキルは、何と言うか次元が違いますね。空を飛べてもここまで速くは着かないでしょう……」
「びゅんびゅんってきもちよかった~♪」
ラグが引きつった笑いを浮かべ、彼が背中に背負ったネリュは手をぐるぐる回して喜ぶ。
「ふむ、上手くやれば工程を大幅に短縮できそうですな……。おっと、見えて来ましたよ、あれが採掘場です」
カンカンとつるはしを打ち付ける音が聞こえ出し、岩を切り出しているのが見えてきた。その場にいた作業員にクラウゼンさんが話しかける。
「あの、モーリス町長の依頼で、作業の手伝いをする為に送られて来た冒険者なのですが、ガデンさんはいらっしゃいますか?」
「ああ、親方か……ちょっと待っとくれ」
そう言って若い作業員が連れて来たのは一人の年老いた頑固そうな職人である。
「――ふん……モーリスがよこした手伝いってのはあんたらか。石切りは体力がねえとつとまらねえぜ? できんのか?」
いかにもといった感じの、白いひげをたくわえたがっちりとした体型のおじいさんが僕達を見下ろす。かなり威圧的な態度にもひるまず、クラウゼンさんはにっこりと笑う。
「部分的にお役に立てることがあるかと思いますので、一通り見せてもらっても良いですか?」
「まぁいいだろう。着いてこい」
「……何だあの男、ギルドマスターや兄様にずいぶんな態度だな」
「結構あんな感じのいるよ、職人って」「うっとこのドワーフ達もあんな感じだったですぅ」
ガデンさんは首を鳴らすとドスドスと歩いてゆき、僕達は顔を見合わせ後に続く。
「こっちでで石を切り出し、ある程度の大きさにしてから、少しずつ馬車で運んでんだ」
親方が岩壁を親指で指す。
そこでは武器スキルなどで交代で切り出したり、土魔法で成形したりしている人たちの姿が見える。
だが、半分以上はくさびを打って割れ目を拡げたり、切り出した石を丸太の上で転がして移動させたりと手作業も目立つ。石を切りだす魔道具もあるみたいだけど……そんなに長くは使えないようだ。そう言えばリタも、魔道具の魔力変換効率は未だ二割くらいにしか届いていないって言ってたっけ。
「魔力なんてすぐに尽きちまうからな、大半の作業は手作業よ。人工が二人やそこら増えた所でかわりゃしねえと思うがね」
「ちょっと試してみてもいいですか?」
「ふん、待ちな。そいじゃ手本を見せてやるとすらぁ」
「おい、久々に親方の本気が見られるぞっ!」
「集まれ! 若手はぜひ見せてもらえっ!」
作業員たちが思わず手を止めて注目する中、親方のツルハシが唸る。
「見てな……むぅん、《断砕百裂孔》! おりゃりゃりゃりゃりゃ……!」
ガシュシュシュシュッ……ズズズズ、ズンッ!
親方が高速でツルハシを振り回し、瞬く間に一メートルほどの正方形の岩を切りだす。そしてそれに指をかけてがっしり挟み込み、ゆっくりと引きずり出した。
「ゼハァ、ゼハァッ……どうでぇ。ふぃ~まぁおめえさん方にここまでやれとは言わねぇが……ま、頑張ってみな」
「さすが親方、あの筋肉はだてじゃねぇぜ」
「俺達だと、あの半分がせいぜいだからなぁ……」
かなりの体力を消費したようだが、まんざらでもない様子で石に手を掛け口の端を上げる親方に尊敬の声が集まる。
僕達も素直に拍手し、とりあえず真似をして見ようと皆に声をかけた。
「勉強になります……それじゃ皆、ちょっとやってみよう」
「あん、おめえ、ツルハシはよぉ……」
え~と、とりあえず大きめに斬りだして、周りの人達がやってるように小さめに分ければいいかな。
「《エアウォーク》……それと《ウィンドカッター》っと」
僕は宙に浮いて辺りを見渡して安全を確認し、風の刃を放つ。
ザキュキュ……。
またたく間に一片が五メートルくらいの正方形の岩が切りだされる。
「すいませ~ん、クラウゼンさん、移動お願いします」
「はいはい、周りの方は少し下がってもらえますか? 《グラビティ・コントロール》」
ズズズズ……フワッ……ドスン。
切りだしたそれを、クラウゼンさんがポポ、レポの目の前に置く。
「さて、《エンチャントウィンド》。それじゃ、ポポ、レポ……あのくらいの大きさでカットしちゃって」
「あいさ」「やるですぅ?」
パパパパパパン……!
二人が斧と槍を振るうとそれは、一抱え程のサイズに変わった。
「こんな感じでどうでしょう?」
「「「…………!?!?!?」」」
作業員が全員こちらを凝視し、口を拡げている。
え、なんか手違いでもあったかな……?
「す、すいません……最初なんで勝手がわからなくて……。ダメだったところを言ってもらえると……」
「お、おぉ……」
親方がふるえる手でそのツルツルした断面をなでた後、僕の質問に答えることなく……。
「か、完璧だっ……や、山神様の化身じゃあ……」
ブクブクと泡を吹いて失神した……。
――……。
……その数分後。
「失礼いたしやした……まさかこんな偉大な魔法士様達が来られるとは思いやせんでした。ご無礼をどうかどうか、お許し下せい……」
目の前に作業員一同全員が平伏し、ふるえている。
アピールのつもりは無かったんだけど、ちょっとやり過ぎてしまったのかも。
そんな彼らをクラウゼンさんが立ち上がるように促す。
「いやいや、そんな風に恐縮なさらずとも……私達も他にも仕事がありますのでここに来れる期間は限られますが、遠慮なくこき使って下さい」
「ありがてえ……では一応細かい決まり事もありやすので小屋の中で説明させてもらいやす。おいてめえら、さっさと手を洗ってこの御方達をもてなす準備をしろ!」
「「へい、親方!!」」
親方の指示に作業員たちはあわてて走り出す。
そうして僕らはお茶や菓子を振る舞われつつ、親方から注意事項を聞いてゆく。
「細かいところはあっしらがやりますから冒険者様方は、大雑把にやってくだせえ」
「わかりました。後、運搬とかも僕の支援魔法である程度高速化できると思いますので、遠慮なく声をかけて下さい」
「え…………?」
穏やかな顔で笑みを浮かべていた親方が固まり、そして。
ドタリ……。
「い、いかん……医者を呼べ!」
「これ以上親方を喜ばさないで下さい! 死んでしまいます! 皆、親方を呼び戻せ!」
「親方ァ~!」
「死なないでくだせぇ!」
そのまま椅子から転げ落ちた親方を工員たちが慌ただしく心肺蘇生しはじめる。
「少し、加減した方がよかったかもしれませんな……」
「……そ、そうですね」
そんな光景が目の前で繰り広げられ、僕達はどうしていいかわからなくなったのでとりあえずお茶をすすって気持ちを落ち着かせた……。
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