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町の拡張計画

 王城よりはさすがに数段小さい門だけど、くぐる際は今だに少し緊張する。


 ここは、フェルマー伯爵の居城。

 本日クロウィの町長さんや、クラウゼンさんと共にここを訪れたのは、コーンヒル伯爵を打倒した件やその後の後始末を含めて、僕らに相談したいことがあると要請を受けた為だ。


 登城した僕らは城内の会議用の広間に呼ばれ、腰を落ち着け……しばらくして伯爵が姿を見せた。


「良く来られた。モーリス殿、クラウゼン殿、そしてフィルシュ殿」


 相変わらずキリっとした顔立ちのナイスミドルで、ととのえられた髭が良く似合っている。

 

 彼は貴族だが、それを鼻にかける様子も無く、こうして僕らを丁重に扱ってくれる好人物だ。


 もしクロウィを治めていたのが彼でなくコーンヒル伯爵のような人であったら、また成り行きは違ったものになっていたに違いない。


「前置きは(はぶ)かせてもらおう。此度(こたび)そなたたちを呼んだのは、クロウィの人口が増加傾向にある為、街の規模の拡大が決定した件についてだ。モーリス町長は知っておいでだと思うが」


「もちろんでございます……。今まで大して(にぎ)やかではなかった我々の街は今、急速に復興を遂げ、隣町のレキドが荒れているのもあってこちらに大勢の人々が集まって来ております。その為、宿や住宅の空き室がかなり逼迫(ひっぱく)してきており……宅地を拡げなければ追いつかなくなってきております。見越してある程度人工を増やし、工事を始めてはいますが、まだしばらく時間がかかるでしょう。いくつか問題がございまして」

「ふむ……何か作業の(さまた)げとなっている事柄があるのか?」


 伯爵の言葉に、モーリス町長はうすくなった頭を擦った。


「は、はぁ……主に山林を切り開いて土地の確保をするのと、建築に必要な木材、石材の確保や加工さえ出来れば後はスムーズに進むのですが、人海戦術でやるしかなく、特に石材を切り出すには一番近いリガム山まで、往復三日はかかります。重たい石材を必要量運ぶとなるとどれだけかかるやら……」

「ふむ……我が兵も、コーンヒル伯爵の城に駐在させておる為にあまり割けぬのでな、何かいい方法はないものか……」


 フェルマー伯爵が期待の流し目を送ってくる。

 う~ん、何かいい案はないだろうか。


 すると、隣に座るクラウゼンさんが、目を細めて進言する。


僭越(せんえつ)ながら、わたくしは重力魔法を操れるので、運搬の負担をある程度減らすことが出来るでしょう。フィルシュ君の魔法の支援があれば、効果時間も大幅に伸ばせるはず……それに彼は移動速度や行動速度を上昇させる魔法も使うことができる。今回の事案にまさにうってつけでは無いでしょうか」


 彼が僕の肩を叩き、フェルマー伯爵が大きく目を見張ってうなずく。


「うむ、それはありがたい。実際どうなるかは別として、一度試してみてもらいたいな。ギルドの運営に余裕はあるのかね?」

「優秀な人材も数多く増えましたし、無理のない範囲でお手伝いさせていただくことは可能かと。そうだね、フィルシュ君?」


 クラウゼンさんはにっこりと微笑み、僕もそれに言葉を重ねる。


「は、はい。それに、森林の伐採作業などもある程度お手伝いできるとは思います……後は建築の基礎工事などの際に、土魔法の得意なレキドの街のギルドマスターに応援をお願いするのはいかがでしょうか」


 あんなことがあった後だけれど、結局はリデルさんがレキドの街のギルドマスターに新しく就任することになったんだ。


 一緒に戦ったことで色々と自信がついたみたいで、荒廃した街を立て直して行こうと粘り強く奮闘(ふんとう)しているみたい。僕らも時間があれば何かと手伝いに行ったりしているし、今後とも隣街同士良い関係が築ければいいと思ってる。


 そんな僕の言葉を町長が肯定してくれた。


「いいかも知れませんな……なかなか腕利きの土魔法士となると、雇うのに金もかかりますし。あ、いや、決してそればかりでは無いのですよ……協力し合うことで街同士の結束が深まればという気持ちもちゃんとあってですな!」


 あわてるモーリス町長の姿に、ほがらかな笑いが部屋を包む。


「しかし、私としても、優秀な人材が現われてくれて喜んでいる。コーンヒル伯爵の手下の者達が城から見つかった証拠のおかげで罰せられ……暫定(ざんてい)であるが、レキド周辺の領地の統治もこれより私が任せられることになりそうだ。向こうのギルドマスターとも交流があるようだし、君達にも色々と頼むことになるだろう」


 そこで一旦言葉を止め、彼の涼やかな目が僕に向いた。


「特にフィルシュ君……君の行動力と将来性には一目置いている。君さえ良ければ……どうだね。しばらく私の下に着いて領地経営を学ばないか。しかるべき時に私が国へ推薦し、法服貴族へと出世した後、功績を積み上げ領地を引き継げば永代貴族としての道も開くことも可能だ……。悪くない話だと思うが」


 見つめるフェルマー伯爵の目は真剣そのもの。

 じょ、冗談じゃ、無いのかな……いやでも、そんな冗談を言う人でもないよね? 


 ものすごい話に発展してしまい……頭の回転が追い付かない。

 僕が貴族……!? いや、いやいやいや……。


「……伯爵様、恐縮ですが……何分人生を左右するような話ですので、今ここで答えを出せというのは少し(こく)かと。彼にしばらく考える時間を与えてあげていただけませんか。彼の今の上役として、お願い申し上げます」


 何も言えない僕を気づかってクラウゼンさんが頭を下げてくれて、あわてて僕もそれに続く。

 すると、伯爵は気を悪くした様子もなく愉快(ゆかい)そうに笑った。


「はっはっはっ、いや、失礼した。もちろん私も権力に物を言わせ、彼の人生を(しば)ろうという気は無いよ。だが君が望むのなら、その手助けをする準備はある、ということだけ覚えていてくれればよい。考えておいてくれたまえ」

「は、はい!」


 身にあまる言葉に僕はひたすら縮こまりながら頭を下げることしかできない。

 クラウゼンさんが同席してくれていて助かった……僕一人の時に言われたら、二つ返事でうなずいてしまっていたかも。


「では各々方、より一層領地を発展させる為に力を尽くしていただきたい! また何かあれば遠慮なく城を訪ねてくれたまえ……では、失礼する」


 伯爵が退出して後、ようやっと僕は緊張して息を吐いた。


「良かったですな、フィルシュさん。大出世ではありませんか……わしが若ければ一も二も無く飛びついていましたぞ!」

「は、はぁ……ありがとうございます」


 そう祝ってくれるモーリスさんだが、僕にはあまりその気がない。

 冒険者としてこの街を守れればそれでいいのに。


「いやいや、彼には私のあとを継いで立派なギルドマスターになる、という道もありますから。どちらにしても……どんな道を選ぶのもその人の自由です。人生は長い……ゆっくり悩んでしっかり納得した道を進んでください」


 クラウゼンさんは暖かい笑みを僕に向けてくれる。

 貴族相手に悪感情を抱かせるかも知れないのを覚悟で、あの場で口を挟んでくれたこの人にはいつまでも器で(かな)いそうにない。勉強させてもらうことはまだまだ沢山あるんだ。


「むぅ、確かにそれもそうですな。まぁ、なんにしろ、しばらくは街の発展にご協力いただけるということでうれしく思いますぞ! わしも長年この街を支えてきた甲斐がありました。お二人ともこれからもよろしくお願いいたします!」


 僕達は町長さんとしっかりと握手をかわす。

 その手のひらは苦労人という感じで大きく分厚いものだった……この人や、街の皆のために引きつづき頑張って貢献してゆこう……!

・面白い!

・続きが読みたい!

・早く更新して欲しい!


と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


後、ブックマークの方もお願いできればなおうれしいです。


作者のモチベーションにつながりますので、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。

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