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裏切りの結末

「――ア――ッハッハッ!! 防戦一方ではないですか……先程の威勢(いせい)はどこへいったのです!」

「…………!」


 速度と力が倍程にもなり、紫の炎剣を振り回す強化されたリオ――さしずめ紫死炎(ししえん)リオとでも呼べばいいのか……奴の攻撃に一度触れれば、一瞬で燃えかすにされるだろう。


 僕は一旦間合いを取る為、自分と紫死炎リオの間を割るように《トルネイド》を発生させ、風が流れる方向にそって素早く跳躍した。


「小細工を……」


 彼が防御姿勢を取った隙に、僕は《神出鬼没(イルーシブ・)の幻像(ファントムズ)》を起動し、幻影をばらまき、攪乱(かくらん)しつつ遠距離から魔法攻撃をくわえてゆく。


「ヒャハハハッ、どれだ! どれが本物だ!? 死ね、死ねいっ!」


 毛筋ほどのためらいもなくどんどん楽しそうに分身を切り捨ててゆくリオ……魔人となったことが彼の不安定な精神をより危うい方にかたむけ、狂わせたのか。すでに良心や罪悪感などはもはや欠片も存在しそうにない。


 そして、彼に付け入る(すき)がいくらかあることを確信し、僕は再度姿を現す。


「ククク、てっきり奴らを見捨てて逃げたのかと思ったが……まさか素直にそのまま出てくるとは、バカめッ!」


 飛び掛かる紫死炎リオの両手の炎剣がこちらの首を狙って振るわれるが、僕はそれを余裕でかわす。


「……? まぐれが……図に乗るなっ!」


 その後も仕掛けてくるが、彼の攻撃が僕に触れることはない。


 理由は明白だ。彼は大規模魔法で遠距離から攻撃するタイプのアタッカーだった。よって、近接戦闘の経験はほとんどなく不得手なのだ。


 いくら速度と力があろうと攻撃のパターンも単調で、駆け引きなど微塵(みじん)もなく見切りやすい。力任せに振るっているだけなら子供の遊びと同じだ。


 ダンジョン内で百以上の魔物の群れの中に度々(おとり)として放り込まれることもあったし、シュミレやゼロンの訓練に付き合わされ、さんざボロボロにされて来たんだ……。


 この位の攻撃……見切るのはどうということはないッ……!


「くそ、何故、何故当たらんッ! この雑草が、ふらふら避けるなぁッ! かっ……!? ぐはっ!!」


 回避の合間に《環り裂くもの(アニュラス・リパー)》 でダメージを与えてゆく。普通のウィンドブレードだと、魔力の密度が濃すぎて攻撃が通らないが……これなら効果がある。


 たまらず奴は距離を取ろうとするが、させない。

 動きを先読みしてエアロックの壁を設置し追い詰め、作業的に攻撃を繰り返す。


「貴様ぁぁ! よけるんじゃない、卑怯者が! 黙って突っ立って斬られていろ! 羽虫みたいに(まと)わりつきおってェェェ!」

「無茶言うなよ……」


 そしておそらく、この状態では本体が強力なだけで、さっきやっていたような多彩な遠距離攻撃などはできないのだろう……先程分身体を攻撃していた時もわざわざ剣の届く距離まで移動していたから。


 このまま相手から離されなければ、おそらく削り切れる。

 でも、そうなればおそらく……!


「クァァァァァ……解除ッ! 貫け、《炎翼(えんよく)千翅(せんし)》!」


 そう来るよな……。


 紫死炎リオの姿が先程と同じように燃え上がり、元の翼の生えた姿に戻ると、また無数の炎の羽が襲って来た。


 でもその状態は魔力を拡散させている分、防御力が下がるはずだ。

 予期していた僕は相手の視界が炎で包まれた瞬間を見て、再度彼を取り囲むように幻影を展開。


(時間は掛けられない……一気に行く! メリュエル!)


 相手の注意を分散させている間に、メリュエルに手を上げて合図を送る。

 支援魔法を一旦解くという知らせだ。


 この辺は阿吽(あうん)の呼吸。少し離れていたが、彼女はそれをちゃんと把握してくれたようでうなずく。短い間なら彼女が何とかしてくれるはずだ……!

 

「カァァァァ! ちょこざいな! こうなればこの広間ごと火の海に沈め、仲間共々焼き滅ぼしてやる! 炎に包まれ踊り狂え……《罪業(ざいごう)火刑場(かけいじょう)……》ッ!?」

「「「《混沌の暴風域(ケイオス・ストーム)》」」」


 彼の詠唱が終わるより、僕と幻影たちの同時詠唱の方がいくぶんか早かった。

 同一魔法の多重起動……《神出鬼没(イルーシブ・)の幻像(ファントムズ)》はこういう使い方もできる。その分魔力消費も高まり、余力が残るかどうかは微妙な所だけど……やるしかない。

 

 シュゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 魔人リオの体の真下から立ち上る、重ねって勢いを強めた《トルネイド》と《ウィンドブレード》の大嵐が、緑の奔流(ほんりゅう)を生みながら、その巨体を切りきざむ。


「グォォォァァァァァ! やめろ、炎が、力が消える……お前はどれだけ罪を重ねるつもりなのだッ! 今すぐ忌々(いまいま)しいこの風を止めろぉぉお!」


 彼は必死にもがき、翼で羽ばたいて逃れようとするが、絡めとられたように中心に引き寄せられ続け、翼も体もボロボロに千切れてゆく。


「フィルシュ、フィルシュ、フィルシュめぇぇぇ! なぜ私が貴様のようなおろかな無能者にこんな仕打ちを受けねばならぬ! 旧時代の支配者である人間達に成り代わる魔人達の側につき……私を認めなかった邪魔な人間達を全て滅ぼす! それがこうして生まれ変わった私の崇高なる使命! 貴様ごときになぜそれを(はば)む権利があるというのだッ!」

「ふざけるなよっ! 魔人に(くみ)して人を滅ぼそうなんて言うくせに、反撃されて危なくなったら非難するのは虫が良すぎるだろっ! おかしいよ、あんた……!」


「ヤメッ、ヤメロォォォォォォ! そ、そうだ、貴様も魔人になれ! わ、私達と共に大陸を制覇(せいは)した暁には、あの方から魔人王様に口を聞いていただき貴様の望みをかなえるよう取りはからってやろう! そうすれば貴様も勝者の側にまわることが出来る……見下される側から見下す側へとなれるのだぞ! 共に劣等種族の支配から解き放たれようではないか……だからこの魔法を止めろ! た、頼む……ヤメテクレエァァァッァ――!!!!」

「一緒にしないでくれ……! 僕はそんなのまっぴらごめんだ……」


 血の涙を流しながらもがきさけび、粉々にされてゆくリオを見上げていると胸は痛んだが……もう助けるつもりもなかった。

 

 彼の体を分解しきると竜巻は収束し……空へと打ち上げられた魔人の頭部だけが、小さな音を立てて地面を跳ね、僕の目の前を転がっていった……。

・面白い!

・続きが読みたい!

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と思って頂けましたら下で、☆から☆☆☆☆☆まで、素直なお気持ちでかまいませんので応援をしていただけるとありがたいです!


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