魔人リオ・エンティア
――挟撃はやばい……即座に判断しないと仲間を失くすことになる……!
僕はリオに単独で立ち向かうことを決意し、早口で仲間に指示を下した。
「彼は僕が相手をするから、ゴーレムをあんたはどうにかしてくれ! メリュエルはシュミレを守りつつテッドの援護を!」
「フィルシュがリーダーの真似事とは……いつからそんな風に他人に指図できるようになったのか! 《炎翼の千翅》!」
――ジュバッ!
それぞれが反応し動き出す中、リオは大きく後ろに反らせた翼を前方に打ちつける! 振るった炎の羽から飛び出す、幾つもの赤い尾を引く火炎弾がこちらにせまった。
「《旋転する反壁》!」
《ウィンドウォール》+《トルネイド》の合成魔法。
僕は旋回する風の盾で炎を弾き飛ばし、それをさえぎる。
その間に皆は効果範囲を逃れ、エグゼキュートゴーレムの元へ向かっていった。
「ハハハ! この魔力をやすやすと吹き飛ばすとは、やはり我々を謀っていたようだな! 貴様が真の力を発揮していれば、我々も貴様を追い出すことはなかった! そしてパーティ―崩壊の憂き目に会う事もなかったのだ! 貴様が我々の未来を奪ったのだァァァァァ!」
「勝手なことを……どうしてあんたが魔人なんかにッ!?」
リオが悪鬼のような形相で翼をはらってばらまいた火炎を、僕は風の盾で引き続きはじき返しながら対話を試みた。
人としての記憶が残っているならと、どうしても淡い期待を抱かずにはいられなかった……だけど。
「ククク……さてね。どのような方法で私が蘇らされたのかはわかりませんが、そんなことはどうでもいい! 見よこの迸る魔力を……私はさる御方に力を与えてもらい、特別な存在となった。この力さえあれば一国の行方すら左右できるだろう……もうあのようなちまちまとした謀略を立て、私を馬鹿にする貴族共に頭を下げて回る必要もなくなった……ハ、ハハハハハ、最高だ! くらえ、《紅蓮賛美光》!」
――ビシュウゥ……!
それに対する返答はは冷笑をともなった一撃。
リオの背中に浮かんだ光の輪が回転し、突き出した指先に収束した赤光が撃ちはなたれる。
あれは風では……防げない!
「《光惑う反壁》!」
《エア・ロック》を多重展開した真空の壁でなんとか光線の軌道を曲げて散らす……。命中した壁や地面がとけてジュウと煙を立て、リオは不満気にうなった。
「ヌゥゥ……やはり厄介ですね、フィルシュ……しかし、そのように防御しているだけでは近づくこともできまい! さあ、とっとと貴様や後ろの凡愚共を焼きはらい……私はあの方にさらなる力をいただく予定なのだ! すぐにこの世界の無能共を全て蹂躙しつくしてやるぞ! ファハハハハハ――ッ!」
彼の傲慢さは、魔人になってより増幅されたようだ。
元々貴族として生を受けた彼は、実家が没落したことで冒険者に身をやつしたのだとよく愚痴をはいていた。たびたびリーダーのゼロンですら見くだすような発言をとっていたし……きっと、なにもかもが彼にとっては気に入らなかったんだと思う。
メリュエルが言った通り彼が本当に亡くなっていたのかどうか……そうであればどうやって魔人として生き返ったのか、あの方というのが誰なのか……疑問はつきないけど、今は一刻も早く彼を行動不能にし、後ろの援護にまわらないといけない……!
ためらいを押しころし、僕は集中する。
「……なんですか、その顔は。まるで自分が私に対して何かをできるかのような……! 許さぬ……そんな不遜など、許してたまるものかァァァァァァァッ!!!!!! 《紅蓮賛美ッ……」
彼が再び熱線を撃とうと片手を突きだしたが、それは間合いに入った僕が腕を斬り飛ばしたことで中断する。
「――ヌァッ!?」
あわてたリオが、炎剣をもう片腕にやどしこちらに斬りかかったが、僕はその時にはもう《ミラージュ》で分身を残して後ろに回っており、風の剣が炎翼を斬りさいた。
「ちょこまかとォ!」
断ち切った腕の半ばからも炎の刃を噴きださせて、両腕で振り回すリオと切りむすびつつ、僕は彼の弱点を探していた。
以前から強大だった魔力はより大きくなり、あのダルマンタをも越えているだろう。そして彼にはもう人間であったころに未練はないようだ。よしんば僕達がここから逃げおおせたとしても、彼は確実に大勢の人を殺める為に力をふるうだろう。
仕留めないといけない、ここで……でも。
頭ではわかっている。相手がこちらを害する意思があるなら、手心を加えれば自分にそのまま帰ってくることは。
……殺せるのか、僕に?
だから一度だけ、僕は聞く……自分の覚悟を固める為に。
「大人しくしてくれるなら、僕は君に危害を加えない。だから魔人の手下になって人々を虐げるようなことはやめてくれ。王都にいる優秀な宮廷魔法士の人に聞けば、人間に戻るすべだって、見つけられるかも知れないんだ。だからもう、戦うのはやめないか?」
「は…………?」
リオはしばらくの間ぽかんと口を開け、そして徐々にその口から漏れる吐息が哄笑へと変わってゆく。
「ハ、ハハ……クク……クフフヒャハハハァ――!!」
そして……口元が吊り上がり、彼は爆笑する。
「貴様が、私と対等に話すだけでもおこがましいのに、その口から出た言葉が命乞いではなく交渉だとはねェ……舐めているのだなぁ、私を」
口元がメリメリと裂けはじめ、膨大な魔力が彼の体に集まりだす。
「屈辱ですよ。貴様などが、この私に……高貴なる血を引くこの私に情けを? そんな言葉は強者のみに許される……貴様のごとき弱者に許されていいはずがないであろうがッ! 本当はさんざんいたぶったあと、あの方に献上する予定だったが……やはり今すぐこの場から消滅させなければ私の気が済まん!! 死ね、フィルシュよォォォ! 《紫死炎装ゥゥゥゥゥ》!」
シュボゥゥッ!!
天を仰いだ彼の体が炎の渦に包まれて紫色にかがやき……それが弾けると共に、残像を残して彼の気配が後ろへ回り込み、何のためらいもなく首筋を狙う一撃が放たれた。
僕は急いで回避行動を取り、一足飛びにその場を離れ、彼と向かい合う。
「チィ……腹立たしいことこの上ないが、そのネズミじみた逃げ足だけは認めてやりますよ……だがそれもこれで終わりだ。地獄を見せてあげましょう……」
翼が消えたその姿は、高密度に凝縮された紫炎をまとうものへと変わっており……口元を彩る陰惨な笑みが命のやり取りの開始を告げていた……。
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