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崩壊する道のり

 ――振動と共に道がどんどん(くず)れ始める。

 

 僕はシュミレを抱えあげ、メリュエルに目配せすると彼女はそれだけで意図を察し来た道を全速力で戻り始める。それに続く僕らにテッドが情けない声を上げながらついて来るが、知ったことではない。


「おぉい! こんな仕掛けがあるんなら先に言っとけよ尼さんよぉ!」

「前はこんなことは無かったのです……! 一体……!?」


 そんなやりとりを前にしながら、僕は違和感にとらわれていた。


 基本的にダンジョン内の再構成の際は、罠などの細かな位置が変わることはあるけれど、こういった大規模でダンジョン全体に及ぶような地形の変化は無いはずなのだ。


 少なくとも僕達が経験して来た百以上のダンジョンの中で、それを作動しただけで(そく)全滅につながるようなトラップは存在しなかったし、他の冒険者からの話を聞いたこともない。


 あきらかな異常事態だ。リファレンスエリアで脳内に浮かんだ空間も枝分かれしたルートの先から徐々につぶれていっている。


 ガゴン!


「……キャァッ!」

「《エア・ロック》!」


 くずれた瓦礫(がれき)で道が埋まり、幅がどんどんせまくなる中、テッドの魔剣で(ちり)に変えたり、風魔法で支えたりどかしたりしながら急いで前に進んで行く。


「ックソがぁ! んな時でも見境なしかよ、魔物ってのは!」


 テッドが八つ当たり気味に空から飛んで来た《フローター》を斬りとばした。


 魔物によって知能に差があるのか、リザードナイトの方は姿が見られない。逃げたのかも知れない……といっても、避難(ひなん)するような場所があるのかどうかは疑問だったけど。


「もうすぐメインルートまで戻れる! その部分は崩壊(ほうかい)が少ないからここよりは安全なはずだ!」


 僕は希望的観測でみんなを鼓舞(こぶ)する。

 そこが残っているということがどういうことなのか、何か嫌な予感を感じてはいたけれど、今は四の五の言ってられない。


 なかば転がり出るようにして、僕らは広い通路に飛びこみ、今までいた通路が完全に閉ざされるのを見ながら大きく息を吐きだした。


「ブハァッ、ハッ、ハァーッ、冗談じゃねぇーぜ。自殺志願でもあるまいし、やっぱこんな所にもぐる奴の気が知れねぇわ……! おい、本当にこの辺りも大丈夫なんだろうなァ!」

「保証は出来ない……すぐに脱出した方がいいと思う……けど」

「……それが賢明ですね、疲れていますが、すぐに動きましょう」


 メリュエルが《リカバライズ》の魔法を全員にほどこす。

 この魔法は軽度の状態異常の回復のほかに、治癒力を高め疲労回復を促進(そくしん)する効果がある。


 だが、それを待つ暇もなく、僕は顔をしかめて立ち上がった……どうやらテッドも察したようだ。


「オイ……」

「ああ。皆、すぐに戦闘の準備をして……来るよ」 


 先程まで《リファレンスエリア》に映っていなかった巨大な魔力の反応が、二つ。


 わずかずつ大きくなる振動……そして出口をふさぐように姿を現した巨体は……。


 《エグゼキュートゴーレム》――《黒の大鷲》を全滅させた、SSクラスの強大なボスモンスター。


「んでこちらさんは一体どいつだよ……ボスってのは一体だって話じゃねぇのかぁ?」


 そして、ダンジョンのさらに奥。

 太い柱の影から音もなく現れたのは一人の男。


 いや……魔人。


 またなのか……僕の中で焦燥(しょうそう)(ふく)れあがり、メリュエルが(のど)をならした。


「……魔人。本当に復活していたのですか……えっ!?」


 彼女がめずらしく小さなうめき声をあげたことは意外だったが、すぐにそれに納得することになる。


「なぜ……」


 メリュエルが驚いたのも無理はない。


 ゆっくりとブーツを響かせ奥から歩み寄ってくる人物の……その瞳は、確かに以前会った魔人と同じく、白目まで真っ黒のもの。


 しかし……その姿自体は。


「ククク、いずれ探し出そうとは思っていましたが、こうも早く相まみえるとはね……フフ……アハハ……」


 男は赤く輝く長い髪を揺らして哄笑(こうしょう)する。


「ハ……ハハ、アーッハッハ! 待っていましたよ、メリュエル、シュミレ、そして……脆弱(ぜいじゃく)なる風魔法士フィルシュよ! 私は地獄から舞い戻ってきた……あなた達を殺す為にね!」


 火魔法士リオ・エンティア……かつて人間だった彼の背中から、紅蓮の炎の翼が大きく噴き出し熱風を辺りに振り()いた。

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