古代神殿
ギルドをリゼリィ達に任せた次の日……僕、メリュエル、シュミレ、テッドの四人は《ハブラ族の古代神殿》へと足を踏み入れた。
四角錐の形をした巨大なSランクダンジョン……。
ここに入るのは二度目だ。ある程度の攻略手順は覚えている。
四方にいたる道で入手した石板を奥にある台座の指定箇所にいれ、それを四回繰りかえせば、中央の広間が地下の部屋とスライドして入れ替わり、ボスモンスター《エグゼキュートゴーレム》の守る財宝室が出現する。内部のトラップは厄介だが、道順自体は分岐も無くシンプルだ。
だが、メリュエルの話によれば、前回ギミックを無視して部屋が変化し、ダンジョンボスに回り込まれてパーティは全滅したという。かつて一度倒している相手ではあるが、油断してはいけない。
「隊列だけど、あんたに前に出てもらう。次にメリュエル、シュミレ、しんがりは僕が受け持つ」
「いいけどよ……俺ぁダンジョンは大して経験してねぇぞ? ギミックやら道順やらの対応はどうすんだ?」
「そのつど指示する。言う通りに動け、いいな?」
「あいあい……小娘は丸腰か?」
テッドは怯えた顔のシュミレを指さす。
「彼女は僕が守る」
「ハン……随分余裕だなぁオイ。ほれ、こいつでも持っとけ」
テッドは彼女に乱暴に一本の剣を投げつけたが、それは僕が邪魔をした。
「どういうつもりだ……」
「どうもこうもねぇ……万が一が考えられねぇわけじゃねえだろ? 誰がトチってこいつが一人になるかわかんねえなら、自衛の手段位は持たせとけよ……ま、そいつをにぎったことで何か思い出しちまうかも知んねえがな……ハハ」
確かに、テッドという不安要素、メリュエルがサポートよりの冒険者であることを考えると、シュミレにまで敵がせまる可能性は考えられなくもない。
だがかといって、彼女に戦いを思い出すような武器を持たせることを、躊躇ってしまう自分がいる。
迷いを見せる僕だったが、その隣から白い手が伸びて剣をにぎる。
「フィルシュ、貸して。私もあんな人に護られたくは無いし、あなたに心配をかけたくないから……持っておきたいの」
「動かせるの?」
「わからないけど……少しずつ、腕の感覚が戻ってるから……」
「……そう、なら」
仕方なく僕は剣を渡し、彼女はふるえる手でそれを受け取った……。
それを見て赤黒い髪の男は不快な笑みを見せる。
「よぉし、そんじゃこれで準備は出来た。とっとと奥に向かうとしようぜ……。クク、殺気立ってんのがうじゃうじゃいやがるな……楽しみだぁ、ケヒヒ」
テッドは気色の悪い笑いをひびかせる。
彼が言った通り、入り口の奥からはぎらついた視線……恐らく《ブルーリザードナイト》の物が幾つも光っている。
「ではフィルシュ。守りは私が務めますので」
「ああ、頼むね……」
僕とメリュエルは支援魔法を詠唱し、全員の能力が高まり、テッドが快哉を上げた。
「おっほぉ、こいつかァ支援魔法ってのは!! 世の中の冒険者共は楽してんなぁ! こんだけ強化してもらっといて死んでんじゃねぇよ……クソッタレが!!」
「その時はフィルシュはいなかったのですが……聞いていませんね。私達も行きますか」
「ああ……シュミレ、僕のそばを離れないで」
「わ、わかったわ」
彼女のふるえる背中を押し、僕達は切りむすび始めたテッドの後に続く――。
◆
「ひょおっはっはっはぁ――! こいつがSランクダンジョン? こいつらがSランクモンスター? ッハッハッハッハ! ただのゴミックズにしか思えんなぁ!」
ご機嫌で大量の魔物どもを斬り伏せてゆくテッドに僕達は続く。
またたく間に魔物の灰で地面が埋まってゆく。
やはり、この男の腕だけは確かだ。
戦闘力だけにとどまらず、危機察知もずば抜けているらしい。
このダンジョンのトラップ、床スイッチからの弩や落とし穴やらはいう前に反応していた……もっとも毒ガスなんかは僕が風魔法で操作して除去するしかなかったけど。ゼロンより上位の魔剣の所持者というのは伊達ではないらしい。
以前攻略した時よりも速いペースで突破しているが、それで油断すると足をすくわれるのがダンジョンの怖い所。
――ガコン!
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
突如穴が開いた天井部から、大量の《フローター》が飛び降りてくる。
僕はシュミレを抱えて飛びすさると、球状の体に大きく開いた目から飛び出す熱線をかわし様に《ウィンドカッター》で叩きわる。
数度の詠唱で十体以上のフローターを倒すと、残りは飛びさって逃げていった。
恐らく壁面に光がさえぎられると作動するスイッチのたぐいが仕掛けてあったのだろう。
「はっ、はっ……び、びっくりしたぁ」
「怖がること無いよ、何があっても僕が助けるから」
ふるえるシュミレを横抱きの状態から下に降ろし、背中を撫でる。
手が使えなくても技を発動できるのは魔法スキルの有利な点だといえる……あまり今までは使うことは無かったけど。
ぎゅっと僕に抱き着くシュミレを見て、テッドはケッと唾を吐いた。
「チッ、まるで行楽気分じゃねぇの。テメーに取っちゃさぞ冒険者稼業ってのは楽なもんだったろうなぁ……魔力切れも気にせず、こんな強力な魔法を使えるんだからよ。さぞ幸せな人生を送って来たんだろうなァ……」
癇にさわる笑みをこちら向けるテッド。
だが、僕がそれに反論する前に、パンッとかわいた音が鳴った。
メリュエルの平手が素早く彼の頬を打ったんだ。
「こんのアマ……!」
「口を慎みなさい。あなたごときが、彼のなにを知っていると? なんの努力も代償も無く、これほど大きな力を自在にあつかえるようになると思うのですか? 相応の死地にて苦難を乗りこえたからこそ磨かれた力だと……実際に剣をまじえてそんなことすら分からないとは、魔剣が泣いていますよ」
「ぐ……」
メリュエルのひたすら軽蔑を込めた氷の視線に、テッドは軽口をつぐむ。
どうやら二人は相性が悪そうだ。
「……チッ、そー寄ってたかっておっさんをいじめんじゃねぇよ!」
「ならば年長者にふさわしい発言と行動をすべきですね。早く石板を入手して先に進みますよ」
「知るか……クソが! ふん……こいつで三つ目だが、どーすんだぁ、また戻るでいいのかよぉ? メンドくせぇな……」
乱暴に台座の足元を蹴ったテッドが石板をそこから持ち上げた時だった。
ゴゴン……。
「んだぁ……?」
妙な振動音。
警戒した僕はすぐさま《リファレンス・エリア》を再起動。
そして迷宮の状態変化に驚いて叫んだ……!
「――今すぐ引き返すぞ!」
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